始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。
なお、オリキャラ等の出演もあります。
そして、これは北郷一刀のハーレムルートではありません。
そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。
第16話 駆け抜ける迅雷の将! by左慈
長安。
一刀は劉弁の眠る一室に居た。
「んっ、、、っっ、、、とう、、たく」
魘される劉弁の額に浮かぶ汗を、お湯に浸け絞った布巾で拭きとっていく。
なぜ、俺がこんなことをしているかといえば、理由は単純にやることがなかった為だ。
長安には左遷された文官が多くいる。彼らは俺がやるより、すばやく戦闘準備を行うことができる。
ならばと、命じただけで全てを任せていた。その方が、効率が良い。
「、、、、、きょう、、」
上に立つ者がすることは軍師達に命じることでも、兵士を率いて戦場を駆けることでもない。
責任を負うことだと俺は思っていた。
無論、軍師に並び立つ頭脳や戦場に立てるだけの武を持つ君主が居たとしてもそれを否定する訳じゃない。
現に華琳とかがそうだが、マイハニ―と否定するダーリンなんていないだろう。
しかし、俺にそんな才能は無い。華琳の様に強くも、賢くも無い。
無論、だからと言って、何もしないで権力を貪るつもりは毛頭ない。
ただ、やれないことを無理にやるより、やれる誰かに託した方がいいと思うだけ。
人を集めて、道を示すことはする。けど、示した道を歩くのは俺より相応しい者がいるだろう。
なら俺は、相応しい者に道を譲ってその者が間違えた時。その責を負ってやればいい。
それが、俺の君主としての考え方だった。
だからこそ、今、俺に出来るのは魘される少年の汗を拭いてやる事くらいだった。
「とう、、たく、、きょ、、う」
夢に何度も出るほどに、少年は董卓から非道な扱いを受けていたのだろうか。
そして同じくでる協という名前、それがどういう意味を持つのかはわからない。
董卓と同じように、悪夢の元凶として妹の名を呼んでいるのか。
それとも、同じく悪夢に合った者として、心配しているのか。
「安心しろ。劉弁君。前者なら叩き潰してやる。後者なら、救ってみせるよ」
汗を拭くということがどれほどの意味があるのかはわからない。
けれど、劉弁の呼吸は徐々に落ち着いて行く。
「とう、、たく、、きょう、、、を、、すくって、、」
「っっ、」
今まで名前しか出てこなかった呟きに、文が出来た。
いや、重要なのはそこじゃなく。紡がれた意味の方。
「董卓、協を救ってくれ?」
「ん、、、、、、、、」
そう、聞くように呟くと劉弁は安心したように口元を緩め、もう魘されることは無かった。
―――董卓、協を救ってくれ―――
その言葉聞いた瞬間、身体に電流が走り抜ける。心臓の音が五月蠅いほどに大きかった。
「俺、もしかして、とんでもない勘違いをしてるんじゃないのか?」
単純に考えて、その一言の意味は二通りある。
一つ目は、劉弁が非道な董卓から妹を守るため、助命を願っているということ。
二つ目は、誰からか非道な扱いを受ける妹を、“”董卓に救ってくれと頼んだ“”ということ。
そのどちらにしても、劉協に非は無い。いや、違う。重要なことはそうではなかった。
「そうだ、固定概念に囚われ過ぎてた!董卓が悪逆非道な暴君だなんて、そんなの天の知識の中のことだけじゃないか!くっそ、例外が有るってことくらい、華琳の元で嫌ってほど見てたってのに!!」
曹操は女だった。夏候惇も夏候淵も女だった。しかし、性格は実史と変わらない英傑だったから気付けなかったが、何も性別のみが反転しているという訳ではないだろう。
男が女だったのだ。なら、性格すら反転して暴君が善君である場合もあるじゃないか。
悪逆非道な董卓ではなく、聖人君主な董卓。その可能性を、俺は欠片も考えていなかった。
別にそうだと決まった訳ではない。しかし、心臓の鼓動は大きくなるばかり。嫌な予感しかしなかった。
「一旦、確かめなくちゃな。戦闘がまだ、始まってなきゃいいけど」
一刀は急いで、劉弁の眠る部屋を後にした。
しかし、そんな願いとは裏腹に戦いの火ぶたは切られていた。
「はあああああああ!」
「だあああああああ!」
左慈の飛び蹴りと、華雄の金剛爆斧が交差し、はじき合う。
「ちぃ」
「くっ」
弾かれた勢いのまま、左慈は華雄との距離を取る。
どうにもおかしいと、左慈は感じていた。対している華雄の武は、自身のよく知る春蘭の物とよく似ていた。
良くも悪くも真っ直ぐなそれは、とても暴君に使える者が持つ物ではない。
「(ならばなぜ、華雄は董卓などに仕えている?)」
「どうした!向かってこないとは!やはり、北郷軍には不抜けしかいないようだな!」
左慈は馬鹿ではない。少なくとも、暴君董卓に華雄が仕えていることが不思議だと思えるくらいの思考能力はあった。
「貴様!手を抜いてやっていれば、調子に乗りやがって!良いだろう!俺様の本気を見せてやろう!」
しかし、直情的だった。華雄の挑発でさっきまでの思考は何処かに消し飛ぶ。
左慈はただ勢いに任せて華雄に真正面から突っ込んでいく。
無手の左慈が大斧を担ぐ華雄に突っ込むその様は、明かに自暴自棄な行動に映る。
「ふん。死ねえええ!」
「、、、、、遅いんだよ!」
迫る金剛爆斧を左慈は左に飛び回避した。そして、一歩でさらに左へ。左慈を追って振るわれた大斧を回避。
「なにっ!?ええい、ちょこまかと鬱陶しい!正々堂々勝負しないか!」
「、、、、、」
蹴り技、足技を中心とする武を持つ左慈の脚力は既に常人を逸している。
そしてその走力はこの世界に来てからというもの、さらに成長した。
信じられないことにその速度は徒歩で馬と並走出来るほどのものだった。
チート性能と言う奴だ。正直、ご都合主義すぎて一刀と于吉はひいていた。
「くそ、臆病者が!」
「、、、、つっ」
故に、此処はその脚力で撤退し、感じた違和感が何なのか考えるという手も打てた。
しかし、直情的故に左慈は戦場で対したならば、相手と自分どちらが強いか単純に答えを求めた。
「誰が、臆病者だ!俺様を、誰だと思ってやがる!」
迫りくる大斧を避けるのではなく、蹴り返して防ぐ。
その態度に華雄の顔に笑みが浮かぶ。華雄もまた、左慈と同じように単純な答えを求める者だった。
「でりゃあああ!」
「おりゃあああ!」
左慈は放たれる次々と放たれる華雄の剛撃を蹴り返しながら、時を待ち続けていた。
そう、自身が猛烈に格好よく、壊滅的に完璧な勝利を得られる時。
流石に何度も大斧を振り回していた華雄の息は少しだが上がる。
今までより一秒、続いていた剛撃の合間が広がる。
左慈はその瞬間。自身の体を回転させた。
つまりは、必殺技を放つその時を!
普段の蹴りに一回転分の遠心力を上乗せした蹴り。
その技名を、左慈は高らかに叫んだ。
「琥龍、回転破撃!」
「なにい!?」
左慈の叫びと共に、華雄の手にあった金剛爆斧は宙を舞う。
そして、左慈の膝蹴りが華雄の無防備な腹に叩き込まれた。
「ぐぁ、、はぁ。馬鹿な、この、私が、負けるなど」
「覚えておけ、お前の敗因はこの俺様と出会ったことだ!そして、その身に刻んでおけ!駆け抜ける迅雷の将!襲撃の左慈の名を!!」
最高に痛いセリフを叫ぶ左慈だが、味方にはその姿はあまりに頼もしく。
敵からしてみれば、武器も持たずに華雄を討つほどの左慈はただ恐ろしくあった。
「左慈将軍!今、攻撃すれば我らの勝利です!」
「このまま一気に攻め立てましょう!」
兵士達はそう口ぐちに叫ぶ。確かに、将が倒れた華雄隊の士気は落ちている。
しかし、倒れた華雄を庇うように立ちはだかる数名の兵士を見ると、左慈は攻撃をしかけることはなかった。
「いや、少し気になることがある。左慈隊!退くぞ!」
「「「「はっ!」」」」
退却していく左慈隊に、将を失った華雄隊が追撃を駆けられる訳なく。
両部隊の戦闘は僅かに数分。大きな被害は出さずに終結した。
「部下にも慕われていた。あんな真っ直ぐな奴が暴君に仕えているとは思えない。このことは一刀と于吉に伝えた方がいいな」
張遼が華雄に追いついたのは、既に戦闘は終了したころだった。
「華雄!無事か!」
「あ、ああ。なんとかな」
腹を押さえながら地面に座り込む華雄に張遼は駆けよるが大した外傷はないようだった。
「部下も全員無事だ。行軍に支障はない。すぐに行こう」
「ちょ、無茶や。行軍は少し経ってからにするから、少し休み」
「あ、ああ。わかった」
何時もなら、『この程度どうということは無い!』と言い、反発する華雄が素直に頷いたことに張遼は驚きの表情を見せた。
「華雄。、、、、負けたんか?」
「、、、、、ああ、」
やっぱりか、と張遼はため息をつく。華雄の性格が変わる原因なんて戦闘の敗北以外には、ないことを知っていたからこその反応。
多分、少し経てば『借りを返す!止めるな、張遼!』という怒鳴り声と共に立ち上がることを理解した。
今度こそ華雄を止めなければと心配するが、それは要らない心配だったことを張遼はすぐに知ることとなる。
「ちょ、張遼」
「なんや、華雄。なんと言おうと、もう少し休んでてもらうで」
「いや、違う。そうじゃない。、、は、初めて、、」
「は?」
「初めて、男に負けた。あ、あと、初めて、腹など触られた」
(注意)実際には、膝蹴りを入れられただけです。
「、、、、なあ、華雄。なんか、ウチには華雄の頬が赤なってるように見えるんけど?」
「っっ」
耳まで赤くして俯く華雄に張遼は言葉を失う。
華雄という武人の女の姿を初めて見た、張遼であった。
「、、、、駆け抜ける迅雷の将。襲撃の左慈か、、、」
「、、、、どんだけ痛い通り名や」
嬉しそうにそう呟く華雄に張遼は力なくツッコミをいれていた。
場所は変わり、時は動き。左慈と仲達が張る陣からそう遠くない大地を一刀は進軍していた。
「一刀君。何度も言いますが、危険です。私は反対です。一刀君が、君主が先陣に向かうなんて、普通じゃありません」
「常識を打ち破る君主。それが俺だ!」
「左慈のようなことを言って誤魔化さないでください!」
于吉は珍しく、荒々しい口調になる。しかし、それも全ては一刀を心配してのこと。
一刀もそれを知っているからこそ、あまり強くは返せない。
「確かに、一刀君の論が一理あることは認めましょう。しかしですね、それが正しいは限らないのですよ?それに、暴君であるかどうかなどは一刀君自身が確かめなければならないことという訳ではありません。危険だってあるのです。城に戻ってください」
「その危険かもしれない場所に于吉一人を送る訳にはいかないだろ」
「しかし、ですね」
「大丈夫だ。先陣には左慈も居るんだ。あいつと俺とお前がいれば、対外の奴に負けることなんてないよ。お前だって知ってるだろ?俺達が強いことくらい」
于吉はそう言う一刀の笑顔を見てため息を吐く。
他人を信じられる強さ。それが一刀の一番の強さだということは知っているが、大概にして貰いたい。
心配する方の身にもなって欲しい。しかし、そんな所に魅かれて傍に居るのもまた事実だった。
「これで、ただ他人を信じるだけの馬鹿なら見切りも付けられるのですが。信じる相手を間違えないから性質が悪い。あんな笑顔で言われたら、否定のしようがないではないですか」
「ふっ、堕ちたな。惚れるなよ、于吉」
「心配しなくても、もう惚れていますよ」
ため息混じりにそう言う于吉。
「え?」
その一言で一刀の顔からだらだらと冷や汗が流れ始めていた。
場所は本当によく変わる。華雄と張遼の率いる先方の後方、本隊。
そこに董卓はいた。
「ねえ、月。やっぱり、月がわざわざ行く必要なんてないわよ。ボクが代表として北郷軍と話を付けてくるから、月は洛陽に戻っていて」
「駄目だよ、詠ちゃん。お話をさせてくださいって、頼みに行く立場なんだから。礼儀を持って、私が行くべきだよ」
自分を心配してくれる賈詡の言葉に、董卓ははっきりと首振る。
心配してくれるのは嬉しい、けれど自分のするべきことは譲れない。
董卓は儚げな印象ながらも、芯の強い少女だった。
「そ、そうだけど。でも、洛陽に劉協様を一人にするのはまずいじゃない。だから、月は洛陽に戻って」
「洛陽にはもう、劉協様に害を成す者はいないって言ったのは詠ちゃんだよ?嘘だったの?詠ちゃん、私に嘘をついたの?」
「ぼ、ボクが月に嘘なんてつく訳ないじゃない!」
「じゃあ、大丈夫だね」
笑顔でそういう董卓。しかし、賈詡は引き下がらない。全ては、董卓を愛しているがゆえ。
「だ、だけどほら。万が一の為に多くの兵士を劉協様の護衛の為に洛陽に置いてきちゃったし、逆に月が危ないよ。だから、洛陽へ戻ってさ」
「恋さんがいます。大丈夫ですよね?」
「、、うん、、、月も詠も、恋が守る」
「恋!空気を読みなさいよ!」
「??」
首を傾げる呂布に、笑顔の董卓をみて賈詡は頭を抱えていた。
「それとも、詠ちゃん。私、邪魔なのかな?」
「ああもう!わかったわよ!もう何も言わないから。そんな悲しそうな顔をしないで、月」
董卓の悲しそうな顔を見て、賈詡は遂に折れたのだった。
こうして、北郷軍、董卓軍。両軍の君主は期せずして巡りあおうとしていた。
長安の外れ、湿った一室にいる黒幕はまだ知らない。
青年と少女は選ばれし者。自分などの思い通りに動く者達ではないことを。
後書き
最近、忙しい。それだけ、、、、テストなんて消えて無くなれば良い、、、
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真実をしった青年。動き出す少女。
英雄は姦計を跳ね返す。