桔梗√ 全てを射抜く者達 第3射
視点: 焔耶
全く変な戦だった。賊は町から物資を奪う為に町に侵攻。私達が背後から叩く予定だったのだが、賊は町から逃げるようにしてこちらに向かって突撃してきたので、真正面からやり合った。
桔梗様は賊に負けて、町は略奪されたのか?それにしては時間が短すぎるし、桔梗様が負けるはずがない。
賊は私達に戦いを挑んで来たようには見えなかった。まるで何かから逃げるような形相をしていた。
そのため、私は戦いながら、気持ち悪い違和感を覚えた。賊は何に怯えていた?
桔梗様の軍に恐れをなしたのか?これまでに無い反応だ。こいつらは単なる腰抜けか?それなら納得だ。
桔梗様の軍が賊を背後から攻めたおかげで賊は簡単に壊滅出来た。
賊は戦意損失していたため、こちらの死傷者は百人程度と被害は少なかった。
賊の死体を町の外で火葬し、町の中で戦死者の供養の準備をしている桔梗様の所へと向かった。
町へ向かう途中にある兵から桔梗様が負傷したということを私は聞いた。
左肩に矢が刺さったらしいが、治療はもうすでに済ませたらしい。
それから、もう1つ変な情報を聞いた。何でも奇妙な長細く真っ黒の豪天砲を持った変わった姿の男を桔梗様は配下に加えたらしい。賊が町の襲撃を止めた原因もその男と奇妙な豪天砲のせいらしい。
私はその男と闘ってみたくなったので、足早に町へと向かった。
桔梗様は軍の戦死者を広場に並べさせ、麻の布を掛けている。
もう少ししたら、軍の戦死者の供養と火葬が行われるようだ。
「桔梗様!矢を受けたと聞きましたが何とも無いのですか?」
「ああ、もう大丈夫じゃ。」
桔梗様はそう言って笑いながら左腕をグルグルと回す。
だが、腕に巻かれた白い包帯は段々赤くなってきた。それを見た私の知らない男は慌てて桔梗様を静止しようとする。桔梗様はその男に言われて腕を回すのを止める。その男の年は私と同じぐらいに見える。
変な格好をしているが、桔梗様の身を案じている事からどうやら悪人の類では無いらしい。
「桔梗様。その男は?」
「おぉ!そうじゃったな。紹介が遅れたな、焔耶。コイツの名は北郷一刀。
儂の命を救った命の恩人じゃ。そして、今日から儂の臣下になる。焔耶も名乗れ。」
「私の名は魏延だ。北郷、桔梗様の命を救ってくれたこと礼を言う。」
「た…たまたま、偶然賊に殺されそうになっていた厳顔さんを見かけたから助けただけですよ。
魏延さん、厳顔さん。命の恩人なんて大それたものじゃないですって!」
北郷は顔を真っ赤にして私と桔梗様を交互に見る。
何故か北郷は私とは目を合わせるが、桔梗様には目を合わせようとしない。変な奴だ。
「ところで、お二人は何やらお互いを違う名で呼び合っていますが、それは何ですか?」
「北郷は真名を知らないのか?」
「はい。真名って何ですか?」
「真名はその人の真なる名のことを言い、神聖なものだ。家族や仲の良い者しか呼んではならない。
知っていても本人から真名を許されていない限り、軽々しく呼んでは駄目な名だ。覚えておけ。」
「分かりました。ありがとうございます。
真名ですか、信頼の証みたいなものなんですね。なんか良いですね。」
私は北郷に真名について教える。北郷は楽しそうだ。
「ふむ。今の反応を見る限り、北郷の言っている事は嘘では無さそうだな。
焔耶。管路の占いを知っておるか?」
「あの自称大陸一の占い師、管路ですか?」
「おう。あの管路じゃ。
『流星が黒天を切り裂く時 、天より御使いが舞い降りる、天の弓を以って世に太平をもたらすだろう』
というアレじゃ。」
「では、北郷は天の御遣いなのですか?」
「管路はコイツを指して言っておるつもりなのか分からんが、儂には北郷の反応から北郷が嘘をついておる用には思えん。じゃから、儂は北郷が天の御遣いかもしれないと思うのじゃが、焔耶はどう思う?」
「確かに……。真名を知らぬということは少なくともこの大陸の者ではないと思われます。
それに恰好からして五胡の者とも思えません。管路の言う天の御遣いであってもおかしくは無いかと…。」
「決めたぞ!焔耶!儂は北郷に真名を許す!」
「本当ですか?」
「北郷!儂の真名は桔梗じゃ!以後儂を桔梗と呼べ。
それから、先ほどはすまなかった。お前を踏んづけたり、剣を向けたり、脅したりして。
儂を利用する者か、儂を監視しに来たどこぞの間諜かと思っておったのじゃ。
北郷を臣下にすると言ったのもこちらから北郷を監視するつもりじゃった。本当にすまなかった。」
そう言って、桔梗様は北郷に真名を許し、頭を下げた。北郷は慌てる。
「謝らないでください。初対面で草被ってたら胡散臭さ全開の俺を疑うのは当然ですよ。
ってか、疑わない方が神経どうかしていますよ。厳顔様の言っている事はおかしくありませんよ。」
「儂を許してくれるのか?」
「はい!だから気にしないでください。厳顔様」
「じゃから、真名で呼んでくれと言っておる。」
「はい!桔梗様//////」
桔梗様は真名で呼ばれなかったので、北郷に詰め寄り、顔を北郷の顔に寄せる。
北郷は驚いたのか、顔をまた赤くし、後ろに後退する。顔はまるで熱した鉄のようだ。
「北郷。私にとって桔梗様は自分の親も同然だ。助けてくれたことに本当に感謝している。
私の真名は焔耶だ。どうか受け取ってくれ。」
「分かったよ。焔耶さん」
「さん付けは止めろ。お前とは年が近いようだし、そんな奴からさん付けされても気持ちが悪い。
だから、敬語も不要だ。」
「分かったよ。焔耶。俺には真名が無いが、俺にとってそれに相当するのが『一刀』だ。
俺のことは『一刀』って呼んでくれ。焔耶。桔梗様も『一刀』と呼んで下さっていいですよ。」
一刀は開いた右手を差し出してくる。
「握手だ。俺の国では信頼や友好を意味する儀式みたいなものだ。
同じように焔耶も右手を出して、俺の手を握ってくれればいい。」
「ああ。」
私は一刀の右手を握った。思ったより筋肉質で皮が厚い感じがした。
一刀も私の手を握り返してきて、軽く上下に手を振る。
私は先ほどの闘ってみたいという欲求から一刀の手を思いっきり握ってみた。
「痛い痛い痛い痛い!ギブギブギブ!それは勘弁してくれ。強すぎだ!焔耶!」
一刀は体をくの字に曲げ、叫び、私の右腕を左手でペチペチと叩いてきた。
一刀はかなり痛がっている。思ったより力の無い奴だった。一刀が本当に桔梗様の命を救ったのか?
だが、桔梗様は自分の目で確かめない限り断定されない方だ。だから、嘘では無いのだろうな。
「北郷よ。儂には握手してくれんのか?」
「ひゃい!」
桔梗様も一刀に習って右手を差し出し、一刀に握手を求める。
一刀は桔梗様にいきなり声を掛けられた為か、声が裏返り、顔が赤い。何故一刀は何度も顔が赤くなるんだ?
一刀はプルプル右手を震わせながら、ゆっくりと手を出したかと思うと、急に桔梗様の手を握った。
時が止まったように一刀は停止する。そして、繋がった2人の腕はゆっくりと上下する。再び止まる。
「北郷よ。握手とはこういうものなのか?」
「は、はい。大丈夫です//////」
「ふむ。戦死者の供養の準備も終えたようじゃし、戦死者へ黙祷し、火葬したら、城へ戻るぞ。」
「「はい。」」
私達はその後死者のために線香を焚き、黙祷をささげる。
兵士の中には黙祷を捧げながら、泣いている者が多く見受けられた。軍の中には友人の関係を越え家族当然の関係の者も多い。袖で涙を拭いたり、鼻水をすすったりしている者様々だ。私も隊の中にも当然戦死者が居たから、悲しくないわけがなかった。
黙祷が終わったので、火葬する。火は黒い煙を上げ、天へと登って行った。
火葬も終わったので、城へと帰る。桔梗様と私は馬に乗る。
一刀は何やら2つ荷物を背負っている。1つは紐を両腕に通し、両肩に掛けている。どうやら背負う布製の荷物入れのようだ。もう1は鉄の塊で右肩に紐を通して持っている。他の兵士に比べて重装備だ。
「一刀、ここから城まで30里はあるが大丈夫か?」
「ちょっと待ってくれ。焔耶。
えぇーっと、さっきの会話で、3里がだいたい1,5kmぐらいだったから、1里500mぐらいか。
ってことは、30里は15kmか。大丈夫だ。焔耶。それぐらいの距離なら慣れている。」
「??キロ??……ならいいんだが。」
「そうだ、北郷よ。お前が居た所、お前の国のことを教えてくれんか?」
「俺の国ですか?まあ、良いですよ。」
それから、一刀の国について色々聞いた。どの話も興味深く、私と桔梗様は聞き入っていた。
桔梗様が特に興味を示した話は酒と戦の話だ。なんとも桔梗様らしい反応だ。
私は酒についてはあまり興味がなかったのでサラッと聞き流した。
戦に関しては一刀の国では戦は無いのだという。何でも一部の国と手を組み世界中の国相手に戦をして、負けたというのだ。それ以降、軍を全て解体し、ある事をきっかけに自衛のための軍だけを作ったのだという。
一刀はあることをきっかけにそんな国を飛び出し、他国で兵をやっていたという。
そして、様々な所に行っては戦をしていたというのだ。要するに誰かの代理で戦をしたり、戦地で警備をしたりするのが主な仕事だったらしい。故に一刀は戦に慣れているという。
右肩に掛けている鉄の塊は仕事に就き、戦に身を投じる前に鍛錬中に貰ったものだという。
私達の世界で言うところの弓や弩に近いものだという。有効射程距離は4里で、鉄板ぐらいなら貫通できるという。本来はセンシャという鉄でできた乗り物を破壊するために作られたらしいが、装甲は貫通できても大破させることはできないという。一刀は軍の中でも狙撃の腕は良かった方で、止まっていたりゆっくり移動して4里(2km)以内に居る者なら大抵射抜くことができるという。左右に走っていたりすると2里が限界だという。
ただ放った時の反動が重い為、連続で放つことは出来ない上に、射撃時にかなり無防備になるという。
そのため、観測者という護衛がいないと放つことはかなり危険なうえに正確性に欠くらしい。
観測者が居なかったから、先ほど桔梗様の副官に背後を取られ、捕まったというのだ。
まあ、観測者が居なかったおかげで一刀と出会うことが出来た。我が陣営の人材不足は解消されそうだ。
視点:桔梗
やはり、北郷は天の御遣いらしい。儂らの知らない言葉や聞いたことも無い話が多かった。
ちなみに儂が一刀とは呼ばずに、北郷と呼ぶのは何か抵抗感があったからだ。これまで男に真名を許したことは無かったし、真名を許されたことが無かったからだ。なんとなく気恥ずかしい。
話を戻そう。儂が北郷の話で最も驚いた事は2つ。
まず1つ目に驚いた事は北郷の得物飛距離だ。
北郷の得物は長距離対物狙撃ジュウというらしく、射程範囲も儂や紫苑の射程距離より遥かに長く4里という。
儂らの射撃や弩の射程範囲は約45丈(約150m)。10倍以上の差がある。
先ほどの荷車は射程範囲の半分だというのだ。
次に驚いた事は酒だ。
天の国の酒は種類が豊富らしい。泡の出る冷たい酒ビール。ブドウと言う果実から作ったワイン。
そして、ニホンシュだ。ニホンシュは日の本の酒と書いて日本酒と読むらしい。米から作るという。
北郷は隠れて酒を作った事があるらしく作り方を知っていた。色々試して作ってみるという。
他にも北郷はツマミを色々作れるらしい。何でも他国で働いていた時に同僚が母国の料理を作ってくれと頼まれて作ったことがきっかけで料理に目覚めたらしい。これが理由で酒も作れるという。
北郷はそれなりに酒は飲めるらしく、今度酒につきあって貰うという約束をした。うむ、楽しみじゃな。
そうこう話している内に城が見えてきた。
あの町から城までの間に数回休憩を挿みながら、一刻半ほどで到着した。
巴郡の町の門は開門され中に入る。城の前の広場で儂は兵達に今回の戦についてと北郷の事について話した。
最初兵達は動揺したが、北郷の得物や服装を見て殆どの者が納得し、喚起した。
それもそうだろう。自軍に天の御使いが出たのだ。心理的な支えになる。
兵達には十分休息を取るように言い、その場で解散となった。
儂は北郷を城の中へと案内する。
厠や厨房、執務室、鍛錬場、浴場。そして最後に連れてきたのが北郷用に準備させた部屋。
家具は一式揃っている。
「北郷よ。何か必要な物はあるか?」
「とりあえず、この銃を仕舞う為の鍵付きの家具が欲しいです。
この銃が壁にもたれ掛けさせておいて、万が一倒れたら、暴発するおそれがありますから。」
「わかった。どういった家具が必要なのか。町を案内しながら探すとしよう。
ちょうど夕食の時間にもなりそうじゃしな。」
「分かりました。では、ひとまず今は寝台にでも寝かしておきます。」
「そうしておくのが良かろう。」
「では、着替えるので少し待っていて下さい。」
「うむ。では、儂も着替える。城門で落ち合おう。」
儂は豪天砲を家具の中に仕舞い、普段着に着替え、城門へと向かった。
そういえば、北郷は他に服を持っているのかという疑問が思い浮かんだのだが、本人が着替えると言ったのでおそらくあるのだろう。何やら城門の兵と誰かが話をしている。よく見れば、そこに居たのは北郷だった。
だが、先ほどと服が違う。日光を浴びたその服は白く輝いている。
北郷は儂に気が付いて、話を切り上げ、儂の方によって来る。
「北郷。お前その服は?」
「あ、これは俺の世界の制服って言う服で、私塾に通う者達が着ている服装です。」
「ということは、これが天の国の服か。触り心地も初めてじゃ。刺繍の模様も初めて見るの。ふーん」
「き、桔梗様。それより町の案内をお願いします//////」
「おぉ!そうじゃったな。では行くぞ。」
「はい。」
「返事はさー、いえっさーでなくて良いのか?儂は北郷の上官じゃぞ?」
「い、今は仕事中では無いので……。」
儂は北郷をからかう。北郷をからかうのは面白い。からかう度に北郷は顔を逸らしたり赤くしたり、声がどもったり裏返ったり、後退したり、固まる。本当に忙しい奴じゃ。退屈せん。
だが、わからん。からかっているつもりも無いのに時折変な反応をする。
まあ、同じ反応をしてくれるから儂としては面白い限りなのじゃが。
その後、北郷と町を周った。
まずは、酒屋だ。城門を出てすぐの所にある酒屋に連れて行った。儂と店主はかなりの顔見知りで普通はさせてくれない試飲をさせてくれる。上等な酒が多く、試飲して気に入った物は壺で城に納品して貰う。
2,3度試飲し、2番目の酒が気に入ったので、城に1升壺を3つ送ってもらった。
次は本屋だ。北郷はこの国の文字が読めないと言うので、まず簡単な絵本や童話で文字の勉強となった。
気に入った本が有ったらしく、2,3冊程買った。もちろん金は儂持ちだ。北郷はこの世界の金を持っていない。
次に来たのは酒屋だ。ここの酒屋は面白い。珍しい酒を多く取りそろえている。だが、ハズレもそれなりにある。
酒の博打を打つにはもってこいの場所だ。先日飲んだ香菜を漬け込んだ酒は美味かった。また飲んでみたいものだ。今日見つけたのは毒蛇を漬け込んだ酒で試飲してみたが、匂いが強烈だった。癖になりそうなので買う。
次に行ったのは服屋。北郷はあの2着しか服を持っていなかったので、寝巻等が無い。北郷は適当に数着選び、北郷の得物を持ち運ぶための袋を作ってもらう。当然、儂が支払い、城に送ってもらうことになった。
次に来たのが酒屋。ここの酒屋はとにかく安い。ハズレもそこまで無いが、とても良い品とは言い難い。数回試飲し、及第点の物を1斗壺で城に送ってもらった。今日の買い物で15日は大丈夫だろう。
それから、家具屋だ。北郷の得物を仕舞う為の家具を探しに来た。ここは、儂の豪天砲を仕舞う為の家具を作ってもらった店だ。まあ、そんな都合よく家具は置いてなかったので、家具の制作を頼んだ。入れるものの大きさや形状を伝えるとさっそく制作に入ると言った。
最後に来たのは屋台だ。天の御遣い祝いで北郷にたらふく食わせてやることにした。
店主も兵達から聞いたのか、天の御遣いを見に来た。北郷の服を見て、天の御使いだと納得。
割引をしてくれた。どうやら、店主は料理をしながら、客と飲んでいたのか豪く機嫌が良かったのだろう。
儂も調子に乗り、酒を多めに注文する。北郷と他の客とで飲んだ。主に儂と他の客が飲んでいた。
調子に乗ったとはいえおかしい。そんなに飲んでいないはずなのに、もうクラクラだ。
まだ、紹興酒を1升、白酒を1合ぐらいしか飲んでいない。
北郷と何を話しているかも分からない。北郷の頭が3つ腕は6本あるように見える。
ああ、此処に来る前に試飲をしていたから、それが影響しているみたいだ。もう眠い。寝てしまおう。
視点:一刀
うわばみが居た。水を飲むように桔梗さんは酒を飲む。
最後の酒屋でどれだけ買うのかと聞いたが、あれだけ買って15日分だという。今居る飯屋でこれだけ飲んでいる。それだったら、あの量も納得だ。質より量にして、30日程酒を我慢すれば、酒風呂に入れるのではないだろうかと真剣に思ったので、提案するとそれが出来たら、一緒に入浴しようと言われた。
俺は恥ずかしくなり、慌てて拒否すると、女としての自信が無くなると言われたので、桔梗さんは魅力いっぱい持っていると言おうとすると、桔梗さんは机に伏して寝息を立てていた。
大量に飲んだのもあるが、どうやら、疲れていたのもあり、酒がまわりやすかったのだろう。泥酔状態だ。
閉店時間になったので、俺は桔梗さんを起こそうとするが、桔梗さんは一向に起きないし、起きたとしても意味不明な事を言って再び寝始めた。俺は起こすことを諦め、店長さんに謝り明日払いに来ると言ったが、次回で良いと言ってくれた。桔梗さんはよくこの店に来るらしく、ツケが溜まっているらしい。
どうやら、町の人にはかなり親しまれているらしく、自慢の君主だと店長さんも言う。
俺は桔梗さんが起きないので、背負うことにした。俺も少し酒を飲んだが、酔っては居ない。ちゃんと歩けている。そもそも1杯しか飲んでいない。桔梗さんは酔っ払うのではと酒を注文した時からある程度は予想していた為飲む量を抑えたが、桔梗さんがここまでとは思っていなかった。
桔梗さんの服は肩が露出しているので冷やしてはいけないと思い、聖フランチェスカの制服を掛ける。
俺は桔梗さんを背負う。桔梗さんが後ろに倒れてはいけないので、腕は俺の両肩の上を通し、俺の前で垂れている。俺と桔梗さんは店から出る。店長さんや残っていた客が見送りをしてくれた。
歩いていて思ったのだが、桔梗さんは思っていた以上に軽かった。弾薬の入った木箱より全然軽かった。
まあ、背中に乗せているからというのもあるだろう。だが、ボリュームと柔らかさが有った。
そのボリュームあるソレは俺の背中に圧し掛かってくる。
その…なんだ。背中に当たっているアレだ。……分かるだろう。胸だよ!胸がメチャクチャ柔らかいんだよ//////
後な!俺の両腕に当たる桔梗さんの太ももも柔らかいんだよ//////チクショウ//////
急に右首筋が冷たくなる。俺は右を見ると桔梗さんの顔がドアップだった。
桔梗さんは俺の右肩に顎を置き、口が半開きで涎が垂れている。首筋が冷たいのはこれが原因か。
モゾモゾと俺の背中の上で動いている。柔らかいアレが形を変える。
俺という理性は必死に煩悩と戦う。第1次脳内煩悩戦争が勃発した。
俺という理性は戦争に勝つために今日一日を振り返る作戦をする。今日は色々ありまくりだった。
自爆テロに巻き込まれ、気が付いたら三国志?の世界に来て、初恋をした。俺の背中に乗っているこの女性に//////しかも一目ぼれだ。俺は殺されそうになっていた桔梗さんを狙撃して助け、桔梗さんの臣下になった。最初はすごい警戒されたけど、誤解が解けて、謝られて、真名を許された。真名を許された時はすごく嬉しかった//////その後、桔梗さんの治める城に行き、桔梗さんが民達に好かれている事を知った。この人に一目ぼれして良かった。
一目ぼれすると後は現実を見て失望するとよく言うが、全くそんなことは無かった。
むしろもっと好きになった。民とすごく仲が良く親近感が持てる良い君主だと思う。実際にさっきの店主も言っていたし、仲間を思いやる良い人だった。仲間を思いやるからこそ、会った時俺を警戒したのだろう。
そして、桔梗さんはすごく優しい。誤解が解けた時謝ってくれた。謝るということが出来るのはなかなか出来ないものだ。偉い立場の人ならなおさらだ。
ただ、俺をからかうのは止めてもらいたい。ドキドキして恥ずかしい//////
今日1日を振り返っていると城についていた。
城門の兵士さんが俺と桔梗さんを見つける。驚いているようだ。
桔梗さんは酔っ払って帰ってくることは多々あるが、こうやって誰かに背負われて帰ってくることはそうそう無いらしい。あったとしても、いつも背負っているのは焔耶だそうだ。
しかも、桔梗さんを真名で呼ぶことのできる男は俺しか居ないそうだ。それを聞いた時、すっげー嬉しかった。
このままじゃ、桔梗さんが風邪をひいてしまうから、俺は城門の兵士さんとの話を切り上げて、桔梗さんを桔梗さんの部屋へと連れていこうとしたが、俺は桔梗さんの部屋を知らない。
運よく焔耶に会い、桔梗さんの部屋へと案内してもらう。桔梗さんの部屋は近かった。
両手が塞がっているので、焔耶に扉を開けてもらう。焔耶はこれから風呂らしく、さっさと行ってしまった。
俺は寝台に座り、桔梗さんを降ろす。俺は寝台から立ち上がり、支えを失った桔梗さんが倒れそうになるので、咄嗟に背中に腕をまわして支える。要するに前から後ろに倒れる桔梗さんを抱き止めている。
そして、ゆっくり桔梗さんを仰向けに寝かせる。布団を掛ける。
ああ、上着を取りそこねた。桔梗さんの肩の下敷きになっている。ま、いいか。明日返してもらおう。
俺は今一度桔梗さんを見る。なんとも悩ましい。
唇も胸も…いや全部がすごい柔らかそうで、瑞々しく、餅のような肌をしている。
これ以上見ていたらムラムラする。ってかもうムラムラしている//////酒が少し入ったからだろう//////
俺は寝酒をしようと厨房の酒を呷って、寝台に飛び込んだ。
はあ、良く寝れた。酒を飲んで、疲れたからだと思われる。
昨日寝る前に飲んだが、俺は桔梗さんほど強くないが、そこまで大量に飲んだわけではないので、醒めるのはおそらく桔梗さんより速いはずだ。おかげで昨日の煩悩に勝てた。
アレ以上飲んでいたら、間違いなく二日酔いコースだった。自分の飲める量は分かっている。
短時間でよく眠れた。朝はいつも5:30に起きている。体内時計でこれ以外の時間には起きれない様になってしまった。いつも、つまり軍でなら此処で朝の運動がある。会社の本部に勤めていた頃は毎朝会社の周りを1周した。会社の大きさが関空ぐらいはあったので、外周十数kmぐらいはあったと思う。それが終わったら筋トレで会社の食堂で朝飯だった。それから訓練訓練訓練だった。
訓練内容は狙撃手専門の訓練だ。重しを背負っての長距離走、障害物走、狙撃の練習、近接戦闘術CQCの訓練、他のグループと組んでペイント弾を使った対抗戦、対抗戦も市街戦、野戦、山岳戦等様々だった。
とりあえず、起きた事だし、走りに行ってくるか。俺は戦闘服に着替え、城門の兵士さんに朝の挨拶をし、日課の長距離走のことを伝え、走りに行った。町は昨日見て回ったから主要な所は覚えている。
1時間半ほど走った。いつものペースでいつものぐらいの時間を掛けたので走った距離もおそらく同じだろう。
城に戻ると、水分補給し鍛錬場に行った。いつもなら此処で筋トレなのだが、焔耶が居たので、声を掛けたら、なんでか焔耶は俺に勝負を吹っかけてきた。焔耶は金棒を出してきたのだが、俺はどう考えても勝てなかったので、金棒では無くて訓練の刃の無い剣で戦うことになった。俺は剣よりCQCの方が自信があったので、素手だ。
でもやはり相手は近接戦闘に長けた武将。俺のCQCも最初の1回は効いたが、警戒して間合いを取ってくる。
CQCは敵と接触もしくは接触直前を想定しているので、剣や槍には不向きである。
結局、3勝16敗だった。最初の1勝は焔耶がCQCはどういう武術か知らなかったからである。後の2勝もまぐれだ。それ以外はひたすら避けるだけで、仕掛けようと接近しようとしても後ろに跳ばれ、剣で攻撃してくる。
だが、この分だと、格闘戦では俺の方が分があるという。焔耶の格闘術は殴る蹴るが主流なので、柔術を組み込んだCQCは初めての経験だったらしく、どうも相手するのは苦手だという。
また、こうやって戦おうと誘われたので、俺はその誘いに乗った。対剣槍用に自分なりのCQCの練習だ。
その後、焔耶と飯となった。やはり朝の訓練の後の飯は上手い。俺は飯を2杯おかわりした。
焔耶の話だと昨日の風呂のお湯はまだ残っているらしいので、俺は風呂に入りに行った。
朝風呂なんて久しぶりだ。朝に風呂を入ることはあまり無かった。そもそも軍ではシャワーが基本だった。
俺は中に誰も居ないことを確認し、風呂に入った。昨日沸かした風呂だった為、結構冷めていた。
俺は風呂から上がり、朝議へと向かった。場所は玉座の間らしい。
どうやら俺が一番乗りだったらしく、まだ誰も来ていなかった。少し待っていると、焔耶が来た。
つづいて数人の文官武官が来た。合計十数人ほどで、昨日会った人も結構居た。
何時まで経っても桔梗さんは来られない。
「桔梗様が来ないな。」
「おそらく昨日の飲み過ぎでまだ寝ているのだろうな。私が起こしてくる。一刀は待っていてくれ。」
「了解。」
それから数分後、桔梗さんは焔耶の肩に左腕を回して、支えられた状態で来た。右手で頭を抱えている。
完全二日酔いだ。顔色も悪い。侍女さんが水を持ってきたので、それを一気に飲み、玉座に座る。
さらに呂律が回っていないので、焔耶が朝議を取り仕切ることとなった。なんともだらしない君主である。
朝議の内容は俺の紹介と昨日の戦いの戦後処理について話をした。朝議はすぐに終わりその場で解散となった。
桔梗さんは相変わらず、玉座で寝ている。目の前で手を振っても無反応だった。
焔耶が無理やり桔梗さんを起こす。桔梗さんの頭はグラングランと揺れている。そして、頭が痛いと唸っている。
これじゃあ、仕事が出来ない。
「焔耶、少し待っていてくれ。二日酔いを覚ます料理を作ってくる。」
「一刀、お前料理が出来るのか?」
「それなりにな。趣味程度でしていたから、そこまで凝った物は作れない。」
「その料理効くのか?」
「ああ、俺自身二日酔いの時は良く食べていた。」
「では、任せたぞ。一刀。」
「ああ、任された。」
俺は厨房に向かった。昨日城の中を案内していた時にどういう食材があるのかチェックしていた。
だから、此処に大量の唐辛子があるのは知っていた。俺はオリジナルの唐辛子豆腐入りおじやを作った。
二日酔いにはこれが一番だ。唐辛子のカクサイシンがアルコールを分解したときに発生するアセトアルデヒドを分解する酵素の分泌を助ける。豆腐に含まれるナイアシンはアルコールの分解には欠かせないビタミンだ。
そして、この料理は柔らかくて食べやすいのが良い。俺は桔梗さんにそれを持って行く。
桔梗さんは相変わらず、グテーとしていた。
「はい、桔梗様。朝ご飯ですよ。お口を開けて下さい。あーん。」
「あーん」
俺はおじやをよく冷まし、桔梗さんの口の中に入れる。桔梗さんは食べる。口をモゴモゴとさせ、おじやを飲み込む。目は瞑ったままだ。
「お味は如何ですか?」
「……辛い。」
桔梗さんは目をつぶったまま答える。何とも可愛らしい反応だ。癖になりそうだ。
ふと思ったのだが、これって恋人同士が喫茶店でやっていたり、新婚さんがするアレじゃないのか?
何をやっているんだ?俺は?違う!そんな疚しい気持ちは無い!そうだ!これは看護だ!二日酔いで項垂れている上司である桔梗さんにちゃんと仕事をしてもらうために部下である俺は看護をしているだけだ。
決して好きな相手に餌づけや看病をしているという状態では無い。上司部下の関係だ!
そうこうしている内に桔梗さんはおじやを完食。俺は食器を厨房に持っていき、洗って元の場所に戻す。
その後、俺は文字の勉強を始めた。要するに絵本を読んでいる。
会社の訓練時代に暗号解読の講義も受けていたので、こう言った法則性に基づく解読はお手の物だ。
また、知っている漢字もあった事や、部首からの推測も解読の役に立った。
正確な直訳は未だだが、文章の内容はだいたい分かった。意訳から文法の作りを推測する。
やっと一冊目が読み終わった。ちょうど腹が減ったので、俺はお昼に行く。
それから数十日間、賊の討伐と文字の勉強、訓練が続く。特に賊討伐に裂く時間が多い。
賊の出没が多発していると桔梗さんは愚痴をこぼしていた。ほとんどの賊が黄色い布を身につけ、『黄巾』と書かれた旗と盾を持っているという。しかも、普通の賊と違い隊列を成しているらしい。どう考えても、黄巾党だ。
戦いには俺も参加した。主に遠距離狙撃だ。
観測者が居ないと碌に狙撃が出来ないので、俺はそれなりに仲の良い城門の兵士さんに頼んだ。
城門の兵士さんも天の弓が見られるとかなり乗り気だった。
風速の計測はおそらく無理だ。だから、兵士さんには俺の警護だけを頼んだ。だが、一人では心細いと言ったので数人ほど俺の護衛についてくれた。
おかげで戦にはある程度余裕を持って勝つことが出来た。だが、勝てたのは戦術面で余裕があったからだ。ただ、問題は戦略的には五分五分なのだ。
俺達の軍に優秀な軍師が居ないから何とかしないと、長引く黄巾党の乱を乗りきれないぞ。
ある日桔梗さんは頭を抱えて唸っていた。もしかして、また二日酔いか?
昨日は戦勝祝いで滅茶苦茶飲んでいた。二日酔いでもおかしくは無い。
だが、顔色が悪いわけではなさそうだ。どうやら二日酔いによる頭痛では無く、何かを考えているようだ。
「どうしたのですか、桔梗様?」
「あぁ、北郷か。いや、実は儂が遠征に行っている間に書簡が溜まって溜まってな。
他の文官にもやらせては居るのじゃが、どうにも頭の固い奴らばかりでどうも進まない。
ウチにももっと優秀な文官が居ればな………。そうだ。北郷!お前も手伝え!」
「でも、俺未だ文字読めないんですよ。」
「……そうじゃったな。どこかに良い文官は転がっていないかのう。」
「居ますよ。」
会話に首を突っ込んで来たのはある文官だった。
「それは本当か?」
「ええ。荊州の北部の新野という所に住んでいる者らしいのですが、噂によれば、かなりの賢人らしく、政治、軍略に長けているらしいです。ですが、誰からの誘いにも乗らない頑固者だそうで、現にその者を臣下に加えようとした袁紹や袁術は追い返されたそうです。」
「新野には此処からどうやったら行ける?」
「此処から東に行けば、新野に行けます。
現在荊州北部は領主の親族で内乱が続いており、行った所で荊州の領主の親族にあれこれ言われる心配は無いと思われますが、軍と会ってしまうと何かあるかもしれないので、十分気をつけた方が良いかと思われます。」
「わかった。桔梗さん、俺行ってくるよ。」
「儂も行きたい所じゃが、この書簡をなんとかせんとならんしな。焔耶にこういったことはまず不可能じゃし。
わかった。お前の新野行き認めよう。そのかわり、北郷!」
「は、はい!」
桔梗さんは豪く真面目な顔をして俺を見てくる。
俺の肩を桔梗さんは掴んでくる。手に力が入っている。このままでは押し倒されそうだ。
駄目だって桔梗さん//////こんなところで見ている人がいるって//////それにこういうのは順序ってものが//////
俺どうなっちゃうの?
「土産に酒を買ってこい。」
「………さー、いえっさー。」
あーあ、俺は項垂れながら、返事をすると執務室から出て、扉を閉めて自室に向かって歩きだす。
装備をそろえてさっさと行くか。
「帰ってこないと……絶対に許さんぞ。」
空耳では無かった//////
俺は一気にテンションが上がった。脳内麻薬エンドルフィンが分泌しまくりだ。
ッシャーーーー!!さぁって、行きますか!!
諸葛亮の三顧の礼に!!
へぅ( ゚∀゚)o彡°黒山羊です。
どうだったでしょうか?第三話は?文章量は前回よりかなり多いです。
見ての通り、次回は朱里?が登場予定です。
現在こっちの方が創作意欲が強いので、こっちばかり書いていますが、次回はもう1つの方を書きますので、
これを機に『真・恋姫†無双 武と知の御遣い伝』を読んで頂けると嬉しいです。
後、現在書いている短編の方も後もう少しです。
皆さま、『第1回同人恋姫祭り』は楽しんで頂けているでしょうか?
ちなみに私はとても楽しませて頂いております。
これを機に新しい発見があり、読む作品が増えました。
6月5日まで開催しています。祭りが終わっても作品は残るので、過ぎても祭りの残り香を楽しむことが出来ますので安心して下さい。
では、最後になりますが、御唱和下さい。
へぅ( ゚∀゚)o彡°
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やっと研究室から解放されました。
休憩時間や睡眠時間を削って書きました。
眠い。というわけでお休みへぅ( ゚∀゚)o彡°黒山羊です。
最後になりますが、
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