この間の賊討伐からしばらく経った。
白蓮から軍議室に至急集まれと連絡がきた。
(そろそろ黄巾党との決着かね、とうとう時代が動くか)
俺が到着する頃には全員揃っていた。
「遅いぞ、仁義」
「悪いな、白蓮。少し山に行ってた」
白蓮に返事をした、最後は俺のようだ。
「それじゃ、始めよう。皆に集まって貰った理由は、これだ」
そう言って、白蓮は机に書状を広げた。
「帝からの勅命……賊の討伐に参加せよ、ですか」
「やっとですか」
遅い対応だ。もう影響力が無いのかね。
そういえば、官軍が黄巾党相手に負け続けてるとの情報もあったな。
「賊の数は二十万。既に有力な諸侯は動いている。私も討伐に参加するつもりだ」
群雄割拠の幕開けか、時代が動くな。
「そして、桃香。これを機に独立しろ」
「良いの、白蓮ちゃん。この間はダメって言ってたでしょ?」
「正直、まだ一緒に戦って欲しい。でも、ここに居続けるなら桃香の理想は貫けない。
私は領内の人々が幸せなら、それで良いと思っている。しかし、桃香はそうじゃないのだろう?
より多くの人々を救いたいという強い意志を感じたからな」
白蓮が笑顔で桃香に言う。
(相変わらず人の良い御仁だ。これは大恩が出来たな)
「独立するのは良いが、兵はどうする? まさか将だけで突撃はせんだろう」
俺が桃香に話しかける。
「それは朱里ちゃんに任せてるよ、仁義さん」
俺が朱里に視線を向けると「これを」と竹管を机の上に出した。
「白蓮様に許可を頂き、雛里ちゃんと一緒に義勇兵の募集と糧食の手配を済ませておきました」
竹管には、兵6000と書かれていた。
「な!?」
白蓮が目に見えて驚いている。
流石にこんなに集まるとは思わなかったんだろう。
「桃香様の噂と愛紗さん鈴々さん仁義さんの武勇を聞き、皆さん集まってくださいました」
「糧食もこの人数を一ヶ月賄える量を用意しました。近隣の方々が提供してくださいました」
近隣の方々ね、最近朱里や雛里が出かけていたのはこの為か。
「これなら戦えるね、愛紗ちゃん」
「ええ、桃香様。朱里、雛里よくやった」
愛紗が朱里と雛里を褒める。2人は頬を赤く染め照れている。
「白蓮ちゃん、今までありがとうございました」
「あ、ああ。桃香も気をつけてな」
白蓮は何とか回復し桃香に返事を返した。
「それじゃ、どうしようか」
あれから出立準備を済ませ白蓮の元を発った。
桃香は星を誘ったが、星は白蓮の元に残ると言い別れた。
……意外と容赦無いな、桃香。
「それに関しては俺に任せてくれ。少し当てがあってな」
「旦那、見つけましたぜ」
雷濠が俺に報告してくる。
「見つけたって、何を?」
「相手の糧食」
朱里と雛里が驚いた顔をする。
「「な、何故しょれお!?」」
綺麗にハモって噛んだな。
「元々雷濠達は糧食を担当している部隊の一つだったんだ。んで、ちょっとした取引で情報を貰ったんだ」
雷濠は「旦那に降るが仲間は売らねぇ!!」って情報を固持してたからな、義理堅い奴だ。
「取引とは?」
愛紗が聞いてくる。
「昔の仲間を助ける事だ」
俺が内容を言うと、雷濠が話し出した。
「旦那には話したが、俺達が世話になった人がいるんだ。今回、糧食の運搬をしている部隊のカシラをその人がやっています」
「その根拠は?」
「その人がいる時は旗を出してるんでさ。名前は楊奉、黒地に白抜き旗印は『白』です」
そうこう話していると、斥候に出していた兵が戻ってきた。
「前方に賊の集団、数は300です。どうやら休んでいるようです」
「300ですか、すぐに制圧出来ますね。では包囲して相手の糧食を奪ってしまいましょう」
朱里が報告を受け提案する。
「奪う? それでは賊と同じではないか」
「ええ、ですから奪って焼いてしまうのです。みすみす渡してしまう事もないでしょう」
愛紗の言う事も分かるな。賊の糧食を奪って自分の物にしたら評判が傷つく。
賊に渡したくない、だったら焼いてしまおうというのも仕方ないか。
「包囲は止めた方がいいぜ、朱里様。昔、官軍に同じ事をされた事があるが姐さんは潔く死ぬ事を選んだ」
凱風が言うには、3人で必死に止めて何とか逃げ出したようだ。
気絶させて無理やり逃がしたから、気が付いてからは大変だったみたいだが。
「度し難いな、それは」
「ただ武人としての誇りを持っている人だから、一騎打ちすれば何とかなるかも」
(そんな簡単にいくかね? 負けたらそれこそ自分で命を絶ちそうだが)
「し、死にそうになったらオデ達が止めるんだな。だ、だからお願いします」
雲堂が頭を地面に付けそうな位下げている。
部下がここまでやってるんだ。俺が奮起しなきゃ男じゃない。
「という訳だ、桃香。悪いが俺がやらせてもらうぜ」
「それは構わないですよ。朱里ちゃん、何か良い方法はないかな?」
朱里は顎の下に手を当て発言する。
「死なせない事を前提とするなら、一騎打ちでいいかと。我々の方が兵も多いですから、最悪の事態にも対応出来ます」
(最悪の事態、常にそれを念頭に置いてくれるなら大丈夫か。ま、そうはならんように頑張るが)
「じゃあ、仁義さんお願いします」
「任された、吉報を待っててくれ。あ、兵を少し借りていくぞ」
俺は桃香の返事を聞き3人組と兵を連れ楊奉の元に向かった。
すぐに楊奉のいる賊集団に出会った。
俺は兵を近くの茂みに忍ばせ、3人組を連れて集団に近づいて行った。
「なんだテメェらは!!」
「雑魚に用事はねーよ。楊奉を出しな」
近くの賊に大声で威嚇されるが、用件だけを言う。
「あぁン!? 何でオカシラに用が「うるせぇ」
目の前にいた奴は全部喋る事無く黙った。
(思わず手が出てしまった。鼻血だけだしきっと大丈夫)
騒ぎを聞いてワラワラと賊が集まってきた。
「なんだい、アンタら」
「お前さんが楊奉か?」
俺の前に出てきたのは、中々のベッピンさんだった。
黒い髪を腰の所で束ね、胸元の大胆に開いたチャイナ服を着ている。
(手に持ってるのは煙管かな。俺好みの美女だ)
「「姐さん!!」」
「雷濠!!凱風!!雲堂!! どこ行ってたんだい、心配したよ」
3人組を見て楊奉の表情が変わる。本当に心配していたようだ。
「食料を渡しに行って戦闘に巻き込まれやして。今は旦那の所でお世話になってやす」
雷濠が楊奉に説明する。凱風も雲堂のウンウンと頷いている。
「アンタがコイツらを助けてくれたのかい?」
「助けたつーか、はった押したつーか。まぁとりあえずこの3人は俺の副官をやってもらってる」
副官という言葉出した途端、柔和になっていた顔が最初のキツイ目付きに戻った。
「アンタ官軍かい」
「官軍ではないさ。義勇軍の者ではあるがね」
義勇軍の言葉で周りにいた連中が武器を構え始めた。なんか質の良い武器が多いな。
「義勇軍? ハッ、アタイ達を討伐に来たのかい」
「否定はせんよ。雷濠達に頼まれてな、アンタを助けに来た」
雷濠が一歩前に進み出る。
「姐さん、旦那に降伏してくれ。もうアイツ等に手を貸す必要ないだろう」
凱風も雲堂も頷いている。
「誰がそんな事を頼んだんだい!!」
突然、楊奉が大声を出す。空気がビリビリと震えているようだ。
「アタイらはね、官軍からも禁軍からも追われる身なんだよ」
官軍ならまだしも禁軍って。
「姐さん、元禁軍の将なんです」
「マジかよ」
帝直属のエリート部隊じゃないか。だから遠目でも分かる程、旗に上等な布を使ってたのか。
「汚い仕事も表沙汰に出来ない事もやった。身も心も削って仕えたのに、いきなり殺されそうになった。
アタイらは帝に捨てられたんだ。だから、黄巾党の連中に手を貸すのさ」
楊奉は空を見上げ煙を燻らせた。
「どういう経緯かは知らん。だが、大の男が頭を下げて頼んできたんだ。それを無下には出来ん」
「ハッ、だったらどうする? 言って置くが、ここにいる連中は他の所と違って強いよ。
アタイが軍にいた頃から鍛えた奴ばかりだからね」
確かに身のこなしも装備も他の連中とはまるで違う。半分ぐらいがそんな感じか。
「楊奉、アンタに一騎打ちを申し込む」
周りの賊がざわついた。
「面白い事を言うねぇ……。乗ってやってもいい、ただし条件がある」
「言ってみろ」
「アタイが勝ったら、アタイらは逃げる。それを追うな」
追うな、か。
「いいぜ。俺が勝ったら、お前を貰う」
「貰うって、アタイは物じゃないよ」
楊奉は可笑しそうに笑った。
可愛い顔して笑うんだな。
中央を開けて楊奉と対峙する。
俺は太刀を抜き正眼に構える、楊奉の手には2本の棒のような物が持たれている。
「そりゃ何だい、見た事ない剣だねぇ。すぐに折れちまいそうだ」
「こいつは刀ってんだよ。簡単に折れるようなヤワな構造はしてないから」
「そうかい、そりゃ良かった。長く楽しめるもんねぇ」
楊奉はニヤっと笑い、地を蹴り一気に距離を詰めてきた。
(な、速い!?)
手に持つ2本の棒の様な物で、流れるように攻撃を加えてくる。
加えて、正確に此方の急所を突き持ち手や足を狙ってくる。
(一つ一つ裁けない速度じゃないが、これは反撃出来んぞ)
顔面に棒を突き出される、それをスウェーバックで避けると突然棒が開き視界が奪われる。
気が付いた時には、楊奉に体当たりの様な形で鳩尾に打撃を貰う。
「かっ!?」何とかバックステップで距離を取り太刀を構えなおす。
「まさか、鉄扇だと思わなかったよ」
「フフフ、そうかい。アンタは反撃してこないのかい?」
楊奉は鉄扇を開きヒラヒラと優雅に構えている。
(太刀じゃちと分が悪いな。仕方ない小回りの利く物を使うか)
俺は太刀を鞘に収め「雷濠!!」と投げて渡す。
雷濠はキャッチしたものの重さに耐え切れず、凱風と雲堂に支えられている。
「旦那!!」
「心配すんなよ。少し戦い方を変えるだけだ」
そう言って懐から袋を取り出し1本の棒を抜く。
その棒を左手に持ち半身に構える。
「待たせたな楊奉」
「あまり女を待たせるモンじゃないよ」
楊奉はまた同じ構えをして、一気に距離を詰めてきた。
先程と同等の速度、さっきとは違い開いた状態でも攻撃される為、より反撃しにくくなっていた。
(相変わらず速い。でもコレを持ったからにはイケる!!)
鉄扇を棒でいなし、腕を取り足を引っ掛けて投げる。
「くはっ!?」
楊奉が立ち上がろうとするが、両腕を胸の前で押さえ込まれ首に棒を突きつけられ動けなくなった。
「……アタイの負けだ」
「そうか、そいつは重畳」
俺は楊奉を立ち上がらせた。まだ、腕は押さえ込んだままだが。
「その棒は何なんだい? 気が付いたら簡単に動けなくなった」
「コイツは十手って言ってな。相手を捕らえる目的で使うんだよ。楊奉の速さに対抗するにはコイツが一番だ。なるべく傷つけたくなかったからな」
(殺すなら太刀でも良い。でも活かすならコイツじゃないと)
そういうと「傷つけたくないか……」と呟き、下を向いたと思ったら突然笑い出した。
「アハハハ!! 全く面白い男だ。アタイの真名は白波(はくは)だ」
「良いのか?」
「良いも何もアタイはアンタの物なんだろう? お前達!!この人に降伏するよ!!」
白波の声を聞き、周りで観戦していた賊達は皆武器を収めた。
「さて、行こうか。え~と」
「俺は陸豪仁義って名前だ」
「真名は教えてくれないのかい?」
白波は悲しそうな顔と泣きそうな声で言った。
「俺に真名は無い。好きに呼んでくれて構わんよ」
「姐さん、旦那は天の御使いのお兄様なんでさ」
白波が驚愕している。
「だから真名が……。好きな様に呼んで良いんだろう? なら、お前様♪」
「まぁ何でも良いけどさ」
何かキャラ変わったような気がする。
雷濠から太刀を受け取り、投降した賊をまとめろ指示し桃香達の下へと帰還する。
余談だが帰還する間、白波は俺の腕にずっと抱きついていた。
胸が、大きい胸が……!!
桃香達の下へ帰った俺達を待っていたのは、覇王との邂逅だった。
後書き
4話目です。
やっとヒロインを出せました。
思い切り趣味に走った性格のヒロインですが。
あるキャラを元に作っているので、分かる人にはすぐ分かるかもしれません。
ではでは、またお会いしましょう。
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4話目です。
楽しんで頂ければ、これ幸い。