ずっと、信じていたものがあった
ずっと、心に決めていたことがあった
その全てが・・・“信じられなくなった”
そんな中、思い出すのは“光”
私の前、眩いばかりに輝く
“白き光”
この光を、私は知っている
何故なら、最近になってよく考えるからだ
もしも“あの時”、あの“白き光”と共に歩んでいたのなら
私は一体、どのような物語を紡いだのだろうか
そのようなことを、よく考えるようになったからだ
馬鹿馬鹿しい
そう思って、結局このザマだ
ならば、どうすればいい?
考えても、答えなど出るはずもない
“見つからない”
ああ
私の中の“私”は・・・いったい、何処へと行ってしまったのだろうか?
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第二章 一話【心、此処に在らず】
「星っ!!」
「・・・っ!」
響き渡る怒声
その声に、彼女・・・趙雲こと、星はハッと我に返る
そして振り向いた先、彼女を見つめコメカミをピクピクとさせる怒れる“軍神”の姿があった
「おお、“愛紗”よ
そのように怒っていては、可愛い顔が台無しだぞ?」
「“おお、愛紗よ”ではない!!
貴様、私の話を聞いていたのか!?」
愛紗の言葉に、星は苦笑を返した
“聞いていなかった”と、そう言っているのだ
そのことがわかると、彼女の目の前に立つ関羽こと“愛紗”は深くため息をついた
此処は玉座の間
此処では現在、恒例である“朝議”を執り行っていた
ただ、今日に限ってはいつもと少々違う話題が出ていたのだが・・・どうやら、星は聞いていなかったらしい
そんな彼女に、愛紗は怒りを通り越し呆れ果てていたのだ
「はぁ・・・あのな、星
大事な朝議の時間くらい、ちゃんと話を聞いていてくれ
あの“鈴々”ですら、最近はしっかりと話を聞くようになったのだぞ?」
“鈴々”とは、彼女の義理の妹である“張飛”のことである
武勇高く知られる彼女は、この蜀を語る上で外すことの出来ない人物であろう
因みに、その件の人物はというと・・・
「くか~・・・むにゃ」
「・・・」
「・・・」
彼女の言うとおり、確かに“静かにはしていた”
「ほぅ、しっかりと・・・なぁ」
「こ、の・・・鈴々っ!!!!!!!!」
「うにゃぁっ!!!!???」
響く、軍神の叫び声
それには思わず、玉座の間にいた皆が耳を塞いでいた程である
「うぅ・・・愛紗ちゃん、あんましビックリさせないでよぉ」
その声に対し、困ったように耳をおさえる少女がいた
玉座の間・・・そこにある玉座に腰を掛ける少女である
彼女こそ、この蜀の王
劉備玄徳・・・真名を、桃香である
「あ、申し訳ありません桃香様!」
「う~、まだ耳がジンジンするよ」
耳をおさえながら言う桃香に、愛紗は申し訳なさそうに頭を下げる
そんな二人の様子を見つめながら、ため息を吐き出すのは蜀の筆頭軍師
諸葛亮こと、朱里である
「あ、あの~・・・お話の続きをしてもよろしいでしょうか?」
その一言に、二人は苦笑し頷いた
それを見て、朱里はコホンと軽く咳払いを一つ
「では、続きを・・・最近増えはじめた“賊”についてなのですが」
こうして、朝議は再会されていく
議題は、この蜀の地で増えてきている“賊”による被害について
乱世が終わり、少しずつではあるが戦争の傷跡も消えていく中
何故か最近になって、この国の中で賊の出没が増えてきたのである
今日は、それについての話し合いをしていたのだ
「・・・はぁ」
そんな中、ため息を吐き出したのは星だった
彼女は白熱する朝議の最中、唯一人“心、此処に在らず”といった感じだった
やがて、何を思ったのか彼女は静かに歩き出す
そのことに気づいたのか、皆の視線が彼女に集まるのだが・・・それでも彼女は気にすることなく、歩いていくのだ
「星ちゃん、どうかしたの?」
そんな彼女に、問いかけたのは桃香だった
彼女の言葉、星は少し考えた後に・・・フッと笑いを零した
「少々、気分が優れませぬ
申し訳ありませんが、一時外の空気を吸ってまいります」
「あ、うん」
その様子に、皆が静かに驚いた
“珍しいこともあるものだ”と言っている気がして、星はばれぬ様苦笑する
そして、彼女は玉座の間から出ていったのだ
「っ・・・」
「ひ、雛里ちゃん!?」
そんな彼女のことを追ったのは、朱里の親友である鳳統
真名を雛里だった
彼女は星が玉座の間を出てすぐに、その後を追うように飛び出していったのである
その突然の行動に、驚く一同
だが、そんな折に・・・
「劉備様、少々よろしいでしょうか」
彼女と入れ違うよう、一人の兵士が入ってきたのだ
故に彼女は気持ちをひとまず切り替えて、その兵に対応する
「どうかしたんですか?」
やがて、その兵の口から紡がれる言葉に
皆が、言葉を失うことになった・・・
「はい、それが・・・」
≪管輅と名のる占い師が、劉備様を訪ねていらっしゃったんです・・・≫
ーーーー†ーーーー
「星さんっ!」
雛里の声
前を歩く少女は立ち止まり振り返る
そんな少女の姿に安心しつつ、雛里は足早に少女のもとへと駆け寄っていく
といっても、あくまで雛里にとってはなので・・・少女からしたら、トテトテ歩いて来ているように見えてしまうのだが
そこらへんは、付き合いの長さとでもいうのだろうか
彼女には、雛里が急いでいることが何となくわかった
故に、小さく笑いを零していたのだ
「なんだ、どうしたのだ雛里」
「いえ、その・・・何だか、星さんが心配だったんでしゅ」
“心配”
その言葉に一瞬驚いた後、星はフッと笑みを漏らす
「一体、何が心配だったのだ?」
「星さん・・・“心、此処に在らず”といった様子だったから」
「ふむ・・・そうか」
呟き、彼女は腕を組んだ
それから見つめた先、自分のことを未だ心配そうに見つめる少女に微笑みかけた
「なに・・・少々、考え事をしていただけだ」
「考え事、ですか?」
“うむ”と頷き、見つめた空
雲行きが少々怪しいその空を見つめたまま、彼女は小さな声で話始める
「わからなく、なったのだ」
「わからなくなった・・・ですか?」
「うむ
私は一体、何がしたかったのか
何を成したかったのか
全部・・・わからなくなってしまったんだ」
“わからなくなった”
そう言って、彼女は微笑みを浮かべたのだ
見ていて、胸が締め付けられるような・・・悲しげな笑みを
「掲げた正義を槍に込め、私はずっと戦ってきた
だがその正義は結局・・・敗れてしまった
それでも今、乱世は終わり平和な時代になりつつある
ならば、私の掲げた正義とは結局何だったのか・・・」
「星さん・・・」
「ふ・・・らしくない、ということは重々承知している
そう、心配するな
こんな状態でも、与えられた仕事はキチンと片付けるさ」
「ぁ・・・」
言って、彼女は再び歩き始めた
徐々に離れていく背中
雛里はその寂しげな背を、黙って見つめていることしかできなかった
「星さんも、だったんですか・・・」
ふと、零れ出た呟き
その呟きは、誰にも聞こえることなく・・・
「私も・・・」
彼女の頬を撫でる風が
そっと、掻き消していったのだった
ーーーー†ーーーー
「えっと、貴女が・・・」
「はい・・・管輅と申します
偉大なる蜀の王、劉玄徳様」
さて・・・此処は、星と雛里のいない玉座の間
響くのは、しどろもどろな桃香の言葉
目の前に立つぼろ布を纏った人物は、粛々と頭を下げ答える
顔はハッキリとは見えない
しかし・・・その声からして、“女性である”ということだけはわかった
そんな彼女の様子を、蜀の皆は警戒心を露わにしながら見つめていたのだ
「それで、その管輅さんがいったい何の御用で此処へ?」
「はい・・・先日、我が水晶に“ある光景”が映りこんだのです
本日は、それをお伝えに参りました」
「ある光景、ですか?」
“はい”と頷く管輅
彼女はそれから懐から水晶を取り出すと、それをスッと掲げる
「“予言”です・・・この国の未来に、大きく関係することです」
「っ!?」
管輅の言葉
驚いたのは、桃香だけではない
周りにいる者達は皆、一様に驚き表情を歪めている
それもそうだろう
此処にいる者は皆、管輅の名知っていた
“預言者・管輅”
その予言は恐ろしいまでに当たり、外れることがないという
それに彼女は、ある“有名な予言”を残している
“天の御遣い”についての預言である
彼女の言う通り、御遣いはこの大陸に降り立ち・・・そして、この乱世を終わらせた
故に、彼女の言う“予言”という言葉に皆は無意識のうちに息を呑んでいたのだ
「その、予言とは・・・?」
恐る恐る、尋ねる愛紗
そんな彼女とは対照的に、管輅は淡々とした口調で言ったのだ
「近いうち・・・この国は、“蜀”は滅びます」
此処にいる全ての者に、深く響く声で
その・・・“破滅の予言”を
「なっ・・・んな馬鹿な話があっかよ!」
「ちょっ、お姉さま!?」
そう言って管輅へと飛びかかろうとしたのは、馬超こと翠だった
彼女は怒りを露わにし、水晶を片手に立つ管輅へと足を進めた
が、そんな彼女を従妹である馬岱こと蒲公英は慌てて止めていた
「止めんな蒲公英!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよお姉さま!!」
「はわわ!
蒲公英さんの言うとおりです!!
翠さん、ひとまず怒りを抑えてください!!」
そんな彼女の様子に、朱里も慌てて声をあげた
だが、無理もない・・・そう思ったのは、彼女だけではないだろう
いきなり、“蜀が滅ぶ”である
皆が皆、それぞれに戸惑いを覚えたのは紛れもない事実
そんな中、一人真剣な面持ちで言葉を紡ぐ少女がいた
「どうして・・・滅ぶんですか?
いったい、何が・・・起こるんですか?」
蜀の王である桃香だった
彼女は震える声を隠すこともなく、目の前に佇む一人の“預言者”に問いかける
その瞳をしばらく無言のまま見つめた後、管輅は小さく息を吐き出した
そして、彼女の瞳を見つめたまま言ったのだ
「“蜀の地に、一人の男が現れる
その者、全てを終わらせる者なり
果てなき旅路の最中、彼はやがてこの蜀へと辿り着くだろう”」
淡々と・・・冷たい声が響いていく
その声に、その言葉に、その内容に
彼女達は皆、頬を伝う冷や汗にすら気づけない
「“その者の名は・・・鄧艾士載
この蜀を滅ぼす者の名にして、全てを終わらせる光の名”」
「鄧艾・・・士載」
「確かに、お伝えしましたよ」
そう言うと、管輅はクルリと反転
そのまま、ゆっくりと歩き出す
だがしかし、彼女の歩みを止めようとする者はいない
“止めることが出来ない”
あれほど怒っていた翠でさえ、その場から動こうとはしなかった
何故か?
それは、彼女達にもわからないのだろう
故に、“恐い”のだ
この意味のわからない震えが、そして・・・たった今紡がれた、“滅びの予言”が
堪らなく、恐いのだ
「鄧艾、士載」
そんな中、ポツリと呟いたのは桃香だった
彼女は天井を見上げながら、震える体を抱き締め呟く
「この国を・・・滅ぼす者」
その呟きは、不思議と玉座の間に響き渡った
それほどまでに、この場には静寂が流れていたのだ
「そんなの・・・絶対に、させない」
故に、彼女達には見えたのだ
玉座に座る王の姿が
泣きそうになり、震えながらも
それでもなお、言葉を紡ぐ王の姿が・・・
彼女達には・・・悲しい程に、その瞳に焼き付いていたのだった
★あとがき★
どうも、こんにちわ
第二章、一話公開です
今回は、星さんと雛りんメインのお話でした
今回も前回に引き続き、二章の導入編のようなお話です
もう少し蜀がメインのお話が続いた後に、“彼”の視点で物語が進んでいきます
ともあれ、早速フラグです
本当にありがとうございますww
まぁ、鄧艾って時点で何となくそんな気がしていたでしょうが
この名前には、まだ意味があったりするのですが・・・まだまだ先のお話なので、今はまだ謎のままでww
序盤、なんだか雲行きの怪しい蜀
でもきっと、後半で活躍するはずですww
それでは、またお会いしましょう
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二章・一話公開です
今回もまた、蜀サイドのお話
もうしばらく、導入編な感じが続きます
それでは、お楽しみくださいw