No.222887

真・恋姫†無双~物語は俺が書く~ 第18幕

覇炎さん

もう、更新が鈍亀だ~~!

遅れてすみません!ですが、読んでもらえると幸いです。誤字・脱字の指摘も喜んで受けます。

 今回は司馬懿の事に関する内容になっているような?

2011-06-15 21:09:43 投稿 / 全18ページ    総閲覧数:5141   閲覧ユーザー数:3887

 真・恋姫†無双~物語は俺が書く~

 

 前回までの出来ごと!

 

1つ~。

 

 

 アホマイスターが華琳さまに殺されかけた!

 

 

 2つ~。

 

 

 イタ娘(零)が兵卒から軍師に昇格された!

 

3つ~。

 

 もっと出番が欲しい!

 

 

一刀「確実にお前の欲望だろ、それ!?」

 

朔 「出番がほしいですよ~?」

 

一刀「あ~、もう!3つ!!司馬懿が何か目論んでいる、だっ!!はい、本編にゴー!」

 

 

 

 真・恋姫†無双~物語は俺が書く~

 

 

 第18幕「前回までの荒筋?…『ふはは』が増えた、以上。By一刀」

 

 

 

 

・司馬懿(しばい)、字は仲達(ちゅうたつ)。

 

“彼”は中国後漢末期から三国時代魏にかけての武将・政治家である。

 

魏において功績を立て続けて大権を握り、西晋の礎を築いた人物。

 

西晋が建てられると、廟号を高祖、諡号を宣帝と追号され、三国志では司馬宣王と表記されている。

 

建安6年(201年)、司馬懿は河内郡で上計掾に推挙された。

 

司馬懿の才能を聞いた曹操によって出仕を求められるが、司馬懿は漢朝の命運が衰微していることを知り、曹氏に仕えることを望まず、病気を理由に辞退した。

 

曹操は刺客を放って、「もし驚いて逃げるようであれば殺せ」と命じたが、司馬懿は臥して動かなかったために難を逃れた。その後曹操が丞相となり、懿を文学掾に辟して「捕らえてでも連れてくるように」と命令したため、やむを得ず出仕した。

 

『魏略』によると、曹洪に交際を求められた司馬懿は、訪ねて行くのを恥に思い、仮病を使い杖をついた。恨みに思った曹洪は曹操に告げ口した。曹操に出仕を求められると、杖を投げ捨て応じたともいう。

 

司馬懿は若年の頃から博覧強記・才気煥発で知られ、優秀な人物が揃っていた司馬八達の中でも最も優れた人物といわれていた。『晋書』「宣帝紀」によると、司馬懿は苛烈な性格であったが感情を隠すのがうまく、内心激しい怒りを抱いている時も表面では穏やかに振る舞ったという。(Wikipediaより抜粋)

 

 

――― これが、俺が居た『正史』の司馬懿…。

 

―――― なのに…どうして、“彼女”は………。

 

 

 

「血畏怖、ここにいる人はバカばかりなのです」

 

「―――っ!!」

 

 

 

 

 

――― スパーン!

 

 

――――― こんなに莫迦なのだ!?

 

 

 

「ふはっ!何をしやがりますか!?」

 

 

 先ほど新しく兵卒から軍師に昇格したばかりの、司馬懿こと零のいきなりのタメ発言に上司である一刀が、何処からか取り出した梁扇[はりせん]で零の後頭部を一閃した。

 

 そんな、やり取りを見た華琳は怒る訳でもなく、ただ眉間を手で押さえて疲れたように溜息を吐いた。

 

 

「…どうして、ウチの軍師は個性派揃いなのかしら?」

 

 

 『王佐の才』を持つと評させる(一刀曰く)荀文若は呆れて頭を抱え込む。

 

 天の知識と持ち前の理解力・洞察力から戦場を掌握し、最善の策を瞬時に提示する、『妖刀使いの稲妻』北郷 一刀はアホ発言をかました弟子の頭を未だに叩いていた。

 

 そして、新たに軍師…とは言っても、正確に一刀の副官。

 

言わば『見習い軍師』である。

 

今はだが…。

 

 

 このカオスな状況が発生したのは、ほんの少しだけ遡る。

 

 

 

―――華琳の回想

 

 

 私たちは新たに零、凪、真桜を含めてこれからの方針を決めるべく、軍議を開いていた。

 

 因みに沙和は街の炊き出しに出している。

 

 

『さて。これからどうするかだけれど……。新しく参入した凪たちもいる事だし、一度状況を纏めましょう。……春蘭』

 

『はっ。我々の敵は黄巾党と呼ばれる暴徒の集団だ。細かい事は…秋蘭、任せた』

 

 

 全く、春蘭にはもう少し頑張ってほしい所だけど。まぁ、適材適所ってモノがある事だし、ここは無視しておきましょう。

 

 そんな、事を考えている内に零が自分の…なっ!?

 

 

――― 目の前で起こった事をありのままに話すわ。零が自分のむ、胸の谷間に手を突っ込んで何やら紙を紐で束ねたモノと、筆を取り出しやがりました。

 

 

 胸ってあんなに収納できるの!?春蘭たちでさえ、そんなところから何かを取り出す事なんて無いわよ!?いえ、零の胸は春蘭以上…つまりは…!?

 

 すぐさま、零以上の大きさを誇る胸…コホン、真桜を視る。

 

 

――― マサカ、アレモナノカ?

 

 

 

「―――ッ!?なんや、今の!??ぞ、憎悪を感じるで!!」

 

「こら、真桜。軍議中だぞ、静かにしろ!」

 

「せやかて、凪。悪寒が~!」

 

 

 悪寒が奔ったのか、真桜が震え始めたかと思うとすぐに周りを見渡し、それを凪が注意した。

 

 自分でも知らない内に殺意でも放ったのかしら?私もまだまだ修行不足ね…。

 

 そう思いながら、再び零に視線を戻す。すると、零は取り出した紙に筆を走らせながら、何か呟いていた。

 

 

『――― 春蘭殿はお頭[つむ]が弱い。めも、めも。情報道理っと』

 

『――― 頼む。もう少し、聞こえないようにやってくれ…。』

 

 

 …まったくね。春蘭は『おぉ、鳥が飛んでいるな~』と、よそ見しているから聞こえていないみたいだけど、他の者達の耳には確りと届いていた。

 

 一刀の言う問題って言うのは、この事かしら?………いや、これ“だけ”じゃないわね。

 

 そのような、考えに浸っている間も軍議は進んでいく。

 

 

『やれやれ…(北郷、本当にそ奴、大丈夫か?)。必要な点を纏めると、

壱、黄巾党の構成員は若者中心。

弐、首魁は張角では無く、その妹の張宝である。

参、張宝は三姉妹で、長女から張角、張宝、張梁。

肆、張宝は妖術に長けているようだ。

伍、奴らの狙いは北郷の命のようだ。

  以上だ。あの者が良く口が回るよで、割と情報が得れた』

 

『流石は私の妹だ。あははっ!』

 

 

 ふむ。私が居ない間にかなりの情報が入っているようだけど、是と云って決め手に成るモノはない。というか、一刀。貴方が何で狙われているのよ?

 

 私の視線に気づいたのか、肩を竦めてい居る。多分、『さぁ?』と云いたいのだろう。

 

 そんな、視線のやり取り…一刀が言う『あい・こんたくと?』をやっている間も一刀の隣にいる、というより“陣取って”いる零がまたも、筆を走らせながら呟く。

 

 

 

 

『――― むむっ!秋蘭殿は頭が良い、めも、めも。そして、春蘭殿はやはり、お頭が可哀想っと』

 

『――― オマエ、俺の話し聞いているのか…?あと、手前も似たようなものだろ?』

 

『――― そんな~私の頭が良いなんて!血畏怖も口説くなら時と場所を選んでくだされ~!ふははっ』

 

『――― 頭が本当に可哀想過ぎる』

 

 

 一刀、私もそれには賛同するわ。でも、どうしてそんな彼女を連れて来たのかしら?確かに瞳の奥にとんでもない『バケモノ』を感じたのも事実。まさか、本当に戦場で育てる気なのかしら?

 

 まさかとは思うけど、…胸で連れてきた訳では無いでしょうね?これは後で調教[オハナシ]ね…、カズト?

 

 

『せやけど、それならどないして、ここにいる北郷“将軍”を狙わずにあちこちで村を襲っているんや?』

 

『目的とは違うかもしれませんが……我々の村では、地元の盗賊団と合流して暴れていました。陳留の辺りではどうですか?』

 

 

 真桜と凪の邑でも、同じか。奴らは本当に一刀が目的なら、ここに攻めればいいのに…。

 

 

『――― 凪、真桜はそれなりに頭が回る。追伸、まだまだ伸び盛りで今後とも記録の更新が必要、っと。…真桜には胸と背以外は勝っている……気を落とすな、私。うん』

 

『―――零ちゃん?いい加減にしないと一刀おじさん怒るよ~?#』

 

 

 いいわ、一刀、殺りなさい。最後の発言、気に障ったわ。

 

 それはそれとして、私は凪の問いに答える。

 

 

『同じようなものよ。しかも、事態はより悪い段階に移りつつあるわ。具体的には……零の頭の中身みたいに』

 

『悪い段階?零の頭の中?どういう意味ですか?』

 

『ここの大部隊を見たでしょう?ただバカ騒ぎをしているだけの烏合の衆から、盗賊団やそれなりの指導者と結びついて組織として纏まりつつある。これで駄目なら貴女が大声で咆えた位じゃ逃げ出さなくなるって事。あと、零は莫迦さ加減が分かってきたって事よ』

 

 

 私の言葉を補足するように桂花が春蘭の言に返答する。

 

 

『―――流石は『王佐の才』の荀文若。噂通りお方だ。…口の悪さまで、なっ!#。後で呪う…』

 

『―――まず、自分の頭の不憫さを呪え』

 

 

 それは良いけど、本当に黙らせなさい。皆が良い顔しないわよ?

 

 と、思ったのだけど…。秋蘭や季衣は師弟のボケと突っ込みに苦笑し、新人達は笑いをこらえていた。

 

 凪たちは兎も角、秋蘭たちが笑うなんて…。と、考えたけど零よりも先に頭のアレな娘が、今、私の横にいたわね…。

 

 横を見れば、アレな娘が不思議そうに頭を捻っていた。

 

 凪たちは初めてだから場の空気を和ますのは大いに結構。だけどね、今は其の時ではない。だから、罰でも与えようから。ねぇ、零?

 

 そう、思い立った私は即座に行動に出た。

 

 

 

『兎も角、一筋縄では行かなくなったという事。まぁ、味方が増えたのは幸いだったわ。…それでこれからの案、誰かある?特に零…貴女にも何か出してもらいたいわね?取り敢えず、先輩方の案を聞こうかしら』

 

 

 その、提案に零は別段焦る事は無く、紙と筆を再び…脂肪の塊の間に突っ込んだ。………………悔しくなんか無いんだからねッ!!!?

 

 そして、我が軍切っての軍師、桂花が先陣を切り、ハキハキと答える。

 

『はっ。この手の自然発生する暴徒を倒す定石としては、まず頭である張宝を倒し、組織の自然解体を狙う所ですが…』

 

 

 確かにそれが本来のやり方。でも、それだけじゃ及第点かしら?そう思ったけどすぐに第二陣の言霊が飛んできた。

 

 

『桂花、張宝だけでは駄目だ。黄巾党の言動を聞く限りでは他の姉妹も捕まえない限り、妖術と云う物は無くなるだろうが他二名もそれなりに人を引き付けるカリスマ…魅力を持っている可能性もある。つまりは再発を防ぐ…いや、一人でも欠ければ更なる被害が及び可能性もある』

 

桂花の意見を補助するかの如く、一刀も面倒臭そうに頭を掻きつつ、可能性を提示。

 

飽くまでも否定するのでは無く、極小の穴も塞ぐように可能性を提示する。在る意味これが北郷“軍師”としての役目でもある。

 

 その指摘に桂花がイラつくように話す。

 

 

『分かっているわ!それよりもまずは張三姉妹の居場所よ。もともと旅芸人だったせいもあって特定の拠点を持たず、各地を転々している。そのせいで何処から湧いて出るか分からないけど………そんな敵を倒せば華琳さまの名一気に上がり広がるわ』

 

 

 何だかんだで、一刀の意見を否定せず受け入れている。一刀の世界ではこういうのを『凸凹こんび』っていうらしいわね?

 

 

『さて、先輩方が沢山の情報を出してくれたけど…じゃ、そろそろ零の案を訊かせて貰えるかしら?』

 

 

 そして、零に視線を戻す。すると、零は一刀の袖の裾をチョンチョンと引っ張る。

 

 それは、まるで子供が親に相手して欲しい様に…。何よ、ちょっと保護欲に狩られるじゃない。

 

 

『その前に血畏怖、尋ねていいか?』

 

 

 その、言葉に一刀は考える様な仕草をしてこう言った。

 

 

『俺の個人情報以外なら、華琳の身長・胸囲、腰回り、尻の大きさ、はたまた体重から、新入りの凪、真桜、沙和の身長体重までなら答えるぞ?』

 

『『『ちょい、待てい!!』』』

 

 

 その奇天烈な発言に、零と一刀以外の声が重なる。

 

 別に不思議では無いでしょう。今日会ったばかりの相手に身長ならともかく、乙女の最重要機密の体重まで言われたら。それよりも、どうして私の胸囲とか知っているのよ!?

 

 

『いや、それはいい。それより…』

 

 

 いや、いいって…。あぁ、私もどうでも良くなってきたわ。

 

 

『血畏怖、ここにいる人はバカばかりなのです』

 

『―――っ!!』

 

 

 

――― スパーン!

 

 

 

 本当にどうでも良くなってきた…。

 

 

 

 

 

そして、冒頭に戻る訳なのだが。

 

華琳の回想の間も、一刀は額に怒りマークを浮かべつつ、零の頭を梁扇にて叩いていた。

 

 

「お前は、本当にその、思った事を口にする癖を直せ、YO!」

 

「ふはっ!イタイ、痛いぞ、血畏怖!」

 

 

 涙目に成りつつある零を見て、一刀もこれ位で赦そうと梁扇を『亜門』に収納する。そして、最初の発言の意味を尋ねる。

 

 あそこまで言って、何も考えて発言していないなどと成っては桂花に何されるか分かった物ではない。

 

 そして、頭を擦りながら零はこう言った。

 

「だって、そうであろう?『相手は若者』、『烏合の衆』、『近辺の盗賊と合流し、規模の増大』。これだけの情報があれば、もうやる事など決まっているではないですか?それとも今度は私が試されているのですか?」

 

 

 辺りが騒然とする。確かにそれ“程”の情報が集まっているが、分からないからこそ軍議を開いているのにも関わらず、彼女はそれ“だけ”の情報でこれからの方針を見出していた。

 

 それはただの虚言か、それとも本物の才能か?

 

 更に零はとんでもない事を口走る。

 

 

「血畏怖だってもう分かっているのだろ?」

 

 

 皆の視線が一刀に集中するが、当の本人も面を喰らっていた。

 

 そして、何の事かだ尋ねようとしたその時、突然の訪問者によって遮られた。

 

 

「……すみませーん。軍議中、失礼しますなのー」

 

 

 茶色の長髪を三つ網にし、眼鏡をかけた少女。于禁文則こと沙和であった。

 

 

 突然の訪問に華琳が逸早く、用件を訊く。

 

 

「どうしたの沙和。また黄巾党が出たの?」

 

 

 沙和は頭を振る。その時、一瞬だけ零と視線があった。この二人はまだ、面識が無いので『コイツ、誰?』という思いがあったが、零はすぐに興味が無くなったように視線を逸らした。

 

 沙和も気には成ったが、自分の主そっちの気にする訳にもいかないので用件を言った。

 

 

「ううん、そうじゃなくてですねー。街の人に配っていた食料が足りなくなちゃたの。代わりに行軍用の糧食を配ってもいいですかー?」

 

「……桂花?」

 

「数日分在りますが、義勇軍が入った分の影響も有りますし、ここで使いきってしまうと、長期に及ぶ行動が取れなくなりますね」

 

「かと云って、渋れば騒ぎになるか…。難儀だな」

 

「そうね。まず、三日分で様子を見ましょう。桂花、軍議が終わったら、糧食の手配を…」

 

「御意」

 

 

 そして、沙和が去った後に再び皆が一刀の方を向くと、一刀は顎を手で撫でながら『そう言う事か』と呟き、零の言葉の意味を悟った。

 

 

「あれだけの大部隊で行動している以上は食料が不足しているはず…。それこそ、現地調達だけじゃ武器も食料も確保出来る訳ではない」

 

 

 一刀の発言に聡い者たちがハッとした。

 

 頭のとろい子たちは未だに頭を捻っている。特に春蘭とか、季衣とか、春蘭とか…大事な処は二回言うのが鉄則である。

 

 その言葉に続く様に何故か一刀と同じ“ポーズ”を取るように零も顎を手で撫でながら答えた。

 

 

「終いには彼奴[きゃつ]等は『若い』上に考える事さえしない『烏合の衆』。食べ盛りの若者が食料配分などする訳も無く、ただ暴飲暴食をするのみ。そして、無くなれば『他の盗賊団の糧食を目当てで合流』するが、そんなの何処の盗賊も同じ」

 

「最終結論は『その辺の邑から奪取』もしくは…」

 

 

 流石は師弟、と云った処か。二人で繋ぎ繋ぎ、交互に言い合う。しかも、別段聞き取り難い訳でも無いので誰も何も言わなかった。

 

そして、二人の言葉が重なった。

 

 

 

 

 

 

『物資の集積地点に向かう』

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共にこの場の空気が…爆ぜた。

 

 即座に華琳が立ち上がり、指揮を取り始める。

 

 

「すぐに各方面に偵察部隊を出し、情報を集める」

 

 

 秋蘭が返事共に走り出し、兵の編成に移った。

 

 次に桂花に指示を出す。その采配、さすがは覇王というものである。

 

 

「桂花は周辺の地図から、物資を集積出来そうな場所の候補を割り出しなさい。偵察の経路は何処も同じくらいの時間で戻って来られるように計算して。偵察経路が定まり次第出発。それまでに準備を済ませなさい」

 

「御意!」

 

「相手の動きは極めて流動的だわ。仕留めるには、こちらも情報収集の早さが勝負。皆、可能な限り迅速に行動しなさい!」

 

 

 そう、敵は常に動いている。そんな中で敵を捕まえるなら、其れよりも早く、速く、迅く、行動せねばならない。

 

 その為にはどう動くを決める為にも、情報が必要であった。

 

 

「沙和も偵察に出す。一刀と零は沙和に作戦の詳細を伝えておくように」

 

 

 華琳はこれからの事を考える為に一刀と相談しようと思ったが、一刀は首を振った。

 

 

「いや、俺も偵察に出る」

 

「どうしてかしら?」

 

 

 口調こそは優しいが、一刀の反論に華琳が目を細めて、睨みつける。しかし、ちゃんとした理由がある為に一刀は臆する必要はない。

 

 

「先刻の報告書に面白い事が記してあった。『黄巾党の大半が、同じ方角に逃げた』とな…?もし、そいつらが集積地点に向かっているならいいけど、行軍して外れだったじゃ目も当てられないかな。そいつらの行先を見たのは俺の部隊だ。俺が指揮を取った方がいいだろ?」

 

 

 華琳は確かに…、と頷く。

 

 一刀の部隊。別名、『電面車』。その場において、一刀の臨機応変の思考に付いて来られるように仕上げられた部隊であるが為に、桂花でさえ扱い辛いと称すほど癖がある。

 

 だが、扱い辛いというだけでその部隊の効率性などは、彼女も嫌々ではあるが高く評価していた。風の噂では自分も自在に使えるよう、夜な夜な一人で象棋盤をしているとか。

 

 そんな、桂花ですら扱えない部隊が春蘭・秋蘭が使える訳もなく、現在は一刀のみであった。

 

 それを知っている以上、駄目だとは言えない。華琳は硬く目を瞑り、頭の中の情報を基に新たに策略する。

 

 

「分かったわ。なら、沙和の引き継ぎは…零。貴女、一人でやりなさい」

 

 

 そういうと、今度は零が不満そうに眉を顰めて、抗議した。

 

 

「お言葉ではありますが、私も血畏怖と“一緒”に偵察に…!」

 

「却下よ」

 

「却下だ。そして、足手纏いだ」

 

〈足手纏いですね。大事な所なので…えっ、二度ネタですか?〉

 

 

 零が『一緒に』と言う所を強調して発言すると、華琳は微笑んでいたが、目は笑ってはいない。

 

 一刀にしては、零に背を向けている為、どんな顔をしているかさえ分からない。しかし、華琳から見ればその表情は疲れ切ったというか、哀愁が漂う顔だった。

 

多分、零を幾度が行軍に連れって散々な目に遭ったのだろう。あの哂い声のせいで。

 

朔に至っては抜き身の状態になり、柄の部分に漫画のような青筋が付いていた。

 

 そんな皆さんに拒否された零は目尻に涙を浮かべつつ、頬を膨らませながら震え上がる。

 

 

「ひ、酷い!幾ら私が打たれ強いとはいえ、心は弱いのですよ!!?」

 

「〈打たれ強いのに、心が弱いって、何?〉」

 

 

その反論に華琳と朔が即座に突っ込む。そして、一刀はと言うとはぁー、と溜息を吐きつつ、手をヒラヒラと振りながら速く行くように促す。

 

 

「餓鬼じゃないんだ。頬を膨らませてないで、トットッと行け。沙和は分かるな?先刻の眼鏡の娘だ」

 

「う”~。血畏怖が、そう仰られるならば従います…」

 

 

 そう、言い残すと零は渋々、会議場を後にした。

 

 そして、その場に華琳と一刀(+朔)が残された。しかし、一刀はすぐに行動せずにその場に留まっていた。そして、二人はしばらく動かずにそのまま待機した。

 

 

 

 

「…さて、一刀。貴方の部隊が見たのはどの辺かしら?…」

 

「……あぁ、ここから西に…」

 

 

 二人はこれからの事を話を始める。

 

 しばらく、そのような話をしつつ、二人は感じていた。

 

 

―――誰かに見られている、っと。

 

 

 そして、

 

 

 

――― スッ。

 

 

「それから、一刻半くらいに…は………」

 

「……………やっと、往ったか」

 

 

 最初に沈黙を破ったのは一刀であった。

 

 その後に華琳が『えぇ』と相槌を打った。

 

 零が出て行ったあと、“誰か”が訊き耳を立てていた。

 

だが、二人とも詮索をしようとはしなかった。それは犯人を知っているからだ。

 

 

「全く、零の奴にも困ったものね?一刀」

 

「まあ、な」

 

 

 華琳の含みある言い方に、一刀は困ったようにガリガリと頭を掻き始めた。

 

 そう、盗み聞きをしていたのは零であった。何の目的でかは解らないが気配で二人は察知していた。

 

 そんな彼の行動を哂うように妖艶な笑みを浮かべつつ、話題を切り出す。

 

 

「さぁて、一刀、事態は火急を要する。だから、質問には迅速に答えなさい。―――彼女の目的は何?」

 

 

 気配が変わる。『少女』から『覇王』に代わるこの瞬間、一刀は未だに慣れる事が出来ずにいたが、そのような事を思っている時ではない事も承知。

 

 

「アイツ、零の目的。其れは―――」

 

 

 そして、開口を開いた。

 

 

 

 

司馬懿[零]―― 視 線 ―――

 

 

 

 …納得できん!何故、私様[わたくしさま]が血畏怖と別行動せねばならないのだ!!?

 

 

 ――― 私様 ―――。

 

 

 一人称が変わっているが、これが本来の“私様”の一人称。皆の前では猫を被って“私”と言っている。

 

 そんな事はどうでもいい。

 

 私様は街の街道を歩きつつ、考えに耽っていた。

 

 

「(あの“ツルペタ”!今頃、私様“の”血畏怖と…!クソッ、羨ましくなんか無いぞ。…本当だからな!!?)」

 

 

 “ツルペタ”とは勿論、華琳のことである。私様の中では“彼女を自分”と…いや、“自分を彼女”と“同格”だと思っている。

 

 決して、彼女を貶しても“格下”としては見ない。見てはいけない。それは私様自身を下に見る事になる。

 

 

「(それだけは、有っては成らぬ!あれは私様が越えるべき壁、あれを超える事で、見返してやるんだ!!あいつらを―――)」

 

 

 その瞬間、私様の心が闇に染まる。

 

 

 

―――『懿~?そんなのもわからないの~?』

 

 

 

「―――…れ」

 

 

 

―――『仲達、お前が莫迦なのは解ったら、もう止めてしまえ』

 

 

 

「―――黙れ」

 

 

 

―――『あ~あ。これで司馬家は“七達”止まりか?お前のせいだぞ、この―――』

 

 

 

「煩い…やめろ」

 

 

 

―――『出来そこない!あははっ』

 

 

 

「―――っ!?」

 

 

 

―――ダンッ!

 

 

 私様は知らない内に、近くの家の壁を殴りつけていた。そして息が揚がり、肩で息をする。

 

 まずい…!また発作を起こしてしまう!!私様はすぐに呼吸を整える。

 

 

「ふーっ、ふーっ。…よし」

 

 

 呼吸を整えて、私はまた歩き始める。人目も有ったが気にする事はしない、“いつもの事だ”。

 

 にしても、“あれ”を見てしまうとは…。心にゆとりが無い証拠か…。

 

 私様は歩みながら、過去を、血畏怖の出会いを思い出す。

 

 

 

 

 

 私様は、司馬防の次子で、楚漢戦争期の十八王の一人である殷王司馬卭の12世孫にあたる。

 

司馬家は代々尚書などの高官を輩出した名門の家柄で、私様自身幼い頃から厳格な家風の下に育った。

 

姉に司馬朗(伯達)、妹に司馬孚[ふ](叔達)、司馬馗[き](季達)、司馬恂[じゅん](顕達)、司馬進[しん](恵達)、司馬通[つ](雅達)、司馬敏[びん](幼達)らがいる。司馬家の8人の女子は字に全て「達」が付き、聡明な者ぞろいであることから「司馬八達」と呼ばれる…はず、だった。

 

しかし、私様だけはそうでは無かった。

 

私様も確かに博覧強記・才気煥発であった。けど、その知識がどうも“間違った方向”へ進んでしまい、何時もポカをしてしまう。

 

故に、私様は見捨てられた。

 

…父にも姉にも、後から生まれた妹たちも。そして、居場所が無くなった。

 

 

 

気が付けば、私様は華琳の下で兵卒をしていた。

 

その頃には有る程度、武と氣が使えるように成っていた。しかし、それも兵卒に毛が生えた…それは過小評価しすぎだな、うん。まぁ、季衣の下…?よくて凪位かな?まぁ、其れ位である。

 

それでも、私様は目立つ事をしなかった。別段“欲望”と呼べる物もなく、将軍と言う地位にも興味が無かった。と云うよりは“生”そのものにかもしれない。ただただ流されて生きる。

 

そんな時だったかな?

 

 私様が陳留、街の常駐兵の詰処でのんびりしていたら、突如変わった風貌の青年が入ってきた。

 

 ボサボサの茶っこい短髪に人懐っこい顔つき。それよりも彼の身に纏う着物に目が往く。

 

 白銀に輝く衣服。決して見慣れているモノでは無かった。

 

 そして、そんな彼の第一声は、

 

 

 

 

『失礼するぞー。って、なんだ?この負け犬臭は!?』

 

 

 私様より、年上かなとは思ったがいきなりその発言は聞き捨て成らなかった。

 

 私様と同じ事を思ったオッサン…一応、ここの隊長である。

 

 

『なんだ、貴様!?いきなり入って来て、負け犬だと!!?』

 

 

 隊長が青年に向かって吼える。が、青年はそんな事お構い無く、周りを見渡す。同時に必然的に視線が合った。

 

 瞬間、背筋に悪寒が奔った。何か不吉な事の前振れのような。

 

 

『貴様、話し聞いてんのか!?』

 

 

 そして、話を聞いていない青年に対して隊長がキレて、彼の胸倉を掴む。

 

 青年が観念したように隊長に視線を戻すが…。

 

 

『(無機質な表情。まるで…)』

 

 

 …自分みたい。と思った矢先、彼が口を開く。

 

 

『アンタがここの隊長か?』

 

 

 その声はまるで怒りを含んでいる様な、腹のそこから来る声であった。

 

 だが、隊長はそんな事にも気づく事無く『そうだ』と答えた。

 

 青年の質問はまだ続いた。

 

 

『アンタ。今、何時か分かっているか?』

 

『あん?太陽の位置から巳[み(し)]時[とき]の正刻ぐらいだろ?それがなんだ!?』

 

『―――へっ?あぁ、そうか。こっちじゃ時刻ではなく、時辰[じしん]または辰刻[しんこく]だったけ?だとすると『一刻が2時間』、『初刻が0時間(0分~59分)、正刻が1時間(60分~119分、終が2時間(120分~179分)』。干支が子[ネズミ]から始まって、子時[しじ]で、確か始まりが一時間早いから初刻が23時、正刻が0時、終が1時。で、次の初刻が1時から始まると…それで正刻で考えつつ、干支が子(0時)・丑(2時)・寅(4時)・卯(6時)…』

 

 

 何をブツブツと。『エト』?時辰は十二支だぞ。

 

 

『辰(8時)・巳(10時)、っと。うん。それぐらいだよな?』

 

 

 私様は彼の言っている事は、あまり理解出来ない。…が、これだけは分かる。

 

『巻き込まれる前に、出た方がいい』っと。

 

私様はこっそりと、自分の得物…扇子『黒翼乱舞[コクヨクランブ]』に手を伸ばす。

 

その様な時にも彼は、隊長に語り掛ける。

 

 

『――― で?それが解っておきながら、何してんだ?』

 

『はっ?見て解んないか?休憩――』

 

 

 

―――ズガンッ!

 

 

 

 だ、っと。最後に言う前に、隊長が吐血しながら宙を舞い、そのまま屋根を頭から突っ込んだ。そして、そのまま、身体が前後に振れ始めた。こう、効果音をつけるならプラーン、プラーンって具合に。

 

 

『………た、隊長~~!』

 

 

 一瞬、私様も皆と一緒に呆けてしまったが、すぐに警戒して『黒翼乱舞』を展開する。

 

 他の兵は皆、屋根から吊るされた状態の隊長を降ろそうとしているが、其れよりも先にコイツを警戒しなくてどうする!?敵かも知れんのだぞ!!

 

しかし、そんな思いとは裏腹に青年は言葉を紡ぎ始めた。

 

 

『言ってみろ…。貴様らの仕事はなんだー!?』

 

『街の警羅…』

 

『はい、正解!』

 

 

――― ガスッ!

 

 

 

 

『タカッ!?』

 

 

 あっ、また一人。吐血しながら宙を舞った。しかもご丁寧に隊長と同じく、天井に突き刺さった。更に今度は身体が3回ほど捻っていたぞ!?

 

 

『そうだ!にも、関わらず何が休憩だ!!いいか、良く聴けよ』

 

 

 青年はここまでを早口で捲り上げ、息を吸う。

 

そして、その後は構えた私様の考えを斜め行くモノであった。

 

 

『このボケナス共がッッッッ!!お前らは解って無い、解って無い!!』

 

 

―――ハイッ???

 

 

『いいか?本来この時間帯が一番、賑やかとなる頃合い。にも拘わらず休憩だと!』

 

『いや、そんな事を言うが自分達はさっきまで朝から警羅を…』

 

『鉄拳制裁ッ!』

 

 

――― スガンッ!!

 

 

『トラッ!?』

 

 

 …また一人、舞った。今度は縦に回転した上で天井に突き刺さった。飽くまで突き刺さるだけで、貫通はしないな。

 

 

『誰が発言権を与えた!!?いいか!俺が許可するまで喋るんじゃない、返事は“イエス”か“sir Yes sir”だ!理解できたか?理解できたなら返事くらいしろ!!この人間の言葉を理解する事も出来ない猿共が!それでも軍人か!!?』

 

『さー、いえす、さー?…』

 

『死ッ!』

 

 

――― バシンッ!

 

 

『バッタッ!?』

 

『バカモノ!!誰が発言を許可した!?喋るな、解ったな!??』

 

『……………』

 

 

『判決!死刑!!』

 

 

――― ドゴンッ!!!

 

 

『タトバッ!!!?』

 

『返事しろやっ!?モンキー共!!!』

 

 

 おい、おい、理不尽極まりないぞ!?発言したら殴って、返事しなくても殴るとか、如何しろというのだ!?

 

 

『よし、一通り場が和んだところで…』

 

『和むッ!?…ハッ!ヤバッ!?―――ガタキリバッ!』

 

 

 無闇に発言した者が、今度は地面に陥没した…。それでも、誰一人として死んでも無い上に、“大した怪我”すらしていない。気絶しているだけだ。―――その分、怖ろしいモノが有るぞ?

 

 

 しかし、本当に感心してしまうぼど、早口…いや、滑舌だ。

 

 それからも彼の舌は回り続ける。

 

 この時間帯が一番賑やかになると言う事。

 

 つまり、本来この時間こそ警羅しなければ、引ったくりが多い。

 

 更に何人が配置してれば、引ったくりが犯り難い。

 

 

『(…確かに彼の言う通りだ。ここの仕事、其れなりの期間やっているけど気づかなかった。やはり、私様は莫迦なのだな)』

 

 

 私様は、自傷気味に己を罵る。でも、それでも彼の言葉に耳を傾けたのは興味があったからだろうか?

 

 

『いいか、ハッキリ言って今の貴様らは軍人おろか人ですら無い、更に猿以下の存在だ!!発言を許可する!返事をしろ!!』

 

『サーイエスサー!』

 

 

 返事をしつつも皆、心の中ではかなり気が滅入っていた。『自分たちは猿以下………↓↓↓』っと。

 

 

 そんな兵士たちの肩を優しく、ポンと叩き青年は良い笑顔で言った。

 

 

『だが、そんな猿以下の貴様らを人間までにしてやるのが、この俺だ』

 

 

 そんな彼にの背後に後光でも見えたのか、皆から涙が流れ始めた。…感動してないのは私様位かしら?

 

 

『貴方は、一体何者で…』

 

 

 感動している一人が、勇気を持って彼に質問した。

 

 彼は軽薄な笑みを浮かべながら、こう名乗った。

 

 

 

 

『ここの刺史である曹孟徳の命で、今日から貴様らの上司になる『通りすがりのチーフ』、北郷 一刀だ!覚えておけ』

 

 

 ちいふ?ふむ、先ほどの“血”を見て彼、北郷殿に“畏怖”している者がいるな…。“血畏怖”…うん、これを後で広めて置くか。

 

 

 その後、北郷殿は『ここにいない、モンキー…猿共を連れて来い、2時間…ゲフン、一刻で貴様らを“猿”から有る程度使える“猿人”にしてやる』

 

 そう言い残すと、そのまま、呼びに行かなかった残りの人を連れて出て行った。

 

 私様はと言うと、この“首から下だけの存在”となったモノを降ろしておけ、と命じられた。おかげであの“特殊過ぎる”訓練を受けずに済んだが…。

 

 因みに一刻後、北郷殿の様子を見に来た曹操“さま”の前で実際に使える部隊として事件を収拾した。

 

 

 

 それから、更に一刻後、私様は皆が帰った後の駐屯所の中の机に突っ伏していた。

 

 

『疲れた…身体よりも、精神的に…』

 

 

 あの後で私様も訓練と言う名の地獄に招待[強制送還]され、私様は青亀[せいき]部隊に落ちついた。

 

 にしても。

 

 

『……すごい、人心掌握術であったな。人を貶した上で相の手を差し伸べつつ、また突き落とす、人の心を完全に掌握している。ああいう人を天才・達人と言うのだろうな』

 

 

 其れに比べ私様は…。と更に己を貶める。そして……。

 

 

 

 

―――『だから、お前は―――』

 

 

 

『―――っ!?』

 

 

――― ドンッ!

 

 

 不意にまたあれが、襲ってくる。

 

 私は無意識に机を殴ってしまう。

 

 

―――情緒不安定。精神的に参ってしまい、酷い時には物に、更に酷い時は近くの人に声を掛けられただけで、殴る事もある。

 

 

 入った当初もこの状態になり、隊長を殴り飛ばした。この理由と其れなりに武もあり、不問にはなった。

 

しかし、そんな私様に近づく好き者はいない。だから、私様は一人。いや、気楽でいい。この方が傷つくのは私様だけだし。

 

そんな時、不意に殴った拳の上に暖かさを感じた。

 

 

―――誰かが私様の手を握っている?

 

 

『―――大丈夫か、苦しいのか?』

 

 

 男の声であった。

 

 

『(どうして!?まずい!)』

 

 

 私様に声をかける、仲間もいるはずもないと、踏んでいた為に気配を察知するのが遅れた。

 

しかし、そう思った時には、もう遅かった。

 

 

 

 

私様の瞳は標的を捕らえ、

 

 

 

―――その瞳はあの青年を捕らえる。

 

 

 

『なっ!?(北郷殿!?はっ、これで私様の居場所も失ったな)』

 

 

 上官を殴って唯で済むはずも無い。良くて減給、最悪の場合は鞭打ちか?

 

そんなのは嫌だが、その拳は彼の顔面に向かう。

 

 

 

―――でも、その拳は届かなかった。

 

 

 

―――スッ。

 

 

 

『本当に大丈夫か?いきなり、殴るなんて…情緒不安定?』

 

 

 だって、その拳は“北郷殿”が…、“血畏怖”が優しく包んでくれていた。そして、

 

 

『まぁ、どっちにしても…』

 

 

血畏怖はニッコリと頬笑みを見て、体温が上昇する事が解る。

 

そして思いっきり、手のひらに

 

 

『罰を与えます♪』

 

『………えっ…………?』

 

 

力を込めた。…あれっ?

 

 

―――ギリッ!

 

 

 

『あっ―――っ!?イタイ、痛いって!マジで、やめーーーッ!?!?!?』

 

 

 

 

 

 

 それから私様は、血畏怖に罰せられたところを擦りながらその場に留まった。

 

 留まった…と言うには語弊がある。正確には留まされた、である。血畏怖が『少し待て』と言って、すぐに奥の方に引っ込んだ。

 

 

『まぁ、上司に手を上げたんだ。説教か罰はあるか』

 

『説教なんかする気ないし、罰ならさっき執行しただろー?』

 

 

 独り言を言ったつもりが、奥の血畏怖にも聞こえたようであった。

 

 その声の後にすぐにここに戻ってきた。…お茶をもって。

 

 

『済みません。気が効かなくて』

 

『んっ?………あ~、気にするな。当てつけの心算でやった訳じゃない』

 

 

 そして、血畏怖は湯飲みにお茶を、私様と自分の分注ぎ、湯飲みを差し出す。

 

 私様はお辞儀した後、お茶を飲む。すると、どうだろうか、さっきまでの不安定な気持ちが消えて行くのを感じる。

 

 

『(前にお茶を飲んだけど、ここまで落ちついた事何て無いのに…)』

 

 

 不思議でしょうがなく、その訳を訊こうと血畏怖を見ると、血畏怖も此方を見ていた。というか、すごい凝視している。

 

 

『そのまま、茶を啜ったままでいいから、訊かせろ』

 

 

 その眼に逆らう事が出来ず、頷いてしまった。肯定した以上は相手の言う通りに啜りながら、血畏怖の言葉に耳を傾け、

 

 

『その胸…本物か?』

 

 

 

―――ブッーーー!

 

 

 

 噴いた。血畏怖に向かって…顔面に。あの熱い茶を。

 

 

『アツーーーッ!?熱い、マジで洒落になんない!?ヨソウナイデスッ!?けど、熱い!北郷さん、顔溶ける?溶けてる!?』

 

 

血畏怖が混乱しているのか、その辺を転げまわる。けど、こっちも咳き込んでいるので、この空気に突っ込みを入れる事が出来ない。

 

 

 それから、少しして二人とも落ちついた頃に向かい合っていた。私様は椅子に…血畏怖は床に正坐で…。

 

 

『…なぁ?俺、お前の上司…で、合っているよね?』

 

『えぇ。合っていますが、それが?いくら何でも女性に、行き成り胸の事を聞く男などこう言った対応で十分かと?』

 

 

 私様は顔を赤く染めつつ、両腕で胸を抱くように隠す。

 

 血畏怖も顔を赤くしていた。主に茶のせいで。

 

 そうすると、血畏怖は鼻でクスリと笑う。そして、

 

 

『で?俺は訊くべきなのかな?』

 

『???胸の事ですか!言っておきますが、これは天然モノです!』

 

 

 確かに同い年の娘よりは遙かに育ってますよ、えぇ、自分でも驚く位に!

 

 でも、血畏怖は首を横に振り『違う』と言った。その眼差しは真剣な物であり、驚くほど澄んでいた。

 

 

 

 

『俺は訊くべきなのかな。君の中の闇を…、疑心暗鬼の理由を』

 

 

 

―――刹那、世界に自分と血畏怖しかいないと思う位の、静寂が包んだ。

 

 

 

 それから私様は自分の過去…『出来そこない自分』の事を話した。

 

 別段、脅迫された訳でもない。ただまるで詠うかのようにポツリ、ポツリと話し始める。

 

 最初は私様の名前の司馬懿という名を聞いた瞬間、すごく驚かれていたがすぐに平常心を取り戻し、私様の話しを聞いてくれた。

 

 『自分の不甲斐無さ』を。

 

 『己が非力』を。

 

 『自分の存在の意味』を。

 

 後に血畏怖は、その時の私様の姿を『まるで懺悔しているようであった』と言った。

 

 私様は全てを独白した後に不意に、こう呟いた。

 

 

『私様の居場所は…心の拠り所は何処にあるのでしょうか?私様は存在していて―――』

 

 

――― いいのでしょうか?

 

 

 きっと、その時の私様の眼には生気は無かったでしょう。

 

 私様の肌は死人のように白かったでしょう。

 

 私様の声には感情が篭もって無かったでしょう。

 

 

 

 

 なのに、如何してですか?

 

 何故、貴方は微笑んでいるのですか?

 

 如何して、その暖かな手で頭を撫でているのですか?

 

 何故、私様はその手を払い除けないのでしょう?

 

 如何して、私は―――涙を流しているのでしょうか?

 

 

 

 血畏怖は優しく、私様の頭を撫でつつ語るように喋り始めた。

 

 

『それ以上、喋るな…。俺は「天の御遣い」などと云われても、神様でも無ければ万能な人間でも無い。だから、お前の存在に関しては何にも言えない…』

 

 

 頭が冷めていくのを感じる。

 

 そう、その通りだ。彼は私様と同じ人間だ。私様は何を期待して…。

 

 

『でも…さぁ』

 

 

 私様の思考を中断するが如く、血畏怖が言の葉を綴った。

 

 

『お前の居場所くらいなら、俺が何とかしてやる』

 

 

―――ッ。

 

 

『それでも足りないなら…』

 

 

 期待していいのですか?その先の言葉を…。私様が欲して止まなくて、そして…諦めた言葉を…。

 

 そして、彼は…貴方は私様に恥ずかしそうに…でも、微笑みながら、優しい声で言ってくれた。

 

 

『―――俺がお前の拠り所になってやるよ』

 

 

―――ッ!!

 

 

 頭が上手く回らない。自分がどうしたいのかも理解出来ない。でも…。

 

 

―――ポロッ、ポロ。

 

 

涙が頬を伝う感触とその温度、血畏怖の手の暖かさ…。

 

そして、心が…己が存在が…ここに“在る”って、ここに居てもいいのだって…。

 

この方が私様の“拠り所”になってくれた事だけは理解…、いや、“感じる事が出来た”。

 

今、初めて私様自身がここにいる事を認める事が出来た。

 

 

 

 無表情で涙を流している私様を見て、気を悪くしたと思ったのか血畏怖は眉を顰[ひそ]めながらこう言った。

 

 

『あ、あぁ~。まぁ、お前が良ければの話しで、その嫌なら聞かなかった事に…(汗)。と言うか、今日会ったばかりなのにも関わらず、臭い科白を吐く奴なんて信用にならないよなー!あははっ…』

 

 

 そう言い放つと、血畏怖は頭から手を離した。―――が、同時に私様は宙を其の手を自分の両手で包み込む。

 

 

『――― 嫌…ではないです』

 

 

 その手を私様は自分の胸へと押し当てる。『へぇ?』と呆けた声が聞こえるが、今はそんな事を気にしている余裕はない。

 

 

『(暖かい…。この温もりを…手放したくはない)』

 

 

 その想いが私様の心を満たし、同時に離したくないと言う“欲望”が生まれる。

 

 この思い[欲望]を止める事は出来ない。

 

 そして、不意に笑みが零れる。

 

 

『私はすごい問題児ですけど、それても離さないでくれますか?』

 

 

 血畏怖は頬を赤く染めて、呆けていたが今の質問には笑顔で答えてくれた。

 

 

『安心しろ、お前がどんな問題児でも大丈夫だ。何せ、俺はお前以上の問題児だからな?』

 

 

 意味など理解する必要など無い。そう、だって感じればよいのだから。

 

 貴方が笑ってくれれば、私様は頑張れる。強くなれる。私様も笑える。

 

 

 

 

 

~~後書き~~

 

 

 なかなか、次回予告のように書けない覇炎です。

 

 また、書いていたら二話分になってしまい、訳させていただきました。19話は曹操との邂逅篇となっております。

 

 ただし、何時投稿できるかは謎です。頑張って書くので応援お願いします!!!!

 


 
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