No.223708

オウカ 0話

これが正しいんだ。

これが導き出されるべき結末なんだ。
それがわかっていても、ただ……哀しかった。
鉄の味が広がるほどに、構造を呪わずにはいられなかった。

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2011-06-20 00:51:27 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:600   閲覧ユーザー数:594

 

―――これが、正しいんだ。

 

 学院の教室棟に、その人物は佇んでいた。

 ソレを取り囲むように、個性的な石膏像が並んでいる。

 

―――呪わしくても、導き出されるべき結果なんだ。

 

 石膏像たちはソレを見ている。

 表情には一様な意匠が施されていた。

 脅威。驚愕。恐怖。

 なんだそれはそんなはずはないこんなのありえない。

 ソレにとって見知った顔の、見知らぬ滑稽な表情。

 

 脈動する彼らは、石膏像になっていた。

 

 鑑賞するソレもまた、滑稽な表情をしていた。

 恐れながら、美酒に酔いしれている。

 恐れる? 何に? 馬鹿な。

 これが正しいんだ。そうだ……正しいのだ。

 これが摂理だ。新たな、摂理だ……!

 

 哄笑を噛み殺して、ソレはくつくつと笑う。

 明日からまた、ソレは日常に回帰するだろう。

 なぜならソレは、ソレだけが特別ではないと仮定した。

 

 だが果たして、回帰した先は日常だろうか?

 ソレの得た物の正体、使途。ソレだけが得たモノか。

 歪みは、広がっていた。

 

 

―――そして日が昇り、事件は発覚した。

「……っと。こんなもんでいいかね? 『彼女』の物語のプロローグは」

 安楽椅子に座った女性が、ぐぐっと伸びをする。

 女性は、後ろに佇んでいた男が肩を揉むと至福の表情を浮かべた。

「よろしいかと思います。……凝っていますね」

「ああ、凝りに凝ったぞ。物語は始めが肝心というしな」

「いえ、肩が」

 女性の得意げな表情が、すっかり消沈した。

 淹れられた茶も湯気を慎む、書斎の朝。

「このハジマリですが……『彼女』はまだ登場していないですね」

「ああ。だが伝播の始点……特異点はこいつだ」

 新たに淹れられた紅茶を嗅ぎ、女性は一息ついた。

 傍らの男は、その様を見て微笑みながら、特異点たるソレを回想する。

「不憫な方でしたね……あれもまた摂理なのでしょうか」

「あの場合は認識された時点でな。ぬか喜びさ」

 香ばしいスコーンに塗った嘲笑のジャムは、女性には格別の味だった。

「この特異点があったからこそ、『彼女』は気付いた」

「『彼女』は……なかなかに濃いですからね。自覚されていなかったようですが」

「ああ、この間の人肉を嗜む女といい勝負だな」

 女性は無邪気に笑んだ。幾百幾千の会偶を想って。

「まあ、これは『彼女』の物語だ。私達は裏方に徹しよう」

「そうですね。あまり私たちが出張っても良くないですね」

「そういうことだ。……さあて、書くか」

 女性はもう一度伸びをして、机上のペンを握った。

 

 
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