時間は少し遡り、美羽との面会を終えた後。
美羽の城から雪蓮姉さんの屋敷に帰る途中である。
「はぁ~、俺って悪人だな…」
美羽とのことで自己嫌悪中である。
呉のためとはいえ、美羽のことを利用していることに対してだ。
これでは『あの広間』と変わりないな…
「確かに、袁術と話している時の一刀様は悪人の顔をしていました」
「ぐっ…」
馬を横に並べていた思春からの攻撃。
美羽と話した後の思春は機嫌が悪くなる。
「怒るなよ、思春。確かに、呉を取り込んだ袁術のことを嫌う気持ちは分かるが。」
「…そうではありません…」
うつむいて何やらつぶやいているが、良く聞こえなかった。
「しかし、気にする必要はないかと思います。
もともと互いの利害の元の関係です。あちらも私たちを利用しているのです」
「そうは言うけど…」
確かに美羽たちも俺たちを利用している。もともとそういう契約だ。
お互いに納得している。しかし彼女は今も苦しんでいるのだ。
「……そのためにも今回の連合、成功させなくては…」
改めて心に誓うのであった。
屋敷に戻った俺達は、連合に参加すための準備に追われた。
「それで、洛陽に放った間諜はどうだ?」
連合参加にあたり、方針を決めるための軍議で冥琳が明命に聞いた。
「はい。それが…放った間諜さんはみなさん帰って来てません。
…おそらく捕まったか、殺されたか…」
「そうか…敵はかなり敏感になっているようだな…」
「でも、洛陽の情報は欲しい。董卓が暴政をふるっていないとしても…」
「一刀。あなた、董卓が悪政を行っていないと思っているの?」
「……いや、それは分からない。でもこの連合は多分、発起人の袁紹の嫉妬の部分が多いと思う」
「どういうこと?」
「帝を擁立した董卓に対してか…」
「そうだ、冥琳。あの宦官粛正の時、劉協陛下を手に入れることが出来ず、いいとこ取りをした董卓に対する腹いせだよ」
袁紹は本当は自分が帝を保護し、権力を手に入れるつもりだったんだ。
「…なるほど、だからこそ洛陽の様子が知りたいと…」
「どういうこと?冥琳」
「つまり、本当に悪政が敷かれていたらよいが…実際に洛陽についたとき、洛陽が荒んでいなければどうなる?私たちはただの侵略者だ」
「そうね…最悪の事態についても考えなくちゃいけないのね…」
「そういうことだ、雪蓮」
「しかし間諜が帰ってこないのでは、洛陽の様子もわからんのぅ」
「……明命。すまないが、お前が行って来てくれいないか?」
「…分かりました!」
冥琳の命令に明命は明るく答えた。彼女は呉一の間者だ。まず見つかることはないだろう。
「連合との戦いが始まるまでに戻ってきてくれ」
「無理はするなよ」
心配ないが一応注意をしておく。
「はい!では、行って参ります」
そういうと明命は勢いよく部屋から出て行った。
残った俺たちは、これからのことについて話し合いを再開した。
こうして俺たちは連合の合流地点へと向かった。
集合場所に着くと、袁紹の部下の顔良に陣を張る場所まで案内された。
周りには今回の招集に応じた他の諸侯たちがすでに陣を構築していた。
「いろいろなところから来てるわね…まず袁紹に曹操、公孫賛…あ、劉備も来てるわね」
「何だ?劉備に興味が有るのか?」
「ええ。義勇軍の大将から平原の相に大出世よ。
あそこには勇将、知将と揃ってると聞くしね。これから楽しみよ」
「なら一度話してみるか」
「そうね」
「しかし、人が多いなー」
俺は再び周りを見渡してみた。黄巾党の時に比べるとかなり増えている。
「野心のある者はその後の時代を見据えて、この戦で力をつけるために参加するだろう」
「俺達と同じか…」
「さて、そろそろ軍議の時間かしらね…冥琳、行ってきて~」
「こういうのは軍の代表が行くべきだろう?」
「だって、メンドクサイんだもん!それに、どうせみんな腹の探り合いよ?行きたくないわ」
「はぁ~、穏!私は軍議に行ってくる。陣の構築頼むぞ。」
そう言って冥琳は軍議の開かれる天幕に向かった。
しばらくして冥琳が軍議から戻ってきた。
「どうだった?」
「雪蓮の言う通り、みんな腹の探り合いよ。
…総大将は袁紹に決まった。そして洛陽に皆で向かう」
「……で?」
「それだけだ」
「それだけ?作戦とかは?」
「無い!汜水関、虎牢関を通り洛陽を目指すのみだ」
「あの堅牢な関を超えてゆくのか…」
汜水関と虎牢関と言えは洛陽にゆく道の途中にある関で、険しくそこを超えるのは難しいとされる。生半可な力では超えることが出来ない。
「そして先陣は劉備の所に決まった」
「そう…なら劉備を仲間に引き込みましょか」
「そうだな…やつはこの戦いを切り抜けることが出来れば必ずや、英雄としても才を発揮するだろう。今のうちに恩を売っておくのもいいな」
そう言うと劉備の所へ使者を送った姉さんと冥琳は、劉備の陣へと向かった。
「…さて、俺達はさっさと天幕を張りますか」
姉さんたちがいなくなり、俺は陣構築の為の指示を飛ばす。
そこに陣の入り口で番をしていた兵がやってきた。
「孫権様!孫権様に用があると言うものが来ておりますが…」
「俺に?誰だろう…」
「はっ!名前はs「久しぶりね孫権」…」
兵の言葉を遮るように、凛とした声が聞こえた。
声の聞こえた方を見ると、そこには2人の部下を引き連れた金髪の少女が立っていた。
「えっ?…もしかして、華琳か?」
「貴様!!華琳様の真名を呼ぶとは!!」
そう言うと華琳…曹操の左後に控えていた黒髪の少女が幅広の刀を構えた。
チャキッ。それに反応した思春も武器を構えた。
「…春蘭。いいのよ」
「しかし華琳さ「しゅんら~ん?」…はい」
華琳に諌められた春蘭と呼ばれた少女・夏侯惇は武器を下ろした。
「ごめんなさい、一刀。この子は腕は確かで忠誠心もあついのだけど、早とちりでね」
「いや、気にしてないよ。思春も武器を下ろすんだ。…それよりどうしたんだ?」
「同じ学び舎で学んだ旧友に会いに来るのに理由なんているのかしら?」
華琳と俺は、子供の頃同じ塾で学んでいた。
彼女と俺は互いに競いあう仲であったが、母さんの事があり呉に戻るため塾を出てからそれきりである。
「俺も久しぶりにあえてうれしいよ。前(黄巾党の時)は話す時間がなかったからね」
「ええ。あの時孫の旗も見えたから来ていたのはわかってたわ」
「…それより、本当の要件は」
華琳はただ懐かしいからと言う理由でこんな所までわざわざ来るような奴では無い。
「そうね、単刀直入に言うは…私のところに来ない?一刀」
「「なっ!」」
思春と夏侯惇が驚きの声をだした。
「なぜです!華琳様!このような男がいなくても私がいれば十分です!」
「貴様!一刀様に対してそのような口の聞き方を!」
今にも夏侯惇に斬りかかりそうな思春どうにかなだめ、
「どういう事だい?華琳」
「私塾時代、あなたは私と競うほどの実力を持ていた。私と並ぶほどの知をもつ人物はそうそうにいないわ。
それに聞いたわよ?先の黄巾党での活躍。武力も隊を率いる能力も申し分ない。…なにより『天の子』としての名声!我が覇道を遂げるに必要よ!」
「せっかくの誘いだけど、断らせてもらうよ。俺は呉の王族だ。呉の民の為に力を使う。
それにここには大切な人たちがいるからね」
思春を見てそう答えると、顔を赤くした。
「そう、わかったわ。今日のところはこれでお暇させてもらうは。
でも、私は欲しい物は何がなんでも手に入れるわ。覚えておきなさい一刀」
そう言って華琳は陣を去っていった。
その後、劉備と話に行っていた姉さんたちが戻ってきた。
「何か、変わったことはなかった?」
「ううん。問題ないよ」
俺は笑顔でそう答えた。
今回みんな大好き?かりんさま~!!が登場しました。
一刀くんと華琳様は同じ私塾で学んだ同級生でした。
しかし孫堅の死により一刀くんは私塾をやめ、呉に戻ってしまいます。
華琳様は自分と競うほどの実力を持つ一刀くんの事をどうにか取り込もうと考えます。
こんな設定です。
華琳様もこの先、一刀くんの種馬スキルにやられるんでしょうか。
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第4話です。汜水関の戦い前の話しです。
今回はみんな大好きドS女王様が登場します。
ゆっくりしていってね!