No.21694

ミステリ【Joker's】:第1章

【Joker's】絞首台の執行人 小説版です。

犯罪心理?物というか
ミステリ崩れ(笑)な小説です;

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2008-07-26 00:01:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:495   閲覧ユーザー数:488

 

 

 代夜来(しろやらい)は、ワイヤレスイヤホンの音量を下げながら歩いていた。わざわざスマートフォンを出して操作せずに済むのは、ワイヤレスの良い所だと思う。

 友人の勧めで聴いているこのアーティストのアルバムは、何処が良いのかさっぱり分からない。だが感想を聞かれた時の為に、どんな音楽も一通りは聴く事にしている。

 それが人間関係を円滑に保つ、一つの手段であるからだ。

 

 桜の花弁が渦を巻いて舞い上がったかと思うと、急にこちらに吹き付けてきた。強い南風だ。

 花弁の襲撃に思わず身を竦(すく)めながら、随分と暖かくなった、と老人の様に沁み沁みした。

 ――まだ十六歳なのに。人より早く歳を取っている気がする。

 ふいに周りに目をやると、同じ制服を着た人間だらけになっていた。学校は目前だ。

 

 それにしても日本のこの制服という制度は、ありがたい制度だと来は思う。

 男なのか女なのか、一目瞭然なのが良い。

 小柄で生まれつき色素が薄い来は、昔からよく女の子に間違えられてきた。

 染めなくても髪が栗毛色で、目もくりくりと大きいものだから、私服では女の子に見えるらしい。

 昨今、日本の若者の中性化は『草食系』だとか『乙男(オトメン)』などとよく取り上げられるが、当事者にしてみたら迷惑な話なのである。

 遺伝子の問題だろう――来は考えながら信号が青になるのを待った。

 

 横断歩道を渡って、右に曲がると正門が見える。

 ――いつもなら。

 

 しかし、今日の私立K高等学校の正門は、非日常的光景が繰り広げられていた。

 混乱している。人ごみで前が見えない。

 何事だろうか。人だかりを掻き分けようと前に出てみたが、叫び声に行く手を阻まれた。

 

「生徒達は裏門に移動して!」

 若い女性の甲高い声が響いた。名前も顔も知らないが、多分教師なのだろう。

 傍で二人の男性教師が生徒達を誘導している。

 来も生徒として、それに従わざるを得なかった。

 

 裏門に誘導されながら後ろを振り返って見ると、パトカーらしき物が見える。

 フェンス越しに校庭と校舎の様子を伺う。

 生徒の姿は無い。

 朝早くに生徒達に見せたく無い、何らかの事件が起こったらしい。

 携帯に連絡が無い事を考えると、恐らく誰かが自殺したのだろう。

 

 校舎に入っても、廊下の至る所に教師がいる。随分と厳重な警備だな、来は感心しながら廊下を歩く。

 複数の監視で正門の様子を伺い知る事は不可能だったが、教師達の隠せぬ動揺から自殺という仮説は確信に変わっていった。

 誘導は体育館へと続き、体育館に辿り着くとクラスごとに整列させられた。

 やがて始業のベルが鳴り、校長の口から予想通りの『異常事態』の真相が明かされた。

 

 自殺した女子生徒の名前は上野麻季(うえのまき)。

 二年C組のごく普通の女の子だった。

 

 ――その子の事は知っている。

 

 昨年の秋、英語スピーチコンテストの校内予選が行われ、彼女は一学年代表としてそれに参加していた。

 全校生徒の前で、堂々と英語で演説をしていた。綺麗な発音だったから、彼女の事は覚えている。

 成績は優秀だった。

 決して目立つ方では無かったが、友達は多い様に見えた。

 いじめを受けている風でも無かった。

 

 ――どうして彼女が自殺をしなくてはならなかったのか。少しだけ気になった。


 
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