一刀「ここが・・・洛峰?」
一刀と恋は小喬の案内で洛峰へと到着したが、目の前の光景に息を呑んだ。
小喬「はい、ここが洛峰です・・・」
一刀「・・・・・・」
恋「・・・・・・・」
二人の目の前には荒れに荒れ、廃墟と化した村の光景が広がっていた。
一刀「これが・・・洛峰“だった村”っていう理由だね」
その言葉に小喬はうなずき、村の中へと足を進めた。そして、その後を追うように一刀と恋は続いた。
一刀「・・・・・」
村の中を見ていくうちに一刀はあることに気づく。
一刀「(これはどう見ても、廃れたというよりも何かに壊されたというような感じだ)」
建物の壊れている様子はどう見ても人為的に壊されている感じが見て取れた。
一刀「小喬ちゃん・・・これは―――」
と村の様子について小喬に一刀が問いかけようとしたときだった。
???「小喬!」
村の奥のほうから小喬を呼ぶ声と共に、こちらへ走ってくる少女がいた。
小喬「お姉ちゃん!」
足を痛めている小喬は走ることが出来ず、お姉ちゃんと呼ばれた少女が駆け寄ってくるのを待っていた。
???「もう、帰ってくるのが遅いから心配したんだよ」
小喬「ごめんなさい、お姉ちゃん。森の中へ行ったらへんな人たちに襲われて・・・・でもこのお二人が助けてくれたの」
その言葉を聞くと少女は一刀と恋を険しい顔で見た。
一刀「(うっ、小喬ちゃんとは違って強気な感じだな)」
と一刀がそんなことを思っていると、少女は頭を下げた。
???「申し遅れました、私は大喬と申します。この度は小喬を助けてくださってどうもありがとうございました」
一刀「(大喬・・・・そりゃそうか、小喬の姉といえば大喬だしな)」
と自分の知る知識を考えながら一刀は大喬に返事をした。
一刀「いえ、特別なことをしたつもりはありません。人として当たり前のことをしただけですよ」
恋「・・・・・(コクッ)」
一刀の言葉に恋も首を縦に振る。
大喬「それでも、助けていただいたことには変わりはありません」
一刀「そういわれても・・・」
相手の感謝の言葉に少し戸惑いを見せる一刀。自分がしたことを特別なことだと思っていない一刀からすれば、大喬の反応は少し大げさに感じられた。
大喬「ではよろしければ、私たちの家に来ていただけませんか」
一刀「家にですか・・・」
大喬「はい、お礼をしたいですし、それにこんなところで立ち話をしているのもなんですから」
そう言われ、一刀は、どうします?と確認を取ろうと恋を見たが、恋のお腹の音が聞こえてきたので苦笑いしながら首を縦に振り大喬に了承した。
大喬「それでは、こちらです」
小喬に肩を貸しながら奥へと歩いていく大喬の後に二人は続いた。
大喬「こんなものしかありませんが、どうぞ」
奥から出てきた大喬はお茶と菓子を机の上に並べた。
一刀「こんなことまでしていただかなくてもいいのに」
大喬「いえ、他にできることがありませんのでこれぐらいのことはさせてください」
小喬を一度見てから、妹を助けていただいたお礼ですと再度言う。
そうですかと一刀が恋の方を見ると、目の前に置かれたお菓子に釘付けになっている恋の姿が映った。
一刀「・・・あはは」
苦笑いしていた一刀に大喬はお構いなくと声をかけた。
一刀「だそうですよ」
と恋に視線を戻すとすでに目の前のお菓子をパクパクと食べ始めていた。
一刀「・・・・・はは」
小喬「ふふっ」
その様子を見て小喬は楽しそうに笑っていた。
一刀「(まぁ、ちょうど呂布さんのお腹がすいていたときだったから助かったけど・・・・この量はおかしくないか・・・・)」
次々と目の前のお菓子を口に運んでいく恋にも圧巻だが、どうみてもお菓子の量が二人分、いや小喬と大喬をあわせて四人分だと考えてもおかしな量が机の上には積まれていた。
一刀「(そんなに食い意地がはっているように見えたのかな呂布さんと俺って・・・)」
自分がそんな風に見られていたのか、と思うと一刀は少し憂鬱だった。
大喬「そういえば、なぜ―――」
と話しかけようとした大喬が途中で言葉を止め困ったような顔をしていた。
小喬「どうしたのお姉ちゃん?」
一刀「?・・・・・あっ!」
大喬の様子を見ていた一刀が何かに気づいた。
一刀「ごめんなさい、まだ名乗っていませんでしたね。私は魏光と申します。そして、こちらは―――」
小喬「・・・!」
恋の名前を言おうとしたとき、小喬が一刀を睨んだ。
一刀「(うっ!?)」
そして、一刀も何かに気づき口を噤んだ。
大喬「?どうされましたか」
一刀「い、いえ」
平静を装うとしながら、一刀は小喬の顔を見た。
小喬「・・・・・・」
小喬は険しい顔をして一刀を見ていた。
一刀「(そう、でしたよね・・・・)」
一刀が小喬の表情を確認してから、もう一度恋の紹介をした。
一刀「そしてこちらは私の友の呂風といいます」
恋「・・・・・(コクッ)」
一瞬うなずいた恋はもくもくと食べ続けた。
大喬「そうですか、魏光さんと呂風さんですね、改めてよろしくお願いします」
と少し笑顔を一刀と恋に向けた。
一刀「えぇ、こちらこそ」
心配そうに見ていた小喬は胸を撫で下ろし、一刀は申し訳なさそうな顔をしていた。恋は・・・・言うまでもないだろう。
大喬「では改めて、魏光さんと呂風さんは何故、ここに来られたのですか」
その言葉を聞き、一刀は小喬の顔を再度見た。
一刀「・・・・・・」
小喬「・・・・・・」
そして、小喬とのある会話を思い出していた。
一刀・恋率いる親衛隊一行と小喬は山道で足を止めていた。
一刀「素性を隠すのなら、洛峰へ連れて行ってくれるということかい?」
その言葉に小喬は頷いた。
小喬「それと、洛峰へお連れできるのは魏光さんとそこの女性の方だけです」
路宝「なっ!?」
一刀「・・・・・」
恋「・・・・?」
小喬「この条件を飲んでもらえなければ、洛峰へはお連れできません」
小喬の言葉に路宝が割って入ってきた。
路宝「た、隊長、これは怪しすぎます!洛峰の情報がない今、そのような条件を飲んで万が一のこ―――」
ヒートアップする路宝を一刀が手を伸ばし静止する。
路宝「た、隊長・・・」
路宝はその行動に少し動揺をしてしまうが、一刀は真剣な表情で小喬を見据える。
一刀「小喬ちゃん、俺らにはその条件を飲む利点がなければ、理由もない。洛峰が秘境と呼ばれて、普通の人間が見つけることのできないような場所なら、その村の人間の案内が必要だろう。でも違う、洛峰は地図にも載っていれば過去に多くの人間が行き来している場所だ。案内人なんて不要なんだよ、小喬ちゃん」
一刀は表情を変えずに淡々と話し続けた。
一刀「第一、条件を提示する側は相手に対してかなり優位な状況でなければならない。相手の無理を聞く代わりに相手に提示する条件、いわば対価のようなものだ。相手側も無理を聞いてもらえるならその対価も払うのをいとわないだろう。でも、今はむしろ小喬ちゃんのほうが不利な立場にいるんだよ。」
小喬は一刀の話を無言で聞いていた。
一刀「もう、これだけ言えばわかるよね。俺たちが条件を―――」
小喬「それでも!」
小喬は一刀の言葉を遮った。
一刀「?」
小喬「それでも、私は・・・・あなた方にこの条件を守っていただくしかないのです」
一刀「・・・・・・」
一刀を見るその瞳には力がこもっていた。譲るわけにはいかないという意思がこもった眼だ。
一刀「・・・それでも、条件は飲めないといったら?」
小喬「そのときは・・・」
懐に隠していた短刀を抜いて構えた。
路宝「なっ!?」
その行動に親衛隊がどよめいた。
小喬「私があなた方を止めるだけです」
小刻みに震え、痛む足をこらえ一刀の前に立っていた。
一刀「・・・そんなもの一本で本当に俺たちを止められると思っているの?」
その言葉に小喬は何も返答をしなかった。
一刀「・・・・・・」
一刀は何かを考えた後、小喬をしっかりと見据えた。
一刀「そうか・・・・なら」
と小喬が短刀を持っていた手首を素早く押さえた。
小喬「・・・・なっ!」
一瞬のことに小喬は驚きを隠せなかった。
一刀「・・・・・・」
そして、一刀はそのまま小喬に手を伸ばした。
小喬「!・・・」
小喬は身体を強張らせ、咄嗟に目を瞑ってしまった。
小喬「・・・・」
しかし、身構えた身体には何も衝撃は来なかった。
一刀「・・・・そこまで必死になられたら、条件を聞いてあげるしかないよね」
と一刀は語りかけながら、小喬の頭を撫でた。
小喬「えっ?」
先ほどまでの険しい表情は一刀の顔にはなく、笑顔で小喬に語りかけていた。
路宝「隊長・・・・」
その様子を見ていた親衛隊は複雑な表情だった。
小喬「・・・どうして」
一刀「んっ?」
小喬「どうして・・・私の言うことを・・・私のことを・・・信じてくれるんですか」
小喬がうつむいたまま、一刀に問いかけた。
一刀「・・・・・」
小喬「私は先ほどあったばかりの人間なんですよ・・・それに、あの路宝という方の言うようにあなた方を罠に落としいれようとしているのかもしれません」
小刻みに震えながら、小喬は一刀に話し続けた。
小喬「なのに、どうして・・・」
路宝「・・・・・」
親衛隊「・・・・・・・」
周りの人間は固唾を呑んでその様子を見守っていた。
そのとき、一刀は小喬と同じ目線になるように膝をついた。
一刀「じゃあ、小喬ちゃんは俺たちを罠にはめようとしているの?」
小喬は一刀のその言葉に、小さく首を振った。
一刀「なら、それが真実なんでしょ。小喬ちゃんにどんな理由があって、どんな意図があってそんなことを言ってきたのかは分からないけど・・・そんな眼をして、一生懸命ぶつかってくる人間に悪いやつなんて、俺はいないと思うよ」
小喬「・・・・・」
一刀「それに、俺は勇気を振り絞って俺たちの前に立ちはだかろうとした小喬ちゃんをすごいと思うし、尊敬するよ」
一刀の言葉に少しずつ小喬の顔が歪む。
一刀「ごめんね、さっきは怖い思いをさせて。さすがに、一つ返事でわかったって言うわけにはいかなかったからさ」
と再び、笑顔を小喬に向けた。
小喬「うっ・・・うう」
その瞬間、小喬の眼に涙があふれてきた。
一刀「良く頑張ったね・・・えらかったよ」
そういうと、一刀は小喬のこぼれてきた涙を手で拭った。
小喬「う・・うわぁぁぁぁぁん!」
何かが吹っ切れたように小喬は一刀に抱きつき、大声で泣き始めた。一刀も抱きついてきた小喬をしっかりとやさしく抱きしめた。
一刀「泣きたいだけ、泣いていいんだよ」
やさしく呟きながら、一刀は小喬を優しく撫でていた。
親衛隊「・・・はは」
その様子を見ていた親衛隊はやれやれとため息をついていた。
路宝「・・・はぁ・・・全く、この方に敵わないな」
と苦笑いしながら、呟いた
小喬「うわぁぁ~――――――――」
その後、小喬は今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように泣き続けていた。
―――――――――
大喬「どうかされましたか、魏光さん?」
何かを考えこんだまま黙っていた一刀を、大喬が心配そうに見ていた。
一刀「あ、いや、ごめんなさい。ちょっと、考え事をしてしまって・・・」
大喬「そうですか・・・」
と不思議そうに一刀を見ている大喬。その様子を見ていた小喬が口を挟んだ。
小喬「お、お二人は各国を旅しているそうですよ」
大喬「へぇ、そうなんですか?」
一刀「え、えぇ、俺と呂風は各地を旅していて、それで今回はたまたまこの洛峰を目指していたんですよ」
大喬「そうだったんですか・・・でも、こんな状態の洛峰では無駄足というものですね・・・」
そう話すと表情が少し暗くなった。
一刀「そんなことは思っていませんよ・・・ただ・・・何故このような状況になってしまったのかは気にはなってしまいますが」
大喬「・・・」
小喬「・・・」
一刀の言葉を聞き、何かを思い出している様子の二人は、明らかに浮かない顔をしている。
一刀「あっ、いや、すみませんでした。よく考えもせずこんなことを言ってしまって・・・今のことは忘れてください」
空気が明らかに重くなった二人を察して、一刀は謝りつつ話題を変えようとした。
大喬「・・・いえ、妹を救ってくださった方々ですし、ここであったのも何かの縁です。この村で起こった事をお二人にはお話します」
一刀「いや、でも・・・」
大喬「お聞きください」
一刀「・・・・・」
その決意のこもった瞳を見て、一刀は口を挟むのをやめた。
大喬「・・・まずは私たちの村、洛峰について少しお話をしておきます。」
と大喬は静かに話し始めた。
大喬「ここ洛峰は平頂山の中腹に位置していることから他の地域との交流が少ないため、村の人間の力で生活を日々送っていました。険しい森を切り分け田畑をつくり、腕に自信のあるものたちで獣の狩りを行っています。生活が裕福とは言えませんが、皆で協力し合っているこの状況に私は日々、幸せを感じているほどでした」
村の話をする大喬はどこか楽しそうに、そして悲しそうに話をしていた。
大喬「今、国を統べている魏、呉、蜀のようにものや人があふれているわけではありませんが、それでも私は、洛峰は他の村や都に引けをとらないほどすばらしい村だと思っていました」
一刀「(“いました”・・・・か)」
大喬の話を聞きながら一刀は、少し視線を落とした。
大喬「・・・そう、思っていられたのも2ヶ月前までの話です」
その言葉を口にした大喬の顔には怒りの感情が見て取れた。
大喬「あの日、私たちはいつものように街の皆と食料の調達のために狩りに出かけていました。その日の狩りは何事もなく無事に終わり、十分な食料を調達することが出来ました。いつもより、たくさんの食料が調達できたので狩りに出ていた皆で、帰ったらみんな喜ぶだろうな、なんて話をしながら帰っていたんです。でも私たちが村に帰りついたとき・・・・村は・・・村の皆は・・・」
大喬は歯を食いしばり、こぶしを握り締めていた。
大喬「ほぼ・・いえ、完全に壊滅していました。」
小喬「・・・・・・」
その状況を思い出しているのか、小喬は今にも泣きそうなほど沈んだ顔をしていた。
一刀「・・・生き残った人はいたんですか?」
大喬「はい、・・・その日たまたま洛峰に訪れていた商人が一人。村の人間の生き残りは・・・いませんでした」
一刀「そう・・・ですか・・・」
一刀は口をつぐんだ。
大喬「家屋はすべて破壊され、村の皆は惨殺されていました。誰が何の目的で、こんなことをしたのか全く検討もつきませんでした、何故、私の村が・・・何故、村の皆が・・・」
大喬はその日のことを昨日の出来事のように思い出していた。
大喬「でも、誰がやったのか今はもうわかっているんです」
一刀「えっ?村を襲った人間が誰かわかったんですか?」
大喬「えぇ。でも実際は誰がやったのかわかるようなものはほとんどなかったんです。気味の悪いくらいに何も残っていなかったのです。残っていたのは瓦礫と死体以外は・・・」
一刀「じゃあ、どうやってわかったんですか?」
一刀は真相が気になり、口を挟んだ。
大喬「あの後、殺されてしまった村の皆や瓦礫の山をこのままにもしておけず、生き残っていた皆で埋葬と村の片付けをしていたのです。偶然その時に、瓦礫の下から“あるもの”を見つけたのです」
一刀「あるもの?」
大喬「ええ。そして、意識が回復した商人から話を聞いて間違いがないことがわかったのです」
大喬の眼には完全に憎悪が宿っていた。
小喬「・・・・」
しかし、うつむいていた小喬は複雑な顔をしていた。
一刀「そのあるものっていったいなんだったんですか?」
大喬「・・・・」
大喬は一度深呼吸をして、心を落ち着かせ口を開いた。
大喬「瓦礫の下には・・・“魏軍”の旗が落ちていたのです」
一刀「な、なっ!?」
一刀は驚きを隠せず、その場に立ち上がってしまった。
恋「・・・?」
黙々と食べていた恋も一刀の行動に少し驚き、視線を食べ物から一刀にうつした。
一刀「それは・・・それは本当なんですか?!」
思ってもいなかった大喬の言葉に一刀も半ば冷静ではいられなかった。
大喬「えぇ、私が見つけたのです。間違いはありません、それに、生き残っていた者も、魏の者に襲われたとはっきり言っていました。紫色の服をまとった兵士たちが村を多い尽くしたと」
一刀「・・・・」
一刀はその言葉を聞いて眉間にしわを寄せた。
恋はというと・・
恋「もぐもぐ・・・」
状況を飲み込めていないというより、話を聞いていなかった。
一刀「(だから小喬ちゃんは親衛隊の皆を村に連れて行けないと言ったのか・・・こんなことになっている洛峰に魏の部隊をつれてきたら混乱するどころか、闘いになってしまうからな・・・)」
一刀は小喬がなぜあんな条件を提示したのかようやく理解が出来た。
一刀「でも、大喬さん。魏の王、曹操様がそんなことをするわけ―――」
とそれは何かの間違いだと大喬に訴えかけようとした瞬間だった。
バンッ!!
突然、誰かが扉を開けて入ってきた。
男「だ、大喬ちゃん!小喬ちゃん!」
その人物は、洛峰の入り口で門番をしていた男だった。
小喬「お、おじさん!?」
大喬「ど、どうしたの?!」
突然の出来事に二人も驚きを隠せなかった。
男「た、大変なんだ!!村の近くに、村の近くに!」
冷静さを欠いているその男は、気持ちだけが先行して思うように話すことができずにいた。
小喬「おじさん、まずは落ち着いて、ね」
と小喬がその男の前に立ち、落ち着かせようとした。
男「はぁ、はぁ・・・」
男も小喬に言われ、少し呼吸を整えようとした。そして、少し落ち着いてきたのか、話し始めた。
男「大喬ちゃん、小喬ちゃん、聞いてくれ。街の近くにやつらが・・・魏の部隊がいたんだよ!」
大喬「な、なんですって!?」
小喬「えっ!?」
一刀「なっ!?」
その言葉を聞いた三人は耳を疑った。そして、一刀と小喬は顔を見合わせた。
一刀「(そんな・・・ありえない!)」
驚きを隠せない一刀と小喬、しかし、それも無理はなかった。洛峰に入る前、小喬と一刀は親衛隊の待機場所を綿密に話し合い決めていた。洛峰周辺の地形に詳しい小喬の話を元に一刀が最善の場所を割り出した。洛峰から近くも遠くもない森の中、人の通るような道はなく、普通ならば誰も近寄るはずのない場所を待機場所に選んだ。だからこそ、親衛隊が見つかるはずはないと二人は考えていた。
大喬「また・・また村を襲いに来たのね」
小喬と一刀の心境をよそに、大喬の感情は完全に憎しみに覆われていた。
大喬「村の皆を集めなきゃ」
そう呟くと大喬は家の外に飛び出した。
小喬「お、お姉ちゃん!?」
その様子を見ていた小喬は大喬を追いかけた。
一刀「くそっ!」
一刀は状況が整理できないまま、事態は悪い方向へと進んでいることを認識した。
一刀「何が、どうなってるんだよ!?」
その場で止まっているわけにも行かず、一刀は二人のあとを追い、家の外に出た。しかし、そこで一刀は予想だにもしていなかった光景を眼にした。
一刀「なっ、なんでここにいるんだ!?」
今度の光景はさすがの一刀も眼を疑った。それもそのはず、今、一刀の眼には親衛隊の姿が映っていた。待機を命令していたはずの親衛隊が、なぜか洛峰の入り口にいたのだ。
命令を下していない親衛隊が何故ここに?誰がここに連れてきた?何でこんなタイミングで?一刀の頭の中はぐちゃぐちゃだったが、それでもどうにかして頭の中で事態を把握しようと一刀は努めていた。しかし、そんな時間は全くなかった。事態は最悪の展開を迎えようとしていた。
一刀「本当に何がどうなってるんだ・・・・」
一刀はその場で固まっていた。予想だにもしていないことの連続でさすがの一刀も動揺していたのだ。
恋「・・・魏光」
と家の中から出てきた恋が一刀に声をかけた。
一刀「あっ、呂布さん」
固まって動けなかった一刀が恋の方を向く。
恋「・・・・動く」
一刀「・・・・」
恋はその一言を一刀に呟いた。
一刀「・・・はは、呂布さんには適わないな」
こんな状況にも動じず、あっけらかんとしているその表情に、一刀は落ち着きを取り戻した。
一刀「行きましょう」
恋「・・・(コクッ)」
恋は頷き、一刀と共に村の入り口へと駆け出した。
一刀たちが向かうその先ではすでに一触即発のムードが洛峰の人間には漂っていた。仇を目の前にした彼らは憎しみと怒りの感情に身を任せようとしていた。そしてあの日の記憶が彼らの武器をもつ手に力を込めさせていた。
小喬「お姉ちゃん!」
痛む足を堪えながら、姉を追ってきた小喬は、精一杯の声を振り絞り、姉を呼んだ。
大喬「皆、行くわよ!!ここで・・・ここで!魏なんかに負けるわけにはいかない!」
しかし、そんな小喬の悲痛な叫びも大喬には届いていなかった。完全に頭に血が上り、周りを見る余裕など全くなかった。
大喬「私に続けぇ!!」
オォォォォ!!!
大喬を号令と共に、親衛隊へ向け洛峰の民が動き始めた。
小喬「お姉ちゃん!きゃぁ!?」
必死であとを追っていた小喬がつまずき転んでしまった。すぐに立ち上がろうとするが足に激痛が走る。無我夢中で動かしていたが、もともと歩くだけで痛みが伴うほどの怪我をしていた足は、完全に限界を迎えていた。そのうえ無理をしたせいか、今は触るだけで激痛が走る。
小喬「!!!」
しかし、それでも小喬は事態を収束させるために立ち上がろうとする。
一刀「待って」
とそのとき後から追ってきた一刀が無理に立とうとした小喬を静止した。
小喬「ぎ、魏光さん・・・」
小喬は立ち上がるのを止めた。一刀の笑顔を見たとたん先ほどまでの焦りは薄れ、心が落ち着いてきた。
一刀「・・・・・・」
恋「・・・・・・」
小喬が冷静になったのを確認すると、一刀と恋は入り口の方へと走り出した。
洛峰入り口付近にて―――
親衛隊A「な、何がどうなってるんだ?!」
親衛隊B「どう見ても、俺たち歓迎されてる感じじゃないですよ」
路宝「くっ!」
親衛隊は目の前の状況に動揺を隠せなかった。
路宝「(やはり、洛峰に来るべきじゃなかった。“あいつ”もいつの間にかいなくなっている、そもそもこんな状況で魏光様が他人に伝令を頼むなんてことありえなかったんだ)」
こんな状況にしてしまった自分の不甲斐なさを悔いた。しかし、悔いている時間などなく洛峰の人たちが武器を構えこちらに向かってきていた。
路宝「くっ!やむを得ない。魏光様が来られるまで我らも死ぬわけにはいかない、いいか親衛隊!相手を向かい討て、そして、誰も死なず、誰も殺すな!」
親衛隊「はっ!」
路宝「流刀の陣!構え!」
路宝の号令と共に、親衛隊は横一列になった。盾を利き手にもち、武器の刃を逆さにした。魏軍唯一の護りの隊、親衛隊。攻めを捨て、相手の攻撃を受けきる防御の陣である。
オォォォォォ!
洛峰の民たちの士気が上がる。親衛隊が武器を構えたことで洛峰の民は一層武器を持つ手に力を込め、速度を上げた。そして、親衛隊と洛峰の民が親衛隊とぶつかる、その刹那だった。
一刀「退歩!」
一刀の号令がその場に響く。親衛隊はその言葉が聞こえるや否や構えを変えぬまま、後方へとすばやく下がった。そして、洛峰の民と親衛隊との間にあいたスペースに上空から何かが降りてきた。
ドォォォォォン
轟音と共に砂塵が舞う。
洛峰の男A「な、なんだ!?」
洛峰の男B「くっ!砂埃で何も見えん」
視界がゼロになるほど砂塵が両者を包んだ。突然の出来事に洛峰の民は驚きを隠せなかった。しかし、親衛隊の反応は全く違った。隊長の号令と共に起こった出来事。“ならば、隊長の作戦である”と親衛隊全員が理解し、その事実だけで冷静さを保つことが出来た。
砂塵が起こって数秒、次第に視界が良好になっていく。
洛峰の男C「ようやく晴れてきたか、んっ!誰かいるぞ!」
砂塵が起こった地点に人影が二つ。その姿に親衛隊から歓喜があがる。
路宝「魏光様!呂布様!」
その場には一刀と恋が立っていた。そして、その足元には先ほどまではなかった半径2メートルはあるであろうクレーターのような穴が開いていた。
一刀「いやぁ、さすが呂布さん」
一刀は足元に開いた穴を見ながら感嘆の声を上げた。
一刀「頼んだことを本当にしてくださって感謝ですよ」
恋「(フルフル)・・・・・・」
恋は一刀の言葉に首を振る。
一刀「?」
恋「・・・・・・簡単」
一刀「ハハハ・・・・(簡単なんだ、これが)」
涼しい顔で恋は言い放った。しかし、常人には到底できないであろうと一刀は確信していた。
洛峰の男C「・・・・・はっ!?お、お前ら!邪魔をするのか!」
あっけにとられていた洛峰の民が我に返り声をあげる。
一刀「んっ?いや、立場が立場だし邪魔をしてるわけではないけど・・・でもこの状況なら邪魔してる様に見えるのかな」
恋「・・・・?」
一刀の問いかけに恋は首をかしげる。
洛峰の男A「えぇい!邪魔をするな!そこをど―――」
???「待って!」
洛峰側からを制止する声が上がる。いきり立っていた男はその声が聞こえると素直にその言葉を聞き入れた。そして、洛峰の民はその声の主に道を開けた。
大喬「私にここは任せて」
その声の主は大喬だった。そして険しい顔をした大喬が一刀の方に行き、目の前で立ち止まった。その様子を少し後ろの方で小喬が心配そうに見ている。
大喬「魏光さん・・・これはどういうことですか?」
一刀「どういうことって?」
一刀は顔色一つ変えず、大喬の顔を見た。
大喬「・・・まぁいいです。それでは私の質問に答えてください。」
一刀「いいよ」
険しい表情の大喬とは違い、一刀は普段どおりの笑顔で答える。
大喬「まずその方のことですが、その方は旅人“呂風”ではなく蜀の武将“呂布”で間違いないのですか」
一刀「うん」
一刀は一つ返事で頷く。そして、それを聞いていた洛峰の民はざわつき始めた。それもそのはず、最強の武人と謳われている人間が目の前で武器を構えているのだから。
大喬「それでは二つ目、あなたは蜀の方なのですか」
一刀「いや、違うよ」
その答えを聞くと、大喬の険しさが増した。
大喬「・・・それでは最後に・・・あなたは・・・なんなのですか」
大喬は持っていた武器を強く握り締めていた。そしてその質問を待っていたように一刀は答えた。
一刀「俺は魏の覇王、曹操親衛隊隊長魏光です」
その言葉を聞いた大喬を含め、洛峰の民に衝撃が走る。村の仇の魏の部隊がいるだけでなく、幹部クラスの武将が目の前にいるのだから。
洛峰の男B「う、うぁぁぁぁ!!」
一刀の正体を知った男が、我慢の限界を達し一刀に襲い掛かろうとする。
一刀「・・・・」
一刀も自分の刀に手をかけた。
大喬「ま、待って!待ちなさい!!」
大喬は再度、洛峰の民を制止した。
洛峰の男B「な、なんでだ!なんでだよ大喬ちゃん!こいつは、こいつは、魏の幹部なんだぞ!今ここで殺さないでいつ殺せって言うんだ!!」
大喬「そんなのわかっているわよ!!だからこそ少し黙ってて!!」
ヒートアップする仲間と自分の理性を保とうとしている大喬は苛立ちを隠せず、声を張り上げた。
洛峰の男B「くっ・・・」
大喬のその気迫に押され、武器を引き後方へと下がる。
大喬「小喬」
大喬は少し離れていた小喬の名を呼んだ。
小喬「はい」
大喬「一つだけ答えて」
小喬「・・・・」
大喬「あなたは・・・この人に本当に助けられたの?」
大喬は小喬のほうに顔を向けないまま下を向いていた。
小喬「・・・・ほんとうだよ」
小喬は少し考えてから、言葉を発した。
大喬「・・・そう」
その言葉を聞き、大喬は武器を握る手の力を抜いた。
大喬「・・・魏光さん・・・いえ魏光殿」
一刀「なんでしょう」
大喬「受けた恩は恩です。この場は見逃します、だから早くここから去ってください」
大喬の言葉にどよめきが起こる。洛峰の民は仇を目の前にして見逃すといった大喬の言葉が信じられなかったのだ。
洛峰の男A「大喬ちゃん!!正気かい!?こいつらを見逃すって」
大喬「えぇ・・・」
洛峰の男A「納得いくかよそんなの!こいつらは村の皆を皆殺しにしたやつらなんだぞ」
大喬「そうね・・・」
洛峰の男A「だったらここで―――」
そういうと武器を振り上げ、一刀に襲い掛かろうとした。
大喬「“洛峰の民”!!」
洛峰の男A「!」
大喬の言葉に男は動きを止めた。
大喬「“我らは如何なるときも義を重んじ”・・・」
洛峰の男A「・・・“そして、義には義を返す”」
男は振り上げた武器を引いた。大喬と男が口にしたのは古くから掲げられてきた洛峰のしきたりだった。それは、洛峰にいる人間の常識であり、信念でもあった。
大喬「・・・そういうことよ皆」
大喬自身悔しさを隠し切れずにいたが、その言葉を聞いた洛峰の民は思い思いの顔をしつつ、構えていた武器を下ろした。
大喬「わかったでしょ、早く魏に帰って報告でもしなさい。洛峰は魏の王、曹操の首を狙っていると」
その言葉を一刀に言い残すと、大喬は洛峰の民を連れて、村に戻ろうとした。
一刀「いや、ちょっと待って」
しかし、村に戻ろうとする大喬を一刀は呼び止めた。
大喬「・・・なに?もう話はついたはずよ」
一刀「いや、何も話は終わっていないよ」
大喬「はっ?」
その言葉に大喬は一刀を睨み付ける。
一刀「魏の武将として、この洛峰を放っておくわけには行かないからね。」
路宝「(え?ぎ、魏光様)」
その言葉に大喬と洛峰の民の表情が一気に険しくなる。そして、一刀の突然の言葉に親衛隊も驚きを隠せなかった。
大喬「では・・・どうしようというの?」
一刀「簡単なことだよ。親衛隊は洛峰を武力でもって制する」
親衛隊「なっ!?」
洛峰の民「な、なんだと!?」
その場にいたすべての人間に衝撃が走る。
大喬「・・・魏の人間に義を返そうとした私が馬鹿だったということね・・・」
大喬は、先ほど以上の怒りをあわらにして、一刀の顔を見た。
大喬「いいわ・・・あなたがお望みならば、洛峰の民がそのおろかさをあなたたちに死を持って償わせてあげます」
その言葉に洛峰の民は、武器を構えた。
一刀「いや、ちょっと待ってくれ」
大喬「いまさら、命乞い?」
一刀「いや、そういうわけじゃないんだけど一つ提案があるんだ」
大喬「提案?」
一刀「うん、親衛隊と洛峰の人たちが戦えば、必ず被害が出る。でも、俺は無駄に被害を増やしたくないからね、だから、そんなことしないで、この村と親衛隊の勝敗を賭けて俺と一騎打ちで勝負しよう、大喬さん」
洛峰の民「はぁ!?」
親衛隊「はぁ!?」
小喬「(ぎ、魏光さん!?)」
恋「・・・?」
その言葉にまたもや、周囲はどよめいた。
一刀「♪」
大喬「・・・」
しかし、周りの反応を気にすることなく一刀は普段どおりだった。笑顔を崩さず、大喬を見つめていた。そして大喬も一刀を見つめていた。一刀の提案に困惑しつつも目の前の男の思惑がなんなのか考えていた。この男の真意はなんなのかと・・・
・ ・ ・ 雑 談 ・ ・ ・
どうも、お久しぶりです皆様。
前回の更新から、あと一ヶ月もすれば1年がたとうとしています。
・・・・大変遅くなりました。
えぇと(´`;実際私のお話なんて忘れられているかたがほとんどだと思うのですが、少し、心身共に余裕が出来たので今回更新させていただきました。
このまま謝っているのもなんなので、ここからは物語のお話をさせていただきます。
前回のお話から容易に予想できたことでしょうが、大喬さんが物語に登場いたしました。前回の雑談でも言わせていただきましたが、本家からイメージと名前だけお借りして、性格は全く異なっております。半オリキャラのような扱いになっているので皆さん気をつけてください(笑)。
で今回のお話なんですけれども、恋さんが地面にクレーターをあけた場面、恋さんはジャンプ一番で空から降りてきました。でも、あの描写だと一刀君も一緒に飛んできたことになりますが、実際一刀君は地面を走ってきました(笑)
私の物語の一刀君にそんな恋さんと同じことが出来るはずがないのです。でも、「一刀君は上空からではなく地面を走ってきた」みたいな説明を入れるとなんだか盛り上がりに欠けたので(私的にですが)説明を付け加えませんでしたすいません!!(笑)
一刀君の扱いはそんな感じがベストだと思う今日このごろです。
でここからは今までの雑談内でのお話についてなんですけれども、いくつか雑談内で物語の内容、設定についてほのめかした部分が微妙にあったと思います。でもですね、更新していなかった期間、いろいろと考えたのですが、そこらへんは変更をしていこうと思っております。
ただ、矛盾するような変更はしないようにしますのでそこは温かい目で見てやってください。
それでは、いつも、支援、コメント、閲覧してくださってる方ありがとうございます!!
それではまた次のお話でお会いしましょう (・ω・)ノシ
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harutoです。
お久しぶりです。おっしゃりたいことは多々あると思いますが、それはコメントで・・・
それでは熱読してもらえれば光栄です^^