No.220430

恋姫†無双 外史『無銘伝』欠史1 華雄(葉雄)伝

ate81さん

無銘伝第5話と第6話をつなぐ、華雄の挿話です。
作者はPC版無印恋姫と真・恋姫、萌将伝、アニメ恋姫(真の方はまだ見てません)だけ見たのですが、華雄って真名はないんですかね?
18禁のオマケのつもりで、「4/華雄尋問ハード?」を書いたんですが、書いている途中で、あれ? これ18禁じゃない? って疑問がわきまして……判断がつかなかったのでアップしましたが、もしアウトっぽかったら、4を削ってあげなおそうと思います。
5月中に書けるとか言っておいて6月になっちゃってすいませんorz

2011-06-03 18:07:26 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3002   閲覧ユーザー数:2302

 欠史1

 華雄(葉雄)伝 ~華の名は~

 

 1/陽は落ちて暮れても

 2/豪傑葉雄伝

 3/葉擦れの音と一緒に

 4/華雄尋問ハード?

 

 

 

 1/陽は落ちて暮れても

 

 董卓軍が洛陽を焼き払い撤退した後、洛陽郊外で、劉備軍と天の御遣い、北郷一刀が合流した。

 一刀は、見た目なんの変化もなく、桃香達と共に陣を張り、都の消火活動を指揮していたが、よくよく見ると、憔悴した雰囲気が滲み出ていた。

「大丈夫かな……」

桃香や愛紗が不安そうな声で囁き合っている。

「ふん」

葉雄は――前の名を華雄という劉備軍の将は、それを横目に、北郷一刀の元へ歩みよった。

「ん? どうかした、葉雄?」

 葉雄の見たところ、一刀に変わった様子はそれほど見られなかった。じっと見続けてかすかに感じ取れるぐらいだ。

(共に過ごした時間の違いか)

 葉雄はちょっと不機嫌になった。

「何かあったのか」

「……あはは、皆から心配されてるなぁ」

 一刀は頬を掻いた。

「董卓、いなかったな。それがちょっと残念だなぁ、なんて」

「はぁ? それだけか?」

葉雄は肩をすくめた。

「それはそうだろう。一軍の主が、燃やすと決めた都に最後まで残っているわけがない。長安にとっとと撤退したに違いない」

「……うん。そうだよな。うん」

 北郷一刀は、素っ気ない葉雄の言葉に、なぜか嬉しそうな顔をした。

「お前……まさか、董卓と面識があるのか?」

「内緒だよ。……あっちは俺の顔知らないけどね」

「……?」

 葉雄は首を傾げ、しかし、それ以上質問は重ねなかった。

 劉備軍は消火を続け、燃えても壊れてもいなかった主無き屋敷を仮に接収して、一息ついた。

「明日は私の元部下たちにも手伝わせて良いか?」

 庭に据えられていたベンチに座り、遠くの空、日が沈みつつある赤い空をぼうっと見ている一刀の隣に、葉雄は座った。

「ん……そうだな。問題はないと思うよ。武装は解除してあるしね。念のため、桃香と朱里の許可を得てくれ」

「わかった」

 2人は並んで、黄昏の空を眺めた。

 昨日今日、血や炎を見飽きるほどに見てきたせいか、夕焼けはどこか苦い。

 葉雄は、感傷的になっている自分に気づいて、苛立ちをおぼえた。

――こいつが隣にいるせいだ――

「お前がそんな顔をしていると、癇に障る!」

 葉雄は立ち上がって、人差し指を一刀の目の前に突きつけた。

「な、なんだよ急に」

 一刀はあっけにとられて、後ずさった。

「辛気臭い顔をした将のもとでは部下も働きたがらん。ただでさえ、天の御遣いなどというわけのわからんあだ名なのだ。もっと、鷹揚に構えろ」

「そんなひどい顔してるかな」

「ああ。おまえたち……いや、わたしたちは勝ったのだろう? 喜ばなくても良いが、もっと余裕のある顔をしろ。こんな夕空でも、いまから一日が始まるぐらいの顔でいろ!」

「う、うん」

 自分の顔をなでさすり、一刀は薄い笑みを浮かべた。

「こんな感じかな?」

 嘘くさいその笑顔に、葉雄はぷっと吹き出した。

「気色悪い!」

「な、なんだそりゃ!」

 一刀はがくっと肩を落とすが、あっはっはっ、と大笑する葉雄の顔を見て、一刀も思わず相好を崩し、互いに笑い合った。

 陽は落ちて暮れても、暗闇の中、花は花としてあるように。

 戦に疲れ果てても、微笑むだけの、最小にして最大のエネルギーは、ちゃんと残っていた。

 それを喜ぶように、2人は長く、笑い合った。

 

 

 2/豪傑葉雄伝

 

 虎牢関の戦いが終わり、董卓軍が長安へと撤退してからしばらくたった、とある日。洛陽へと続く道を歩く、1人の女の姿があった。

 大股でずんずんとまっすぐ歩む女の姿は、出で立ちこそ他の町娘と変わらないものだったが、その奥に潜むただならぬ雰囲気は、まぎれもなく、武将のそれだった。

 彼女の名は葉雄。昔の名を華雄という、劉備軍の将である。

 かつては董卓軍に身を置く歴戦のもののふであったが、汜水関で北郷一刀によって討ち取られた、ということになっている。公には、華雄という名は死んだ名だ。

 彼女を捕縛した北郷一刀が、咄嗟の機転で死んだことにし、名前を変えて、仕えさせたのだ。

 華雄改め葉雄は、それ以後、装いも変えた。軍装を肌の露出の少ない、大人しい物に変え、髪も少し伸ばした。遠目から見れば、董卓軍の昔馴染みであってもわかるまい。

 とはいえ、性格や行動は外見ほどすぐに変化しない。

「他軍に気づかれないようにしていてくれれば、いつもの華雄でいいよ」

とは、主、北郷一刀の弁である。

 しかし、葉雄も、少しはその点を気にしてはいるようで……

「っと!」

 何かに気づいたかのように、葉雄は立ち止まり、すぐにまた歩き出した。今度は、ゆったりとした、常人にとって普通ぐらいの歩幅で。

「普通……普通か」

 葉雄は頭を掻いた。

 劉備軍の軍師、孔明や鳳統に尋ねたところ、目立たないように、とは、普通に、ということらしい。そして普通とは、普通の女のように、ということらしい。

「普通の女……」

 別に董卓軍の武将であったときも、女を捨てたわけじゃなかったのだが。

 「女らしさ」なんてものは、他者の勝手なイメージに過ぎず、葉雄はそんな他人の押しつけがましい形式を拒否しつつ、自分の中の理想の女像を実現したつもりだった。

 だが。

「女らしく、か」

 なぜか、あの男の顔が脳裏に浮かんだ。慌ててぶんぶんと首を横に振る。

「阿呆らしい」

 と、言いつつも、豪快な歩き方には戻さず、静々と音も立てないぐらいの歩みのまま、洛陽城内へと入る。

 洛陽の都城内は、連合軍の修復によって、ある程度回復していた。

 袁紹や袁術は飽きたのかほとんど関与しなくなったが、劉備や曹操、孫策が中心となって、今も修復が続いている。

 反転攻勢を狙っている董卓軍の呂布や張遼に対抗するため、外城、出城、砦を増設、修復し、やや安全になってきた洛陽には少しずつ人が戻ってきていた。

「お?」

 葉雄は足を止めた。

 その視線の先には武器屋があった。

 軒先には新しい槍とか矛、剣がそろっていた。武器は各軍の管理下にあるので売買は禁止されているはずだが、予備を含めて大量に必要になるため黙認されているようだ。

 とはいえ、弓矢、弩のような遠距離武器は優先して軍に流されているのだろう、まともなのは見あたらなかった。

「お、なにかご入り用ですか? 護身用で?」

 葉雄の様子を見て取って、店の主人の親父が近付いてきた。

「ん、いや……そうだな、何があるか見せてくれるか」

 お気に入りの自分用の戦斧、金剛爆斧は修理中だ。一刀に柄を斬り飛ばされてしまったこともあるが、華雄の象徴ともいえる武器で目立つため、急いで直す気もなかった。

「では、お客様なら……と、こんなのはどうです?」

 一振りの剣を、親父は差し出した。小刀と大刀のあいだぐらいの剣だ。

「なんだそれは?」

「なかなか良い物ですよ。片手剣としては大きいですが、女性でも扱いやすい両手剣で――」

「小さすぎる」

 葉雄は片手でぶんぶんと振った。

「え」

 ぽかん、と店の親父は口を開いた。

「戦用の斧か槌がいい。60斤以上だ」

「ろ、60斤!?」

 60斤以上となると男用としても重い。

「で、では店の奥から出してきますので、少々お待ちを……」

 当惑した表情を抑えきれないまま、店主はひっこんだ。

「……はっ!?」

 葉雄はそれを見て何かに気づき、慌てた。

「こ、これが普通じゃないということか!!」

 まぁ、普通ではないだろう。60斤となると、10キロ以上の重さになる。持つのは無理ではないが、使うのは無茶である。

 葉雄にとっては楽なものだし、劉備軍の関羽や張飛はそれ以上の重さの得物を軽々振り回すが……。

「ぐむむ……」

 女らしい、普通の武器とはさっきの剣のようなものなのだろうか。

 だがあれでは玩具みたいで、頼り無いのだが……。

「……」

 葉雄は服を捲って、腕を露出した。

「筋肉……いや、そんなにはない。ないはずだ」

 さわってみるが、筋肉の堅さのうちに柔らかさのある、女性らしい腕だった。だが、葉雄には他の女性の標準がわからない。

 さらに服の裾に手を入れ、他人に見えないように、おなかの肉を触ってみる。

 無駄な脂肪のない引き締まった肌。つまんでも、皮ぐらいしか引っ張れない。つつくと、ほとんど沈まず、はね返される。

「これは、いいのか?」

 駄目だ。わからない。もういちど孔明達に訊くべきかも知れない。いや、関羽や劉備に訊いてみようか……。

 関羽は自分と同じぐらいの体型で同じ武人だし、劉備は体型が似ていて半ば文官。良い比較対象になるかもしれない。

 朱里、雛里は頭は良いが、小柄なうえ文官で、共通点がない。鈴々は小柄で武官、比較も難しければ、助言も期待できないだろう。

「あいつは……どっちがいいんだ?」

 小さいのと大きいの。かためとやわらかめ。

「……い、いや、あいつは関係ない! あいつの好みの問題じゃない!」

 また首を横に振り、一刀の顔を頭から追い出す。

「あ、あの~、持ってきましたが……」

 店主と店員が、2人がかりで持ってきた戦槌を抱え、怪訝そうに葉雄を見ていた。

「む」

 こほん、と咳払いして、それを受け取る。

「おお!」

 2人で持っていた大槌を、1人で持ち上げた姿を見て、店主達は驚きの声を上げた。

「振ってみるから、少し離れていろ」

 よけてもらって、安全を確認してから、振り上げ、振り下ろす!

 ぶおん、という風切り音のあと、戦槌は地上すれすれで止まった。

 無理矢理持ち上げて落とすように下ろしたら、確実に地面に激突していただろう。それを防ぎ、戦槌をとめたのは、紛れもない葉雄の力だ。

「おおー!!」

 喝采と拍手が響いた。観客は2人しかいないから地味なものだが。

「なかなか良い物だな。これをもらおう。劉備軍の本営に、葉雄の名で運んでくれ」

「かしこまりました」

「……それと」

 口ごもりつつ、ちらり、と店先を見る。

「さっきの剣、女用だったな?」

「は、はい」

「では、あれも……いや、あれは護身用だったな。壊れやすいのではないか?」

「はい。確かに。作りはよいので良く切れるのですが、何かにぶつけてしまうと、欠けやすいものです」

「戦用の長刀……いや、いっそ短剣にしよう。それなら荒く使って壊れても、複数携行していけば問題ない。短剣を見せてくれ」

「はい!」

 店員がそそくさと店先に並べた短剣を数本かきあつめ、持ってくる。

「ふむ」

 そのうちの1本を握り、華雄は肩の辺りまで持ち上げ、振り下ろし――

 スポッ

「あ」

 すっぽぬけた。

 短剣は空を切り裂き、路地を隔てた向こうの壁にぶち当たり――突き刺さった。

「…………え」

「おっと」

 軽く放っただけなのに、思い切り投擲したぐらい深々と突き刺さった。

「刺さってしまったな。すまん。金はあれの分も払う」

「い、いえ」

 あらためて、もう一振り短剣を握り直し、葉雄は思案した。

(今、たまたますっぽ抜けて突き刺さったが、投擲武器としては、ありかもしれんな)

 葉雄は、店員の手に短剣を戻す。

「や、やはり軽すぎますか」

「いや、これでいい。これと同じ物を、そうだな、とりあえず10本、さっきの槌と同じ所に同じ名で頼む。ではな」

「はいっ!!」

 店員達は直立不動で葉雄を見送った。

(ただひとつの武器にこだわるのもいいが、様々な武器に精通し、手練手管をもって戦う姿というのも、女らしい、かもしれん。うむ。)

 その日以降、劉備軍に葉雄という名の豪傑あり、という噂が流れ始める。

 しかし、劉備軍ならよくあること、というツッコミによりその噂は沈静化されたという

 

 

 

 3/葉擦れの音と一緒に

 

 連合軍が洛陽を占拠して少し後。

 劉備軍がねぐらとしている屋敷にて。

「ふぅ~」

 朝から昼にかけての中庭での修行を終えて、華雄は水を飲みに厨房へと向かっていた。

 訓練用の重い槌を振り続けたせいか、汗が全身から吹き出ている。

「あ、葉雄さーん」

 誰かに呼ばれて葉雄が声のしたほうへ向くと、朱里が手を振っていた。

 中庭の隅につくられた東屋で、朱里と雛里がお茶をしているようだった。

「おお」

 片手をあげて、葉雄は東屋へと足を向ける。

 東屋は小高い丘の上に作られていて、庭を見ながら休むのに適していた。

「軍師2人そろって休憩とは、珍しいな」

「はい。最近ようやく政務も軍務も落ち着いてきているんですよー」

 雛里が答える。

 2人は同じ軍師ではあるが、どちらかというと朱里が政務担当、雛里が軍務担当という役割になっている。

「……」

 貴重な優雅な一時の邪魔にならないか、と、葉雄は少し、近付くのを躊躇した。

「? 葉雄さん? こっちに水を汲みましたよ?」

 朱里が首を傾げる。

「ん、いや、訓練の直後だから、ちょっとな……」

 匂いが気になるらしく、葉雄は二の腕を顔の近くに持っていき、鼻をひくつかせた。

「あ、汗ですか」

 雛里がぴょこぴょこと動き、真新しい白布を持ってくる。

 受け取った布で手早く汗を拭い、朱里が差し出した水を一口二口。そうしてやっと落ち着いた。

「すまんな」

「いえいえ」

 笑顔で応える朱里と雛里を前に、やはり劉備軍は董卓軍と違うな、と葉雄は思った。

 董卓軍の将は、呂布をはじめとして、粗暴とまではいかないが、他人をそこまで気遣わない。あえていえば、総大将である月――董卓が1番人をよく見て配慮するが、総大将であることもあって、あまり近しく接する機会がなかった。

 劉備軍は、トップである劉備・北郷からして親しみやすい性格だし、部下も、関羽は例外として、みんなどこか人なつっこい。関羽も、劉備や北郷が認めた人物なら、そこまで刺々しくはしない。まぁ、無闇に北郷と接近したりすると、嫌な顔をするが。

 (こういうのも)

 と、葉雄は思う。

 女らしい、と言うのだろうか?

 劉備軍に入って一月も経っていないが、その人当たりの良さは、折に触れて感じられた。最初はその軟弱さに苛立ちも感じたが、ゆっくりとしみわたる湯のような心地好い関係は、それほど悪くない、と葉雄は結論した。

 とはいっても、葉雄自身が、その真似事をしようなんて思ったりなんてしなかったのだが……。

 葉雄は、目の前の、2人の少女を眺める。

 2人は、お菓子をつまみながら、お茶を飲み、くつろいでいる。互いに持ち寄ったお菓子を交換し、他愛ない話を泡のように浮かべて、この時間を楽しんでいる様子がよくわかる。

 その仕草一つ一つが、愛らしく、少女らしい。

 それは換言すれば、弱弱しいという事でもあるし、極言すれば、子供っぽいような気もする。

 むかしむかし、自分も、あんな時代があって、そしてそれを踏み付けて忘却して今の自分になった。――どこか胸が締め付けられるような、懐かしさがあった。

 それは唾棄すべきものだと、思っていた。

 強くなければ、生きていけないのだから。

 生きていけない、弱いままでは駄目なのだから。

 だから、葉雄は、軍師というものを軽んじる傾向があった。1人では兵卒にも劣るその存在を。

 けれど、これはこれで――

「ぱくぱく……もぐもぐ」

「こくこく……ずずー……ぷはー……」

(いいかもしれない……)

 小動物チックな2人を見守りつつ、葉雄は、1人微笑した。

(体型からみれば董卓軍の陳宮や賈駆と変わらないが、この2人は角が無くて丸っこいというか……いや、太っているわけじゃないが)

「あ、葉雄さんもどうぞー」

 と、茶とお菓子をすすめられる。

「ああ」

 甘い餡を包んだ饅頭や、果物をつまみ、茶をすする。2人にならい、あまり豪快にならないように、少しずつゆっくりと。

 それから少し、歓談する。

 話題は特に意味のあるものではない。

 庭にはいりこんできた猫の話だとか、いついつ庭の花が咲きそうだとか、桃香様が寝惚けてご主人様の寝所で一緒に寝てたとか――

 最後の話は微妙に聞き捨てならなかったが、そんな話ばかりだ。

 葉雄は訓練直後で疲労していたし、朱里と雛里は根を詰める仕事の合間だったし、重い話ができる状況ではなかった。

 そんな流れで、

「2人はどういう経緯で、劉備と北郷のところに来たんだ?」

 過去の話に触れた。

 ちょっと繊細な話題かと思ったが、2人はあっさりと答えてくれた。

「荊州からか……それは遠いな。仕えるべき主を見つけて、か。それで何百里も行くお前たちもすごいが……北郷はよく一目で2人を仲間にしたものだな」

 荊州から幽州までの距離、ざっと900㎞。

「はい。ご主人様は、私たちの名前を聞いて、この2人なら、自分たちの助けになってくれると信じてる、って」

「名前を聞いて……」

 ふと、何かを、葉雄は感じた。違和感、というか、気付き、というべきか。

「まるで、自分たちを前から知っているように、か?」

「は、はい! たしかに、そんな感じでした!」

 我が意を得たり、という調子で、雛里がこくこく頷いた。

(奴は董卓も知っている風だった。だが、董卓の方は自分の顔を知らないだろう、とも言っていた……)

 葉雄はただ胡散臭いだけだと思っていた男の、影を、踏んだ気がした。

(天の御遣い、か)

 黄巾党、太平道教祖と似た印象しか抱いていなかった、その名称が突然、真実味を帯びてきた。

 葉雄は唾を飲み込み、深くそのことを考えようとしたところで、

「葉雄さん――華雄さんはどうして董卓軍に入ったんですか?」

 と、朱里が尋ねた。

「ん?」

 風が一陣、さぁっと吹いて、庭の木々が葉を触れ合わせて涼やかな音を奏でた。

「あ、言いづらい事ならいいんです……あの」

 朱里は葉雄の顔色を窺う。

「いや……大した理由ではない。お前達ほど理想に燃えていたわけでもないし、誰に望まれたわけでもない」

 こくり、と茶を一飲み。

 唐突に、あたりが静かになった気がした。

「私は関中……長安あたりの出身で、董卓や馬騰、韓遂なんかが周辺に勢力を誇っていた。と、いっても、小さな軍閥も多かったし、異民族なんかも入り込んでいた。私は、無名の軍閥で暴れ回っていた……賊や黄巾を相手にしてな。たまたまだ。時機が違えば、私が黄巾を身につけていただろうよ」

 また風が鳴った。

 目を閉じれば、駆け抜けた黄土が蘇ってくる。

「黄巾の乱が終わる頃、黄巾との戦いに敗北して帰ってきた董卓軍と、韓遂の戦いが起こった。涼州叛乱だ。私は、韓遂側に着いた。これも別にどちらが正義だからとかではなく、より力を示せそうな方を選んだだけだ。疲弊してはいるが数も質もそろっている董卓軍を吸収すれば、韓遂は馬騰と一緒に関中を制することができる、そんな気はしていたがな」

 茶を飲み干して、杯を下ろす。卓にあたって、カチン、と剣戟の音を思わせる、高い音が響いた。

「結果は……董卓軍の圧勝だった」

 空っぽの杯に茶のかわりに水を注ぎ、口を湿らせる程度に飲む。

「まだ私は一軍の将ではなかったが、一隊の長ではあった。わけのわからないうちに負けて、ばらばらになった兵をまとめて反撃したが、あえなく包囲されて降伏……おまえたちの時と同じだな」

 ふ、と華雄は苦笑した。

「そして、董卓は、やはりお前達と同じ……私を助命した。そして私は、特にすすめられたわけでもなく、いつのまにか、董卓軍に入っていた。董卓軍は、その後も戦いを続けて、董卓の軍はいつのまにか以前の数倍に膨れ上がった。軍閥、匪賊、異民族、多くが董卓軍に制圧されて、吸収されていった。……そこらへんは、多分お前達も知っているだろう?」

 朱里と雛里は、黙って頷いた。

 もう董卓軍に入った理由は語り終えていたが、華雄は、話を続けた。

「その巨大化を危険視した中央は、董卓軍の解体を命じた。まぁ、当たり前だな。元々は官軍だ。だが、すでに董卓にとって、配下の軍は……大事な、仲間みたいなもの、だったようだ。手のかかる、厄介な、どうしようもない奴らだけどな。……私も含めて。董卓がいなければ1つにまとまらない。韓遂や馬騰に引き渡せば……なんて言える状況じゃない」

 風音が止んで、華雄の声だけが、はっきりと響いて空に溶けていくようだった。

「朝廷は、并州牧の地位と引き替えに、再度、軍を解体せよと命じた」

 并州は、洛陽のある司隷の北、涼州の北東に位置する州だ。

「異民族が暴れ回る并州に、空手で入れるわけもない。軍の解体はせずに、一旦、少数の精兵を連れて、董卓は并州に移った。とりあえずの様子見だ。その時だな、呂布や張遼たちと出会ったのは……」

 その時の光景を思い出すように、華雄は目を閉じた。

「あいつらは、上の連中に飼い殺されて、くすぶっていた。お前達にとっては敵だから、よくわからんかもしれないが……張遼は一本気な奴で、呂布は……なんというか、とらえどころのない奴でな。扱いにくかったんだろう。特に、呂布は。実力は私と同等……か、それ以上かもしれないんだが」

 華雄は、正直、呂布と真正面から一騎打ちをして勝てる気はしなかった。ただ、プライドもあるので、朱里や雛里相手にそれは言えなかった。

「それでも、異民族撃退や黄巾討伐に功をあげてはいたようだ……将としてというより、兵器として、な。呂布も張遼も、当時は死んだような目をしていたよ。董卓はそれを見かねたんだろう。董卓は、2人に……陳宮もだったかな? ともかく、連中に何度も会いにいっていた」

「……じゃあ、それが」

 と、雛里が相槌を打つ。

「そうだ。呂布の離反につながり、董卓の朝廷掌握につながった」

 董卓は、最終的に朝廷の招請に応じ、わずかの兵と共に洛陽へ入った。

 だが董卓は、この時ミスをおかした。

「人づてに聞いた話だから正確なところはわからんが、あの時、董卓には2つの勢力からの接触があったらしい。宦官の最上位、十常侍の張譲。そして大将軍の何進だ。2人とも董卓の軍に注目して、敵対勢力の牽制、ひょっとしたら殲滅に利用しようとしていたのかもしれない。董卓はもちろん、それを見切っていた。あからさまな策謀の招きに応じる必要は無い、それが軍師、賈駆の意見だったし、私たちも同意見だった」

 朱里と雛里は、神妙な表情で華雄の話を聞いていた。貴重な、当事者の語りは、2人の知的好奇心を強く刺激しているようだった。

 なので華雄は、どこか気持ちよく、話をすすめられた。

「だが、董卓は洛陽へ向かうことに決めた。中央の身勝手ないざこざに、怒りもあったのだろう。数万の大軍勢から、わずか三千を選び抜き、出発した。張譲、何進、どちらにも味方する気はなかったようだが……情勢は一気に変化した。宦官による何進暗殺。そして

袁紹たちによる宦官殲滅。張譲の皇帝と陳留王を連れての洛陽脱出……めまぐるしい変化の中、運が良かったのか悪かったのか、董卓は、宦官と共にあてどもなく移動していた陳留王を発見、保護して、洛陽へと連れ戻せた」

「え?」

「はわ?」

 そこで、朱里と雛里がそろって声を上げた。

「ん、なんだ?」

「陳留王だけですか?」

「皇帝陛下も一緒だったんじゃ?」

「……ああ、そうか。そういうことになっていたか」

 華雄は頬を掻いた。

「その時の皇帝は、今も行方不明だ」

「え、じゃ、じゃあ、董卓が皇帝陛下を弑して今の献帝にかえたっていうのは……」

「欺瞞情報だろう。他の誰かが皇帝を殺した罪を董卓に押しつけたか、本当に行方不明なのを利用したのか……今もわからんが」

「あわわ……!」

「はわわ……!」

 2人は目を丸くした。

 わたわたと混乱した様子を見せてはいるが、頭の中はとてつもない速さで思考しているのだろう、やがて落ち着いた。

「ともかく、それで洛陽へ入城したのはいいが、兵を選りすぐってきたのがあだになった。陳留王を擁してはいても、その時の朝廷内は……混沌としていたからな」

 なにせ、張譲と何進、二大勢力のトップが一気にいなくなったのだ。

「混乱をそのままにしておけるほど義にうといわけではなし、かといって、他を圧倒できる兵力もなし。張譲や何進が招き寄せた諸侯はバラバラだが、兵の数は多かった。董卓は、とりあえずの協力を呼びかけると共に、裏で賈駆が工作に走った」

 2人は東奔西走し、大兵力を偽装し、陳留王をかつぎあげて、秩序の維持に努めた。周囲の悪意に気づきながら、虚勢を張り続けた。

「その時に董卓に応じたのが呂布と張遼だった。主である丁原を切って、その兵を連れて董卓軍に合流した。無名の2人を将軍にまで取り立てたのは、これがあったからだな。実力も十分あったが、この帰順が趨勢を決めたからな、その功績はでかい。加えて、賈駆が死んだ何進の私兵を金で釣り上げて吸収した。実態はともかく、数の上では大兵力が確保できた。これで政局を動かすことができるようになったわけだ」

「それで、袁紹さんたちは黙って従ったんですか?」

「表向きはな。皇帝がいないままではマズイということで、陳留王を皇帝に据えたんだが……おまえたちの反応からすると、この時点で反董卓の勢力が工作をはじめていたんだろうな」

「皇帝を殺し、専横を極めている、と」

「ああ。実際は必死だったがな。何進が死んだ前後に、有力な清流派の連中は、洛陽から退いていた。それをもう一度かき集め、残存宦官勢力を排し、政権の形を整えようとした。袁紹や曹操も招聘したが……袁紹は元々自分が上に立つつもりだったんだろうし、曹操は傍観……、まともなやつはほとんど集まらなかったな」

 水で喉を潤す。喋りすぎだな、と華雄は思った。

「必死さも報われない、そんな状況だったな……まぁ、私は特になにもやってないが」

 当時、武官は出る幕がなかった。

「その後は、おまえたちの知るとおりだろう。いつの間にか洛陽から抜け出していた連中は外で連合を組み、董卓を包囲した。そのときに、全て投げ出して長安へ向かうべきだったのかもしれんが、結局、戦うことになった……」

 華雄は遠い目をして、空を見上げた。

「あ、あのあの」

 孔明が、控えめな声で、

「ご主人様も、桃香様も、董卓さんの思いを無駄にするような事は、しないと思います。だから、あの……」

「……? あ、ああ、そうだな」

 華雄は、2人のどこか悲しそうな目を見て、不思議な思いにとらわれた。

(同情……か? 変な連中だ……)

 憎い敵ではないとはいえ、仲間ではなく敵には違いない相手の想いまで、背負いこむことはないだろうに……と、呆れを通り越して感心する。

(だが……)

 華雄は、思う。

(こういうやつらがいれば、後に何も残らない戦いで死ぬことは、無いのかもな……)

 華雄は何度か色々な勢力を転々としているが、それは名を残す場を探していたからだ。

 戦って戦って、名をあげて、誰にでも知られている存在になる、それが目標だった。夢だった、といってもいい。

 しかし、劉備軍ならば……。

 少なくとも、こいつらには名前を覚えていてもらえるか……。

「ん?」

 そこで、華雄は1つ思い出した。

 華雄は孔明と鳳統、また他の劉備軍の将の真名を教えてもらっている。

 だが、華雄は真名を誰にも教えていない。

「……ああ、そうか」

 今まで、部下や上官、同僚はいても、仲間といえる者はいなかった。董卓達は仲間だと思っていたかも知れないが、華雄は、どこか冷めた感情のままにつきあっていたからだ。

 だから、華雄の真名を知っている者はいない。

「どうかしましたか、葉雄さん?」

 雛里が、突然表情を変えたのをみて、小首を傾げる。

「……いや、お前達の真名を知っているのに、私の真名は伝えていなかったことを、思い出してな……聞いてもらえるか?」

「は、はい!」

 2人は声を揃えて頷いた。

「別に呼んでもらわなくてもいい、ただ、覚えていてくれればな……私の名前……私の真名は……」

 止んでいた風が、また吹いた。

 葉擦れの音と共に、その名は小さく響いた。

「機会を見て、劉備や関羽達にも伝えておく。まぁ、知っていれば十分だ。あまり真名を呼び合うのは慣れていなくてな……」

 はは、と小さく笑う。

 朱里達は、教えられた真名を反芻するように、幾度か小さく頷いた。

 そして、誰からともなく茶器を使い、また穏やかな茶会に戻った。

「あれ? なんか珍しい組み合わせだな」

 と、唐突に、北郷一刀が顔を見せた。

「お茶してたんだ?」

 一刀は卓の上の様子を見て取り、微笑んだ。

「はい。ご主人様は政務の途中ですか?」

 一刀は手に竹簡や紙をいくつか抱えていた。

「ああ、うん。大体終わったけど、文字だけじゃ実状がよくわからないのが多くてね、午後からは街をまわろうかと思って」

「そうなんですか。あの、今日は私、手が空いてますので、一緒に……」

「あ、あの私も……!」

 と朱里と雛里がぴょんと手を挙げた。

「うん。それじゃあ、一緒に行こうか」

 一刀は快く応じた。

 返事を聞いて2人は途端に頬を緩めた。

「葉雄も一緒にどう?」

「私もか?」

 葉雄は一刀の顔を見る。必要だからじゃなくて、多分、そのほうが楽しいから、とかそんな理由なんだろう。無邪気な顔だった。

 ふ、と葉雄は笑みを浮かべた。

「そうだな。同行しよう」

「よーし、じゃあ、4人でいろいろまわるとしようか」

「はい!」

 満面の笑みと共に答える朱里。

 その横で、雛里が葉雄の肩にそっと触れた。

「ん?」

「葉雄さん、ご主人様には真名を教えたんですか?」

「い、いや、まだだ……」

「一緒に街をまわるときがチャンスだと思います」

「チャンス……?」

「好機って意味の、天の言葉だそうです。チャンスです、葉雄さん」

「そ、そうか……?」

 葉雄は一刀の方を見て、少し顔を赤らめた。さっき朱里や雛里にしたようにすればいいだけなのに、息が詰まるぐらいの緊張がなぜか胸の内にあって、ちょっとのことがすごく難しいことのように思えた。

(よく考えたら、真名を男に伝えるというのは、かなり……特別なんじゃないか?)

 親兄弟を除いて、異性に真名を教えるなんて事はめったにない。それこそ、恋人や伴侶でもなければ……。

(しかし、劉備軍の主要な連中は全員真名を北郷に教えているようだし……あいつはあいつで、いたいけな少女たちにご主人様などと呼ばせて――)

「あれ? 雛里、口の所、食べかすついてるよ」

 と、葉雄が悶々としているのをよそに、一刀は雛里の口のあたりを指差した。

「え、えと……」

 雛里は指摘され、あわてて唇を拭くが、見当違いのところだったようで、

「そっちじゃなくて……ちょっと、動かないでいてくれ」

 一刀は手を伸ばし、指先で優しく雛里の柔らかな唇の端をぬぐい、多分饅頭の餡の残りだろうそれを――

「ぱく」

 と自分の口に持っていった。

「あわわ……!」

 ぼっ、と火がついたように雛里は赤面した。

「甘い」

「……ご、ご主人様」

 雛里の視線が、一刀と葉雄の間で泳いでいた。嬉しいようでもあったが、困っているようでもあり……その理由は。

「……」

 葉雄が、じぃぃっと、一刀を睨んでいた。

「ん?」

 一刀もその空気に気づいたのか、そちらをみた。

「おわ!? よ、葉雄?」

 ジト目でねめつけられて、一刀は、不安そうな顔で葉雄の出方を窺った。

 なにせ、こういう顔をしているときの葉雄は次にどんな言動をするか――

「お前に……」

 嵐の前の静けさ。

「え、な、なに?」

 華雄らしくない小さすぎる声に、思わず一刀は聞き返した。

 その瞬間強い風が吹いた。あおられて枝木が折れてしまうぐらいしなり、葉がおちそうなぐらい擦り合わされて、不気味な音をたてた。

 一刀は、曇ってもいないし雨も降っていないのに、あたりが雷雨の時のようにどよめいた気がした。

 そして華雄は口を開き――

 

「お前に!! 私の真名は教えんからなっっ!!!」

 

 雷霆のごとき華雄の叫びに、一刀はのけぞった。

「え、ええええええええ!?」

 一刀の困惑を背に、華雄は大股で歩み去っていった。

 朱里は慌ててそれを追いかけ、雛里はその場にとどまり頭を抱えた。

 一刀は呆然と、立ち尽くすだけだった。

 

 あたりは、一転、人声が消え失せ、木々のざわめきだけが残った。

 

 

 4/華雄尋問ハード?

 

「……さて、というわけで、もう一回、華雄の尋問をやろうと思うわけだが」

「どういうわけだ!! なんで私は縛られてるんだ!!?」

 ガタガタと、華雄は縄で身体を縛り付けられた椅子を揺らして、抗議の声を上げた。

 目の前には、北郷一刀と鳳統がいる。

「だって華雄が俺にだけ真名を教えてくれないっていうから……」

 しょぼーん、とした表情で一刀は華雄を見る。

「なんだその私が悪いみたいな言い方は!!」

 ここは洛陽、劉備軍の尋問室……ではなく、一刀の寝室である。

「呼び出されて来てみた結果がこれか! わけがわからんぞ!」

 憤懣やるかたない様子で、華雄が暴れる。

 一刀の部屋に入った次の刹那、待機していた鈴々に転倒させられ、椅子に縛り付けられた。鈴々は役目は終わったとばかりに帰り、あとには一刀、雛里、そして華雄が残された。

 そしてこの状況である。

「どうなってるんだ雛里!?」

 目線を向けられて、雛里は帽子に手をやり、悲しそうな表情で答えた。

「ええと、あの、私のせいで、お二人が抜き差しならない状況になってしまいそうなので、ここはひとつ強引な手段で……と」

「待て待て待て待て!! この状況が一番抜き差しならんだろ! 何をする気だ!」

「ええと、何をするんだっけ、軍師鳳統?」

「はい。短い期間ではありますが、葉雄さんとの色々なやりとりで、いくらか性格や性癖の、でーたが集まりました」

 劉備軍、特に軍師二人に顕著であるが、よく一刀の使う言葉を取り入れている。

「それらの要素と、この本を照らし合わせまして……」

「な、なんだその妖しげな表紙の本は……?」

 華雄が眉を寄せた。

 雛里はちょっと頬を染めた。

「あわわ、閨房のお作法の本です」

「捨てろそんなもの!!」

 華雄はぎろりと一刀を睨んだ。

「北郷! 何を読ませてるんだお前は!!」

「お、俺が読ませたわけじゃないよ?」

「嘘つけこの!」

 暴れてもどうにもならないのはわかっているが、華雄はじたばたして抗議の意を示す。

「えと、それでですね、葉雄さんのような方の場合、こういう形になるようです……ご主人様の世界では、こういう人は、どういうんでしょうか?」

 雛里は手元の本を、一刀に見せた。

 一刀はそれを眺め、顎に手を当てて思案し、やがて口を開いた。

「んー……マゾ……かな」

「なんだその意味はわからんが不快な響きの単語は……!」

 自分が、マゾ、とかいうものである、といわれているのはわかった。

「では、そのマゾの葉雄さんに、この本に書いてあるような事を試してみて下さい」

「わかった」

 そして雛里は、あとはお二人で、と言い残して去っていった。

「さてと」

 雛里を見送って、華雄のほうを振り向いた一刀の表情は――笑顔だった。

 ぞく、と背筋が寒くなるのを華雄は感じた。

 そういえば、最初に尋問されたときも、2人きりになってから、ひどい攻撃を受けた。具体的にいえばくすぐられただけだが、束縛された状態からのくすぐりは、かなり、きつかった。

 一刀が、ゆっくりと、華雄の方へと向かってくる。

「ま、待て。落ち着け! こんな方法で真名を知って、それで満足なのか貴様は!!」

「ん~、そうだなぁ……確かにそうかも」

 一刀は華雄の方へ差し出した手をひっこめた。

 ほっ、と安堵したのも束の間、

「じゃあ、今日は親睦を深めるだけということで!」

 がばぁっ、と一刀は華雄に襲いかかった。

「ひっ!?」

 不意をうたれて、華雄は思わず息を呑んだ。

「まぁ、あまり痛いこととか苦しいことはしないから……多分」

「な、なんだ、多分って!」

「だって、雛里が本に書いてある事をやれっていったから」

「……ちなみに、何が書いてあるんだ」

「ええっとねぇ……例えば…………」

 と、一刀は本に目を落とすが、途端に口ごもった。

「う~~ん、口で説明するのが難しいんだけど……道具を使うのと、俺が直に触れるのと、どっちがいい?」

「なんなんだ……道具だと? ……嫌な予感しかしないが、しかし、お前に触れられるよりはマシか……」

「なんだよう。そんなに嫌がらなくても良いじゃないか」

 一刀は口を尖らせる。

「う、うるさい! とにかく、直接は駄目だっっ!」

「わかったよ……それじゃ、まずは、こんなところからいこうか」

 一刀は、部屋の隅に置かれた箱を持ち出してきて、その中の1つを取り出した。

「……? なんだそれは?」

 一刀が指でつまんだものは、小さな、二等辺三角形の小道具だった。より細かく形を描写するなら、「A」の形というのが正確だろう。木製らしいそれは、何に使うのか見当もつかなかった。

「劉備軍は資金難だからね。俺の世界にあった物のなかで、こっちでも作りやすいものを再現して、それを売ってるんだ」

「それは知っているが」

「これはね、その中の1つ。『洗濯バサミ』だよ」

「洗濯バサミ?

「そう。バネの部分がちょっと面倒だから、曹操軍の李典にも手伝ってもらったんだけど、結構便利なんだ」

「名前からして洗濯に使うんだろう? それをいま出してどうする」

 心底不思議そうな顔をするが、一刀が、洗濯挟みを指で開いたり閉じたりしているのを見て、眉を曇らせる。

「……」

 ちょっとだけ、使い方がわかってしまった。挟み、という名前からも推測が可能だった。

「本には、もっと拷問器具みたいなやつでやる、って書いてあるんだけど、それじゃ危険だし、かわいそうだからね。これでやるよ」

 と、一刀はおもむろに華雄に近づく。縄で締め付けられて括られ、強調された部分が、ぞくりと震えた。

「ま、待て……!」

 と言葉では拒むが、身体は動かず、寄ってくる一刀の手からは逃れられない。

「ええっと、ここかな?」

 一刀の手の平が、華雄の胸を撫でる。

 体のそこかしこのざわざわが、一刀の手の平の中に集められたかのようで、華雄の乳房に変な痺れが走った。

「……っ、ちょくせつ、やるなというのに……」

 声がうまく出ない。

「ごめんね。服の上からじゃよくわかんなくて……、と、これか」

 よっと、という声と共に、洗濯挟みを開口させ、噛み付かせた。

 華雄の乳首に。

「ひっっ……!!」

 どこか甘やかだった愛撫からの突然の痛みに、華雄の体がびくんとはねた。

「どう? 痛い?」

 少し心配げな一刀の様子に、華雄はちょっと丸めていた背を伸ばした。

「…………ふっ、どうということは」

「えい」

 ぴん、と一刀は指先で洗濯バサミをはじく。軽く。

「っっあぅ!?」

 電流を流されたように震え、その勢いで椅子が倒れかかったので、慌てて一刀は華雄の体を抑えた。

「くっ……ぅう」

 一刀の腕の中で華雄は悶え、目の端に涙を浮かべた。

 スプリングは弱めに調整してあるものだから、潰れたりはしないはずだが、やはり、痛いらしい。服越しでも効果は十分なようだ。

「もう一つ、やってみる?」

「……っ、……好きにしろっ!」

 この程度で屈するつもりはないのか、声を低めながらも、拒まなかった。

 洗濯バサミをもう一つ、逆の乳頭に噛ませた。

「っく……ぁあ……!」

 歯を食いしばって耐えるものの、痛苦で声を漏らす。

 痛みに強いと思っていた自分の体が、たった2つの歯牙に蹂躙されて、悲鳴を上げている。

「……っくぅ、なんで、こんな……」

 動きを制限されているせいか、痛みが、痛みとして、とぐろを巻いて居座り、体を疼かせている。

 しかも、その疼いているのが、普段は気にかけない部分……精々、運動の時擦れたりするのが気になる程度の部分……乳首なのだ。

「か……は、ぅうう」

 息がしづらい。痛みに手足が暴れたがるが、縄が食い込んで動けない。

 そして、息をするたび、意識が、そっちに集中してしまう。

 小さいながら極悪な圧力を、華雄の繊細な部分にかけているそれ。

 じりじりちりちりと身を焼く痛み。

「は……ぁ?」

 流れるほどではないが視界を滲ませる程度の涙のむこうに、華雄は一刀の顔を見た。

 見ている。

 一刀が見ている。

 何を――

 華雄の疑問は、痛みが、答えとして帰ってきた。

 乳首だ。

 服の上からじゃ、よほどのことがない限り見えない、先っぽが、洗濯バサミで、挟まれて強調されているのだ。

 だから、わかる。その存在がわかる。

 他人にも。一刀にも――!

「ぅあ、っ、……見るな、っぁ!」

 視線を感じた瞬間、痛みが、ぐるりと華雄の体をまわって、よがらせた。

 乳首からその奥、背筋を通って腰、お尻まで、痛みの熱が、あたたかなとろみとなって駆け抜けた。

「な、んだ、これ……」

 快感の前兆のようなものが巡ってきて、華雄は、何が起きたのか起きようとしているかわからず、震えた。

「……?」

 一刀は華雄の状態の変化に気付きはしなかったものの、さっきまで痛みに耐えて猫背になっていた背が、反り気味になっているを見てとった。

 そこで一刀は、もう一度、

「えいっ」

 ぴん、と洗濯バサミを弾き、刺激を与えた。

「っひぅぁあああっ……!?」

 絶頂とは違うが、痛みと快楽の汀に突き飛ばされて、華雄は四肢を引き攣らせた。

 その反応に、苦痛だけではない色を感じて、一刀は、興奮を覚えた。

(これが直接なら……?)

 ごく、と一刀は唾を飲む。

 しかし、すでに涙目の華雄をこのまま追い打ちする気は起きなかった。

「じゃあ、次いこうか」

「つ、ぎ……?」

 一刀は華雄の縛めの1つをほどく。手足は自由にならないが、椅子と華雄の体が離れた。床に落ちないように、一刀は華雄の足と首に手を回し、そのまま持ち上げた。

 いわゆるお姫様だっこの状態で、一刀は華雄を運ぶ。

(まぁ、乳首に洗濯バサミ付けてお姫様もないけど……)

 しかし、理解できない痛さと気持ちよさに瞳を潤ませる華雄の顔は、いつもより弱弱しく、支配欲を掻立てられた。

(Sのつもりはないんだけどなぁ……)

 内心複雑だが、華雄がMなら仕方がないか、と思った。

 一刀は寝台の上に華雄を寝かせ、乳首の洗濯バサミを取り、ポケットに入れておいた、拘束具を、華雄の目に付けた。

「っ!?」

 華雄は、突然暗くなった視界に驚き、ベッドの上で跳ねた。

 新しい拘束具。視界を奪う、目隠し。アイマスク。

「な、なんだ、これ、おい!」

 華雄は布団の柔らかさに一安心した直後の仕打ちに、思わず、縄のことを忘れてじたばたした。手も足もぎっちり縄が食いついて、いくらか余裕はあっても、自由はない。

 それでも、視界を奪われることに比べれば、不満はともかく、不安は少なかった。

 すぐ傍に一刀がいることがわかっていたからだ。ひどいことをされても、一刀なら、限界の前で止めてくれると、信頼していた。その信頼は、自覚していたわけではないが、目隠しされたせいで、はっきりわかった。

 拘束されてからさっきまでの、一連の行為も、一刀の存在が撃鉄でもあり、安全装置でもあったのだ。

 だから、その存在が、その動きが見えないのは、怖い。

「ほ、北郷ッ! こ、これは、やめろ!」

「ん? どうして?」

「どうしてって、し、視覚が。見えないと、心の準備が――」

「大丈夫、大丈夫、これ以上痛いことはしないから」

 と、一刀は安心させるように、華雄の剥き出しの肩に手を置いた。

 その肌のぬくもりに、華雄は少し緊張を解いた。

「まだいろいろ道具はあるんだけどね。それはまた今度にしよう」

「今度って……」

 次が、あるのか、と華雄は心臓を高鳴らせた。

(――いや、喜んでどうする!)

 ようするにまたひどいことをする宣言ではないか。

「ところでさ……直接触れてもいい?」

「……? あ、ああ……まぁ、いいだろう」

 そういえば、最初は道具の方が良いって言ったんだっけ、と華雄は思いだした。なんであんなことを言ったのか不思議なくらいだった。

 今は、直接の方がマシだ。

 直接の方が、良い。

「では遠慮無く……の前に」

 一刀は華雄の細くくびれた足首をつかみ、華雄の肢体を引っ繰り返した。

「ひあ!?」

 目が見えないせいで、何をされたかの判断が一瞬遅れる。

(足を開いて、天井の方に……っ、下着っ、み、見えてる!?)

 割り開かれた足の根元、そこには華雄の下着……パンツがある。

「うーん、ピンクとは意外だな」

 一刀は感想を漏らしつつ、足の縄を別の縄に通し、股を開かせたまま固定した。

「こ、これっ……ひ、ひどいかっこじゃ……っ!?」

 見えなくても、自分がどんな状態かは感覚でわかる。

 下半身を天に向けて、股間をさらして……娼婦のように、いや、娼婦でもこんなアホなポーズはしないかも知れない。

 一刀は、アソコを、見ているだろうか。こんな姿態にした張本人だ。絶対に、見ているに違いない。下着はつけているとはいえ、こんな、こんな見せ方は想定していない。

 そりゃそうだ。下着を見せるとき、なんていうのは、よほどの事態で。

 そしてそのよほどの事態の先には、その、つまり、性の、交わりがあるわけで。

 となると、下着のままでいるわけにはいかないのだから、こんな、じっくりと、「見られる」ことはあまりない。

 そしてこの恰好は、まさに、「見られる」、恰好だった。

 店に陳列された商品のように。見られる。観察される。

 下着……いや、正確に言えば、下着じゃない。

 「女が穿いている」下着……だ。

 お尻の丸みで盛り上がり、ふくらみ、お尻の溝にそって皺を作った、パンツ。

 視線を感じる。見えないのに。感じる。

 股座の周囲をなぞるような舐めるような、ねちっこい、視線の熱。

「っ……ぁ、み、見るな……見たら、こ、ころすッ……」

 ただのショーツではない。その先に、自分の、体の、一番、複雑な部分がある。見せたくない、汚い、いやらしい、隠すべき、秘部。

 けれど、そこが、男の情欲をかきたてるということも知っている。

 なら……一刀も?

 このわずか一枚の布を取れば、私を抱きに来る?

(………………いや、だ……)

 華雄は心の奥底で抗いの小さな火を灯した。

(……こんなので、抱かれるのは、嫌だ)

 今のこの状況では、抵抗のしようもないが。

(舌を噛むぐらい、できるんだぞ……)

 華雄は、ひっこんだはずの涙が、またじわっ、と湧き出てくるのを感じた。

(……こんなの、いやだからな。こんな状況で……こんな…………?)

 乱世に生まれ、戦場に生きた自分の、奇妙な弱さに、疑問を抱いた。

(殺されることも、犯されることも、覚悟はしていたのに……なんで、こんなに胸が苦しい)

 怒りとも違う種類の、胸の締め付けを感じる。縄でぐるぐる巻きだから? 違う。

 結論が出ない心と体のあわいに、一刀の手が滑り込んだ。

「……ひぁ!?」

 つ、と硬い指の先端で、太股の線をなぞられる。

 混乱し、沸騰する頭を、一刀の指が掻き混ぜる。見えないせいか、鋭敏に、指の動きが感じ取れる。すり、すり、と肌に一指が通り、通った肌が加熱される。熱い。

「……ふぁ……ぅ……くぅ……!」

 それほど敏感でも繊細でもない、性的な器官でもない部分だと思われる場所が、ただの指一本で、色気づく。

 汗が噴き出て、吐息まで熱せられてくる。指の先っぽただ一点でも、これは、交わりだった。性の交わりだ。

「あ……ぅう……」

 もっと露骨に触ってくれば、罵詈雑言でも浴びせられるのだが、控えめな接触に、なにも言葉が出ない。

 そのせいで、からだが熱っぽくなる一方で、気づけばなにも考えられなくなっていた。

 指が太股の内側を経由して、足の付け根の方へと進路をとる。

 ぞく、と総毛立った。ついに、来る、と。

 どうする、なんとか、避けるか?

 どくん、どくんとうるさいぐらい大きな音をあげる心臓。短くなる呼吸。汗が流れ、そこかしこが、もどかしくなる。

 あと少し、あと少しでパンツに指がかかる――

 ごく、と唾をのんで心の準備をしたところで。

 ひょいっ、と指が体から離れた。

「!!?」

 驚きで声も出なかった。

「……な、なにを……北郷?」」

 途端に不安になる。気配は何となく感じられても、触れられていないと、どこにいるのかわからない。

「はっ……あ……ほん、ごう?」

 怖いけれど、なにかを待ち望むような、そんな心境で、彼の動きを、耳や肌で探る。

 近付いてくる雰囲気――華雄はどこかほっとして――

「ぱっちん、と」

「いっ……!!?」

 洗濯バサミ再登場、さっきと同じ、左乳首にがっちり噛み付いた。

「ひあああああああ!!」

 哭声をあげ、体を曲げ、よじる。

 過敏になっていた身体に、不意打ちの痛みはこたえたようで、涙声が漏れた。

「ぅ……ぅう……!」

 不意の痛みと驚きが冷めると、怒りの熱がわきおこった。

「もう……痛くしないんじゃなかったのかっ……!?」

「ごめんね」

 一刀は素直に謝った。

「たってたから、して欲しいのかなと思って」

「た……って?」

 言われて意識をそちらに向けたが、左の方は洗濯バサミの鈍痛でわからない。右は……たしかに、勃起しているようだった。

 さっきの洗濯バサミのせいか……あるいは、一刀のわずかな愛撫のせいか。

「だ、だからって……だな、これはないだろ……私は、てっきり……」

「てっきり?」

「……なんでもない」

 ふい、とそらした顔に、一刀の手が触れた。

 頬を撫でる手。アイマスクから流れた涙の筋を拭いとる。

「ん……」

 ついでに、一刀は洗濯バサミを華雄の乳房から外し、ベッドの隅に放った。

 手の平の温もりと、痛みからの解放に、華雄の肩から力が抜ける。

 その瞬間に。

 華雄の唇に、一刀の唇が重ねられた。

「んむ!?」

 手指の硬い感じとは違う、柔らかな感触に、華雄は、口づけされている、と理解した。しかし、理解よりはやく、一刀の唇が動く。

 唇の表面をすべり、撫ぜる。左右に、こすりあう。

 離れたと思ったらくっつき、また離れ、くっつき、雨のように、キスをふらせる。

「……ん、ぁ……ちゅ……ぅ……」

 口で息をしようと思えばその唇を奪われ、声を出そうとすればその口唇を咥えられる。動きを封じるという意味では、身体を縛る縄と同じ。優しい、緊縛。

「……ぷは……ぁ」

 長い長い口づけの連なりがようやく途切れ、華雄は、艶めいた吐息をこぼした。

「お前は、いつも唐突だ……」

 と、口を尖らせると、

「じゃあ……これで」

 一刀は、華雄の足の縄を解き、自由にした。

 そして、アイマスクを外した。

 視界が開けて、飛び込んできたのは、一刀の顔だった。

「あ……」

 鼓動が早鐘を打ち、声が震える。

 唾液で濡れたくちびるが、先程の行為は、確かなものだったのだと主張していた。

 再び、一刀の顔が迫ってくる。

 今度は、何がしたくて、何をするつもりなのか、わかった。

 今なら拒める。

 手は動かないが、顔も身体も避けられる。

 強引にやられれば拒否できないが、多分、キスしないという意志を示せば、一刀は、しないだろう、と思った。

 

 だから――

 

 だから、華雄は、目を閉じた。

 唇があわさる。

 吸い付くように、ぴったりと重なる。

 動かせるようになった足を、一刀の腰にまわして、身体も重ねた。

 深く、重なる。いや、重なりじゃない。

 さっきの、指と肌の触れ合いより強い、交わり、だ。

「んん……」

 ベッドの上、2つの肢体が睦み合い、何かの拍子で蹴飛ばされた掛け布団にのっていた洗濯バサミが、床に落ちた。

 とん、と床を跳ねる音が鳴り、床の上を転がり、その動きが止まるのとほぼ同時に、一刀と華雄は唇をはなしていた。

「……」

「……」

 変な沈黙が降りる。

 気恥ずかしいというか、気まずいというか、そんな空気。

「えっ……と、あ、改めようか、また、今度に」

「ああ……」

 お互いにもったいない気もしていたが、この流れで、そのまま、そういう行為に突入するのも、ちょっと抵抗があった。

 一刀は華雄の緊縛を全て解き、痕がついていないか確かめた。

(とりあえず口づけで、満足、か)

 華雄は、指で自分の唇に触れて、なぞった。

(……子供か、私は)

 自嘲するが、どこか心地よかった。

 いつでも飛び越せると自らに言い聞かせていた一線で、踏みとどまった。

 いつでも、どこでも、だれでも、ではない。

 真に特別な想いと共に。想いを共に。

(次だ。多分、その時が、真名を、伝えるときだ)

 胸に宿った予感と決意を抱いて、一刀の方を見る。

 一刀は、洗濯バサミやらアイマスクやらを箱にいれている最中で、こちらに背を向けていた。

「…………」

 とりあえず華雄は、

 

「おりゃあああああああああ!!」

「どわあああああああ!?」

 

 その尻を思い切り蹴飛ばして、今日の溜飲をさげておいた。

 

 

 

 

 


 
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