「う~む……」
蝋燭の灯りのみによって照らされる、薄暗いその室内において、その少女は腕組みをしたまま、自身の目の前に並べた物を凝視しながら、かれこれ二時間、一人でうなり続けていた。
「……お気に召さないかしらん?」
「いや、そのようなことは無いのじゃがな。どれももう一つ、パッとしないというかの。刺激的というには少々遠いと思うてな」
その少女の背後に立っていた、もう一人のその人物が、腕組みをしたまま煩悶とする少女に声をかけ、自身が用意した“それら”が気に入らなかったかと問いかける。少女はそれに対し、もう一つ何かが足りないといった感じの返答を返し、再びそれらをじっと眺めて、一つをその手にとってはまた違うものを手に取るという作業を繰り返す。
「のう、彦雲。もう少し、何か違った感じのものは無いかのう?……はっきり扇情的、とまではいかんが、もちっとこう……む~、いい言葉が出てこん……」
「そうねえ~。白ちゃんの目的からすると、このあたりが一番効果的かと思ったんだけど。ご主人様を”興奮”させる、いい衣装ねえ~……」
「……のう、彦雲。前から一度聞きたかったのだが、おぬし、何で一刀を“ご主人様”と呼ぶのだ?無論今はあやつがわれらの主じゃから、そう呼んでも不思議は無いが、おぬしはかなり以前から、あやつをご主人様と呼んでおったじゃろ?」
「う゛。そ、それはその……」
その少女-李儒のその問いに、思わずといった風に言葉を詰まらせる、その人物-王淩。ほとんど無意識に、一刀のことをそう呼んでいた彼女は、李儒のその指摘にどう答えるべきか、必死になってその脳をフル回転させて考える。
(……さすがにホントのことは言えないし……。今回は、外史の理念を話すことは硬く禁止されているし、どう説明しようかしら……・)
と、王淩が返答に困っていると、
「……別に無理して聞こうとまでは思っておらんから、そこまで悩まずともよいぞ?じゃが、あんまりあやつの前ではそう呼ばんほうがよい。……一刀の生傷がまた増えるだけじゃし」
「……ですね。ご忠告、肝に銘じておきます……。あ、そうだわ」
「?」
何かをふと思い出したように、王淩は自分の後ろにおいてあった鞄を、ごそごそと再びあさりだす。
「……インパクトを与えるというのなら、これが一番いいかも。ごしゅ、あいえ、北郷様なら多分、『ころっ』といくと思いますよ♪」
そう言って、彼女はある一着の服を、李儒の前に差し出した。
「……本当に、これでうまくいくのか……?」
「もっちろん♪サイズ…大きさは白ちゃんに合わせてあるから、ご心配は無用。そのおっきなばいんばいんでも大丈夫よん♪」
「……ばいんばいん言うでない///」
「あらん。殿方はやっぱり大きいほうが好きなものよん?……そりゃあ、中にはちっさいのがすきってのもいるけど、北郷様なら両方大丈夫だしね♪」
「……なんでそう言いきれる?」
「……おとめの、か・ん♪」
うふん、と。にっこり笑顔でウインクをしてみせる王淩であった。
同日深夜。
「あ~、疲れた。……どうにか引越しもこれで済んだし、明日からは今後の統治をどうするか、またみんなで色々と考えないとな~」
鄴から許昌に移ることになった一刀たちは、ここ数日の間本拠地移転の作業に忙殺されていた。その目の回るような忙しさもようやくひと段落つき、久しぶりの風呂を済ませた後、一刀は自分の私室へとその足を向けていた。
「……あれ?こんな時間に誰か居るのか?……いや、確か前にもこんなことが」
いざ部屋についてみると、一刀は室内に人の気配を感じた。この時間に、自分の部屋にわざわざ来る人物となると、大体限られてくる。そっと扉を開け、中に居るであろう人物を探す。……窓から入ってくる月明かりに照らされ、こちらに背を向けている、その小さな背がそこに居た。
「……一刀か?どうじゃ、久方ぶりの風呂は?疲れも癒せたかの?」
「……やっぱり命か。……ああ、とってもいい湯加減だったよ。なんなら君も入ってくると…い…い?」
近づくにつれ、次第にはっきりとしてくる李儒のその姿。そして、彼女の着ているそれを認識した瞬間、一刀はあっけに思いっきり呆気に取られた。
「なんじゃ、その顔は?……どこかおかしいかの?」
「いやいやいや!全然おかしくなんかないです!…って、そうじゃなくて!ど、どうしたのさ命、その服!何でそんな、『セーラー服』なんか着てんの!?」
李儒の着ている紺色のその衣装、それは、元いた世界では結構ポピュラーな、女子学生の着るそれ。思いっきりベーシックなセーラー服だった。
「ん?これか?……おぬしを誘惑しようかと思うてな♪彦雲が用意してくれたものじゃ。どうじゃ?似合っとるか?」
くるり、と。満面の笑顔をその顔に浮かべ、一刀の前で回ってみせる李儒。少々短めのそのスカートが、その遠心力によりまるで傘のように綺麗に開く。
(……王淩さんって、いったい何者なんだよあの人は。どうしてこんなものを知ってて、しかも持ってなんかいるんだ?)
「……どうした一刀?」
「い、いや、別に何でも!……うん、すごく似合ってるよ、命。とっても可愛い」
「そ、そうか?///それはよかった」
と、いつも顔につけている仮面をはずしたその幼い素顔を、少々赤く染め上げて李儒はうれしげに笑う。髪も普段のように三つ編みにはせずにおろしており、太ももまで届く程の長い髪が、月の光に照らされ美しくきらめく。
「……」
「?何じゃ一刀?そんなあほみたいに口を半開きにして」
「アホみたいってのはないだろ?……見とれてたんだよ、その、命があんまり綺麗だったから……さ」
「……ばかもん。て、照れるではないか///」
「はは。……とっても可愛いよ、命」
「あ……」
一刀の台詞に照れ、うつむいた李儒のそのすぐそばに、一刀がそっと近づく。
「泊まりにきたってことで、いいのかな?」
「うむ。……一刀」
「命……」
月明かりだけがわずかに差し込むその室内で、二つの影がゆっくりと重なる。やがて、室内には妖艶な嬌声が響きだす。
翌日。
「えっ……と。あの、みなさん、その格好はどうされたんでしょうか?」
「別にどうもせえへんよ?な?蒔ねえ」
「そうそう。ただ単に、一刀がこういう格好が好きだと聞いただけだ」
「そうです。……夕べ、こういう格好の誰かさんと、お楽しみになられたそうですし」
「ナンデシッテルンデスカ?!」
朝議に出てきた一刀が目にしたもの。それは、ブレザータイプの制服を着た徐庶、キャビンアテンダント…つまりスチュワーデスの服を着た徐晃、そして白いナース服を着た姜維、の三人だった。
「いったいどこからそんな服を持って来たんだよ!?」
『王淩さんがくれました』
「だから、貴女はなにものなんですか!?」
と、三人の返事をきいた一刀が、その場に同席して李儒の横でそっぽを向いている王淩に、そんなツッコミを入れる。
「あらん。私はただのお・と・め・よん♪……でもごしゅ…一刀さん?夕べの白ちゃんのあれ、興奮したでしょ?くす」
「そりゃあ……じゃなくて!!」
『一刀さん(カズ)(一刀)』
「はひ!なんでしょうか皆様!?」
「……今夜は、うちらの番やで?」
「逃げたら怒るからな?」
「……承知イタシマシタ……」
そんな、蛇ににらまれた蛙状態の一刀を見て、同じく朝議に参加していた曹仁が、こっそりと司馬懿に耳打ちをしてこう聞いていた。
「……司馬懿どの」
「なんでしょう?」
「ここでは、毎回こうなのですか?」
「……まあ、恒例行事みたいなもので」
「……たいへんだね~、北郷くんも。……あ、そだ。彩香も参加してみたら?」
「なっ!!///ひょ、雹華?!と、突然何を……!!」
「んふふ~。だってさ~、華琳だって言っていたじゃない。……あたしと彩香のどっちかが、北郷くんの子種を授かったらいいんだけど、ってさ♪」
「なななななな!?!?////」
従妹のそんな発言に、一瞬にして真っ赤に茹で上がる曹仁であった。
「……結局のところ、みんな、馬鹿ばっか、てことで」
「あら、仲達ちゃんてば厳しいわねえ。……ところで、貴女はこういうの着ないの?これなんかお勧めなんだけど」
「……なんですか、これ」
「幼○○児服♪」
「……何で伏字?」
「……大人の事情よん♪」
「……馬鹿」
「あん」
~終わり~
というわけで、幕間の十一です。
ちょっと内容がマニアックになりすぎたかなーw
でも後悔はしていない(きぱり)w
と、それはさておき。
一応、すでに当該作品では言いましたが、この場でもう一度ご報告を。
当作品中に出てくる曹洪ですが、今回、siriusさんが描かれた曹洪へと、
キャラクターチェンジをいたしました。
もともと、彼女についてはsiriusさんからイメージだけは聞いていたので、
それに近い感じの子で書いていたのですが、やっぱりあの方の曹洪、雹華がめっちゃ可愛かったんでw
というわけで、siriusさんに多大なる感謝をしつつ、今回はこれにて。
次回もまた幕間の予定です。
それでは、再見、ですw
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幕間、その十一です。
今回のメインは命です。
ちょいとマニアックになっちゃったけどw
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