始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。
なお、オリキャラ等の出演もあります。
そして、これは北郷一刀のハーレムルートではありません。
そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。
第14話 董卓軍の赤い悪魔! by左慈
「なあ、仲君(ちゅうくん)。この長安には足りない物が有ると思うんだ。なんだか分かるか?」
仲君(ちゅうくん)などと言うアダ名で呼ばれた司馬懿、仲達は指を顎に添えて考え始めた。
「なんすかね。資金は于吉先輩の案で集まってるし、兵士の調練も左慈先輩がやってるっす。協力者だって関中の殆どの権力者は一刀さんを英雄視してますし、ほぼ考えうるもの全てを手にしてると思うんすけど」
「駄目だな、仲君。全然駄目だ。はっきり言って情けない。于吉と肩を並べる俺の軍師がこの程度もわからないなんて」
俺は顔に手を当てて、大げさに落胆する。
仲達からすればその言葉は響いたらしい。拗ねたように顔を一刀からそらしている。
「ごめんなさい。わからないっす」
「いいか、仲君。この長安に足りない物。それは、美少女だよ」
「、、はい?」
「美少女だよ。いや、別に少女である必要は無いけどさ、美女でも美幼女でも良いんだ。ともかく、女の子が足りないと思わないか?」
「それはまあ、確かに」
一刀の言う通り、長安の要職に付く者は全て男性だ。
何故か女性が優秀なこの大陸では珍しいことだろう。
陳留で華琳達に囲まれて仕事をしていた一刀からすれば、その状況は耐えられなかった。
「だからさ、仲君。君の智謀で何処からか女を攫ってきてくれないか?出来れば童女がいいな」
「最低なことをいってるっす。一刀さん」
「おっと、この言い方は誤解を招くね。言い直す。長安の救世主の権力を笠に何処からか無理やり童女を後宮に入れられないかな?」
「最低なうえ最悪っす」
仕える相手を間違えたかな。などと呟き仲達は頭を抱える。
一刀は真剣な表情でため息をついた。
「あのな、結構マジな悩みなんだぜ?これ。やっぱさ、周りに女の子がいないのはまずいんだよ。前話から女の子が一人も出てきてないんぞ?この物語の存在意義を疑われちまうよ」
「なにいってるんすか?」
「それにさ、女の子がいないと俺は色々困るんだよ。左慈と于吉は良いのかも知んないけど」
余計に訳が分からなくなった仲達は首を傾げ唸る。
一刀は憐れみを誘う笑みで呟いた。
「俺、一人遊びが出来ないんだよ」
「ああ、それは切実っすね」
「左慈と于吉はお互いにアレをアレしあえば良いから、良いんだろうけどさ」
「、、、やっぱり、先輩達はそういう関係だったんだ」
仲達は長安内に流れる噂を思い出しながら引き攣った笑みを浮かべていた。
「はっくしゅん」
「どうしました左慈。風邪ですか?」
「俺様は風邪などひかん。大方、誰かが俺様の武勇伝でも語たっているんだろう」
一刀と仲達がそんな不穏な話をしている時、左慈と于吉は長安の外、洛陽への道が続く荒野に立っていた。
片や長安の大将軍。片や筆頭軍師。この二人が並んで長安の外に居るなど例外的なことであったが、それを行わなければならないほどの事態が起きていた。
「どう思う、于吉。これを発見したのは良いが、俺じゃどうなっているのか判断できん」
「そうですね。取りあえず、あまり幸先の良いものでないことは確かでしょう」
于吉達の目の前には三十人ほどの首が無くなった死体が転がっていた。
服装を見るに、殆どの者は兵士の様な鎧を纏い。二人、高位官史の着るような豪勢な服を纏っていた。
「見るに彼らは長安を目指していたようですね。しかし、なぜ殺されたのか?そして殺した者は誰なのか?そして、彼らは何のために長安へ向かっていたのか?三つの疑問が残ります。取りあえず、一刀君に報告を入れておきましょう」
「ああ、わかった。お前ら、後始末は頼んだぞ」
「はっ!」
左慈と于吉はその場から立ち去っていく。もし、彼らがもう少しこの場に残っていたのなら、この物語は別の方向に向かって動き出していたのかもしれない。
左慈達が去った荒野で兵士達は死体の片づけをしていた。
兵士達は二人がかりで死体を荷車に積んでいく。
「おい!しっかり持てよ」
「あ、悪い」
十人ほどの小規模な人数の中、次々に死体は運ばれていく。数十分も経たない内に死体の片づけが終わった。
「よし、じゃあ引き上げるか」
「あ、その、悪い。少し小便に行ってきてもいいか?」
一人の兵士のその言葉に、周りの兵士は笑いながら早く行って来いと手を払う。
一人の兵士もまた、笑いながら草むらへと駆けこんでいった。
そして、草むらから戻った兵士は同僚達に声をかける。返事がなかった。
近寄っていく。兵士は同僚達から返事がなかった理由を理解した。
さっきまで笑いあっていた、仲間達身体から首が消えていた。荷車に積んだ死体と同じように。
「おまえも、仲間か」
兵士は振り返る。そこには赤く染まった鬼が居た。
「おまえも、仲間か」
鬼は繰り返す。兵士は地面に落ちていた同僚の顔を見ながら、呟いた。
「ああ、」
そして、瞬間。兵士はその眼で首を落とされた自分の体を見ることになった。
「長安は張譲達の仲間、、、月に知らせなきゃ」
赤い鬼は触覚を揺らしながら洛陽への道を歩いて行った。
場所は変わり、過去の都、長安ではなく現在の都。洛陽。
一人の少女がその町を支配していた。
いや、言い方が悪かったかもしれない。
一人の少女がその町を救世していた。
「董卓よ。兄上はまだ見つからないのだな」
「はい。いま、呂布将軍が長安に逃げた十常時の残党を追っています。もう少しだけお時間を」
「ああ、わかった。董卓、頼んだぞ。もう、私には頼る相手がいないのだ。必ずや、兄上を救ってくれ」
「御意に。劉協様」
何進の死後、好き放題やっていた十常時を退け、洛陽を救った救世主の名前は董卓、字は仲頴といった。
洛陽の救世主である董卓は拝天の間を出る。廊下に出ると董卓は眼鏡をかけた、みつ編み少女に話しかけられる。
「月。今、恋が帰って来たわ」
董卓は無事に帰って来た恋に安心する。無事でよかったと。
「詠ちゃん。恋さんは劉弁様を見つけられたの?生き残こっていた十常時の人達は?」
詠と呼ばれた少女は静かに首を横に振る。
董卓はそっか、と落ち込みながら呟いた。
「生き残っていた十常時の王甫と侯覧は殺したらしいけど、張譲には逃げられたって。劉弁様も連れて行かれたみたい。それと、恋の話では長安も張譲の味方だって言うんだけど」
「長安が?でも、今あそこを治めている人って」
「ええ、天の御使いとか名乗ってる男よ。あの長安を立て直したらしいから、無能ってわけじゃないみたい。敵になると、厄介かも知れない」
董卓は少し俯く。天の御使い、その噂は聞いていた。
元は陳留の曹操の元に居た彼は、天下安寧を願って洛陽に来たと聞いていた。
そして、漢王朝安泰の為に嘗ての都、長安を再建した。それだけ聞けば、漢王朝に腐敗を招いた十常侍の味方になるなんて信じられなかった。
「詠ちゃん。その話、本当なの?」
「恋がそう言っていたんだから。あの子が私たちに嘘をつく筈ないことは、月も知っているでしょう?」
「、、うん」
「それに、あそこの街の再建だって相当お金がかかった筈よ。もしかしたら、十常侍から金品を受け取っていたのかも。それを資金に長安を再建したって考える方が普通よ」
董卓の顔は暗くなる。誰もが不要、不可能だと言って投げだした長安の再権。
それをやり遂げ、漢の初代皇帝劉邦への敬意を見せた天の御使いという男を心のどこかで、きっと、心優しい人なのだと信じたかったのかもしれない。
「月、、、」
「うん。わかっているよ、詠ちゃん。劉弁様がいる可能性が一番高いのは長安なんだよね」
再建されたばかりの長安。きっと今が一番民の笑顔が輝いている時だろう。
それを自分が壊すとなると心が引ける。しかし、董卓はやり遂げねばならなかった。
「各将軍さんと兵士さん達に連絡を。準備が整い次第、董卓軍は劉弁様救出の為、長安へと向かいます」
「御意」
儚げな印象ながらも、一本の筋が通る声で董卓はそう言った。
その頃。一刀達がいる長安には珍客が訪れていた。
「なあ、仲君。俺は女の子が欲しいって言ったんだぜ?なのになんで男の子を連れてくるんだよ。ここをゲイ王国にでもしたいのか!?恐ろしいぜ、流石は司馬氏。この世で最も邪悪な一族の末裔だ」
「そんなわけ無いじゃないすか。人を巨神兵みたいに言わないで欲しいっす。この子が川原で倒れているのを兵士が見つけたらしくて、連れて来たんすよ。見たところ、何処かの貴族の子どもみたいだし」
豪華な衣服を身にまとった少年を見る。
確かに、その通りだ。明かに身分が高いことを服が表していた。
しかし、その服も所々が破れ、乱暴を受けた跡があった。
「取りあえず。この子が目を覚ますのを待つしかないか。仲君、この子に部屋を用意してね。結構幼顔で中性的だから、ウチのさかった兵士共に掘られちゃうかも知れないし」
「わかってるっす。それと、犯人探しも並行して行うでいいんすよね?」
「正解。何処の誰かは知れないけど、男とはいえ子どもに乱暴するのは戴けないよ。ウチの法令で棒打ち一万回かな」
「それは普通死ぬよ。けど、一刀さんのそういうことろは嫌いじゃないっす」
「止めろよ。惚れるなよ。お前までゲイになったら俺は誰を信じればいいんだよ。一人ぼっちじゃないか」
一刀の中では何故か、左慈もゲイだと思われていた。
そんなやり取りをしていると、盧植が医師を連れて部屋へと入って来た。
「北郷殿。医者を連れて参った。、、、て、な!こ、このお方は!」
「うん?知り合いなのか、先生?孫の友達か何かか?」
盧植は汗をだらだらと掻きながら叫んだ。
「ほ、北郷殿。このお方は、劉弁陛下であらせられまするぞ!なぜ、このようなところに。しかも、お労しいお姿で」
盧植は膝をつくと、涙を流し始める。盧植のように漢への忠誠心が古株からすれば、あまりにも悲しい光景だった。
「劉弁。この子がね」
「一刀さん。知ってる?霊帝様が死んだ後の、王朝内での権力争いの噂。多分、この姿はその所為っすよ。劉弁陛下は権力争いに敗れたんじゃないすか」
「そうか。そう考えるのが妥当だね。となると、随分、重い珍客を拾ったものだ。どうしよう、、」
腕を組みながら考えていると、劉弁は魘されながら呟く。
「、、きょう、、、とう、、たく、、」
「犯人は、董卓か」
天の知識にある董卓の人物像。それを考えた一刀はそう言う判断にいたる。
「仲君。于吉と左慈を探してきて。先生は武官と文官に召集命令を。至急、軍議を開こう。ああ、後、今回の軍議は面白くない議題だから仮面はいらないから」
「わかったっす」
「うむ、御意に」
仲達と盧植は部屋を出て行った。
「董卓。来るって言うなら、叩き潰すよ」
傷つき眠る少年を見て、胸にそう誓う。
場所は長安の外れ、暗く湿った古民家の中に全ての元凶は笑っていた。
「くくく、万事、思い通りに進んでいるのだな?」
「はい。張譲様。劉弁陛下は思惑通り、北郷軍の兵士によって拾われたようです。洛陽では董卓が長安へと向かう為の準備も始めたようで」
張譲の思惑通り、全てのことが進んでいた。思わず零れる笑みを張譲は抑えない。
「そうか。これで、目障りな董卓と天の御使いとかいう男は潰し合うだろう。くくく、どちらが勝つことになろうと、潰し合い疲弊した奴らなど敵ではない。我が方の手勢で攻め立てれば積みよ。漢王朝は我がものとなるだろう」
「おめでとうございます。張譲様。、、しかし、同胞である王甫と侯覧の二人が倒れたことは計算外でしたね」
「む?何を言っておる」
顔を沈めて言う同胞に張譲は笑いながら言う。自分の策に計算外など存在しないと。
「あれはあれでよかったのだ。逃げて来た無抵抗な者を無残に殺させれば、北郷軍で董卓の非道性が際立つというものよ。それに、董卓軍からすれば、十常時の生き残りが長安に逃げ込んだことで北郷軍が疑わしくもなる。くくく」
自らの為なら同胞の死すら利用する張譲。隣に居た官史は思わず一歩、後ずさる。
湿った一室に張譲の笑い声がこだました。
心優しき少女と平凡な日常を愛する青年。
彼らはお互いを誤認して、男の思惑通りに相対そうとしていた。
誤解を解けるただ一人の少年は、まだ目を覚まさない。
青年達にとって初めて相対する悪人以外の人は、どうしようもなく優しい少女だった。
戦いの火種は、燃えあがろうとしていた。
漢王朝を揺るがす戦が起こることを、どの諸候も知りはしない、、、、
後書き
いつまでも、ふざけては居られない、、、、、
動き出す陰謀、消えていく希望、暗い、、、しかし、こういうのも書いていて楽しい。
そんなわけで、ようやく恋姫たちの登場です。敵ですけど、、、
そして、劉弁君と劉協ちゃんも登場です。一応、劉弁は男の子。劉協は女の子の設定です
消えた筈なのに存在する。ある意味、ホラー。
居るのに気づかれないのではなく、居ないのに気づかれないくらい地味に更新して行きます。
それでは、まあ、また次回。
ドロン
消えてたまるか
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いつまでもふざけて居られるほど、世界は優しくは無かった。