No.221146

真・恋姫†無双 外伝:こんな夏の日

一郎太さん

お久しぶりです。そして本編ではなくてごめんなさいorz
今回は右上を見て貰えればわかるとおり、
AC711様の作品にインスパイアされて稟ちゃんメインのSSを書かせて貰いました。

テラカワイソス(´;ω;`)ブワッ

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2011-06-06 18:51:32 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:11539   閲覧ユーザー数:7169

 

 

こんな夏の日

 

 

大学も夏季休講に入り、またアルバイトもなく私はひとり、部屋でくつろいでいた。いや、くつろぐという表現はあまりにもおかしい。アパートの庭に面したガラス戸から見える空は否応に高く、青く。灼熱の太陽が今日も暑いというよりもむしろ熱いと表現できそうなほどの日光を注ぎ、その下で、セミ達が飽きる事なく今日も鳴き続けていた。

 

「まったく…そんなにも交尾がしたいのですか、昆虫のくせに………」

 

そんな独り言を洩らしながら、ふと考えた。

セミという虫は何年もの間地中で過ごし、成虫すると1週間も経たないうちに死んでしまうらしい。人間と違い、ほとんどの生き物は己の遺伝子を残す為だけに生殖行為を行う。

また虫の中には、交尾を終えた雄が雌に栄養分として摂取されるものもあるとも聞いた事がある。

 

「人間のそれも、本来はそのような行為だったでしょうに…どうしてこう、欲の方へと向かってしまたのでしょうか………」

 

なかなかにやるせない。彼氏のいない私にとっては、そのような行為がどういう快感をもたらすのかを知るよしもないが、それでも法や人権を侵してまでその行為に走る男もいれば、あるいは快楽と金の為にそういった趣向の撮影に臨む女性もいる。………まぁ、私もたまに自分で――――――。

 

「まったく…世も末ですね………」

 

そんな溜息を吐きながら、ふと思考をとある人物の顔が浮かんだ。

 

「………一刀、さん」

 

そう、それは同じ大学の同じ学科の同じクラスの男の子。人のよさそうな顔をして友達と話をしている光景をよく見るが、どうしてあんなくだらない話に笑顔で対応できるのだろう。

そしてまた、私はとある記憶を呼び起こす。彼と1対1で話をした、たった一度だけの記憶。

 

 

 

 

 

 

それは大学に入学してふた月も経っていない頃の事だった。元来真面目過ぎる性格が故に、私はいまだ大学で友達を作る事が出来ないでいた。それほど大きくもない学科だから、いずれは仲良くなる機会もあるだろうと思ってはいたが、それでもクラスの女子とした会話は数度である。

 

「風たちはどうしているでしょうね………」

 

思い出すのは、3月まで共に過ごしてきた仲間たち。年上も年下もいたが、あれは楽しかった。その中でも、風という少女は私の親友だった。いつもボーっとしていて、掴みどころのない少女。皆で遊んでいる中、ふと静かになったと思っていたら眠っていたり、女の子どうしの会話でも一層際どい事を発したりする少女。

進学先が違う為にそう容易く会えるものではない事くらいはわかっているが、それでも私は少しばかり感傷的になっている。

少しだけダウナーになりながら、私は教室の扉を開いた。

 

「………あれ?」

 

思わず声が出た。いつも私は授業開始のちょうど5分前に教室を訪れる。中にはギリギリで到着する子や、授業が始まってから申し訳なさそうに入ってくる子もいたが、それでもいつもの時間には教室の半分くらいは埋まっていた筈だ。それが――――――

 

「………誰も、いない?」

 

もしかして今日は休講なのだろうか?でも先週の授業ではそんな事を言ってなかったし………。そんな風に自問自答していると、後ろから声が聞こえてきた。

 

「………あれ、誰もいないのか?」

 

その声に振り返れば、顔に見覚えはあるが、名前を憶えてはいない男の子が意外そうな顔をして立っていた。

 

 

 

 

 

 

「………おっかしいなぁ。前回そんな事言ってなかった気がするんだけど」

 

彼はそう言いながら、私の横に立って首を傾げていた。

 

「前回何か言ってたっけ?」

「………」

「………あのぉ?」

「………………………へっ?わ、私ですか!?」

 

2度問いかけられて、ようやく彼が私に話しかけているのだという事に気がついた。考えてみれば当然だ。今この教室にいるのは、私と名前も知らない同級生の2人。これがもし私でなければ、なんという恥晒し。

 

「――――――さん?」

「は、はひっ!?」

 

だが私の名を呼ぶ声に、ようやく先ほどの思考が杞憂だったと理解が追いつく。

 

「前回先生何か言ってた?」

「い、いえ……私も聞いてないと思います………」

「だよなぁ?」

 

彼はガシガシと頭を掻きながら近くの長机の端に鞄を置くと、どかっと座り込んだ。

 

「なんだよ…休講なら休講ってちゃんと言ってくれればいいのに………これなら走って来るんじゃなかった………」

 

その言葉を聞いて、私はようやく彼をまっすぐに見る事ができた。額には汗が浮き、黒い無地の長袖も胸元が汗ばんでいる。

 

「(………なんか、色っぽいですね)」

 

一瞬理解が追いつかなかった。私は今何を考えた?彼が…色っぽい………?

 

私の出身校は女子高で、これまで男子と触れ合う事はほとんどなかった。別の高校に進学した友達からは部活の誰彼君がかっこいいとか、隣のクラスの何某君が可愛いとか言っていたが、私にはまったく別の世界の出来事だと思っていた。そして数年ぶりに男の子と同じ学校に通うようになり、何度か(いや、何度と言える程あったのかすら思い出せないが)話す機会はあった。それでも、まったく興味がわかなかった。

 

それなのに………それなのに、私はいま、彼の身体から目が離せないでいる。わずかに茶色がかった前髪は、汗の水分で幾筋かにまとまり、それがまた彼の爽やかさを惹き立てている。

彼が鞄から出したノートで胸元を扇ぐと、彼の匂いが届いてくるようだった。汗臭いという表現はよく聞くが、彼の汗の香りをそのように貶める表現と結び付けることができない。

彼は私を気にすることもなく胸元を扇ぐ手を止め、今度はTシャツの下から風を送っている。もちろん彼より背の低い私からは、たとえ座っていようともその中がわずかに見え、またその逞しく割れている腹筋も目に入る。

 

細身なように見えて、意外と筋肉はついているようですね。見れば、袖を撒くっている腕も、ガッチリとしていて、彼の努力が窺える。あぁ…その逞しい腕で私を掻き抱き、そして―――っと、こんな想像をしてしまっては失礼です。でも…少しだけなら………。

 

「あぢいぃ………」

 

そう漏らして、彼は机に突っ伏す。

暑いときは、逆に汗をかくのもひとつの手かも知れません。なんなら、これから私と貴方で………って、こんな想像をしては………でもでも、彼の身体をもっと見ていたかった。逞しい腕、見事に割れた腹筋、その厚すぎず薄すぎない胸板に私を抱き寄せて、そして、そして………―――。

 

「――――――ぷっはぁぁあああぁぁああっっ!」

「うおおおおおおおおおぃいいぃぃいいっ!?」

 

私の意識は、そこで一旦途切れた。

 

 

 

 

 

 

………あれ、なんだか心地よい。視界は真っ暗なのに、何処からか、緩やかな風が流れてきているのを顔に感じる。ゆっくりと目を開けば、視界の中には何処かで見たノートが揺れ動いていた。

少しずつ意識を覚醒していく。視界の中では相変わらずノートが私に風を送り、身体は水平ではない。頭の部分だけが少し高い位置にあるようだ。……あた、ま?

 

「―――お、気がついたか?」

「へっ?」

 

頭上からかかる声。しっかり考えなさい、稟。今がどういう状況なのか。まず、視界の中には相変わらず揺れるノート。無機物が勝手に動くわけがない。その動作主がいるはずだ。少しずつ視界を動かしていき、ノートを掴む手、そこから伸びる、何処かで見た逞しい腕、そして首をゆっくりと逸らせば――――――。

 

「落ち着いたか?」

「………な、な、ななななななぁぁあ!?」

「ほら、まだ動いたら駄目だよ。しばらくそうしてな」

「………………」

 

彼がゆっくりと頭を撫でる。どうしよう、何故かわからないけど、凄く安心する。どうやら、私は思っていたよりも寂しがり屋だったらしい。一人暮らしを始めてからまだひと月半なのに、こんなにも人肌が恋しくなっていたのだから。あるいは、まだ友達の出来ない状況がそうさせるのだろうか。

 

………そんな事はどうでもいいか。

 

私は彼の言葉通り、しばらくの間瞼を閉じ、彼の優しい手に身を委ねるのだった。

 

 

 

 

 

 

「先ほどは…どうもお見苦しいところを………」

「いいよ、気にしないで」

 

10分ぐらい彼の膝枕を借りて、私はようやく起き上がった。

いまは長机の間の通路を挟んで、彼の反対側の席についている。

 

「それにしても、凄い量だったぞ。言いづらいことなら別に言わなくていいけど、持病とかあるのか?」

「いえ、そういう訳では………」

 

いや、持病のようなものだ。中学生の多感な頃は、よくあのような妄想をして鼻血を噴出しては、風に看病されていた事を思い出す。高校に入ってから男子との関わりもなくなってその兆候は身を潜めてはいたが、今日、とうとう再発してしまったらしい。

 

「そっか、ならいいんだけど………」

 

彼は困ったように笑う。その笑顔がまた優しげで、私は顔を赤くして俯いてしまうのだった。

 

 

しばらくの沈黙ののち、彼が思い出したように口を開く。

 

「そうそう、授業だけど、やっぱり休講だって」

「………誰か来たのですか?」

「いや、及川にメールしたら、何でもメールリストで昨日の晩に回ってきたとか」

 

及川……そんな名前のクラスメイトはいただろうか。

 

「俺なんか、どうせ滅多に使わないだろうってパソコンのアドレスにしてたからなぁ。昨日はメールも開かなかったし、知らなかったよ」

 

彼の言葉に、入学当初のことを思い出す。確かに、全体に連絡が必要な場合もあるから、メールリストなるものにアドレスを登録するように言われていた。私も彼とどうように、パソコンのメールアドレスを使っていたから、知らなかったようだ。

そんな思考を止めたのは、彼からの意外な言葉だった。

 

「という訳で、2限は休みだ。さて、どうする?」

「………へっ?」

 

どうする?って、何を?

 

「いや、2限はないけど、3限はあるだろう?よかったら昼飯でも食べに行かないか?今なら授業中だし、そう混んでもいないだろうさ」

「………………」

 

ようやく理解できた。彼は私を昼食に誘ってくれているのだ。確かに3限も1年生の必修科目だし、それなら昼食も必要になる。だけど――――――。

 

「………って、なんで泣いてるんだ!?俺、なんか拙い事言ったか!?」

「いえ…いえ、そうではないんです………」

 

大学に来て初めてだった。誰かと一緒に行動を共にするのは。いつも教室の1番前の席に座り、授業が終われば次の教室にさっさと移動する私は、昼食もいつも一人だった。そんな私を、彼は、誘ってくれている。

やはり私は、自分が思っていたよりも寂しがり屋らしい。そんな優しさに、すっかりやられてしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

あの後一緒に空いている学食へと移動し、共に昼食を食べる。誰かと一緒にする食事が、あれほど美味しいとは思ってなかった。

昼食の席では私の事情を察してか、彼が積極的に話しかけてくれた。大学の講義の話、来年の受講コースの話。サークルには入っていないようだ。途中連絡先の交換を申し出られたが、正直に言おう。助かった。何故なら、自分の携帯のディスプレイに表示された名前を見るまでは、彼の名前を思い出せていなかったのだから。

 

「―――俺も下の名前で呼んでいいか?」

「へ?」

「いや、大学だと男女関係なく下の名前で呼び合っているのが多いじゃん?だから、俺達もこれから友達だ、って事で」

 

そんな提案も、いまとなっては懐かしい。確かに周囲の会話を聞くと、性別に関係なくしたの名前で呼び合っていた。私がクラスに溶け込めるように気を遣ってくれているのだろうと理解し、恥ずかしくもあったが、私は勇気を出してその申し出を受諾した。

 

………結局私は、一刀『さん』としか呼べなかったが。

 

 

「………たまにはメールでもしてみましょうか」

 

そんな事を考えながら、私は冷蔵庫からスイカバーを取り出して封を開ける。赤と緑の三角形はそれだけで身体に悪そうだが、好きなのだから仕方がない。

アイスを齧りながら携帯を開くと、付けっぱなしにしていたパソコンから音声が流れた。

 

『メールですよー』

 

以前ダウンロードした、海原ナントカの着信ボイスだ。風の声に似ていたから使っているが、いつ聞いても気が抜ける。

私はアイスを左手に持ち替えて右手でマウスを操作し、メールソフトを起動した。

 

「………真桜ですか。久しぶりですね」

 

差出人は、高校の後輩の真桜だった。どういったいきさつで仲良くなったかは最早定かではないが、彼女もまた、私の仲間の一人。関西弁で話す彼女は、口調から想像できるようによくボケをかます。それを同級生の凪にツッコマれていた光景は、一番目にしたお馴染みの光景かもしれない。もう一人、同学年の沙和と合わせて、三羽烏なんてあだ名も付けたものだ。

カチカチっという音と共に真桜からのメールが開かれた。

 

『こないだ海に行った時の写真できだで~』

「相変わらずメールでもその口調なのですね。海ですか………凪と沙和と遊びに行ったのでしょうか?」

 

タイトルからわかる通り、1つの画像ファイルが添付されている。そのアイコンにカーソルを合わせ、ファイルを開いた――――――。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

なんだ、これは………。

 

私は一度☓ボタンをクリックしてウィンドウを閉じると、再度ファイルを起動する。

 

「………なんですか、これは?」

 

はたしてそこに写っていたのは、先の三羽烏ではなかった。………いや、三羽烏も勿論いるのだが、それ以外によく見知った顔ぶれがある。

 

「ちょ……」

 

高校時代、生徒会長だった華琳様。『様』と敬称をつけているのは、単に憧れだ。水色のセパレートの水着を身に纏い、写真の右でカメラを振り返っている。

 

「え…」

 

副会長の春蘭様と秋蘭様。『様』とついているのは、春蘭様のワガママが故だ。秋蘭様は赤のビキニを身に着け、中央やや左でこちらを見て微笑んでいる。いや、手前の少女を見ているのか?春蘭様は対照的に青いビキニで、沖の方でサメを蹴りあげていた。相変わらず規格外な方だ。

 

「なんで………」

 

波打ち際では、ツーピースのフルバッグを着た凪が春蘭に憧れの眼差しを送り、秋蘭の左には、よくテストで競った桂花が花柄のワンピースでポーズをとっていた。

さらにその隣では黒のビキニのワイドストラップでカメラに手を振っている。

 

「いやいやいや………」

 

画面手前では季衣と流琉がブイサインをしている。季衣は相変わらずスクール水着のようだが、流琉は少し色気づいたのか、同じワンピース型でも、色合いが明るい物を着ていた。

 

「待ちなさいよ………」

 

そして沙和の足元には風が埋まっている。その頭には、私の部屋にある掛け時計と同じキャラの人形を乗せていた。

真桜がいないのは、おそらく写真を撮っているからだろう。

 

要するに、だ。これは私の高校時代の仲間たち。みな海を満喫している。だが待て。なぜ、私がそこにいない?皆が夏休みなのは分かる。そして私ももちろん夏休みだ。

 

「え…呼ばれて……ない?」

 

そんな筈は………。いや、でもこの写真が確かな証拠。そう、きっと何か私を呼べない理由があったのだ。きっとそうだ。例えば、春蘭様が突発的に海に行きたいと言い出して、地元の大学に進学した彼女と秋蘭様、そして華琳様はすぐに集まれるだろう。風や桂花も同様だ。また、まだ高校生の三羽烏も来れるだろうし、季衣や流琉などは、いつだって元気に遊びまわっている。呼んだらすぐ来るだろう。だが私は?希望する学部が地元大学にはなかったため、こうして東京くんだりまで出てきて独り暮らしをしている。つまりは、そういう事だ―――。

 

「………ふ、ふふふ、ふふふふふふ………………………くそがぁぁぁあああああああああっ!!!」

 

私は溶けかけのスイカバーを噛み千切ると、携帯電話を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

さて、いまは夏真っ盛りであり、大学生の俺もまた、夏休み真っ最中だ。バイトも今日と明日は休みであり、これまで5日間毎日17時間勤務をしていた俺はこれ見よがしにだらけていた。

 

と、ベッドでゴロゴロしていた俺の耳に、枕元に置いた携帯から鳴る着信音が響く。この音は大学の知り合いだ。及川あたりだろうか。

俺は発信者を確認する事もなく、携帯を開き、耳に当てた。

 

「はい、もしも―――」

『私です、一刀さん!』

「へ?あ、あぁ、稟か。どうし―――」

『今晩お暇ですか!?』

「あぁ、暇だけ―――」

『ではこれから30分以内に駅前に集合です。来なかったり遅刻したりしたら、明日の朝刊に孤独な女子大生が線路に飛び込んだという記事が掲載される事になるので、覚悟していてくださいっ!』

「え、何言って―――」

『では!』

 

その言葉を最後に、携帯からは無機質な断続音が流れ出す。

 

「………何だったんだ?」

 

電話の相手は、同じクラスの稟だった。5月にちょっとした事件があって仲良くなったのだが、こんなキャラだったっけ………?

 

「………とりあえず、準備するか」

 

だが、相当に切羽詰まっているらしい。あの稟があれほどまでに一方的とはな。

俺は携帯を閉じて立ち上がると、タンスを開いて着替えを取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

「どうやら間に合ったらしいな………」

 

携帯で時間確認すると、先の着信時間から数えて23分。俺は一人の孤独な少女の命を救う事が出来たらしい。そこそこの広さの駅前広場で稟の姿を探していると、後ろから声をかけられた。

 

「………こちらです」

「おぉ、り―――」

 

声の主はわかっている。振り返り、その名を呼ぼうとして、俺は凍りついた。

 

「………何かあったのか?」

 

そこにいたのは、柿色のホルタ―ネックのキャミソールに、オリーブグリーンの膝丈のパンツを履いている。学校ではシャツ姿をよく見ていたが、こういう恰好もするんだな。いや、違くて。

俺が驚いたのは、いつも見ている服装と違ったからではない。彼女の眼は兎もかくやという程に赤くなり、つい先ほどまで泣いていた事が容易に窺える。

 

「………一刀、さん」

「どうしたんだ?」

「一刀、さん………」

「あぁ…何があったんだ?」

「…ぅ、ぅぅ………うわぁあぁああああああぁぁあんんん!!」

「えぇっ!?ちょ、まっ、えぇえええぇえええええっっ!?」

 

そして人目も憚らずに泣き出し、俺に抱き着いてくる彼女に、今度こそ俺は凍りついてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

「―――という訳なんです………ぅ、ぶぇぇえええぇぇええん!」

「………なんというか、難儀だな」

 

話を聞いて、俺も泣きたくなった。なんて不憫な娘なんだ。5月の事件以来、大学では少しずつ友達も増えてきてはいたが、それでも俺が僅かばかり知る彼女の性格を考えると、可哀相すぎる。

 

さて、どうやって慰めようか。そんな事を考えていると、稟はガバッと顔を起こし、右手に持ったビールのジョッキを傾ける。すでに5杯目だ。大丈夫か?

 

「ぷはぁああっ!………それでですね、一刀さん!」

「はいっ!」

 

据わった眼光に、俺は思わず敬語になる。

 

「私もこのままではいかんと思ったのですよ!」

「は、はい、そうでありますか………」

「何とかあの連中に意趣返ししてやりたい、そう思っているのです!」

「はい!」

「で、思いついたのが………」

「思いついたのが………?」

 

彼女は据わったままの目で俺をじっと睨みつける。

 

「お待たせしましたー。生中でーす」

「はいっ!私ですっ!!」

「はいどうぞー」

 

店員に中断されてほっと息を吐く間もなく、稟はジョッキを受け取ると再び俺を睨みつけた。

 

「それはですねー………」

「そ、それは………?」

 

稟は来たばかりのジョッキを傾けて、その中身を半分ほど減らすと、やおら立ち上がり、宣言した。

 

「私は……私は彼氏を作る事にしたのですっ!」

「……いいんじゃないでしょうか」

 

なんと言うか………よく聞く答えだった。まぁ、それもまた手か。そんな風に思っていると、今度こそ予想外の言葉が飛び出てきた。

 

「あ!いま肯定しましたね!?という訳で、一刀さん!貴方はこれから私の彼氏ですっ!!」

「いいのではないでしょう…か………って、はぁぁぁああああああっ!!?」

「いま肯定しましたね?しましたよね!?では、今日から私達は恋人どうしです!という訳で、これからよろしくお願いします!!」

 

どうしよう?どうすればいい!?………………と、こんな時にやる事は一つしかない。とりあえず――――――

 

「という訳で、次回に続きます!というか続かせますっ!!」

「………好きにしてくれ」

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

はい、だんだんと面倒臭くなったので、ここらで一旦続きます。

前書きにも書きましたが、AC711様のイラストに感銘を受けて、今回の小説を思いつきました。

2時間弱で書いた俺を褒めて欲しい。

 

稟ちゃんが可哀相という相談は受け付けませんので、悪しからず。

 

明日の夜、また時間がとれれば続きを書きます。

一郎太も大学の課題が今週はてんこもりなので、もしかしたら遅れるかもしれませんが、お許しを。

本編は少しずつ書いているので、待っていておくれ。

 

それではまた次回。

 

 

バイバイ。

 

 

 


 
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