『温かい・・・』
“少女”は想う
この“冷たい空間の中”、このようなことは初めてだと
そして、思い出す
自分は、この“温かさ”を知っていると
『ああ、そういうことなのね・・・』
わかる
少女には、わかるのだ
“例え、目覚めることが出来なくても”
“例え、永遠の時に放り出されたとしても”
彼女は、この温もりを忘れないのだ
『ようやく歩き始めたのね・・・“一刀”』
だからこそ、笑おう
そして、祝うのだ
この、新たな始まりを・・・
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第一章 二十四話【いってきます】
「あ、アハ、あははははは・・・あはははハははハハハははは!!!!」
それは、赤い・・・不気味なまでに赤い空間の中
そんな光景さえ霞んで見えてしまいそうなほどに狂った嗤い声が響いていた
「流石、流石一刀殿です!!!!
素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい!!!
それでこそ、相応しい!!
私の伴侶に、私の婿に、私の傍に侍るのに、貴方はやはり相応しい!!!!!!」
叫び、見えた表情
浮かぶ、不気味な笑み
そして・・・その鼻から流れ出る、大量の血
「あああ、あ、ああ・・・興奮が、疼きが治まりません!!!
いったい、どうしたらいいのでしょう!!!?」
おさえても、拭っても
いつまでも止まらない血を、彼女は見つめながらウットリとした表情を浮かべる
そして・・・“思いついた”
「あぁ・・・そうです、そうでした!!
何故、我慢などする必要があるのでしょうか!!?」
“我慢”
その言葉を、彼女は自身の頭から消し去ったのだ
自分の中にあるストッパーを、自らの手で解除したのだ
「迎えに行きましょう、攫いに行きましょう、受け取りに行きましょう!!!!
この私が今すぐに、貴方を迎えに行きましょう!!!!」
叫び、嗤い、狂喜する
思い立ったが吉日・・・とでも、言うのだろうか
彼女はすぐさま、自身の周りに闇を纏う
そして、今まさに闇に溶けようかという時に・・・
「あれぇ~?
おかしいの~、“稟ちゃんの順番はもうお終いのはずなの~”」
「・・・っ!」
声が、聞えてきたのだ
高い、少女の声が・・・
「ズルはいけないって、“魔王様”に言われてるはずなのにね~」
その声はやがて、彼女のすぐ傍まで近づいた
彼女が視線を向ける先・・・一人の少女の姿と共に
「“沙和”・・・ですか」
「そうなの~、久しぶりなの稟ちゃん」
言って、少女・・・“沙和”は嗤う
その瞳に、僅かに“狂気”を含ませながら
「別に、ズルはしませんよ」
「嘘なの」
瞬間、二人の間に禍々しい氣が渦巻いていく
それがお互いに発した殺気によるものだと、2人は気づいている
だが二人とも、それを“止めようとはしなかった”
「ズルではありません・・・一刀殿が、私に会いたいと
そう思っているのですよ」
「あはは、あんまし調子乗ってると嫌われちゃうよ?」
膨らんでいく
広がっていく
殺気が、狂気が、辺りを包み込んでいく
「そもそも、最初にチャレンジさせてもらったのに贅沢すぎるの」
「愛に、贅沢も何も関係ないかと思いますが?」
その空間の中、睨み合う二人
同じように“嗤いながら”、同じように“殺気”を放つ二人
その二人に表情が、一気に変わった
「ぶち殺すぞ、腐れ眼鏡」
「できるものなら」
やがて、そのぶつかり合うと思われた氣は・・・嘘のように“消えた”
そして辺りに響いたのは、小さな溜め息
「や~めた、なの」
沙和だった
彼女はそう言うと、その場からクルリと反転
そのまま、歩き出してしまう
「稟ちゃんのことを・・・“殺すのは簡単”だけど、“終わらせるのは難しい”もんね」
言って、小さく笑いを零す彼女
そんな彼女の言葉に、稟もまた笑いを零していた
「くく・・・ええ、そうですね
私も貴女を“殺すことは出来ても”、“勝つことは難しい”でしょう」
そう言って、お互いに笑いあった後
稟は、ふと何かを思い出したかのように声をあげる
「そういえば・・・次は、いったい誰が向かうのですか?」
「あ~、次はねぇ」
稟の言葉
沙和は少し間を置いて、愉快だと言わんばかりに嗤った
そして呟いた名を聞き・・・稟もまた、嗤ったのだ
≪次はね・・・“泥棒猫さん”の番なの♪≫
ーーーー†ーーーー
深夜
皆がもう眠り、静まり返った都の中
「は・・・はっ・・・」
駆ける、一人の少女の姿があった
楽進・・・真名を、凪である
彼女は外衣を羽織り、ただひたすら駆けていたのだ
「はっ・・・“もうすぐ”か」
言って、見つめた先
都を守る、城門が見える
彼女はその既に閉まっている城門を見つめ“反転”・・・門ではなく、城壁へと上がる為の階段を目指し駆けて行く
「“此処”か・・・?」
やがて、目的の場所に辿り着いたのか
彼女はゆっくりと速度を落とし、城壁の上から下を眺める
そこに、“ある人物”の姿を確認した
「っし・・・!」
そして・・・“跳んだ”
城壁の上から
城壁の向こう側・・・外の世界へと
彼女は、躊躇うことなく跳んだのだ
「っ!!」
やがて、彼女の足に伝わってくる衝撃
彼女はそれを上手く受け流し、その場に無事着地した
そうして、彼女が見つめた先・・・一人の少女が、二頭の馬を引きながら近づいてきたのだ
「流石は凪ちゃん
身軽ですね~」
「いえ、そんなことはありません
それよりも馬の準備、ありがとうございます・・・“風様”」
そう言われて、少女・・・程昱こと、風はニッコリと微笑んだ
それから、凪は風から馬を一頭受け取る
その馬に跨り、彼女はフッと微笑んだ
「それでは、行きましょう」
その言葉に、風は頷いた
勿論、“笑顔”で・・・だ
やがて駆けて行く、二頭の馬
向かう先・・・夜空は、美しい星たちが光り輝いていた
「ふふっ・・・」
「風様?」
そんな中、風は小さく笑いを零した
彼女はそれからすぐ、振りかえり・・・段々と遠くなっていく都を見つめ、またクスリと笑う
「いえ、少し・・・みんな、驚くだろうな~と
そう思っただけなのですよ」
「あ~・・・まぁ、驚くでしょうね」
言って、二人は顔を見合わせ笑う
それから、凪は自身の胸元で・・・強く、手を握り締めた
「でも・・・もう、嫌だったんです
待っているのも、待たされるのも
私は、もう嫌なんです」
「凪ちゃん・・・そうですね~
お兄さんは唯でさえ、種馬の称号を持った御方ですから
出会った女の子、片っ端から孕ませるかもしれませんよ~?」
「ぷっ・・・隊長は、押しに弱いですもんね」
「ええ・・・だから、早く迎えに行ってあげましょう
散っていった欠片を、拾い集めてから」
「はい、行きましょう・・・」
呟き、見つめた先
“遥か彼方”
彼女達は、自分たちの目的地を思い浮かべ・・・微笑を浮かべていた
「さて、それでは早く向かいましょうか~」
「はい!
行きましょう
私たちの、最初の目的地へ・・・」
≪呉国首都・・・“建業”へ!!≫
駆け抜ける二頭
向かうのは・・・“呉”
“追いかける者”の物語
その、最初の目的地だった・・・
ーーーー†ーーーー
「いよいよ、今日・・・ですね」
「ん・・・」
七乃の言葉に頷き、一刀が見つめた先
短い間だったが
それでも、とても掛け替えのない日々を過ごした
皆の家が見えた
「なんじゃ、こう・・・感慨深いものがあるのう」
「だな・・・それほど、我々にとってここは大切な場所になったのだろうな」
その家を見つめながら、祭が言った言葉
夕は笑顔で頷き、手を伸ばした
その手の先・・・“我が家”を、忘れまいと言っているかのように
「また、きっと帰ってくるのじゃ」
「ん・・・」
笑顔のまま、美羽は言う
“その通りだ”と、一刀は・・・いや、皆は思った
いつかまた、全てが終わった後
またここに、帰ってくる
そう、決意を固めたのだ・・
「おーーーーい!!
皆さん、待ってくださーーーーい!!!!」
「・・・?」
そんな中、ふと聞こえてきた声
五人は視線を、その声がした方へと向ける
その視線の先には、こちらへと走ってくる姜維・・・それと、卑弥呼と華佗の姿があった
「ま、間に合いました!!」
「危なかったな・・・」
「うぬ、良かったぞい!」
三人は慌てて五人のもとへと駆け寄ると、乱れた息を急いで整える
それから姜維は、一刀の手をとって笑ったのだ
「一刀さん・・・実は、貴方に渡したいものがあったんです」
「渡したい、もの?」
“はい”と微笑み、彼女は自身の背へと手をやる
見れば、彼女は何やら大きな“布に包まれた何か”を背負っていたのだ
彼女はそれを手にとると、スッと一刀へと差しだした
「“コレ”、受け取ってください」
「コレ、は・・・」
受け取り、一刀は包んでいた布をとる
そして現れたものに、その目を大きく見開いたのだ
「コレ、は・・・“弓”?」
「はい、そうです♪」
一刀の言葉に、彼女は笑顔で頷いた
彼が受け取ったモノ・・・それは、“弓”だった
十字の紋章が刻まれた、黒く大きな弓
彼はソレを握り締め、姜維を見つめた
「これ、貰ってもいいの?」
「勿論、そのために持ってきたんですから♪
それに、一刀さんに使ってもらえるなら・・・きっと、お父さんも喜ぶと思うんです」
“お父さん”
その言葉を聞き、彼は一瞬でこの弓が誰のものだったのか理解した
同時に、感謝する
あの真夜中の虹の下、旅立っていった
一人の“父親”に向かって
「ありがとう、姜維・・・大事に、するから」
そんな一刀の言葉
精一杯の感謝の言葉
だというのに、姜維の表情は少し曇っている
彼女はしばし腕を組み考え込んだ後、一刀に向かって笑顔を向けた
「あの、一刀さん・・・私たち、友達ですよね?」
「ん・・・」
「なら、私のことは“白蘭”と・・・そう呼んでください♪」
「わかった・・・白蘭」
“はい♪”と、今度は満足そうに微笑む彼女
そんな彼女の横から、ヌッと割って入ったのは・・・卑弥呼である
「ぬふふ、儂からも贈り物があるんじゃ」
「きもっ・・・って、贈り物?」
「うぬ、受け取ってくれい」
言って、卑弥呼は一刀に何かが入った布を渡す
彼はそれを受け取り、布をほどいていく
そして中から出てきたものは・・・
「ぁ・・・」
“服”
それは・・・見覚えのある、“懐かしい白き服”だった
取り出したそれは日の光を反射し、白くキラキラと輝いている
「これは・・・」
「天の御遣いといえば、これが無くては始まらんじゃろう?」
ニッと笑いながらの卑弥呼の一言
彼はその服を抱き締めると、微かに笑みを浮かべながら走り出した
「着てくる・・・」
「うぬ、中にはその衣服に合わせ繕った下履きも入れてあるぞい」
「ん・・・ありがと」
駆けて行く、一刀
その背を見送り、見あげた空
“快晴”
卑弥呼は人知れず、微笑を浮かべていた
「うぬ・・・“新たな始まり”を迎えるには、絶好の日じゃな」
「どう・・・かな?」
呟き、照れくさそうに歩み寄る一刀
その姿に皆は、言葉を失っていた
その体が、その存在が
“白い光り”のように、唯々美しくて
彼女達の視線を、奪ったまま離さないのだ
そんな中、卑弥呼は感慨深げな笑みを浮かべ頷いていた
「天の御遣い、復活・・・といったとこかの」
その言葉に、一刀はぎこちない笑みを浮かべる
それから、手に持っていた弓を背負った
「皆・・・」
小さな声
だけど・・・しっかりとした声
その声に、四人は我に返る
そんな四人の姿を見つめたまま、彼は言ったのだ
「始めよう・・・俺の、俺たちの、“物語”を」
これから始まる
辛く、苦しい物語
その、始まりを・・・
「そして、行くんだ」
≪この遥か彼方・・・蒼天の向こうへと≫
「いってらっしゃーーーーい!!!」
手を振り、声をあげる白蘭
そして・・・
「美羽ちゃーーーん!!
また、お歌うたってねーーーーーー」
「無口な兄ちゃんも、早く帰ってこいよーー!!」
「夕の姐さん、ガンバれーー!!!」
「帰ってきたら、一緒にリンゴ食べような?な?」
「祭さん、飲み過ぎんなよーーーーーーー!!!!」
天水に住む、沢山の人々
その声に応え、五人は何度も手を振り返す
“居場所”
確かに、此処にはそれがあった
そのことが嬉しくて
そのことがむず痒くて
彼は白き服を靡かせながら、おおきく手を振った
「いってきます」
そう、言葉を紡ぎながら
彼は、何度も・・・何度も、手を振ったのだ
「いってきます」
何度も呟き、見上げた空
果てのない蒼天
この遥か彼方、蒼天の向こうへ・・・今から、行くのだと
そう、自分に言い聞かせながら
彼は、歩みを進めていく
“彼ら”は、歩んでいく
目指すは“蜀”
待ちうけるは“2人の愚かな王”
物語は、紡がれていく
何処までも、果てしなく
この遥か彼方まで・・・
★あとがき★
二十四、公開です
月千一夜ですよ~っと
次回でいよいよ、長かった一章は終わりを告げますw
多いに謎を残したまま、ですがw
まぁ、物語はまだまだ序盤
そこら辺は、今後の展開に期待しながらお待ちくださいww
さらに次回・・・今後の展開を左右する、とんでもフラグがぶち込まれる・・・かも?ww
『名がいるじゃろう?
これから先、記憶が戻るまでの間・・・お主を現す、“新しい名”がな』
~次回
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第一章 最終話【その青年の名は・・・】~
『俺は・・・俺の名は・・・・・』
それでは、またお会いしましょう♪
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二十四話、です
あ、意識が・・・
次回でいよいよ、長かった一章が終わりますw
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