No.216420

虚々・恋姫無双 虚参拾伍

TAPEtさん

終わりに出来ず……
次回が終わりになります。
一刀が選んだ幸せとはなんなのだろうか……

2011-05-12 21:46:28 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:2719   閲覧ユーザー数:2313

「今まで楽しかったですわ。あなたは僕のことを覚えてくれないでしょうけれど」

 

「僕があの時あなたを事故に合わせなかったら、あなたは普通に家族たちと生きることが出来ました。あなたがここに来るまで苦しんだのも、悲しんだのも、実は全部僕のせいなのです」

 

「だけど、信じてください。あの時以来、僕はあなたの幸せのためだけに今まで生きてきました」

 

「最後までも、あなたのために全てを…捧げるつもりです。それが、僕の償いです」

 

 

 

 

さっちゃん?

 

 

パッ

 

「さっちゃん!!」

 

………ここは…?

 

起きた場所は寝台の中。

でも、場所は華琳お姉ちゃんの部屋ではなかった。

 

「目が覚めたか」

「……みなみちゃん」

 

振り向くと、みなみちゃん、もとい南華老仙がそこに居た。

 

「久しぶりじゃの。あの虚の世界の以来か」

「………ここは…?おかあさ……華琳お姉ちゃんはどこに…」

「孟徳なら今奥の方にいる。お主も行ってやれ」

「………変な夢を見たの」

「うむ?」

 

こんな夢を見ると、どうしても気分が悪くなる。

周りの人たちのことを夢の中で見ると、大体良くないことが起きた。

そして、さっちゃんが夢に出るなんて初めてだった。

 

「さっちゃんは…ここに居るの?」

「……ここに居る。長い間、お主が来るのを待っておった」

「!!」

「行ってやれ。これが最後になるかも知れぬからの」

「……どういうことなの?」

「……お主と同じじゃ」

 

「あ奴ももう先が長くおらぬ」

 

 

「どうなっているの……?」

 

管路に案内された場所は、御殿のような部屋から更に奥にあった部屋。

いや、むしろ御殿はこの奥の方でさっきの場所はそこを通る道だったというべきかしら。さっきのところより何倍は大きいわね。

 

周りには血の匂いが未だに漂っていて、ここで大規模の戦いがあったことが分かる。

そして、管路が案内した一番奥側には……

 

「左慈」

 

――……良く来てくれました、華琳さま。起きてお迎えできなかったことをお許しくださいませ。

 

左慈が無様の姿で横になっていた。

いや、『横になっている』というのはただ彼が『起きてない』というからそう言っただけだが……

 

「……これで、生きているの?」

 

――生きています。

 

「何故……」

 

――『管理者』の生というのは華琳さまたちが思っているのとは違います。体はただ貴方たちに見せるためのもの。本当に重要なのはその魂です。その魂こと命であり、体は自分の力を収めるための器に過ぎません。

 

左慈の『体』は頸以下は全てなくなっていた。

 

「…ここで戦ったせいでこうなったというの?」

 

――良く気づきましたね。ここで戦があったことを…

 

「見くびらないで。何十回の戦場に立った身よ。土人形たちと長く戦っていたとしても、戦での血の匂いぐらい覚えているわ」

 

――……ここにはこの外史の処遇についての管理者たちの元老たちの会議が広がれていました。

 

「外史の処遇?」

 

――簡単に言えば、この世界を残すべきか、それとも消すべきかを決めることです

 

「!!」

 

――華琳さまが言いたいことは分かります。僕たちにそんなことを決める権利なんてありません。ですが、長い間それが可能だと思い込んでいた元老たちはそれを実行しました。僕が来て彼らを止めた時には既に遅く、彼らはこの外史を破壊しようと意見を揃いました。そして、この外史を破壊する要員として動いたのが…

 

「…管路と、そして死んだあの男だったということね」

 

――はい。

 

「ここに居た元老たちは全て貂蝉を支持している人たちのみが集まっていましたわ。多数の政党が無理矢理政策を可決させる時に良く使う強引なやり方ですが…おかげで左慈にとってはいい復讐の場になったでしょう」

 

管路がクスクス笑いながら言った。

 

――……本当はあなたが止めたのでしょう。他のこの事に反対しそうが元老たちがここに来ないようにさせた。管路あなたにはそれほどの力があったのですから

 

「それがあなたのためかと思いましてね…後は、あなたとの戦いをわたくしめは楽しみにしていました故に……」

 

――……管路あなたって本当に殺したくなりますわ…

 

「その体を回復すれば幾らでも受けて立ちましょう」

「二人の間の話に興味はないわ。それで、あなたがそんな体になったのは戦で負傷したのだって言うの?」

 

負傷という段階ではない気もしたが、生きていたからそう言ってみる。

 

――まさか…あんな爺どもを殺すのに、体を持っている僕が傷一つでも負うはずがありません。

 

「なら、何故?」

 

――……アレです。

 

ピカッ!

 

「!」

 

後から何かが光っていた。

その光はどんどん大きくなって、やがて、持続的な光になって、その姿を顕せた。

 

 

 

それは、

 

大きな鏡。

 

「あれは……」

 

――時間及相対的次元移動融合装置

 

「……は?」

 

何それ?

 

「外史と外史を繋げたり融合させるための装置って意味ですわ。まぁ、普通の鏡としての用途もありますけれど」

「冗談はいいわ。あれが何だって」

 

――あれを作るために僕が持っていた力をほぼ全部使ってしまいました。途中でちょっと足りなかったので魂もちょっと削りましたし……それでもちょっと足りなくてもっと削って……もっと削って……重要なところだけ残って全部削りました。

 

「…アレをつくるために自分の命を犠牲にしたって言うの?」

 

――それほどの価値があるものだったのです

 

「何のために」

 

――一刀ちゃんをこの外史の無慈悲な運命ループから救う。そして、この外史も…

 

「外史に管理者たちが一度破壊決意をすると、それを必ず起こします。最後には外史の外をいじって必ずや無に返すでしょう」

 

「何故そこまで……」

 

――あそこにも権力が動いているのです、華琳さま。自分たちの正義を貫かなければ支持する者たちから不満を声があげられ、権威を失う。この世界と同じです。そしてどの世界でも権力を保つための犠牲というのは大きいものです。

 

「犠牲ですって?私たちの世界を壊すって言っているのじゃなかったの?戦って言う位ではないわ。これは虐殺よ。何千万、何億を殺すを殺しているわ」

 

――……それが『管理者』という連中がやることです。

 

「………」

 

ありえないわ。

言わせれば、彼らは私たちの世界を勝手に弄ることが出来る、私たちが言う天という存在。それがこんなことを企んでいたなんて……

 

――だけど、これさえあればこの外史を壊すことを止める事ができます。

 

「そんなことが出来るの?」

 

――これぐらいの大きさの外史の判決は例え管理者の頭首の地位の貂蝉さえも覆すことができません。管理者たちの決意は無効にされ、この外史は未来永久保護されます。

 

「じゃあ、早くそれを動かしなさい。何を待っているの?」

「この鏡は管理者たちの力の精粋です。管理者の力、外史の人の心、そして天の御使いの意志を一つに合わせる外史の最大意志。動かすには各位置の人たちの意志が必要とされます」

「…だから、私と一刀をここに呼んできたの?」

「強いていえば……お二方をこの外史の代表として呼び寄せたって話になりますわね。ふふふっ」

「じゃあ、もう問題ないわよね。私と一刀も居るから。これを動かせば、この世界と、一刀も救えるって?」

「…………ええ、出来ますとも」

「…?」

 

彼女の答えに少し迷いがあった。

私にまだ隠していることがあった。

 

――一刀ちゃんの意志を強くするために今まで待っていました。一刀ちゃんが生きたいという意志がないとこの大きいものを動かすほどの動力を得ることができませんでしたから

 

「言い訳はいいわ。一刀を呼んでくるわ。一刻も早くこれを作動させましょう」

 

「……その必要はないようですわ」

「え?」

 

スッ!

 

「華琳お姉ちゃん!」

「一刀!」

 

一刀がいつものあれで来た。

 

「ごめんなさい、起きたときに居なくて…」

「ううん、大丈夫。それよりも……さっちゃんは?」

 

――久しぶりですよ、一刀ちゃん。

 

「………さっちゃん?」

 

一刀は左慈の姿を見た。

 

頭だけが残った左慈が一刀の姿を見て微笑む。

 

「さっちゃん……?」

 

――…驚いてるようですね。…それは僕のせいでしょう。だけど僕には見えます。あなたは自分の幸せを見つけた。僕がすべきことはその幸せをここで終わらせないことです。それが今の僕の幸せの全てですから。

 

 

 

 

「……うまくいくのじゃろうか……うまく行かなければならぬ。左慈はアレのために自分の全てを捧げたのじゃ。たった一人の幸せのために……あの管理者歴史の稀代の天才を呼ばれ、若い時から元老たちの支持を受けていた彼がどうしてここまで来たものか……」

 

ガッ!

 

「じゃが、それも左慈自身が選んだ道。もはや止めることは出来ぬ」

 

 

 

サッ

 

「!誰じゃ!」

「!!」

「待たぬか!そこは通せん!!」

 

ガッ!!

 

ガガガッ!!

 

「っ!」

「…!孟節!」

「………」

「どうしてここに居るのじゃ。戻れと左慈に言われたはずじゃ」

「一度戻りました。そしてまたここに来ました。今度は自分の力で……もうあの方を一人にはさせません」

「行ってはならぬ!あ奴の意志を無駄にする気か!」

 

――わたくしの邪魔をしないでください!

 

「なっ!か、体が……孟節、お主いつからこんな力を……」

「…先に失礼致します」

「待たれよ、孟節!行ってはならぬ!孟節!」

 

 

 

「あなたはさっちゃんじゃない」

 

――……

 

「一刀?」

 

どういうこと?

彼が左慈ではないって。

 

「……やはり、長く彼女と一緖にいた天の御使いを目を騙すことはできませんわね」

 

――一刀ちゃん…僕は…

 

「一体、何をしたの、さっちゃんは……」

 

――……

 

「ボクが知ってるさっちゃんはこんなんじゃなかった」

「一刀、左慈はあなたのために…」

「孟徳さん、北郷一刀が言っているのはそういうことではありません。彼女の外見を見て言っているのではなく、左慈の魂を見ながら言っているのです」

「どういうこと?」

 

魂を見る?

 

「北郷一刀は長い間魂のみの姿の左慈と時間を過ごしていました。彼は彼女の魂の姿を見ることが出来た。だけど、今北郷一刀が見ている左慈の体はまさにその肉体のごとくボロボロになっていて、以前の形を失っています」

「……先、魂を削ったって、そう言ってたわね」

「はい、それは体の一部を切り落とすことの何十倍も苦しいことです。左慈はあの鏡を作るために自分の力だけではなく魂までも使いきってしまいました。もう左慈は以前の左慈とは違います。今左慈の魂の中に刻まれているのは北郷一刀への愛のみ。それ以外の感情は全て消してしまいました」

「………」

「あなたが愛している子は、それほど誰かにも愛されている子でもあるのです。彼にはそれほどの価値があります」

 

 

――一刀ちゃん。

 

またこうしてあなたに会えることが、こんなに嬉しく覚えてきます。

 

「さっちゃんはまたボクに嘘をついた」

 

――……はい、分かっています。

 

「もう許してあげないって言ったのに……」

 

そうですね。初めて一刀ちゃんに何も言わずに紗江の体を得るために長安に行ってた時も、一刀ちゃんは凄く怒っていましたね。

だけど、

 

――……構いません。あなたに嫌われても……ただ、あなたが幸せになれればそれでいいのです。

 

「さっちゃんをこんな風にしてボクにどうやってしあわせになれって言うの?」

 

――ボクとは関係ないのです。

 

「……?」

 

そう、僕が辿り着いた答えはそれでした。

僕には結局、あなたを救うことができなかったのです。

僕こそがあなたを不幸せにしてしまった張本人。一刀ちゃんが自分の人生で一人憎むべき相手がいるとしたらそれは僕。

僕が一刀ちゃんの周りに起きた全ての不幸の原因と言っても過言ではない。

だからこそ、僕はもっと早くあなたに嫌われるべきだったのかも知れません。

だけど、それができなかった。

あなたに嫌われることが、怖くて怖くて……ずっとずっと後にしていた。

 

それが、華琳さまに先を越されたのです。

あの方が一刀ちゃんのために天下を取ることを、覇道を諦めたとき、僕は自分が追いぬかれたと確信しました。

僕は一刀ちゃんを置いての華琳さまとの戦いで見事に負け籤を引いたのです。

 

――最初から一刀ちゃんの幸せとボクの存在とは何の接点のありませんでした。今まで自分であなたを幸せに出来ると思ってました。が、本当にそれが出来る人は他に居たの

です。だから、僕は華琳さまに全てを託しました。

 

「さっちゃん……」

 

――…嬉しいですわね。やはり、あなたがそんな顔をしながらそう僕を呼ぶ時が、僕にとっては一番幸せです。……だからこそ、僕はあなたの幸せに一番邪魔になる存在。

 

「そんなことは……!」

 

キラッ!!

 

――……もう時間が押してます。

 

「何?」

「あれだけ大きいものです。発動できる時間が限られてます。今この時期を逃すとまた発動できる時が来る前に天の御使いの命がなくなるでしょう。

 

そう、管路の言う通りです。

もう時間がない。

 

――早く始めましょう。一刀ちゃん

 

「……」

 

――自分の幸せだけを考えてください。あなたの幸せが僕の幸せです。あなたが望む幸せの形を今頭の中に描いてください。そして、それをあの鏡の中に全て吐き出してくだ

さい。それが現実となり、真実となってあなたの前に現れるでしょう

 

まるで魔法のように。

あの鏡はそれを可能にする。

御使いの意志という燃料を使って動くからくり。

 

「……僕が望む、幸せ?」

 

――はい。最後を飾るのは、あなたの幸せをつかめるのは、結局あなた自身です。あの時言われた通りに……

 

「…………うん、分かった」

 

――良い子です。一刀ちゃんは。今もう一度あなたを抱きしめられればよかったのに…

 

「………」

 

チュッ

 

――…!

 

なっ…!

 

「…これで良いよね」

 

――……あまり刺激を与えないで欲しいですわね。僕が気絶すると、あれ動かせないですから。

 

「………」

 

またそんな悲しい顔をするのですね。

 

――僕は一刀ちゃんのそんな顔も嫌いではないですけど、これからは笑っていて欲しいですわね。さあ、行くのです。あなたの幸せを探しに……

 

 

 

――二人とも準備は宜しいでしょうか。

 

「で、結局私たちは何をすればいいのかしら」

「二人にはあの鏡の中に入ってもらいましょう」

「鏡の?」

 

華琳さまが分からないという顔をしていらっしゃったので、加えて説明します。

 

――中に入ると、自分が生きてきた人生が走馬灯のように通りすぎていきます。自分が一番幸せだった瞬間を思ってください。一刀ちゃんが望む一番の幸せな形を思ってください。

 

「そしたらどうなるの?」

 

一刀ちゃんが聞いた。

 

――新しい外史につながります。一刀ちゃんが望んでいる外史に。

 

「……それじゃ…華琳お姉ちゃんは?」

 

――一緖に入った人もです。

 

「……でも…それじゃあ華琳お姉ちゃんはこの世界からは居なくなるってことじゃない?他のお姉ちゃんたちはどうなるの?」

 

――………

 

「さっちゃん?」

「彼女たちはうまくやってくれるわよ。私が居なくても、この大陸の平和を守ってくれる」

 

華琳さまがそう言いながら一刀ちゃんを安心させます。

 

「…華琳お姉ちゃんは、それでいいの?」

「構わないわ。あなたが幸せになれる所に一緖に行けるのなら…」

「…………」

 

――他の将の方々も既に一刀ちゃんがこのままではもう直死ぬということをご存知です。こんな形ででも、一刀ちゃんを救うことを彼女たちも理解してくれるはずです。

 

華琳さまが一刀ちゃんを安心させます。

 

「華琳お姉ちゃん……」

「……あなたが考えていることは分かってるつもりよ。だから…安心なさい」

「………」

 

――一刀ちゃん、僕の話を聞いてもらえますか。

 

これが、あなたに言える最後の言葉になるかもしれませんから。

 

――僕はあなたの人生をむちゃくちゃにしてしまいました。あなたの家族を奪い、声を奪い、あなたの幸せを奪いました。なのに、僕はそれらを持っていません。あなたに返すことが出来ません。だから、こんな形にでもあなたにそれを償いたいです。僕の手であなたを幸せにすることはできませんでした。だけど、せめてあなたを幸せに出来る人を探してあげようとおもって、あなたをこの外史まで連れてきたのです。そして、あなたはそんな人を見つけました。

 

「さっちゃん……」

 

――だから、他の世界に行ったら、僕のことは忘れてください。

 

「!!」

 

――僕みたいな人は会ってもないし、これからも会うことなんてないのです。そう思ってください。でないと、一刀ちゃんは僕のことを思いながら過去の以前のことを思い出せて、僕もまたあなたの人生に関わってあなたを不幸にさせてしまった罪を永遠に背負わなければなりません。

 

「…………」

 

――これが、僕に出来る全てです。

 

「…さっちゃん、ボクもさっちゃんに言いたいことがあるよ」

 

一刀ちゃんが言いました。

 

「ボクはさっちゃんのこと恨んだことなんて一瞬たりともなかったよ。華琳お姉ちゃんたちに会う前に、さっちゃんはボクのことを知ってくれる唯一な友たちだったし、華琳お姉ちゃんたちと一緖に住み始めてからでも、ボクのことを一番分かってくれるのはさっちゃんだったよ。だから、ボクはさっちゃんに出会って本当に良かったって思ってるよ。もちろん、さっちゃんのことを思いながら不幸せになったりもしない。だから、さっちゃんも勝手にさっちゃんがボクにしたことが自分の罪だと思わないで。おかげでたくさん幸せな思い出が出来たから」

 

――…………一刀ちゃん…

 

…ありがとうございます。

 

「そろそろ時間ですわね」

 

管路が時間を無さを知らせた。

 

――…行ってください。

 

「……ありがとう、さっちゃん」

 

こちらこそ、今までありがとうございました。

 

 

 

 

静かに鏡の前に立った。

 

横には一刀が居る。

 

鏡に映った私を見ていたら、少し変な気分になる。

 

私はいつからこんな顔をしていたのかしら。

 

こんな優しい顔を、いつから普通にこんな顔が出来るようになったのかしら。

 

一刀のおかげだった。

 

あなたが私を変えた。

 

覇道を歩むと思っていた。

 

大陸を自分の手で平和にしようと思っていた。

 

だけど、本当はたった一人の子供を幸せにさせることも、こんなに難しいことだった。

 

もしかすると、私は覇道などを歩むに相応しくなかったのかも知れない。

 

私は弱かった。私はそんな道を歩めるほど強くなかったし、そんなに強くなりたくもなかった。

 

一人で歩む道がとても寂しくで、もう進むことができない。

 

だけど、この子と一緖に歩く道なら、どこまででも、その終わりなき道を歩んでいける気がする。

 

「一刀、行きましょう」

「…うん」

 

ゆっくりと一刀ちゃんの手をつないで、鏡の中に入る。

 

ぶつかるかと思えば、その鏡は私をそのまま吸い込んだ。

 

「!!」

 

 

 

鏡の中は、また違う世界。

 

いや、なんというか・・・

 

 

「男が泣いたらダメよ」

「…??」

「そんな情けないことをすると、男の子として恥というものよ」

 

覚えているわ。

あれは、初めて一刀に出会った時だった。

あの時の一刀は泣いていたわね。

 

そして、私が来てそう言ったら、一刀は泣き止んだ。

 

「…いい子ね」

 

 

「本当に……良い子だったわ。良い子過ぎた」

「………」

 

他にもたくさんの者が見えた。

初めて一刀が私に付いて知った時。

私を怖がりながらも私を依存する姿。

初めて戦いで人が死ぬのを見た時。

反董卓連合の時。

 

………

 

「一刀ちゃん、一刀ちゃん起きて」

 

アレは……

 

「……ぅぅうう……」

「ほら、起きて」

 

「一刀、アレは、左慈なの?」

「……<<コクッ>>」

 

私が知らない一刀と左慈の姿がいた。

 

「華琳お姉ちゃんたちばボクを無くした一年間、ボクは七年間左慈と姉弟になって過ごしていたよ」

「……そう、だったわね」

「………」

 

そうして考えてみると、左慈は私よりも一刀に付いてよく知っているし、私よりも一刀のことをもっと考えていた。

 

「……何のために?」

「……」

「何のために華琳お姉ちゃんは人を殺すの?」

「………」

「皆が言っていた。人を殺すことはその人を違う人に変えてしまうと。だからそうならないためにボクのことを必要としてくれるといった。じゃあ、どうして人を殺すことをやめようとしないの?どうしてこんな戦争なんかをやり続けようとするんだよ!!!!」

 

 

「……孫呉との戦いの時だね」

「あの時私がどれだけ驚いてたか覚えてるの?」

「……ボクも必死だったの。皆を、これ以上誰一人も死なせたくなかったの」

「…分かるわ」

 

そして、それ以来私は変わった。

 

覇王曹操が、たった一人の子供の意志にその夢をへし折ってしまったわ。

 

「…こうしてみると、私はあなたに嫌な経験しかさせてないように見えるわね」

「そうなの?」

「だって、あまりいい思い出とか私には見えないけど」

「……記憶って、あまり良い記憶は長く頭に残らないんだって」

「残念ね」

「だって、良い記憶なんて他にもたくさん出来るはずなのに、いつまでも昔の良い記憶で頭を満たしていたら、その後に来る幸せを入れる空間がなくなるもん」

「………そう」

 

「お母さん♡」

 

「アレはそのうち早く忘れたい」

「私は絶対忘れないわ」

 

そうやってどんどん他の記憶も蘇って来る。

一刀の記憶。

私とのことだけじゃなくて、春蘭や秋蘭、桂花、他の皆との記憶も

 

「……本当にたくさんあるわね。あなたと私の間の出来事って…」

「うん…」

 

だけど、

もっと沢山あるものがあった。

 

【楽しかったですわ。あなたは僕のこと覚えてくれないでしょうけど】

【あなたのためなら僕はなんでもできるんです】

 

左慈。

あなたは本当に一刀のためなら何でもしたのね。

 

「一刀」

「……華琳お姉ちゃん、ボク言いたいことがあるの」

 

私が言うことを遮って、一刀が言った。

 

「ボクは今ボク一人の幸せのことだけ考えてもちょっと胸一杯だよ

「…ええ、分かってるわ」

「でも、やっぱり他の人たちも皆幸せになってもらいたい」

「……それで?」

「……それでね。やっぱり、ボクのことはちょっと後にしようかなぁと思うの」

 

一刀…

 

「これから皆大変なことになるよ。さっちゃんや華琳お姉ちゃんはそう言うけど、華琳お姉ちゃんが居ないと、他のお姉ちゃんたちは皆慌ててバラバラになるかも知れない」

「……」

「ボクは華琳お姉ちゃんだけあればいい。だけど、あっちには華琳お姉ちゃんのことを待っている人たちがもっと沢山残ってる」

「一刀……」

「だから……決めた。ボクが思ってる幸せの形………」

「!!」

 

一刀の姿が…薄く見える。

 

「一刀!何を…!」

「さようなら、華琳お姉ちゃん」

「一刀、待って!」

「ボクはどこにも行かないよ。ずっと華琳お姉ちゃんの側に居る。だから……安心して」

 

何を言ってるの?

 

「絶対離さないわ」

「うん、ボクもずっとここに居るよ。だけど、もうちょっと待っててね」

「これ以上私にどれだけ待てって言うのよ!」

 

あれだけあなたが幸せになることを祈っていたのに。

まだ時間が足りないって言うつもり?

 

「……お母さん」

「!」

 

最後に、一刀は私をそう呼んでくれた。

 

「今までありがとう。またね」

 

スッ

 

一刀は、そう消えていった。

 

 

 

 

――左慈さま!

 

「遅かったですわね…」

 

――…!管路、あなた!こうなると知ってて黙っていたのですね!

 

「まぁ、おかげであなたはここまで上がって来れるようになったではありませんか。管理者の世界にようこそ、ですわよ」

 

――左慈さまは……!

 

――………

 

「集中してますから声はかけない方がいいですわ。でなければ、中の二人とも迷子になってしまいますから。

 

――左慈さまがどうしてわたくしのことをあんな風にしていたのか分かりましたは。

 

「……ふふふっ」

 

――あれほどの装置をお一人で作られたのです。力をほぼ失って当然です。ですが、作っただけで終わりではありません。あれを動かしてる時にも力が暴走しないように制御しなければなりません!あのような姿でそんなことまでしたら左慈さまは本当に死んでしまいます!

 

「ご名答……それに、鏡を作ることに関わったのは左慈一人。みなみさえもそこに関わってません故に制御できるのは左慈のみ…」

 

――あなたは左慈さまは死んでもいいのですか!左慈さまのことが好きだったのではないのですか!

 

「左慈はわたくしめとある賭けをしました」

 

――賭け?

 

「ええ、賭けです。この全てが終わって、もし自分が生きていれば、あなたと自分のことを祝って欲しい、と」

 

――……!

 

「左慈は死ぬつもりはないのですわ。孟節、あなたのために……それが分かったなら黙っていてもらいます?

 

――……はい。

 

 

カギっ!

 

「!!」

 

――なんですか?

 

「鏡が……装置が割れ始めましたわ」

 

――!どうしたんですか?まさか制御に失敗して暴走……!

 

「…さて、どうなるでしょうか?」

 

――暢気に言ってる場合なんですか!?

 

「あなたはもう少し落ち着きを知った方がいいですわ。左慈がする仕事です。これほどの刺激は日常茶飯事ですわ」

 

――…!

 

ギギギっ!

 

「…とはいえ、今回のは刺激が強すぎますわね。今度無事に逢えたらお仕置きですわよ、左慈」

 

ガーン!!

 

鏡が割れた瞬間、孟節と管路、そして左慈もその光に飲み込まれた。

 

 

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 


 
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