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遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・三話

月千一夜さん

二章・三話公開しますw
今回で、いわゆる“導入編”は終了
物語はいよいよ、前に進んでいきますw

それでは、お楽しみくださいw

2011-06-21 14:11:41 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7375   閲覧ユーザー数:5996

“油断”

 

それとは、少し違った

“違和感”は最初からあった

誰もいない、何もないはずの大地から

妙な気配を感じていたのだ

 

それでも“気のせい”だと、そう決めつけてしまったのはきっと

 

“虚しさ”故、だろうか

 

手に持った槍が

目の前の戦場が

己の、心が

 

全てが、どこか“軽く”感じてしまうのだ

 

だから、きっと

この“結果”は、当然のことだったのだろう

 

薄れていく意識の中、一人苦笑する

 

だが、しかし

せめてこの命が終わる前に

 

もう一度だけ、見たい“もの”があった

 

 

「白き・・・光」

 

 

あの“白き光”を

せめて・・・もう、一度だけ

 

見てみたかったのだ

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 三話【吹き抜ける風】

 

 

 

 

「星さんっ!!」

 

 

ユラリと、馬から落ちそうになる星を受け止める

そのまま雛里は、星を己の馬へと何とか乗せた

 

 

「星さん、大丈夫ですか!?」

 

 

体を揺すり、声をかける

だが彼女は荒く息をするだけで、返事を返すことはない

そんな彼女の様子に、雛里は焦り彼女の腹部を見つめた

そこからは、彼女の血の気が引いていくほどの出血が見える

 

 

「鳳統様っ!

大丈夫ですか!?」

 

 

その折だった

彼女のすぐ傍に、何人かの兵士が傷だらけにもかかわらず駆けつけてきたのは

 

 

「貴方達は・・・」

 

「我々は趙雲様の部隊の者です!」

 

 

言って、彼らは軽く礼をした

それから辺りを見渡すと、“それよりも”と真剣な面持ちで雛里を見つめる

 

 

「お願いします!

趙雲様を連れて、此処からお逃げください!

我々が、時間を稼ぎます!」

 

「でも、皆さんが・・・!」

 

「ご安心ください!

趙雲隊は、ちょっとやそっとでやられるようなヤワな部隊ではありません!」

 

 

言って、兵たちは笑う

そんな兵たちの言葉に、雛里は戸惑ってしまった

だがやがて、彼女は決心したのか彼らにむかい・・・静かに、頭を下げたのだ

 

 

「お願い、します!」

 

「お任せください!

行くぞ皆!

趙雲隊の力、見せつけてやるんだ!!」

 

「「「「おおおぉぉぉぉおおおお!!!!!」」」」

 

 

声をあげ、宙に浮かぶ幾つもの剣や槍に突撃していく兵士たち

彼らのその姿を見つめ、雛里は大きく頭をさげた

 

それから、星を後ろへと乗せたまま・・・その場から駆け出したのだった

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「はぁ!!」

 

 

叫び、放たれる一閃

それは目の前の偃月刀を弾き飛ばすほどの威力だ

しかし・・・やはり、“手応え”がない

 

 

「くっ・・・何のだ、これは!?」

 

 

戸惑う彼女もよそに、偃月刀のもとから聞こえる笑い声

その声が、彼女を堪らなく苛立たせた

 

 

「戸惑っていらっしゃいますな

いえ、無理もありません

このような者と対峙したことなど、ないでしょうしな」

 

「五月蠅い!

つべこべ言わずに、さっさと姿を現せ!!」

 

「おお、恐い

そのような恐ろしい方の前に姿を現すなど、自殺行為もいいところですな」

 

 

己を嘲笑うあのように響く嗤い声

それに合わせる様襲い掛かる偃月刀

愛紗はそれを何とか防ぎ、軽く舌打ちをした

このままでは、状況は変わらない

そう思ったからだ

いや、周りを見ればわかる

状況は変わらないどころか、悪くなってきている

戦意を失った者どもに襲い掛かる幾つもの剣や槍を見つめ、愛紗は一人唇を噛み締めた

 

(何とか、何とかしなければっ!)

 

しかし、この状況を打破できるような考えは思い浮かばない

そんな彼女を追い詰めるかのように・・・

 

 

「そういえば・・・今ごろ、成都はどうなったのでしょうかな?」

 

「っな!!?」

 

 

李厳の声が、彼女の思考を一瞬で攫っていく

 

 

「未だ多くの将が残っているとはいえ、“軍神関羽”をはじめこちらに何人か“引き付ける”ことはできましたからな

今頃はたぶん、とても“愉快なこと”になっているでしょう」

 

「き、さまぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 

凄まじい音をたて、振るわれる偃月刀

その一撃を受け、浮かんでいた偃月刀は粉々に砕け散った

しかし、声は“消えない”

 

 

「おみごと!

流石は軍神関羽!

鮮やかなお手並みですな!」

 

 

“しかし・・・”と、李厳は嗤う

次いで現れたのは、五本もの偃月刀

 

 

 

 

「残念ながら、まだ終わりじゃありませんよ?

貴女にはしばらく、我々に付き合って貰いますからな」

 

 

 

 

響く、不気味な声

その声が響くのと、五本の偃月刀が彼女に向い襲い掛かってくるのは

ほぼ同時のことだった・・・

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「愛紗ちゃんたち、大丈夫かなぁ・・・」

 

 

玉座の間

桃香の心配したような声が響いた

その声に、彼女の前に立つ女性・・・桔梗は、声をあげて笑った

 

 

「なに、心配せずとも大丈夫でしょう

何せあ奴は、軍神と謳われるほどの猛者ですからな」

 

「う~ん、そうなんだけど・・・何だか、不安になっちゃって」

 

「桃香様・・・」

 

 

“不安”

その原因を、皆はわかっていた

だが、口にはしない

いや・・・“したくないのだ”

 

“鄧艾士載”

 

その名を、皆は口にすることすら嫌がっていた

何故か?

予言のことも、関係はしているのだろう

だが、それだけではない

この名を聞くだけで、彼女達の中にわけのわからない“嫌悪感”が湧き上がるのだ

故に、この名を口にする者はいなかった

 

 

「桃香様・・・大丈夫ですよ

皆さん、お強いですから

もうすぐ帰ってきます」

 

 

そう言って笑うのは朱里だ

彼女の隣では、鈴々も笑顔を浮かべていた

その笑顔につられ、桃香も微かに笑みを浮かべたのだった

 

 

「そう、だよね

うん、大丈夫だよね♪」

 

 

頷き、玉座から立ち上がる桃香

その顔には、先ほどまでの不安はもうなかった

“大丈夫”

そう、心の中で響く想い

 

 

 

 

「はたして、それはどうだろうか?」

 

 

 

 

だから、この“声”が聴こえてきた瞬間に

彼女達は、言葉を発することが出来なかったのかもしれない

そのまま、動かした視線の先

玉座のすぐ後ろに立つ、一人の“青年”の発した声に

彼女達は、言葉を失っていた

 

唯、一人・・・

 

 

 

「えに、し・・・?」

 

 

 

玉座を見つめ体を震わせる、桔梗を除いて・・・

そんな彼女に対し、青年は苦笑を浮かべ両手を広げた

 

 

「どうした、“桔梗”

そんな、死人を見るような目でこの私を見つめて・・・」

 

「そんな、馬鹿・・・な・・・・・・」

 

 

よろめき、彼女は驚愕に目を見開いていた

青年は“やれやれ”と言うと、その広げた両手を自身の胸元へと添えた

 

 

「わかっているよ、桔梗

お前が今、どのようなことを考えているのか・・・そんなこと、わかっているさ」

 

 

 

 

 

 

≪“お前は私が殺したハズなのに”、だろ?≫

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・っ!」

 

 

深い森の中

彼女・・・雛里は、必死に馬を走らせる

その背に、傷つき苦しむ星を乗せながら

 

 

「星さん!

しっかり、しっかりしてください!

すぐに、成都へと着きますから!!」

 

 

“嘘だ”

ゆっくり来たとはいえ、あの場所まで数日かけて来たのだ

急いだって、その日に着くことはまずないだろう

それでも、彼女は必死に呼びかける

だが、聞えるのは荒い息のみだった

 

 

「星さん・・・っ!」

 

 

不安に、胸が押し潰されてしまいそうだった

手綱を握る手に力が入る

 

 

「嫌だ・・・こんなの、嫌だよぅ・・・」

 

 

ついに、流れ出る涙

それでも、彼女は馬を走らせつづけた

一刻も早く、成都へと帰る為に

 

だが、しかし・・・

 

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 

突如、馬がその足を止めたのだ

何事かと、慌てて見つめた先

 

目の前の木に刺さる・・・一本の“矢”

 

 

「そんな、まさか・・・っ!?」

 

 

そう思った時には、もう手遅れだった

振り向いた先、五人の見慣れない男たちが剣を振り上げていたのだ

“いったい、いつの間に?”という疑問すら、考える暇もなく

その剣は、ただ真っ直ぐに・・・彼女の後ろ

未だグッタリとしている星に向い、振り下ろされたのだ

 

 

「星さんっ!!!!」

 

 

辺りには、雛里の叫び声が・・・虚しく木霊した

 

 

 

 

「ぁ・・・」

 

 

聞こえたのは、掻き消されてしまいそうなほどに小さな・・・自分の声

そして・・・

 

 

「どう、したのだ?

そのように・・・人を、幽霊でも見るかのような、目で見つめて・・・・・・」

 

 

 

聞き慣れた、少女の声だった

 

 

 

「星さんっ!」

 

 

雛里の視線の先

彼女は己に襲い掛かった剣を、自身の槍で防いでいたのだ

そして、彼女・・・星はニッと笑みを浮かべると、握り締めた槍を振るう

 

 

「はっ!」

 

 

瞬間、剣ごと吹き飛ばされていく五人

彼女はその様子を見送ると、素早く馬から降りた

だが地面に足を着いた途端、その表情を苦痛に歪ませたのだ

 

 

「星さん!?

大丈夫ですか!?」

 

「心配、するな

それよりも、今は・・・“奴ら”のことに、集中するんだ」

 

 

“奴ら”

そう言った彼女の目の前

吹き飛ばしたはずの男たちは、再び武器を構え此方の様子を窺っていた

その目は、深く濁っている

 

 

「先ほどの、宙に浮いた剣といい

目の前の、この“不気味な目”をした者達といい

いったい、何が起こっているのやら・・・」

 

 

“まぁ、いい”と、ため息を一つ

彼女は苦痛に顔を歪めながらも、槍を構えたのだ

 

 

「雛里!」

 

「は、はいっ!」

 

「此処は、私が引き受ける!

お主は急ぎ成都へと帰り、このことを桃香様にお伝えしてくれ!!」

 

 

叫び、微笑む彼女

だがしかし、雛里はそんな彼女とは対照的にボロボロと涙を流していた

 

 

「そんな・・・星さんを置いてなんて、いけませんっ!!!」

 

「なに、心配するな

このような輩、私の相手にもならん」

 

 

“いつもなら、な”と、心の中付け加える

事実その通り

今の彼女では、よくて“相討ち”に持ち込むのが精いっぱいだった

 

腹部からの出血は、未だ止まらない

そのせいか、視界は霞んでいる

体に、上手く力が入らない

実際、槍を構えるのだけで精一杯なのである

 

(参ったな・・・)

 

苦笑し、それでも彼女は槍を構え続ける

自分が弱っていることを、悟られないように

 

 

「雛里、急げ!!」

 

「でも・・・っ!!」

 

 

逃げる様、叫ぶ星

だがしかし、雛里は動こうとしない

そんな中星は、男たちが徐々に距離を詰めてきているのに気付いた

 

“マズイ”

 

そう思った、矢先の出来事だった・・・

 

 

 

“風”が、頬を通り過ぎていったのは

 

 

 

 

“トスン”と、響いた音

その間の抜けた音に、雛里は一瞬呆気にとられてしまう

 

星が駆け出した音でも

敵が襲い掛かってきた音でもない

 

じゃあ、いったい?

そう思ったのは、彼女だけではない

星もまた、この音について疑問に思っていたのだ

 

だが、その疑問は・・・

 

 

「ぐ、が・・・」

 

 

“バタリ”と、倒れた一人の男

その眉間に刺さった“もの”が物語っていた

 

 

 

「これは・・・“矢”?」

 

 

 

呟き、ふと見つめた彼女の頬を・・・風が、通り抜けていく

“ヒュン”と、鋭い音をたてながら

 

そして、それは・・・

 

 

「がっ・・・!」

 

 

再び、一人の男・・・その眉間に、突き刺さったのだ

倒れていく男

残った三人の男の視線が、自身の背後へと向けられている

そう思い、彼女はバッと振り返った

 

 

 

 

 

「大丈夫・・・?」

 

 

 

 

 

そこに、“彼”はいた

 

長い髪を風に揺らし、ゆっくりと歩み寄る・・・“白き衣服”を身に纏った青年が

彼女の後ろから、大きな弓を片手に歩いてきたのだ

 

 

「お、お主は・・・」

 

 

恐る恐る、呟いた星

その呟きもよそに、“彼”は彼女のもとまで歩み寄ると

ぎこちなく、微笑んだのだ

 

 

「もう、大丈夫、だから」

 

「ぁ・・・」

 

 

言って、彼女の頭をソッと撫でる

それから睨み付けた先・・・武器を構え、今にも襲い掛からんとする男たちに向い

彼は、スッと弓を構える

 

 

 

「“一矢一殺”」

 

 

 

そして、口ずさむのは・・・彼の中に眠る“想い”

その想いを、この“弓”に込める為の“言葉”

 

“託された想いの力”

 

それを、確認するための合図

 

 

 

 

「“我が弓の前に、屍を晒せ”」

 

 

 

瞬間、“光”は放たれる

 

混沌とする蜀の大地

そこに・・・“白き光”が灯った瞬間だった

 

 

 

★あとがき★

 

二章三話、更新しましたw

 

今回、いよいよ“彼”が登場いたしました

 

 

次回は視点を変え、“彼”を中心に物語が進んでいきますw

何故、彼がここにいるのか?

その疑問から、まずは解決していきます

二章は、次回から始まると言っても過言ではないでしょうww

 

 

 

それでは、またお会いしましょう


 
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