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真恋姫無双 天遣三雄録 第十五話

yuukiさん

ついに、戦線は開かれる。駆け抜ける迅雷と迎え撃つ銀閃華。

2011-06-18 09:37:42 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4890   閲覧ユーザー数:3944

始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。

 

なお、オリキャラ等の出演もあります。

 

そして、これは北郷一刀のハーレムルートではありません。

 

そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。

 

 

第14話 対する二雄 案ずる二賢 by于吉

 

 

董卓軍がこちらに向かっているという情報が一刀達の元に入る。

対し、一刀達はどのような行動を取るべきか。長安の一室で軍議が行われていた。

 

「現在。董卓軍は一定の速度を保ちながら、既に司隷へと入ったそうです。今のところ宣戦布告も何もありませんが、狙いはおそらく長安なのでしょうね」

 

「先行して進軍してる旗は張と華。董卓軍の神速の張遼と猛将にして勇将と名高い華雄だと思われるっす。相手さんは殺る気満々、なんすね」

 

北郷軍の軍師である于吉と仲達はそれぞれ、確認事項を述べて行く。

 

「俺としては迎撃する気満々なんだけど、何人か迷ってる人もいるんだよね?先生。何を迷ってるんだ?劉弁くんを守りたいって気持ちはあるんだろ?」

 

俺は盧植達をみた。盧植を始めとする漢王朝への忠義が強い、古株の老人達は一様に繭を顰める。

 

「そうじゃな。劉弁様はもちろん守りたい。しかしじゃ、おそらく董卓の元には劉協様がいるのだろうて。それを思うと、どうしても覚悟が鈍る」

 

董卓の後ろに居るのは王美人の忘れ形見、劉協。

盧植達が躊躇するのもわかることだった。しかし、一刀の目に焼き付いているのは劉弁。

実史に置いては暗愚と称された一人の少年が傷つき倒れている姿。

 

「先生。どうせ二人は救えないんだ。奢らないでくれ、貴方にはそこまでの力は無いだろう?」

 

何時も通り穏やかな口調で紡がれた辛辣な言葉に盧植は顔を鎮める。

 

「劉協か劉弁くんか。どちらかを選ぶなら、俺は劉弁くんを選ぶよ。目の前にある者の方が大切だってのは、間違っていないだろ。それに、」

 

「それに?」

 

「結構顔が好みなんだ。男だけど、あの子なら俺はイケる気がする。男の娘ってのも、案外悪くはないよね?」

 

「「「「、、、、、、、、」」」」

 

白い視線と一部、嬉しそうな視線が一刀を貫く。

 

「そ、それにほら。、俺が目指す天下は、子ども一人救えないようじゃ駄目なんだ。華琳に、認めてもらえない」

 

一刀はそう言って誤魔化すように笑っている。

勿論、胸に積もる思いがある。

決して無かったことにしようとして、真面目なことを考えている訳ではない。

 

もし、董卓と言う人物が実史通りの者ならば、劉協は十中八九、利用されているだけだろう。

しかし、仮にそうだとしてもあの少年を見捨てていい理由にはならない筈だ。

利用されている者と利用もされず捨てられた者。どちらを救うと聞かれれば一刀は後者を選んだ。

 

「盧植さん。こう、考えてみればいかかでしょう。現在、洛陽で王位に居るのは劉協陛下です。しかし、劉弁様がこうして生きておられるのなら、王位を継ぐべきは劉弁様。故に、劉弁様を守るとこは漢王朝への忠義でもあると」

 

「うむ、、確かに」

 

于吉の言葉で、盧植は断腸の思いで頷いた。

盧植に続き、反戦派の老人達も頷いて行く。

 

「総意が決まったな。これより、長安は迫る董卓軍に対し迎撃を行う。安心しろ、全ての責任は俺が取る!」

 

一刀が率いる北郷軍は董卓軍への迎撃を開始することとなった。

 

 

 

 

その後、董卓軍side

 

長安へと向かっていた董卓軍の先陣では二人の武人が指揮をとっていた。

 

「ふむ。そろそろ、司隷に入ったぐらいか。迎撃くらいはあるものだと思っていたが、つまらないな。天の御使いとか言う男の軍には不抜けしかいないのか!」

 

そう叫ぶのは銀色の髪に紫色の特徴的な鎧を纏い、白い肌をおしみなく晒す女性。

猛将にして勇将と名高い、華雄であった。

 

「何も無いならそれでいいやろ。月っちも戦いを望んでるわけやない。一応、ウチらは話し合いを前提に動いてるってことを忘れるんやないで、華雄」

 

呆れたようにそう言うのは下に袴を、上は晒(さらし)と羽織を羽織ったこの国では華雄以上に特徴的な服装の女性。

神速と名高い用兵術の使い手、張遼。

 

二人は董卓軍の先陣として兵を率いていた。

目的は張遼の言ったように話し合いの場を設けることだが、二人ともそう言う訳にはいかないだろうと心の中では思っている。

 

何しろ、相手はあの十常侍の仲間だというのだ。張譲を始めとする、彼らの卑劣さは身を持って体験していた二人には北郷軍は話し合いになど応じるような相手とは思えなかった。

もし、応じたとしても信じられる相手ではなかった。

 

「北郷一刀か。長安を再建したって聞いた時には少しは骨のある男かと思うたけど、見込み違いやったんかな」

 

「そうなのだろう。十常侍に肩を入れる輩など、屑と相場は決まっている。もし、董卓様に仇成すというのなら、皆殺しにしてやろうではないか」

 

そんな話をしながら進軍している、張遼と華雄の元に斥候からの報告が入った。

 

『前方に布陣する部隊あり。数はおよそ五百。旗は慈、及び司馬』

 

その報告に華雄は笑みを浮かべる。

 

「ほう。不抜けばかりではないというかけか。面白い、華雄隊!先行して敵を叩くぞ!我が旗に続けー!」

 

「「「「おおおおおお!」」」」

 

「ちょ、待ち!華雄!言ったやろうが、ウチらは別に戦いに来たわけやない!月っちの言葉をもう忘れたんか!」

 

「ふん。別に戦いに行く訳ではないわ!すこし、挨拶をしてくるだけだ!」

 

華雄はそう言うと部隊を率いて馬で走り出してしまった。

張遼は歯を噛みしめながら、その背を睨む。

 

「ちっ、詠の阿呆。こうなるから、先行隊に華雄を入れるのは反対したゆうに」

 

「どうしましょうか、張遼様」

 

張遼は副官の言葉にため息を吐きながら答える。

 

「もう、ああなった華雄はただじゃ止められへん。けど、ウチらまで戦意が有るなんて思われたら話し合いも何もない。張遼隊はこのままゆっくり進む、指揮は任せるわ。戦線には入るんやないで。ウチは華雄の馬鹿を連れ戻してくる」

 

「はっ!」

 

張遼は馬を走らせながら考える。

司馬という旗に覚えがあった。司馬氏と言えば代々続く名家。

今、司馬の旗を掲げる可能性のある者は八人兄妹で司馬八達と呼ばれる天才達。

そのほぼ全員が世渡り上手で八人兄妹の殆どは漢王朝で重宝される要職に付いていたはず。

ただ一人、例外を除いては。

 

「司馬懿、仲達。官軍内で黄巾党討伐の折、アホ何進に意見した異才。反感かって飛ばされた先が長安だったんやな。ツイテない所の話やないで、ほんまに!」

 

そして、慈の旗。噂ぐらいは聞いている、天の御使いの右腕と呼ばれる武将。

黄巾党の張角を討った、曹操の元にいる夏候惇と渡り合ったと噂される武人。

曰く、その足技で蹴り砕けない者は無いと聞く、そして移動速度は自身の冠する神速と並ぶとも言われている。

 

「襲撃の左慈、とかいう恥ずかしい通り名やけど。実力は本物やろうし。華雄が負けるとは思えんけど、敵陣に突っ込む前に止めんと」

 

張遼は神速の名に恥じぬ速度で華雄を追いかけて行く。

この速度なら、華雄が左慈の布く陣に辿り着く前に追いつけただろう。

しかし、それはあの左慈が大人しく引き籠っていればの話だった。

 

 

 

 

場所は変わり。張遼が華雄を追い始める少し前、左慈が布いた陣内。

 

左慈と仲達は其処に居た。

 

「仲達!敵はまだ来ないのか!」

 

「大声出さないでくださいよ。左慈先輩。こっちとしては敵なんて来ない方がいいんすよ?長安がやっと再建されたのに、すぐに戦なんて民が不安がるだけっす」

 

「洛陽で暴利をむさぼり、民を不安に陥れているのは董卓軍だろう。それに、皇帝だか何だか知らないが、あんなガキにまで手を出す輩など、俺様は許せない」

 

左慈は怒っていた。純粋なまでの怒りが目には籠っていた。

 

無論、劉弁という少年が乱暴されたことに怒りを覚えたのもそうだが。

それに以上に怒りを覚える事態が、口には出さないが左慈にはあった。

 

数日前、全ての始まりと思えた荒野に転がっていた死体達。

それを後始末するように自分の部下に命じた。しかし、部下達はいつまでも返ってこなかった。

さぼりにしても長すぎると怒りながら、戻ってみれば。あったのは首を失った部下の姿。

抵抗した様子は無かった。ならば彼らは、無抵抗に殺されたのだろう。

董卓軍は、無抵抗の部下を殺した。それを考えると左慈は歯を鳴らす。

 

「さ、左慈先輩?」

 

漏れ出す怒気に仲達は少しおびえながら左慈の顔色を見る。

 

そんな時、二人の元に兵士の報告が入った。

 

『正面より向かってくる部隊あり。数はおよそ三百。旗は漆黒の華』

 

「来たか。左慈隊!迎撃に出るぞ!無残に殺された同胞の恨み。怒りというものを敵に教えてやれ!」

 

「「「「おおおおお!」」」」

 

「ちょ、左慈先輩!駄目っすよ!相手の目的もわからないのにいきなり戦闘なんて!それに戦うとしても、陣を張っての防衛戦です!」

 

「そんな引き籠りなんて性に合わない!そして、これは戦闘ではない!俺様の虐殺劇(グラン・ギニョール)だ!」

 

左慈はそう言うと部隊を率いて行ってしまった。

取り残された仲達は小さな背を思いっきり伸ばして叫んだ。

 

「一刀さん、だから、僕に左慈先輩の抑え役なんて無理だって言ったんすよ!左慈先輩を止められるのなんて、于吉先輩と一刀さんくらいにしかいないんす!馬鹿!阿呆!能天気!」

 

癇癪を起した子どもの様に暴れる仲達の元に斥候の兵士から報告が入る。

 

「司馬懿様!先行してくる華の旗の他に、後方より紺碧の張旗も確認されました」

 

「う~、華雄に張遼。本当に、董卓軍はいきなり戦争に来たのかも知れないっす。お前は長安にもどってこのことを一刀さんに伝えろ。他の者はこの場で戦闘の準備を!」

 

「左慈様は追わなくて良いのですか?」

 

「僕じゃ戦場に出ても足手まといになるだけっす。それに、電撃戦を得意とする左慈先輩に追いつける奴が何処に居るんすか?僕達はここで左慈先輩の帰ってくる場所を守る!」

 

「御意に!」

 

そう、部下に命じた仲達は考える。

もし、本当に董卓軍に戦闘の意思があるのなら、おそらく北郷軍は敗北する。

相手は洛陽を手中に収められるほどの軍事力と、多くの英傑を有する軍。

対して、こちらの兵士達は錬度が足りな過ぎる。左慈隊にいる一刀達に付いて来た陳留の兵士たち以外は、そのほとんどが実践経験の薄い新兵達。

 

「もちろん。左慈先輩や長安に左遷された将達が調錬はしたっすけど、戦争する経験と調錬は違う。戦争は積めば積むほど、強くなれる」

 

長安は元々、瓦礫の街。何もない変わりに、物資を略奪しに盗賊達が攻めてくることは無かった。

だからこそ、曲りなりに長安は生き残ってきたのだが、今はそれが裏目に出た。

再生した長安の新兵達の実践経験といえば、ごく稀に少数で集まっていた黄巾党の討伐ぐらいしかなかった。

 

「それに、将の質だって格が違う。神速の張遼。猛将にして勇将、華雄。あの位の武人に対抗できるとしたら、左慈先輩ぐらいしかいない。あと、呂布。あれだけは、別格。あんなの、人間じゃない」

 

昔、まだ洛陽で官軍の軍師をしていた時に一度だけ見た呂布の戦闘。

戟を一度振るだけで数十人の賊が空を待っていた。

感じた感情は、恐怖を越えてもはや異怖だった。

 

「っっ、こんなんじゃ駄目っす。なにやってんすか、僕は」

 

呑まれそうになった頭を横に大きく振る。

 

「誓ったじゃないっすか。僕はあの人を天下人にするって」

 

仲達は思いだす。一刀と初めて会った時のことを。

あの時は、ただ馬鹿で阿呆な人にしか見えなかった。ふざけた仮面を付けて笑うあの人は、とてもじゃないけど長安の救世主なんて呼ばれる人とは思えなかった。

 

でも、ちがった。あの人は馬鹿で阿呆な人じゃなかった。

 

ただ、自分の名を聞いただけで信じると言ってくれた。洛陽では嫌われ者で、兄妹からも避けられていた自分を必要だと言ってくれた。

 

「それに、本当に平等な人だったっす。王者でも、覇王でも、英雄でもない。ああいう人が天下を取ればきっと、みんな楽しくなる」

 

あの仮面を付けるふざけた軍議も家臣を見下しているかと言えばそうじゃなかった。

ただ単に、あの人はふざけるのが楽しかったのだ。だから、常にふざけ続けていた。

 

民の前でも善君なんて様相は見せなかった。子どもと一緒に街を走り回り、初対面の女性に話しかけ食事をした、労働者と一緒に酒を飲んで不埒なことを叫んでいたこともあった。

 

かと、思えば。皇帝たる劉弁が目を覚まさないことを良いことに、自分より年下の少年だからと君付けで呼んでいたりもしていた。

 

それを見た時、仲達は思ったのだ。

 

―――――なんて、平等でふざけた人なんだろう――――と。

 

「そうっすよ。僕には天下に導かなきゃいけない人がいるんす!」

 

仲達は自身を鼓舞しながらそう叫ぶ。

そして、その声を聞いた、陣を張っていた兵士達もまた、頷いた。

 

実史で曹操を裏切った司馬懿は北郷一刀に忠誠を誓っていた。

 

 

     後書き

 

おふざけ無し?で進む董卓軍との戦闘。

勘違いがすれ違いを引き連れて、相対す両軍に未来はあるのか!

 

次回。青年は、遂に真実を知る。

そして遂に左慈、戦闘の時!その実力は如何に!

 

あ、あと。左慈の旗が『左』では無く『慈』であるのには理由があります。

于吉の旗を考えた時、『于』じゃ、沙和と被るから『吉』にしようと思い、それに合わせました。

それに、『左』より『慈』。『于』より『吉』の方が、何となく、かっこいいし。

 

 

消えた筈なのに存在する。ある意味、ホラー。

居るのに気づかれないのではなく、居ないのに気づかれないくらい地味に更新して行きます。

 

それでは、まあ、また次回。

 

ドロン

 

消えるもんか


 
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