No.224063

真・恋姫無双~君を忘れない~ 二十七話

マスターさん

第二十七話の投稿です。
今回は筆の進みが早く、すぐに投稿出来ました。
今回は成都内に侵入した一刀たちの話です。彼らは見事劉璋を討ち果たすことが出来るのか。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2011-06-21 23:03:47 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:9917   閲覧ユーザー数:7989

一刀視点

 

「ここの道なら、見つからずに成都内に侵入できるはずどすえ」

 

 雅の案内で俺たちは成都への裏道を歩いていた。

 

「確認だけど、桔梗さん達は成都内で撹乱をして、なるべく注意を引きつけてください。その間に俺たちで、情報を集めて、劉璋に近づく隙を見つけます」

 

「分かっておる。それよりも、お館様、くれぐれも無理はならさぬように。お館様に何かあれば、策どころではありませんからの」

 

「うん。分かってる。よし、それじゃ、ここから二手に別れよう」

 

 承知しました、そう言いながら、桔梗さん、雅、竜胆は先を進んで行った。紫苑さんだけが残り、こちらを心配そうな眼差しで見つめていた。最後までこの策に乗り気じゃなかったのだから、仕方のないことではあるのだけど。

 

「紫苑さん、大丈夫です。俺は必ず約束を守ります。心配しないで……そんなことは無理だと思いますけど、俺は天の御遣いとして役目を果たします。これは勿論、益州の民を救いたいという想いですけど、それ以上に俺はあなたのために戦いたいんです。勝ちましょう。そして、俺はあなたのところへ必ず帰ります。俺の家はあなたの許ですよ」

 

 紫苑さんを安心させるために、なるべく明るい口調でそう約束した。勿論、成都内、敵の本拠地に少数で乗り込むわけだから、いくら恋さんが側にいるとはいっても恐怖がないわけじゃない。

 

 だけど、そんな弱音を吐いて紫苑さんを不安にさせるわけにはいかない。俺たちは何としても勝たなくてはならないのだから。

 

「一刀くん……。分かったわ。これ以上、私も何も言わない。あなたのことを待ってるわ。そして戦を終わらせて帰りましょう。私たちの家へ」

 

 紫苑さんは、普段通りの穏やかな笑みを見せてそう告げた。

 

「はい!」

 

「……一刀くん?」

 

「はい? ……え?」

 

 そのまま俺も成都への道へ行こうとしたとき、不意に紫苑さんが俺を呼び止めた。何だろう、と彼女を振り向いたときだった、柔らかな彼女の唇が俺の額に触れていた。

 

 突然の行為に、俺は言葉を失い、間抜けな声を出してしまった。彼女が俺から離れてからも、俺は何も言うことができず、ただただ彼女のことを見つめていた。

 

「おまじないよ。一刀くんが、きっとまた私と璃々の許へ帰って来れるように……」

 

 紫苑さんはそれだけを告げると、足早に桔梗さんの後を追って行ってしまった。

 

 何も考えることが出来なかった。

 

 おまじない。

 

 額ではあったけど、俺は紫苑さんにキスされたんだよな?

 

 完全なる不意打ちだった。感想も感慨も感激も何もなかった。ただ茫然とそこに佇むことしか出来なかった自分が、馬鹿らしく、勿体なく、恥ずかしく感じられた。

 

 だけど、焦りや戸惑いだけはなかった。ただそれを受け入れることが出来た。

 

 ありがとう、紫苑さん。いってきます。

 

 そう呟いて、俺も成都に向けて歩きだした。この戦、俺は必ず勝つ。この手で劉璋を討ち取る。

 

 その想いを強く胸に抱き、今、戦いは最終局面を迎えようとしていた。

 

 

 雅の言う通り、誰にも見つかることなく、成都内に侵入することが出来た。おそらく桔梗さん達の方も成都内に侵入していることだろう。

 

 まだ彼女たちの撹乱が始まっていない以上、表立って動くのは危険だろうと判断した俺は、とりあえず成都の城下を探索することにした。

 

「さすがに成都は栄えているなぁ。民も活気に満ちているよ。ここだけ見れば、劉璋が圧政を布いているなんて感じないのに……」

 

「そんなことないのです」

 

 俺の呟きにねねが反応した。

 

「あそこを見るですよ」

 

 ねねが俺だけに分かるように指し示した方に目をやった。そこは路地裏になっていて、最初は暗くて何があるのか分からなかった。

 

 しかし、目が慣れてくると、徐々にねねの言った意味が俺にも分かった。

 

 路地裏にはボロボロの、まるで衣服とは言えないような布を身体に巻き、がりがりに痩せこけ、その瞳には一切の活力、感情、そんなものが映さない、そんな人々がいた。

 

 まるで生きる希望も、期待も、想いも、何もないような瞳。

 

 虚無。

 

 闇。

 

 そこにいるのは生きることをやめた人間。

 

 何も望まず、何も恐れず、何も想わない。

 

 何も感じず、何も聞かず、何も見ない。

 

 誰にも期待せず、誰にもすがらず、誰にも頼らない。

 

 そこに至るまでに何があったのか。どうすれば、人はあんな風に人でなくなるのであろうか。人をやめることができるのだろうか。

 

「あれは成都の闇の一片にすぎないのです。あそこから先は地獄。人が住める場所でないのです。人が人を食うのは当然、暴力、盗み、ありとあらゆる人間の負の感情の溜まり場となっているのです」

 

「ねね、お前……」

 

「さぁ、先へ急ぐのですよ。今日は成都の状況を見るのでしょう? だったら、裏山の頂に行けば、よく見えるのですよ」

 

 ねねはそのまま先に行ってしまった。

 

 ねね、お前はどうして成都のことにそんなに詳しいんだ?

 

 そして、どうしてあんな悲しそうな瞳であそこを見つめていたんだ?

 

 俺は感じた疑問を口にすることなく、ねねの後に従った。きっとそれは訊いてはいけないことなのだろう。ねねが自分の口から話すまで、黙っていよう。

 

 俺たちはねねの案内で裏山の頂にいた。そこからなら、成都の全様が一望できるからだ。

 

 成都、それは永安や広州などに比べると、遥かに大きな都市だった。こんなに豊饒な大地を持ちながら、劉璋はそれを民のためではなく、自分の欲望のままに搾取し続けている。俺はそれを決して許すことは出来ない。

 

 ねねはあそこの路地裏を成都の闇と称していた。ならば、俺がその闇を照らす光を生み出せばいい。この成都を、いや益州全体を照らすほどの強い光を。俺たち、反乱軍はそのためにここまで来たのだ。

 

 桔梗さんや紫苑さん、反乱軍に在籍する多くのものは、これまで耐えてきたのだ。あの闇を見て見ぬふりをしてきたのだ。唇を噛み締めながら、その体内に義憤を溜めながら。

 

 

「……ん?」

 

 ふと、視線を別の方に向けると、大木の下に一人の少女がいた。年は璃々ちゃんよりも少しだけ上といったところだろうか。

 

 その子を見た瞬間、まるでそこら中に桜の木が生い茂っているような錯覚を覚えた。その淡い桜色の綺麗な髪が連想させるのか、それとも彼女の雰囲気から感じ取れるのか俺には分からなかったが。

 

「…………」

 

 彼女に気付いたねねが何も言わずにその子の許に駆け寄った。

 

「お前、一人ですか? お母さんは? お父さんは?」

 

「……?」

 

 ねねが何を言っているのか理解していないのか、その子は首を傾げながら、少し考え込み、小さな声で、一人、と呟いた。

 

 気付けば、その子の手には、蹴鞠があった。こんなところで一人で遊んでいたのだろうか? こんな山の中でたった一人で?

 

「……そうですか。では、ねねたちと遊ぶのです!」

 

 ねねはその子の手を取って、こちらまで連れてきた。その子は喜色も困惑もその表情に映していなかった。まるで俺たちに何の興味も、これからどうなるのかにすらも関心が無いかのように。

 

「おい、ねね。強引じゃないのか? その子、困ってるんじゃないか?」

 

「そんなことないのですっ!」

 

 その子に合意を求めるかのように、顔も向けても彼女は動じる様子はなかった。だが、こくりと静かに頷いたのだ。

 

「では、行くのです!」

 

 結局、俺や恋さんもこの子と遊ぶことになってしまった。表情はどこか虚ろで、楽しいのか、そうでないのか、その判断は出来なかった。

 

 無表情というよりも無感情。

 

 表情に出ないのではなく、出す感情がない。

 

 そんな不気味さを感じたが、ねねの申し出を断らなかったのだから、迷惑だとは思っていないのだろうか。いや、そもそもこの子自体に迷惑という概念があるのかどうかすら怪しい。

 

 この子ももしかしたら、あの路地裏の住人なのかもしれない。服はいたって普通なものを身につけているが、その瞳に宿る闇、どこまでも深く、どこまでも暗く、そしてどこまでも無。

 

 ねねもそれに気付いているのだろうか、普段よりも明るく振舞って、その子を笑わせようとしている。

 

 どうしてねねはそこまで必死になっているのだろうか? どうしてここまで名前すら知らぬ子のためにそんなに無理に笑い、無理にはしゃぎ、無理に無理を貫くのだろうか?

 

 そして、俺が最初に感じた、この子へのイメージ。

 

 桜。

 

 温かく、優しく、明るく、人々を包み込む春の象徴。

 

 どんなに辛くても、どんなに怖くても、どんなに不安でも、そのネガティブな感情を全て払い去る。その咲き乱れる様はまさに生命力を喚起させ、また逆に散りゆく姿に生命の儚さも感じさせる。

 

 そんな両極の性質を帯びた花。

 

 そんな桜色の少女との出会い。

 

 この子は本当にあの路地裏の住人なのか? あそこにいた人にして人でなく、人間にして人間に非ず、そんな存在なのか?

 

 その瞳に宿る闇は、それに近しいものだった。しかし、あそこの住人たちとイコールなのか、似て非なるものではないのか。

 

 そんな疑問を持ち、彼女を観察しつつも、時間は過ぎ、日が暮れそうになったときには彼女の姿はなくなっていた。忽然とその姿を消失させたのである。

 

 まるで最初からそこにいなかったかのように。そんな存在なんてなかったかのように。

 

 

 その日は、そのままそこで野営をすることにした。恋さんが疲れたのか、意識が朦朧としていて、今から城下に戻るのも大変そうだったから。

 

「…………」

 

 ねねの方を見遣る。

 

 何を思っているのか、満点の星空を見つめている。

 

 俺はねねの横に座った。別に何かしたかったわけじゃない。ただ側にいようと思っただけだ。

 

「……ねねは昔、路地裏にいたのです」

 

 ねねは俺の方を見ることなく、まるで独り言のようにそう呟いた。

 

「……ねねは両親にあそこに捨てられて、一人で生きてきました。来る日も来る日も、その日の食事を得るために必死でした。それはもう生き残るために、盗みもしましたし、人も騙しました、……ですけど、それに疲れたのです。もう生きるのをやめたかったのです」

 

 ねねは今にも涙を流しそうに、瞳を潤めながら続けた。その時の記憶が蘇っているのだろう。辛そうに、続けた。

 

「その時でした。あの人がねねの前に現れたのは……」

 

「竜胆さんです。あの人がねねを救ってくれたのです。あの人はねねの命を、身体を、魂を救ってくれたのです」

 

 ねねの意外な過去を知ることができた。てっきり恋さんだと思っていたのだが、幼少期のねねを救ったのは、あの竜胆だったのだ。ねねの話によると、竜胆は路地裏の救われない子供を拾っては、自分の家に住まわせ、親代わりをしていたらしいのだ。

 

 それからしばらくの間は竜胆さんと暮らしていたらしいが、その後、恋さんと出会い、彼女を一生の主君と定め、天水に移ったそうだ。

 

「竜胆さんは武骨で、不器用で、口下手ですけど、とても優しい方でした。ねねの今があるのは、恋殿の側にいれるのは、竜胆さんのおかげなのです」

 

 竜胆。彼女は本当に口下手というか、シャイというか、俺もろくに会話したことがないのだけど。というか、顔合わせ以来、彼女の肉声を聞いたことがないのだけれど。

 

 彼女の優しさは本物なのだろう。

 

 あれだけ辛そうにしていたねねも、今は本当に幸せそうな表情をしている。

 

 だからか。

 

 成都に詳しいのも

 

 路地裏をあんなに悲しそうに見つめていたのも。

 

 あの少女に優しく接していたのも。

 

 全て、自分の過去を重ねていたのだ。

 

 生きるために必死だった。

 

 辛く辛くて、疲れて、

 

 人間をやめようと思っていた過去。

 

 そして、それを救ってくれた竜胆。

 

 そして、自分が定めた最愛の恋さん。

 

 幸福という現在。

 

「ふんっ! 無駄話が過ぎたのです! もう寝るのですぞ!」

 

「あぁ」

 

 そして、ねねは自分の特等席である恋さんの横に蹲った。すでに恋さんは眠っていたが、ねねが側に来ると、ねねの身体を自分の身体で包み込む。

 

 そして、ねねはすぐに幸せそうな寝息をたてた。

 

 俺はすぐには寝れそうにないので、そのまま、夜空を見上げたまま、物想いにふけった。

 

「竜胆か……」

 

 紅の鎧を身に纏い、大地を駆ける姿は、史実通りの武勇を持ち、どこまでも武人たらんとしている。しかしその中にあるのは、誰よりも優しく、慈愛に満ちた女性の心。

 

「ははは……今度じっくり話してみたいな」

 

 俺はそんなことを考えながら、寝ることにした。史実の張任という武将がどのような末路を迎えるのかを、全く以って無視したまま。

 

 

 それから数日間、俺たちは成都の情報をかき集めた。

 

 その間に、桔梗さん達別動隊が注意を引きつけているようで、街中を兵士たちが徘徊しているのが分かった。とりあえず、策の第一段階は成功したと言えるだろう。

 

 後はこちらがその隙に、劉璋に近づく算段を探さなくてはいけないのだが、不思議なくらい、それを見つけることが出来なかった。

 

 劉璋の居城は堅く閉ざされていた。街を警邏している兵士たちは、別のところでその命令を受け取っているようで、城には近づかない。

 

 城下の混乱に乗じて、城に侵入するつもりだったんだけどな。

 

 さらに成都の民に話を聞いてみれば、誰も劉璋の姿を見たことがないという。桔梗さんや紫苑さんすら見たことがない以上、当然と言えば当然ではあるが、どうやら劉璋自身が成都の巡回に出ているわけでもないようだ。

 

 これでは打ち止めだな、そう判断した俺は、その日の夜に、桔梗さん達と合流することにした。

 

「すいません、いろいろと探ってはみましたが、劉璋に近づくことはどうやら無理そうです」

 

「ふむ……、まぁ仕方ないの。だが、収穫がなかったわけではない」

 

「え?」

 

「成都を守る兵士の数が少ないのだ。どういう理由かは知らぬが、これは絶好の機だ。明日、成都の門を開いて、反乱軍を中に引き入れる。兵力差はまだあるが、それを覆せぬほどの差ではない」

 

「では……」

 

「あぁ。明日が我が宿願が果たせる日よ。明日、劉璋を討つ!」

 

 明日の朝、雅さんが率いた工作部隊が成都の門を内側から開く。そして、外で控えている焔耶が反乱軍とともに中に雪崩れ込み、一気に劉璋の居城まで踏み込む手順となった。

 

 ついに運命の日を迎えようとしていた。

 

 桔梗さん、紫苑さんの宿願、その願いが叶おうとしているのだ。

 

 まだ確実に劉璋の首を取れると決まったわけではないが、劉璋軍と反乱軍の兵の質は歴然。成都の中にさえ入れれば、かなりの高確率で勝利することができるだろう。

 

 明日が勝負の日。

 

 皆、さすがに明日に備えて早く寝てしまった。

 

 ここまで長かったような短かったような複雑な心境だった。

 

 この世界に来てから、紫苑さん、桔梗さん、焔耶と出会い、月や詠、さらに翡翠さん達に王たる器を見せられた。

 

 初陣では、あまりの恐怖に耐えられず、心を壊しそうになった。

 

 そして、初めて人を斬った。張譲、未だに忘れることができないあの日。

 

 俺は天の御遣いとして皆の力になることが出来たのだろうか? 

 

 まるで走馬灯を見るかのように、これまでのことを振り返りつつ、俺もその日は眠りについた。

 

 皆が、明日の勝利を思い描いていたに違いない。

 

 そして、翌日、竜胆の姿が消えていた。

 

次回予告

 

 劉璋の居城へと迫る一刀たち。

 

 それを妨げる劉璋軍。

 

「ここは私に任せろ! お館たちは先に行け! 劉璋に魂を売った者どもよ、ここから先、この魏延が通さぬっ!」

 

 そして、その行く手に立ちはだかるのは、紅の鎧を纏いし女傑。

 

「竜胆、どうしてお主が……!?」

 

「……済まん。ここから先に通りたければ、劉璋軍が将、この張任の屍を踏んでいけ!!」

 

 避けられない戦い。

 

 迫りくる結末。

 

 そのとき、御使いの青年が動く。

 

「桔梗、紫苑、俺が行く。俺が、竜胆を斬る!」

 

 そして……

 

 彼らの前に姿を見せた、益州の主、劉璋。

 

「お前が、劉璋!?」

 

 

あとがき

 

第二十七話をお送りしました。

 

さすがにこのあたりの話は、以前から温めていたため、筆の進みがスムーズでした。

 

今回はいろいろなことがありましたね。

 

戦の直前の紫苑さんから受け取ったおまじない。

 

彼女の心境にどんな変化が?

 

そして、明かされたねねと竜胆の過去。

 

アニメ版のを参考に、作者が勝手に考えたオリジナル設定です。

 

竜胆の優しさ。

 

そして、動き出した物語。

 

消えた竜胆。

 

次回は山場ですので、予告をつけてみました。

 

この調子で早めに投稿します。

 

誰か一人でも面白いと思ってくれれば嬉しいです。


 
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