No.222760

そらのおとしものショートストーリー2nd 最悪な組み合わせ

さてさて水曜定期更新です。
たまには変わった方に焦点を当ててみませう。


魔法少女まどか☆マギカ

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2011-06-15 00:14:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3045   閲覧ユーザー数:2731

そらのおとしものショートストーリー2nd 最悪な組み合わせ

 

 

「娘に全裸をそんな激しく見せ付けているとは……君、鳳凰院家のしきたりに従って娘の婿になりなさい」

 智樹は宿敵鳳凰院・キング・義経と脱衣(トランザム)状態で戦っている所を義経の父に見られてしまった。

 そして義経父の強引な手腕により、決戦を観戦していた義経の妹月乃と結婚を義務としたお付き合いをすることになった。

 智樹、義経、月乃はそれぞれ交際に反対の立場を表明したが、人の話を一切聞かない父は2人のデートプランまで立ててしまった。

 こうして智樹と月乃は鳳凰院グループが経営する動物園でデートさせられる羽目になった。

 

 

「何でわざわざ来るんだよ? お前が何か理由付けてサボってくれれば俺は優雅に休日をエンジョイできたっていうのによ!」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。貴方が理由を付けて今日来なければ私はいつも通りの優雅な休日を過ごせましたのに」

 平和な雰囲気の動物園に似つかわしくないギスギスした男女が高速で檻の前を通り抜けていく。

「俺の方から断ったら鳳凰院グループが丸ごと敵になって俺の平和が乱されるだろうが!」

「鳳凰院グループの力を恐れるとはさすが小物は処世術を心得てますわね」

 月乃が智樹を嘲笑する。

「それを言うならお前はどうなんだ? 何でワザワザ今日のデートを受けたんだよ?」

「そ、そんなもの……お父様の正式なご命令なのですから断れるはずがありませんわ」

 月乃は面白くなさそうに顔を横に背けた。

「お父様は鳳凰院グループを背負っていらっしゃる大変立派な方です。そのお父様のお言い付けに逆らえるはずがありませんわ」

「何だよ、それ?」

 智樹もまた面白くなさそうに首を捻った。

「まあ、お前にも事情があるのはわかった。だがな、それでも納得できねえことがある」

 智樹は目線を自分の首へと向けた。

「何で俺の首に首輪が付いてて、お前がリードを握ってんだよっ!」

 智樹の首に繋がれている首輪からは成金趣味な金ぴかなリードが伸びており、その先端は月乃に握られていた。

「だってお父様の命令でデートしているとはいえ、相手は類人猿ですもの。放し飼いにしているとあっては、他の入場者の方のご迷惑になりますわ」

「お前はデート相手がサルで良いのかよ!」

 皮肉を込めた智樹の反論。

「仕方ないじゃないありませんの。お父様の命令なのですから」

 顔を伏せて表情を暗くする月乃。

 そんな月乃を見ながら小さく舌打ちする智樹。

 2人の面白くないデートは続く。

 

 

 雰囲気が険悪なまま2人はサル山の前へと辿り着く。

 月乃は足を止めて偉そうにふんぞり返りながら鼻息荒く説明を始めた。

「こここそが私のお父様の経営する鳳凰院動物王国の誇る目玉。エテ公たちが群れを作って暮らす智樹山ですわ」

 月乃の指差す先にはニホンザルが群れを成して人工物の山の中に暮らしていた。

「何でサル山の名前が智樹山になってんだよ?」

 智樹は頬をピクピクと震わせながら月乃に尋ねる。

 智樹の視線の先には『智樹山 Tomoki Mountain』と書かれた看板が見える。

「そんなもの、私がお父様に頼んで頼んでサル山の正式名称を変えて頂いたのですから」

「お前の仕業かよっ!」

 大声で月乃を怒鳴りつける智樹。そんな智樹に対して智樹山の住民たちは石を投げ付けてきた。

「あらっ? 大声で騒ぐから貴方のお仲間がお怒りのようですわ。ダメですわよ、同じエテ公同士仲良くしないと」

 口に手を当てておっほっほっほっほと高笑いを奏でる月乃。

 すると今度は月乃に向かって智樹山の住民たちから大量のバナナが投げ付けられた。

「あっはっは。ヴァ~カ。ヴァ~カ。月乃お嬢様もお仲間に怒られておいでのようですな」

「何をおっしゃっているのかしら? 私が投げ込まれたのはバナナ。対して貴方は石。私の方がワンランク上に扱われていることもわかりませんの? おっほっほっほっほ」

 大声で騒ぐ2人に智樹山の住民たちかた大量の贈り物がなされた。

 

 

「まったく、お前と一緒にいるとアストレアといる以上に騒動に巻き込まれるぞ」

 サルたちに散々石を投げられて顔を貼らした智樹が愚痴る。

「私だって貴方となんか歩きたくありませんわ」

 月乃は顔を智樹から背けながら嘆き返す。

「だったらもう、俺の鎖を放してデートを終わらせれば良いだろうが。もう2人で動物園に行くという義理は果たしたんだし」

「そうはいきませんわ」

「何故だよ?」

 智樹は首を捻る。

「だって貴方は仮にもこの鳳凰院月乃の将来の夫となるエテ公様。デートぐらい最後まで務めて頂かないと世間に後ろ指を差されますわ」

「何で俺がお前の夫にならなくちゃいけないんだ?」

「そんなこと、お父様の命令だからに決まっていますわ!」

 月乃は奥歯を噛み締め表情を歪めた。

「大体、お父様のお言い付けでなければ生まれて初めてのデートを貴方のような品性の欠片もないエテ公とするはずがありませんわ!」

「だったらしなければ良いだろうが! 俺なんか脅されてんだぞ! お前が断らないと俺は日常生活を営めなくなるんだ!」

「だからお父様の命令なのですから仕方ないじゃありませんのっ!」

 月乃は感極まった大声を出す。

 

「何かお前、イカロスやニンフにそっくりだな」

「はぁ? あの羽が生えたお兄様を惑わす方たちと私の何がそっくりだと言うのですの?」

 月乃の声にはイカロスたちに対する否定的な感情が見て取れた。

「何かっつうとすぐ命令命令言って自分を縛ろうとする所がそっくりだ」

 智樹は大きな舌打ちを鳴らした。

「お前もイカロスたちも、何かというと命令のあるなしを気にする。そして命令を中心に動いて自分の意思を大事にしない。そんな生き方、おかしいだろうがっ!」

 智樹の苛立ちが声となって月乃にぶつけられる。

「そんなもの、背負うものが何もない貴方だからこそ言える子供の戯言ですわっ!」

 月乃も負けじと言い返す。

「その子供から見てもガキっぽくしか見えないつまんなくて窮屈な生き方してんじゃねえよ!」

「貴方に私の何がわかると言うのですのっ!」

 2人の視線が交錯して火花が散る。

「うっせぇっ! イカロスが、ニンフが、命令に縛られてどれだけ苦しい生を送って来たのかを俺は見てきた。そして、卑屈に生きる方向へ自らを導いてしまう悲しさを。だから、そんな人間をこれ以上見ているのは嫌なんだよ!」

「鳳凰院の娘の看板は、個人の意思でどうこうなるほど甘い重荷じゃありませんのよ!」

「そんなこと、エンジェロイドだって同じだ。アイツらなんて、存在意義がマスターに尽くすことって決められてんだぞ。アイツらだって、泣いて笑って普通の女の子なのによ。そんな生き方を良しとさせられるかよっ!」

「だったら貴方はそのイカロスさんたちに何をしてあげたというのですの? イカロスさんなんて、貴方のことをマスターなんて呼んでいるじゃありませんか。ご主人様気取りの貴方が私たちの生き方に介入する権利なんかありませんわっ!」

「わかってんだよっ。今の俺じゃイカロスたちを解放してもやれないし、どうするのが最善の道なのかもわかってないってことは。けどよ、お前たちに哀しい生き方をこのまま続けさせたくはないんだよ!」

 月乃が瞳を細める。

「貴方、私を哀れんでますの?」

「俺が勝手にお前たちの人生を変えたいと思っているだけだ。それを哀れんでいるという言葉で括りたいならそうしろ」

 智樹は息を吐き出した。

「私の人生を変えると何か貴方に利益がありますの?」

「具体的な利益なんてねえよ。強いて言うなら、心の底から楽しそうな笑顔が見られると俺の心がスカッとするぐらいだ」

「そんなことの為に私の生き方に介入しようというのですの?」

「そうだよ」

 月乃は軽く目を瞑りながら顔を上げた。

 瞼というフィルターを通しながら太陽を見上げていた。

「貴方、大バカですのね」

「うるせえよっ!」

 智樹の罵声が木霊する。

「貴方の思いは少しだけわかりました。しかし、人の生き方に介入しようというからにはそれなりの覚悟と責任というものが生じるものですわ。貴方はそれを理解していますの?」

「それぐらいのことは俺にだってわかってる」

 智樹はイカロスとニンフの生き方に干渉したら、シナプスと命懸けの争いが始まったからなと付け足した。

「それがわかっていて、尚且つ私の生き方に干渉するつもりですの?」

「そうだよ。もう乗り掛かっちまった船だからな」

 智樹は大きく溜め息を吐いた。

「そうですの。なら、わかりましたわ」

 そう言って月乃は智樹に背を向けた。

 そしてそれきり喋らなかった。

 

 

 

「おおっ、愛しのマイドーター月乃と将来の息子の智樹くんよ。どうだね、デートは楽しんでいるかね?」

 2人の前に突如月乃父が現れた。

「お父様っ? どうしてここに?」

 月乃が驚きの声を上げる。

「フム。元々今日はこの動物園の視察の予定だったのだ。それで月乃たちのデートの様子を拝見しようと思い、ここでのデートプランを立案したわけだ」

「おかげでこっちはいい迷惑だぞ」

 智樹は月乃父に聞こえない小さな声で愚痴った。

「それでどうかね智樹くん? うちの娘とのデートの感想は?」

「どうもこうも、見解の相違と言いますか、人生観の違いがですね……」

「フム。意見がぶつかり合うのは青春の証拠。実に充実したデートタイムを送っているようだね」

「いや、その結論は絶対におかしいだろ!?」

 月乃父は人の話を聞かない人物だった。

「月乃は将来の旦那となる少年との初デートをどう思っているのかね?」

「そりゃあ印象最悪でしょう」

「そうですわねえ……」

 月乃は父の顔をジッと見た。

「将来の夫となる方ですから、今はまずお互いのことをじっくりと知り合っている段階ですわね」

「そうかそうか。将来をしっかり見据えた展望を持っているわけだな。いや、結構結構」

 月乃の言葉を聞いて黙っていられなかったのは智樹の方だった。

「おいっ、お前はまだ命令で結婚を進めるつもりなのか!」

「命令ではありませんわ」

 月乃は智樹の顔を見つめ込む。

「だって結婚は、私の意思ですから」

 月乃は智樹に微笑みかけた。

「はいっ?」

 智樹は大きく首を傾げる。

「私の生き方に責任と覚悟を持って干渉して下さるのでしょう? 自分の発した言葉には最後まできちんと責任を取って頂きませんと」

「へっ?」

 呆気に取られる智樹の手を月乃は握った。

「だから貴方には、この鳳凰院月乃の夫になって欲しいと心から願う素晴らしい殿方になってもらいますわよ。それが貴方の言葉の責任ですわよ」

「はいぃいいいぃっ!?」

 智樹の絶叫が響き渡る。

 そんな智樹の狼狽ぶりを見ている4対の怒りの瞳があることを彼はまだ知らなかった。

「智ちゃん、どこまでハーレム要員増やせば気が済むのかしら?」

「…………マスター、見境なさ過ぎです。死のお仕置きが、必要ですね」

「智樹のヤツぅ、私というものがありながら他の女とフラグを立てるなんてぇっ!」

「桜井智樹っ、やっぱり大嫌いっ!」

 4人の少女が智樹に空中から襲い掛かるのはそれから約30秒後のことだった。

 

 

 

 桜井智樹は5人の少女たちの心の中に今でも生き続けている。

 

 

 了

 

 

 


 
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