いつもの紅魔館。
ヴワル図書館に珍しく美鈴が顔を出す。
「あら、美鈴。門番の仕事はどうしたの?」
本から顔を上げたパチュリーは、いつも以上に気の抜けた様子の門番へと声をかけた。
「あ、今日はお休みを頂きまして。せっかくですから、館内を散歩してました。普段は表に立ってばかりで、実は館の中にいる時間って少ないですからね」
「そう」
適当に相槌を打ったパチュリーが、再び読書に勤しもうとしたその時、図書館に第二の闖入者が顔を出した。
「月曜だぞー」
妖精の類と思われるそれは、陽気な声と共に図書館内部を漂っていた。
「月曜だぞー?」
美鈴は、その声にどことなく倦怠感と不快感を感じざるを得なかった。
「あのぅ、パチュリー様。何ですかこの子? あんまり近付きたくないんですけども」
「あら珍しい。月曜の使いね」
パチュリーが手招きすると、件の妖精は彼女の帽子に止まった。
「月曜だぞー」
頭上で得意気に胸を張る妖精を指し、パチュリーは説明する。
「この子はマンデー・ムーン。月曜を知らせるだけの、無害な妖精よ。リリーの親類みたいなものね」
対し、美鈴の表情は暗い。
「でも、見ていると鬱々とした気分になってくるのはなぜでしょう」
「それはあなたが労働者だからよ。月火水木金土日、曜日の支配から逃れられる者は、曜日を意識しない自由人だけ。土日で休日を満喫する者は、同時に月曜へ備える事も義務付けられている」
「パチェリー様は平気なんですか?」
「私は毎日が読書だから、曜日の感覚が薄いのよ。加えて、スペルも曜日の力を借りているから影響されにくいのね」
ほら、と小さい月符を展開するパチュリー。
「月曜だぞー!」
喜んで飛びつくマンデー・ムーンを尻目に、美鈴は吐息を漏らす。
「はぁ……そんなパチュリー様が羨ましいです」
「そんな事ないわ。曜日の支配を強く受けるという事は、陰陽の切り替えがうまくいっているという事。それは転じて自然に即した生き様よ。この妖精はそういったこもごもの転機を知らせる、本来はありがたい子なのよ。それでも、あなた達みたいな人には嫌われる事が多いみたいだけどね」
「月曜だぞー?」
そのありがたい妖精は、無邪気な顔で美鈴を覗き込んだ。それを適当にあしらいつつ、美鈴はパチュリーに持ちかける。
「それでは、パチュリー様も働いてみてはいかがです?曜日のありがたみが分かるように」
「イヤよ、私は病弱だもの」
「ですよねぇ」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
※幻想郷妖精ファイル ~No.187~
<マンデー・ムーン>
月曜を知らせるだけの妖精。「月曜だぞー」と言いつつ空を飛ぶ。知能は低い。
幻想郷の人々はこの妖精を見て、また月曜がやって来るナーバスと戦う事を強いられる。
そのため、マンデー・ムーンは彼らから不当に毛嫌いされる傾向がある。
マンデー「月曜だぞー」
「「「こっち来んな!!」」」
――月曜なんて来なきゃいいのに(※編者・注)
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東方の二次SSを息抜きに。
パチュリーと美鈴の小話を。