No.222777

真・恋姫†無双 外伝:いろちがいのおそろい

一郎太さん

注:今回は恋ちゃんも一刀君も出て来ません。
右上をご覧頂けば分かる通り、MALI様のイラストにインスパイアされて、このSSを書かせて貰いました。
細かい設定の矛盾は無視してください(土下座)
ではどぞ。

2011-06-15 01:36:59 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:9150   閲覧ユーザー数:6304

 

 

 

いろちがいのおそろい

 

 

それはまだ劉宏が霊帝として存命だった頃。官は腐敗し、民は貧困に喘いでいる。それはどの街でも同様であり、此処益州でもまた変わらずあった。

 

「…………ふぅむ」

 

益州ではつい数か月前に若き劉焉が牧の任に就き、何とか政を持ち直そうと必死に動いている。文官も一新されて体制を整えようと奮闘し、軍部も再編されて、実力のある者だけでなく、その士気の高い者たちを募集していた。

 

「さて……」

 

此処にいる彼女もまた軍部へと新しく入った一人であり、幼い頃から鍛えた弓の腕で、若くしてすでに将軍の座を期待されていた。そんな彼女―――厳顔の住まいは、街の外れにあった。周囲に家はなくもないが、それでも遠くに長屋が見える程度である。

 

「………これはこれは」

 

彼女は今日も昨日と同じように朝を迎え、軽く朝食を済ませてから家を出た。そこで、見た。

 

「……さて、童よ。何用ぞ?」

 

 

 

 

 

 

家の前に立っていたのは、黒髪の小さな少女。年のころはまだ3つかそこいらだろう。

 

「………?」

「何用かと聞いておる」

 

まさかろうあの類か?そんな懸念が浮かんだが、少女はにこっと笑うと口を開いた。

 

「かかさま?」

「………………………………………………はぁ?」

 

その可愛らしい声が紡いだのは、彼女の想定から大きく外れたものだった。

 

「まっ、待て待て!儂はお前の母などではないぞ!?」

「………かかさま、じゃない?」

「あぁ、かかさまではない。わかったら、とっととお前の家へと帰れ」

 

無情に斬り捨てて、厳顔は家の戸を閉め、歩き出す。今日も訓練だ。時間的に余裕はあるが、このような事態に対応しているだけの暇はない。

 

「まったく、儂はまだ生娘だというに………む?」

 

少女を無視して歩き出した彼女だったが、ふと後ろから注がれる視線に気がつく。それはひとえに、彼女の武人としての才覚だろう。嫌な予感をひしひしと感じながらも、彼女は振り返った。

 

「………………」

「………そんなに見ていても、儂はかかさまに化けなぞせぬ」

「………………」

「………さっさと去ね」

「………………っ」

「………?」

 

少女はいまだ自分を見つめている。だがよくよく見てみれば、その両肩がわずかに震えていた。

 

「おいおい……」

「………っく………ひっく」

 

次第に少女のつぶらな瞳に涙が浮き上がり、次いであふれ出る。それでも少女は厳顔をじっと見つめていた。まるで、声を上げて泣き出せば、母親が消えてしまうと思い込んでいるかのように。

 

「………仕方がないのぅ」

 

厳顔は頭をがしがしと乱暴に掻くと、いま来たばかりの数歩の道を戻る。

 

「ほれほれ、泣くな。女だろう」

「………泣いて、ない」

 

そしてようやく、少女の『かかさま』以外の言葉を聞き出した。いまだ少女の眼からは涙が流れている。

 

「あー、もう、いい子だから泣くな!」

「うぐっ、ひっく……泣いて、ない………」

 

彼女は小さな頭を撫でる。その手は乱暴ではありながら、少女は次第に落ち着いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

なんとか泣き止んだ少女を家へと入れ、水を椀にいれてやる。それを受け取ると、彼女はコクコクと可愛らしく飲み干した。

 

「それで、何故お前は儂を母と呼ぶ?」

「………かかさまだから?」

 

厳顔の質問に、少女は首を傾げながら応える。

 

「だから違うと言っておろうに………」

「でも………」

「でもも何もない……まぁよい。儂は出掛けねばならん。話はまた後で聞いてやるから、家で大人しくしていろよ?」

「………うんっ」

 

厳顔からすれば、仕事の時間が近づいていた為さっさと切り上げたいと放った言葉だったが、意外にも少女は笑顔で頷いた。

 

「………………」

 

なんとなく…そう、なんとなくと自分に言い訳をして、少女の頭を撫でてみる。すると、なんと嬉しそうに眼を細めることか。

 

「………それでは行って来る」

「いってらっしゃい」

 

自分でもよくわからない感情を抱えながら、厳顔は今度こそ家を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

夕刻―――。

今日の調練を終えた厳顔は、いつも通りの家路を歩く。その手には酒の徳利。質の悪い安物ではあったが、いまの彼女にとってはこれを買う事が唯一の贅沢だった。人目を気にも留めず、徳利を傾けながら歩く。

 

「やはり遠いな……安いからと此処にしたのが間違いだったか………」

 

何度言っても飽きない独り言を出しながら、彼女はようやく家へと辿り着く。この頃にはすでに陽はほとんど沈んでいた。

 

「………………?」

 

家に入って感じたのは、人の気配。盗人か?そう思いながら、彼女は腰の後ろにさげ支給品の剣に手をかける。

 

「………」

「………っ!?」

 

衝撃は予想外のところから来た。心臓を狙ったものでも、腹を狙ったものでもない。それは脚だった。痛みはない。一瞬の迷いが命取り。彼女は襲撃者を斬り捨てようと剣を引き抜こうとした瞬間、その正体に気づいた。

 

「………………忘れておった」

「………っく、えぐ」

 

それは朝の少女。厳顔の腿にむしゃぶりついたまま肩を震わせている。

 

「おいおい、何故泣いておる?」

「………だって」

「だって?」

「………帰ってこないかと、思ったから」

「はぁ?」

 

少女の口から出てきたのは、寂しさを表す言葉。自分の家に帰らない訳がないだろう。そう思いはしたが、口には出さない。

 

「まぁ、その………」

「?」

「………遅くなって、すまなんだ」

 

そう言うと、少女はいっそうぎゅっと抱き着いてくる。溜息を吐きながらも、彼女はその小さな頭を撫でてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

それから厳顔と少女の生活が始まった。要領の得ない少女の話をまとめてみれば、何のことはない。捨て子か死別か、彼女には親がいないとの事だった。ではどうやって家の前に来たのかという疑問が残るが、その辺りはよくわからない。

 

「ほれ、もっと腰をいれんか」

「うんっ!」

 

調練がある日は仕方がないが、休みの日は少女と遊ぶ代わりに、木剣で鍛錬をしていた。自身も武の鍛錬に明け暮れていた為、この年頃の少女が何をして遊ぶのかは知らなかったが、それでも少女は楽しそうに剣を振っていた。

 

「うわっ!?」

「おいおい魏延、仕合の途中は何があっても目を瞑るなと教えた筈だろう?」

 

少女には魏延と名付けた。魏延曰く、自分の名前もわからないらしい。厳の姓をつけなかったのは、ただ単に親子ではないという厳顔の静かな主張からだったが、それでも魏延は名前を呼ばれる度に笑顔で返事をするのだった。

 

「さて、それでは少し休憩にするか」

「あー!また厳顔さまお酒飲んでる!」

 

自分の呼び方にしても、敬称を付けて呼ばせている。これもまた上記の理由と同様だった。傍から見れば親子に見えなくもないが、そこもまた彼女が引いた一線だ。

 

「よいではないか………そうか、魏延よ」

「………な、なに?」

「お前も呑みたいのだな?そうかそうか!よし、一緒に飲もうぞ」

「い、いやだ!お酒は苦いし臭いし、嫌い!」

「はっはっは!まだまだ子供だのぅ」

 

そう笑いながらも、魏延に水の入った竹筒を渡す辺りは母親である。

 

 

 

 

 

 

そんな生活が続き―――。

 

「すまんな、魏延よ」

「うぅん、大丈夫。ひとりで修行してくる!」

 

昼間というのに布団が敷かれ、桔梗が横になっていた。前日の賊討伐の際に流れ矢に当たって傷を受けてしまったのだ。動く事に支障はないが、それでも戦の時以外に将が傷を引き摺りながら部下の前に出る訳にはいかない。

 

「気をつけろよ」

「うん!」

 

元気な返事と共に、魏延は木剣を抱えて家を出て行った。

 

「………まだまだ儂も甘いのぅ」

 

ひとりごちて寝返りを打つ。じくじくと傷が痛む。彼女はそのまま、意識をゆっくりと落としていった。

 

 

どれだけ寝たのだろうか。窓からは赤味がかった陽射しが差し込んでいた。

 

「………まだ魏延は戻っておらんか」

 

ゆっくりと体を起こす。部屋の中に気配はない。そろそろ家に戻すかと立ち上がって家を出たところで、彼女は気づいた。ほんのわずかに低い唸り声が聞こえてくる。

 

「………?」

 

その声に誘われるようにして、桔梗は歩いていく。そして、藪を曲がったところで、彼女は見た。

 

 

 

 

 

 

「く、くるなっ……」

 

そこにいたのは震えながらも木剣を構える魏延、そして――――――。

 

「(野犬?いや、狼かっ)

 

十数メートル離れた所にいる魏延と向かい合うように、2匹の狼が四肢で構えて唸りを上げていた。

 

「(まずいっ!なんとかこちらに引きつけねば………)」

 

厳顔は静かに腰を曲げ、地面に転がっている石を幾つか拾う。得物が変わったとはいえ、将軍である。ましてや自分は飛び道具のスペシャリスト。この距離なら外す道理がない。彼女は気配を殺しつつも、ゆっくりと振りかぶり、思い切り腕を振るう。

 

「………ぐっ!?」

 

こんな時に!?焦るが遅い。痛みに呻く声を聞きとった獣が彼女を振り返った。

 

「腕の一本は覚悟するか………」

 

気を引くことに成功はしたが、傷を負ったいまの状態では分が悪い。負ける事はないが、それでも傷を負う事は確定したようなものだ。痛む身体に鞭を打ちながら、彼女は徒手空拳で構える。

品定めをするかのようにゆっくりと近づく2匹の獣たちが飛び上がろうと重心を下げた。

 

「――――――うあぁああああっ!!」

「魏延っ!?」

 

獣たちが飛びかからんとしたまさにその時、幼い少女が雄叫びを上げて狼に向かって走り出す。

 

「かかさまに…かかさまに手を出すなぁあああっ!」

「………なんと」

 

厳顔は呆気にとられていた。幼いと思っていた、守るべき対象だったはずの少女が、今まさに武人としての資質を見せている。その太刀筋はめちゃくちゃだったが、それでも獣たちを圧倒するには十分の気概を滲ませていた。

そして彼女は見る。少女の眼の奥に光る、武人としての焔を。

 

結局、厳顔が手を出すまでもなく、2匹の狼は走り去る。この時彼女は、ひとつの決意を胸に秘めた。

 

 

 

 

 

 

「…はぁ……はぁ」

 

その小さな身体は膝に置いた両手で身体を支え、荒く息を吐いている。厳顔はゆっくりと少女へと歩み寄った。

 

「…げ、厳顔さま………おけがは、だいじょうぶ?」

「あぁ……魏延よ、ついて来い」

「ぅ、うん………」

 

しかし彼女はそれ以外に声をかける事はせず、少女を連れて、家へと戻って行った。

 

 

厳顔は少女を向い合せに座らせると、その瞳をじっと見つめた。

 

「………厳顔、さま?」

「魏延よ。まず、お前に言っておきたいことがある」

「うん…」

「儂は、お前の母ではない」

「っ!」

 

その言葉に、魏延は肩をびくっと震わせた。しかし、彼女は構わずに言葉を続ける。

 

「母というものは、自らの腹を痛めて子を成すものだ。こうしてお前を養い、共に暮らしてはおるが、儂はお前を生んだわけではない」

「………っ、ぅっく」

 

魏延目から、涙が溢れそうになる。だがそれを止めたのもまた、厳顔だった。

 

「だがな…儂とお前を親子よりも強い絆で結ぶこともできる」

「………きずな?」

「あぁ、絆だ。魏延よ。儂の部下になれ」

「部下?」

「あぁ。お前には武人としての素質がある。儂がお前を鍛え上げ、将軍になれるまでにしてやる。お前が強くなりさえすれば、儂らはずっと共におれる」

「………」

「よいか。部下というものは、将の許しなく命を落とす事を禁じられている。将もまた、部下の前で死ぬ事をできぬ。お前が儂の部下となると誓えば、儂はずっとお前といてやれる。共に鍛錬をし、共に戦場を駆け抜け、そして共に生き残れば、儂らの絆はどんな名剣といえど断ち切る事はできぬだろう」

 

魏延にはまだ難しい言葉かもしれない。だが、それでも彼女は言ってやりたかった。これでこの娘がさらに生きる活力を得られるのならば、その覚悟があった。

 

「どうだ?」

 

そして、少女は応える。

 

「………なる。私は、厳顔様の部下になる!それで、ずっといっしょにいる!」

「そうか………」

 

自分を見つめる強い瞳に、自身の選択が間違ってなかった事を知る。そして彼女は、少女に2つの贈り物をした。

 

 

 

 

 

 

「それでは、お前に2つの贈り物をやろう」

「おくりもの?」

「あぁ。まずは………真名だ」

 

始めて聞く単語に、少女は首を傾げる。

 

「まな…」

「お前には魏延という姓と名があるだろう?」

「うん」

「それとは別に、心を許した相手のみ呼ぶことができる名前がある。それが真名だ」

「厳顔さまも持ってるの、まな?」

「あぁ……儂の真名は桔梗だ」

「ききょう………」

 

繰り返す様に呟いた。

 

「これからは、お前にそう呼ぶことを許そう」

「桔梗…さま……?」

「そうだ。そして、お前の真名は焔耶だ」

「………えんや」

「先ほど儂は見た。お前の瞳の奥に燃え上がる、力強い武の焔をな」

「ほんと?」

「あぁ、誰が見間違うものか。誰もが見紛う事のない焔、それがお前の真名だ」

 

桔梗の言葉に、焔耶は何度も自分の真名を繰り返し――――――。

 

「わたしの真名は……焔耶!」

「そうだ」

「そして、厳顔さまの真名は、桔梗さま!」

「あぁ、そうだ」

「ありがとうっ!」

 

喜びに思わず飛んでくる焔耶を、桔梗は優しく抱き留めた。

 

 

 

 

 

 

暫くの間腕の中で涙を流す焔耶の頭を撫でると、桔梗はその身体を少しだけ離し、声をかけた。

 

「それで、2つ目の贈り物だが」

「2つもくれるの!?」

「人の話を聞いてなかったのか………そうだ。もう1つだ」

 

その言葉に、焔耶はにぱっと笑顔になる。

 

「先ほどは将と部下と言ったが、実際には兵なんぞ無数におる」

「………?」

「要するにじゃ、強い絆はその者たちとも持っているという事だ」

「………?」

 

よくわからないようだ。焔耶は首を傾げた。

 

「もうよい。つまりは、儂と焔耶を繋ぐ特別なものを持っておこうという事だ」

「とくべつ?」

「あぁ」

 

焔耶の問いに短く答えると、桔梗は懐からある物を取り出した。

 

「………かみどめ?でも、私の髪は短いよ?」

「わかっておる。まぁ見ておれ」

 

取り出したのは桔梗が髪を縛っているものと色違いの髪留めのリボンだった。桔梗は苦笑しながらも、自分の頭のそれを解く。

 

「とっちゃうの?」

「いや、こっちに着ける」

 

そして、それを自分の首に結びつけた。紫色のそれは、桔梗の白い肌に一筋の線を入れる。

 

「どうだ?」

「………きれい」

 

目を輝かせて応える焔耶に、桔梗はそうかと笑う。

 

「ほれ、持っておれ」

「かがみ?」

 

次に、桔梗は焔耶に鏡を手渡して、膝の上の少女に前を向かせた。

 

「動くなよ?」

 

今度はその細い首に、先ほどのリボンとは色違いの、赤いそれをゆっくりと巻きつける。

 

「………」

 

言われた通り、焔耶はじっと動かず、口も噤んでいた。キツくなり過ぎないように気をつけながら、ゆっくりとそれを結んでいく。焔耶が両手で持つ手鏡には、焔耶の顔をそのリボンが映る。

 

「………ほら、出来たぞ」

「わぁ……」

 

焔耶は鏡を動かして、自分の首と後ろにいる桔梗の首を何度も見比べる。

 

「………おそろい?」

「色違いだがな」

 

焔耶は飽きることなく、何度も何度もそれを見比べる。2人の間の絆を確かめるように――――――。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

書いてみて、改めて思った。

 

焔耶たん(*´Д`*)ハァハァ

 

まだMALI様のイラストを見てない人は、ぜひ右上の『インスパイア元の作品』をクリックしてくれ!

 

ではまた次回。

 

バイバイ。

 

 


 
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