ユラリと揺れる、幾つもの旗
その中の一つ・・・“蒼炎の馬旗”のもと
一人の男が、ニヤリと不気味な笑みを浮かべていた
「あぁ・・・懐かしい
心地の良い、戦場の匂いだ」
呟き、男は“クッ”と笑った
それに伴い、隣にいた一人の兵が頭を下げる
「“馬遵様”
こちらの準備は、全て出来ております」
「うむ・・・」
兵の言葉
馬遵は不気味な笑みを浮かべたまま、持っていた巨大な“槍”を肩に担いだ
そして、見つめたのは・・・“天水”
城門を固く閉ざし、城壁の上に多くの兵を配置している天水の城だった
「おぉ・・・流石は姜維
見事な対応だ」
言いながら、彼はスッと片手をあげる
それを見て、多くの兵が己の武具を構えた
その様子を見つめ、満足げに頷いた後・・・男は言った
“戦いの始まり”
それを告げる“合図”を・・・
「さぁ、消し去るぞ・・・全てを、な」
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第一章 十三話【幸せの終わり】
「“くる”・・・」
それは、あまりに突然だった
その場にいる皆が、今まさに眠ろうとした直後のこと
いきなり、そのような声が響き渡ったのだ
そしてその声の主・・・一刀はバッと体を起こし、窓の向こうを眺めていた
「む・・・?」
「ふぁ・・・どうしたのじゃ、一刀」
そんな彼の様子に真っ先に気づいたのは、祭と夕だった
2人はゆっくりと立ち上がり、彼が見つめるのと同じ方向
窓の向こうに広がる空を見つめた
「なんだ・・・雨が降りそうだな」
夕の言うとおり
空は先ほどまでとは打って変わって、今にも雨が降り出しそうな色だ
「なんじゃ、“くる”とは雨のことか?」
苦笑しながら、祭は一刀に向け言った
だがしかし、その言葉に一刀は首を横に振る
「違う・・・」
呟き、尚も見つめる空
未だに雨が降らないのが不思議なほどの空を見つめたまま、彼は静かに口を開いた
「俺、知ってる
この、“感じ”」
「一刀・・・?」
「これは・・・“俺”?」
小さく呟き、瞳を閉じる一刀
そんな彼の様子を、夕と祭は不思議そうに見つめていた
そんな時だった・・・
「おい、皆!!
まだここにいるかっ!!?」
“バン!”と音をたてて、いきなり家のドアが勢いよく開いたのだ
三人はその突然の出来事に、視線を素早く扉の方へと向けた
そこにいたのは赤い髪を揺らし、汗だくのまま立っている華佗だった
「華佗じゃないか・・・いきなり、どうしたんだ?」
「はぁ、はぁ・・・なるほど
その様子では、まだ何も知らないようだな」
夕の言葉
華佗は乱れた息を整えながら言う
その言葉に、祭は眉を顰めていた
「何も知らない、じゃと?」
「ああ・・・まぁ、俺もたった今知ったばかりだからな
それにこの家は街の中心からは少し距離があるから、知らないのは仕方のないことだ」
「何か、あったのか?」
「ああ・・・」
夕の問いに、華佗は真剣な面持ちで答える
そして、彼の口から発せられた言葉
それは・・・二人の表情を一変させるには、十分すぎるものだった
「五胡が・・・五胡の大軍団が、攻めてきたんだ!!!!」
「「っ!!!!???」」
“衝撃”
まさに、その一言が当てはまる
事実二人は、その一言に完全に言葉を失っていた
そんな中・・・
「そ、その話は本当かえ?」
唯一人・・・いつの間にか目を覚ましていた美羽だけは、その衝撃的な言葉に反応していたのだ
「美羽・・・」
「今の話は、本当のことなのかえ!?」
美羽の言葉
華佗は静かに、首を縦に振った
「ああ、本当だ
姜維殿は今民を逃がす為の時間を稼ぐため、五胡の兵と戦う準備をしているところだ
俺は姜維殿から、君たちにこのことを知らせ早く非難するよう・・・」
「白蘭っ!!!」
「な、おい美羽!!!??」
突如、走り出した美羽
彼女は華佗の制止を聞くことなく、慌ただしく家を飛び出していったのだ
「あ奴っ!」
「祭、先に行け!
おい、起きろ七乃!」
そこで、ようやく二人は我にかえる
2人は慌てて、それぞれ行動を開始した
祭は急ぎ美羽を追い、夕は未だ眠る七乃をおこしていた
「・・・」
そんな中、ただ一人
一刀だけは、場違いなほどに落ち着いていた
「行か・・・なくちゃ」
ポツリと、零れでた言葉
それは・・・まだ、ここに来た当初のこと
無意識のうち、何度も繰り返していた言葉だった
「行かなくちゃ・・・俺を呼ぶ、この“声”のところに」
ーーーー†ーーーー
「はぁ・・・はぁっ」
美羽は今、走っていた
慌ただしい街中を抜け、ただ必死に走っていた
「白蘭・・・っ!」
呟き、見据えた先
一頭の馬に跨り、周りにいる兵たちに指示を出す姜維の姿が見えた
彼女はその姿を確認すると、その足をさらに速める
「白蘭っ!!!!」
「っ・・・美羽ちゃん!?」
美羽の声
それに、姜維は驚きの声をあげる
それから彼女は、慌てて彼女の傍まで駆け寄った
「どうしてここに!?
このままだと、巻き込まれてしまいますよ!?
早く避難してください!」
「嫌なのじゃ!!」
「美羽ちゃん・・・!」
姜維の言葉に、美羽は大声で反対する
その目に、いっぱいの涙を溜めながら・・・
「白蘭は、妾の大切な友達なのじゃ!
白蘭も一緒じゃなきゃ、嫌なのじゃ!!」
その涙は、やがて大きな粒となり・・・美羽の瞳から零れた
「美羽ちゃん・・・残念ですが、それは出来ないんです」
「何故・・・」
「私は、この街の太守だから」
“それに・・・”
「私には、どうしても引けない理由があるんです」
「白蘭・・・」
言って、姜維は腰に差した剣にソッと触れる
それから、まっすぐと前を見据え・・・フッと息を吐きだした
「早く・・・逃げてください
貴女がいても、邪魔なだけなんです」
「白蘭っ!!」
美羽の叫び
それも聞かず、姜維は馬を走らせる
その後ろを、幾人もの兵がついていった
「白蘭ーーーーー!!!!」
涙を流しなら、彼女は叫んだ
しかし、その叫びは届かない
「う・・・うぁ・・・びゃく、らん・・・」
美羽はその場に膝をつき、そのまま大声をあげ泣いた
その声は、風にのり・・・
「さようなら・・・美羽ちゃん」
彼女の耳に、確かに届いていった・・・
ーーーー†ーーーー
「皆さん、準備はよろしいですか」
「「「はっ!!」」」
天水の城門前
整列した兵たちを前に、姜維の声が響き渡る
その声に、兵たちは皆大きく声をあげた
「これより、ここ天水に向け五胡の軍勢が攻めてきます!
私たちはこれを迎え撃ち、民たちが逃げるまでの時間を稼ぎます!」
「「「はっ!!」」」
「厳しい戦いになるでしょう!
魏からの援軍も、恐らくは間に合いません!!
ですが、それでも私たちは戦わなくてはいけない・・・大切な人や、家族を守る為に!!
その為に、どうか・・・どうか、皆さんの力を貸してください!!」
姜維がそう言うのと同時に、多くの兵が己の武器を掲げその声に応えた
その光景に、彼女は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべた後・・・すぐに、キッと真剣な表情を浮かべた
そして、腰に差してあった剣を引き抜き叫んだ
「さぁ、始めましょう!!!!
大切な人たちを守るための戦いを!!!!」
その声と同時に、一斉に戦闘態勢に入る兵士
そんな中、彼女は小さく呟く
「無事に、逃げてくださいね・・・美羽ちゃん」
その呟きは、あまりに小さく
誰に聞かれることもなく、ただ風に流されていったのだった・・・
ーーーー†ーーーー
「ククク・・・あぁ、いよいよ始まるのですね」
高い、丘の上
天水の街を眺めながら、彼女は小さく呟く
「長い長い年月を越え・・・ついに、始まるのですね
フフ、ゾクゾクしてきます」
呟き、見つめた先
慌ただしい天水の街
その城壁に立つ、一人の少女の姿があった
天水太守、姜維の姿が・・・
「あぁ・・・なんて、哀しいのでしょうか
死に別れた父と、このような形で再び出会うなど」
“そして・・・”
「なんて、“愉快”なのでしょうか
ああ、私は今・・・とても、“楽しい”」
そう言って、彼女は“ゲラゲラ”と嗤う
濁った両目は、すでに姜維のことを見てはいない
変わりに映っているのは、天水のすぐ傍
多くの民に紛れ歩く“五人”
その中の、一人の“青年”の姿だった
「さぁ、舞台は整いましたよ」
瞳に映ったその青年の姿
彼女は不気味な笑みを浮かべたまま呟く
「“恐怖劇≪グランギニョル≫”の幕はあがりました
さぁ、どうかお楽しみください・・・“一刀殿”」
彼女が言うのと同時に、響く“怒号”
戦いの幕はあがったのだ
多くの命が消えるであろう・・・凄惨な戦いの幕が
★あとがき★
皆さん、こんにちわw
月千一夜です
十三話、公開
いよいよ、次回から戦いに突入
しょぼくならないよう、頑張りますw
さて・・・一章も、大きな山場を迎えました
四人の今後、魔王のこれから
そして、一刀はどうなるのか
気になることはたくさんあるでしょうが、慌てずゆっくりと書いていきますので
気長にお待ちいただければ嬉しいですw
それでは、またお会いしましょう♪
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掛け替えのない、大切な毎日の終わり
幸せの、終わり
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