No.215127

私の義妹がこんなに可愛いわけがない とある嫁と小姑のいつもの会話

俺の妹がこんなに可愛いわけがない二次創作です。
pixivからの転載となります。8巻が出ると作中の前提状態が崩れるかもということで急遽投入です。
基本的に黒猫さんが一人称解説してくれますので、原作やアニメの知識は必要とはしていません。初めての方も読み進めていただければ俺妹を間違った知識で吸収していける筈です。

ちなみにこれはpixivで初めてランク入りし、閲覧5千を唯一マークした作品なのですが、個人的な出来としては普段と同じか初めて書いた俺妹だったのでむしろちょっと……かなとも。

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2011-05-05 11:00:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6050   閲覧ユーザー数:5407

私の義妹がこんなに可愛いわけがない とある嫁と小姑のいつもの会話

 

 

「ねえねえ、黒いの黒いのっ! 訊きたいことがあるの」

 先輩の部屋に遊びに来ていたら、スイーツ星の使者がバタバタと駆け込んできた。

 先輩がお菓子を買いに出掛け不在の隙を突いてわざわざ入って来るタイミング。よほど2人きりで話したいということなのだろう。

「何よ?」

 あまり良い予感はしないけど、とりあえず話を聞くことにする。

「アンタってアイツと付き合ってるんでしょ?」

 正直またかと思った。これで何度同じ質問をされたのかわからない。

 このスイーツ女は私が今日こそ異なる答えを出すことを無意識に期待しているのだろう。

 だけどそうは問屋が、ううん、先輩と闇の契約を結んだ私が期待通りにはさせない。人間風情に、しかも自己中スイーツ如きには負けられない。

「ええ。私は先輩とお付き合いしているわよ」

「あっそ……」

 スイーツの顔がムッとなった。予想どおりの反応。

 ここで「お付き合いなんかしてないわ」とか「もう別れたわ」とか言えば、この女は私を慰めるかからかう言葉を掛けながら満面の笑みを浮かべたに違いない。妹ゲーのエロゲーをプレイしている時に見せるあの緩みきった至福の笑顔を。

 だけどそんなの冗談じゃないわ。苦労してやっと掴んだ彼女の座。簡単に手放してたまるものかしら。

 大体、私が先輩の彼女になる上で最大の障害となったのはこの女だった。

『黒いのだったら……アイツのこと……任せてもいいかもしれない……』

 このスイーツも告白する直前は私と先輩の仲を認めるような言動を少しだけ取っていた。

 けれど、私から告白し実際にお付き合いすることになった段階でこの子は態度を変えた。

『うわぁあああああぁんっ!』

 まず並んで寄り添って立つ私たちを見て大泣きされた。まるで私たちが手酷くいじめたかのように泣かれた。14歳というよりは4歳の泣き方。予想外だった。

『2人が付き合うなんて絶対に嫌っ! 絶対に認めないんだからぁっ!』

 次いで反対された。文字通り先輩にしがみ付いて交際に反対されてしまった。

 この子を宥めて2人の仲を認めてもらうのにどれだけ労力を費やしたことか。思い出すだけでも頭が痛くなってくるほど。

 そして私の苦労が増えた他の原因には先輩の頼りない態度、というか勘違いがあった。

 先輩は、私たちの交際が反対された理由を、私とこの子の関係が壊れることを懸念してのことだとずっと勘違いしていた。ううん、今でも勘違いしている。

 あれだけわかり易いブラコンを見せられて尚且つ悠然と勘違いを続ける先輩の姿はラノベの主人公を髣髴とさせる。

 そして先輩は自他共に認める重度のシスコン。妹の為にメール1通で学校を1週間以上も休んでアメリカまで迎えに行く人なのだからもうこれ以上語る必要もないだろう。

 そんな人が妹に交際を反対されたらどう出るか。

『俺たち本当に付き合って良いのかな?』

 なんて真顔で切り出された時には心が本気で折れそうになった。闇の世界に私の存在全てを投げ打ってしまいたくなった。

 そんなこんなの苦難の末に2人の交際をようやく認めたもらえた筈なのに……。

「アンタたち、本当はもう別れてるんでしょ? 遠慮しないで言っちゃいなさいよ♪」

「先輩とは毎日ラブラブに過ごしているから心配要らないわよ」

 結局あれから毎日のようにこのスイーツは私たちの仲を何気なく引き裂きにくる。本当にあれは何の為の苦労だったのかよくわからない。

 おかげでこの子に対応する為だけにラブラブなんて恥ずかしい単語が自然と使えるようになってしまった。実際の私たちの関係はまだ手を繋ぐのにも緊張してなかなかできないというのに。

「しっかし、アンタも物好きよねぇ。あんな地味男で甲斐性なしのどこが良いのやら?」

 そして初期目標を達成できないと見るやコロコロと話を変えてくる。学年は1つしか違わない筈なのに世代間ギャップすら感じるほどに話していて疲れる。

 だけどこの兄を兄とも思わぬ尊大な態度。というか私は目の前のスイーツ女が「お兄さん」とか「お兄ちゃん」とかまともに呼んでいるのを聞いたことがない。

 それでいて近親相姦でさえ犯しかねないほど重度のブラコンをやっている。だからある意味でその根性の曲がりぶりは筋金入りで凄いとも思う。

 だけど先輩の悪口はたとえ妹とはいえ訂正させてもらう。

「先輩はとても優しく頼りがいがある素晴らしい方よ。私は何度も先輩に救われたわ」

 スイーツはまたムスッとした表情を見せた。

 このスイーツは自分では先輩の悪口を言い放題止め処もなく喋る。しかし他人が、特に先輩の恋愛対象になりそうな年齢の女が先輩の悪口を言うことには極めて不寛容だ。

 更に他人が、やっぱり恋愛対象になりそうな年齢の女が先輩を誉めることにも不寛容という極めて扱いにくい生物でもある。

「あーはいはい、リア充乙~。さっさと爆発しろっての」

 こうやってすぐにへそを曲げる。

「ま~でもアイツに助けられた回数ならあたしの方が断然多いけどね。頼んでもないのにアメリカまで来ちゃうぐらいだし~」

 そして自分の方が上であることをアピールしたがる。何を勝ち誇っているのだか。

 ただのオタク友達だった時の方がわかり易くて楽な関係だった。喧嘩の方が楽な人間関係というのも変な話だけど。

 

 

「でさぁ~、アンタってあたしの義姉さんになるんでしょ?」

「いっ、いきなり何を言っているのよ、貴方は!?」

 また話がいきなり飛んだ。しかも地球の反対側どころか闇の眷属の世界に突入しかねないほど大きな方向転換。

「だって、アンタがあの地味男と結婚したらあたしの義理のお姉さんになるじゃない」

「けっ、結婚なんてそんな先の話をされても返事に困るわよ!」

 言いながら自分の頬が急速に熱を帯びていくのがわかる。私の顔はきっと真っ赤になっているに違いない。

 私たちはまだ高校生なのだし結婚なんて言われても現実味がない。でもそれは、先輩のことが結婚したいほど好きじゃないからという理由じゃない。私は先輩を愛している。

 私ももう16になったのだし、先輩も18歳の誕生日を迎えている。現行の法律なら私たちはもう結婚できる。もし先輩が今すぐプロポーズしてくれるのなら私は全てを投げ打ってでもそれを受けたいと思う。

 でもその決意が自分でも陳腐に思えるのはやっぱり私がまだ高校生の子供だから。

 結婚は愛情だけの問題で済む話じゃない。経済的な問題が重要だし、子育ての問題も考えないといけない。それらの問題をクリアするには私も先輩もまだ幼すぎる。

 だから2人が大人になった時、先輩がまだ好きでいてくれるなら私は喜んで彼の元に嫁ぎたいと思う。

 それが私の結婚に対するプラン。

「結婚が考えられないって……アンタっ、そんないい加減な気持ちでアイツの彼女とか言っちゃってるわけ!?」

 だけどそんな私の切な想いは目の前のスイーツには伝わらない。ポストよりも信号よりも顔を真っ赤にして怒っている。目なんか今にも私を呪い殺しそうな狂気の眼光を放ってる。人間風情のくせになかなかやるわね。じゃ、なくて。

「大人になって先輩がまだ私を好きでいてくれるなら喜んで結婚するわよ」

 一応自分の意思はきちんと述べておく。どうせ伝わらないのだろうなと思ったのだけど、意外にもこの子は怒りを解いた。と、思ったら今度はまた急に絞まりのない表情に変わってしまった。一体、何故?

「そうよね~。アンタみたいな邪気眼厨二病女が男と長い時間付き合える訳がないもんね~。可哀想に。よしよし」

 スイーツは超ご機嫌な表情で頭を撫でて来た。この女の中では私が近い将来先輩に捨てられることが既に決定しているらしい。

 本当に腹立たしい。

「貴方、そんな性格していると友達なくすわよ」

「ほとんど友達のいない瑠璃ちゃんに言われると納得せざるを得ない重い言葉よね」

 しかもああ言えばこう言う。

 先輩と付き合うようになってからこの子のブラコンはむしろ拍車が掛かっている。私は完全にライバル視されている。

 モデルやったり、陸上の記録持ってたりと華やかに見えるこの子の人生は実は先輩一色だったことを改めて思い知らされる。

 

 

「まあ、黒いのにはライバルが多いし、あたしがアンタを義姉さんと呼ぶ日は来ないのは決まりよね~♪」

 そしてまたスイーツは陽気に笑う。でも、私にしてみれば少しも笑えない。

「私、既に先輩の彼女なのだけど?」

 誰とも付き合っていない状態の先輩を巡って複数の女が彼女の座を争っている状態ならライバルという言葉も成立するだろう。だけど今の私は正真正銘先輩のたった1人の彼女。ライバルなんて言葉は成立しない筈。

「ハァ? 何言ってんの、アンタ? 男なんて寝取ってなんぼ、略奪愛してなんぼのものでしょうが。彼女が特権的地位だと本気で思ってんの?」

 スイーツは心底バカにする瞳で私の顔を覗き込んでくる。

「……それは貴方の小説の世界の中での常識でしょうが」

 声を殺しながらそう返答するのが精一杯。でないと怒りで頭が沸騰してしまいそう。

 でもこの子には先に聞いておかないといけないことがある。

 それは「ライバルが多い」の『多い』の部分。

「それで、私のライバルというのは誰かしら? 参考までに聞いておきたいのだけど」

 どうせこの子の思い込みなのだろうけど、一応確かめておくことにする。

「そうね。わたしに近い所から挙げると、まずトップバッターはあやせね」

「あやせって誰よ?」

 知らない名前の子だった。

「あたしの親友でクラスメイトでモデルやってるあたし級に超美人の子なの。すっごいでしょ?」

 何でこの子はいちいち自分のことを持ち上げないと気が済まないのだろう?

 でも、そんなことよりも……

「ああ。去年のコミケ帰りに会ったあの子のことね」

 思い出すのは1年前の夏コミの時の帰り道。正直あの時のことは良い思い出じゃない。

 そのあやせって一般人の子に非がある訳じゃない。けれど、このスイーツに気持ち悪いオタクとして切り捨てられたことは結構辛かった。

「そうそうアイツってばさ、あやせのことマイスイートエンジェルとか呼んじゃって、顔見る度にデレデレ締まりのない顔しちゃってるのよね♪」

 ニヤニヤしながら私を見る。私に対する嫌がらせで間違いない。私は先輩の好みではないので諦めて別れろという。

「へぇ~、そうなの。よほどすごい美人な子なのでしょうね」

 努めて冷静に返す。だけどやっぱり言葉の節々が強張ってしまう。

 私は先輩にスイートと呼ばれたこともエンジェルと称されたこともない。特別な服でも着ていない限りデレデレされたこともない。

 明らかに私はそのあやせという子に外見的評価で負けている。それは私だって、丸顔とはいえ人気読者モデルや本職のモデルに外見で勝てるとは思っていない。

 だけど女として好きな男の一番の好みになれないのは悔しいに決まっている。でも、でもだ……。

「そのあやせという娘が美人だからどうだと言うの? 別に私と先輩の仲には関係ないじゃないの」

 特に接点のない人物がどれだけ美人だろうと別に関係ない。銀幕内の美人映画女優に嫉妬しても意味がないのと変わらない。

「フッフッフ~。ところがそうじゃないんだな、これが♪」

 スイーツは小賢しくも私よりも大きな胸を張りながら偉そうにしている。行動の意味がまるでわからない。

 この子にはコミュニケーションにおける最も重要な何かが欠けている。私も他人のことは言えないのだけど。

「あやせは会う度にアイツにぶち殺すだの変態だの嫌悪感丸出しで罵るんだけど」

「あやせって娘は一般人ではなかったの?」

 普通友人のお兄さんに向かってそういう辛らつな悪口ってなかなか叩けないと思う。あやせって娘には一般常識がないのかしら? 私もまったく他人のことは言えない悪口を先輩に沢山放っていたけれど……。

「いっつもツンツンしている割に最近学校ではアイツの話ばっかりするのよ。しかもどうでも良い話ばっかり延々と」

「まんま貴方と同じじゃない……」

 この子と同じということは……すごく良くない予感がする。

「あたしが見た所、あやせってば典型的なツンデレタイプなのよ。あれはアイツに惚れていると思ってまず間違いないわね。うん、あたしが保障するわ」

「貴方の代替機なの、その子は?」

 勝ち誇るスイーツ女を見ながら溜め息が止まらない。

「フッフ~ン。あやせは超強敵よ。アンタに勝ち目はないわね」

「うるさいわね」

 というかこの女、私が先輩と付き合う前だったらそのあやせって娘の好意を微塵たりとも受け付けなかっただろう。先輩への想いを必死に思い留まらせていたに違いない。

 でも今は私と先輩の仲を引き裂くのに利用する気に違いない。友人を刺客として遣そうだなんて何てえげつない娘なの。末期ブラコンはここまで人を変えてしまうものなの?

「ちなみにあやせはまだアンタたちの関係を知らないの。だけど、知ったら大泣きすると思うわよ。そして2人に会いに来ると思うわよ。包丁持ってぶっ刺しに」

「……ツンデレじゃなくてヤンデレじゃないの」

 頭が痛い。この女の近しい友人というだけで本気で刺して来そうな気がするから怖い。あやせという子に声を掛けられたらNice Boatされないように間合いに気を付けないと。

 

 

「フッフッフ~。あやせで凹んでいるようじゃ次からの刺客にはとても対抗できないわね。諦めてさっさと別れたら?」

「うるさいわね」

 この女、泉に投げ込んだら綺麗なスイーツに替わったりしないかしら?

「だったらあたしは次の刺客として、アンタの学校の赤城瀬菜ちゃんを召喚するわ」

「いつから貴方は私に刺客を送り込む謎のエージェントになったのよ? というか何であの女なのよ?」

 クラスメイトでゲーム研究会の部員同士。でも仲が良いのかといわれるとそれは微妙。というか性格が正反対な私たちは共闘関係にない限り一緒に何かをやることはない。赤城瀬菜とはそういう関係。

「フッ。瀬菜ちゃんのポテンシャルを甘く見ていると泣くことになるわよ」

「先輩の大好きなメガネに巨乳、しかも妹キャラでしょ。そんなことわかっているわよ」

 属性だけで考えると赤城瀬菜のポテンシャルは侮れない。だけど、先輩もあのメガネも互いに異性としては意識しあっていない。だからそう恐れることはない。

「だから甘いって言ってんのよ。フッフッフ」

 丸顔は調子こいて笑っている。一体、私が何を見落としているというの?

「瀬菜ちゃんの最強のポテンシャル。それは……腐、よっ!」

「それがどうしたっていうのよ?」

 質問する声が呆れている。

 赤城瀬菜が腐女子だなんてことは私が一番良く知っている。だけど男性に最も嫌われそうなその属性が私の恋愛にどんな不利益をもたらすというの?

「瀬菜ちゃんが腐の力の本領を発揮すれば、瀬菜ちゃんの兄貴とアイツをおモホだちの関係に変えることも可能なのよ。ううん、それどころか、アイツを見境なく男だけを襲う腐獣に変えることさえも可能なのよっ!」

「そんなドリーミーな力、あの女にあるわけがないでしょう」

 大きな溜め息が漏れ出る。

 赤城瀬菜の妄想の中の先輩はもう腐獣になっている気がするけど。

「アイツが男にしか興味なくなったら黒いのなんてあっという間に捨てられるわね」

「貴方も先輩に全く見向きもされなくなるでしょうね」

 スイーツは急に動かなくなった。そして……

「……黒いのがそんなに泣いて頼むなら瀬菜ちゃんを刺客に送るのはやめるわ」

 スイーツは面白くなさそうな表情でそっぽを向いた。もう少しよく考えてから喋る癖を付けて欲しい。

 

「こうなったらカナカナを刺客に送り込もうかしら? でもカナカナじゃ黙ったまま爆弾持たせて黒いのに飛び込ませるぐらいしか使い道なさそうだし」

「何で話がいつの間にか私にヒットマンを送ることに変わっているのよ?」

 そして誰だか知らないけれどカナカナという娘も可哀想に。友達を作り間違ったわね。

「じゃあ、沙織でいくの? でもダメ。沙織は危険だわ。メガネ取ったら美人なんてギャップ萌えの典型例だし、何よりあの財力は危険。金の力でアイツをあの屋敷に囲われたらあたしの元に戻ってこなくなる」

「貴方どこまで自己中なのよ……」

 私が先輩の彼女になる前はもう少し可愛げのある子だと思ったのに。今じゃもう先輩以外の優先順位が軒並み下がっているとしか思えない。

「どこかにいないかしら? 黒いのには勝てるけどあたしにはケチョンケチョンにされる都合の良いラスボスは」

「少し落ち着いたらどう?」

 この子の先輩への愛情の深さには感心させられる。けど、色々なものが間違っている。

「やはりここは……地味子を投入するしかないわねっ!」

 スイーツは両手を突き上げた。

「……田村先輩?」

 その名前が出て私は内心穏やかでいられなくなった。

「地味子に比べたら黒いのなんかみんな負けてるもんね」

「貴方、確か田村先輩のことを嫌っていなかったかしら?」

 高校に入学する前、田村先輩の悪口という悪口を私に吹き込んだのはこの子だった筈。

「フッ。何をそんな古い話を持ち出しているのよ?」

 スイーツはまたふんぞり返り始めた。

「あたしが地味子を嫌っていたのはアイツの彼女に一番近い存在だったからよ。黒いのとくっ付いた以上地味子を嫌う必要はなくなったのよ!」

 自己中スイーツは指をビシッと私に突きつけた。

「貴方1回田村先輩に土下座して謝りなさい」

「もうとっくにしたわよ」

 サムズアップして見せながら自信満々な笑みを浮かべている。

「……したんだ」

 この子の精神構造は私にはまだよくわからない部分が多い。

「敵だった時はホント憎たらしい奴だったけど、味方にすると頼もしいのよ、地味子は」

「敵だと思っていたのは貴方だけでしょう?」

 しかもかなり性質の悪い逆恨み。

「あたしは故あれば寝返るのよ!」

「そんなジオン残党の女海賊みたいなことを言っているとろくな最期を迎えないわよ」

 高飛車で自己中な所はそっくりだけど。

「地味子の凄い点といったらまずメガネでしょ。それから意外と胸大きいでしょ」

 嬉しそうに指を折って数え始めるスイーツ。

「……そんなの、赤城瀬菜だって同じじゃない」

 反論しながら私は明らかに動揺していた。同じ属性でも田村先輩が持っているのは瀬奈と違って恐ろしく感じる。

「後アイツ、地味子といると心が安らぐってよく言っていたわよね。家事も万能でアイツの信頼も勝ち得ているし」

「……どうせ私は邪気眼厨二病の一緒にいるとイタい女よ」

 先輩は私と一緒にいることをどう思っているのかしら?

 先輩は優しいからいつも一緒にいてくれる。だけど優しいから我慢しているだけで、本当は迷惑に思っているのじゃ?

 そんなことを考え始めると負の無限スパイラルに落ち込んでしまいそう。先輩の彼女の筈なのに自分に自信が持てない。

「そして何より地味子の凄い所は既に両家の両親公認って所よ」

「うっ」

 その一言は今までのどんな言葉よりもキツかった。

 私は先輩を両親に紹介するどころか家に招いたこともない。先輩のご両親にもきちんと交際の報告をしたこともない。そんな私に比べて田村先輩は条件を整え過ぎていた。

「うちの両親から見ればアイツは地味子と付き合うのが正しい道なわけ。他はみんな浮気よ。アンタは地味子からアイツを奪った女って嫌われるんじゃないかしら?」

「そんなこと……」

 ないとは言い切れない。

 コミュニケーション能力に欠ける私が先輩のご両親にきちんとご挨拶できるか自信が持てない。

「それにさ、アイツ、去年のハロウィーンの頃、地味子の家に泊まったんだよね」

「何ですってっ!?」

 思わず大声を上げてしまう。でも聞き捨てならない情報だった。

 幾ら私たちが付き合う前のこととはいえ、今でも学校内で先輩の隣をキープし続けている女のそんな情報を聞かされては平静ではいられない。

「仮にも高校生の男女が一つ屋根の下に一緒に泊まって何もなかったということはないでしょ。アンタ……比べられるわね♪」

「そっ、そんなこと……」

 ないとは言い切れなかった。

 もしも先輩とそ、そそ、そそそ、そういうことになって田村先輩より胸が小さいとあからさまにガッカリされたら……私はもう生きていけない。

「そういう訳で地味子が本気を出せば、アンタなんかあっという間にお払い箱よ」

 確かに田村先輩が本気を出すならそうなる可能性はある。でも、だ。

「私たちが別れでもしない限り、田村先輩が本気になることはないわよ」

「ううっ!」

 田村先輩が自分から動くことはまずない。

 自分から動くような人ならそもそも私が先輩に付け入る余地などなかった。とっくの昔に2人は付き合っていた筈。

「それに私は田村先輩から先輩のことを任されているのよ」

 田村先輩に私たちが付き合い始めたことを報告した時、あの人から言われたのは「きょうちゃんをよろしくね」だった。

 どうしてそんな言葉を喋れたのか私にはわからない。逆のポジションだったなら私は呪いの言葉を投げ付け掛けていたに違いない。好きな男を後から急に出て来た女に取られればその反応が普通の筈。

 でも、それでも任せられるのが田村先輩なのだと思う。

 

「くぅううぅ。所詮は地味子。役には立たないということね。もうダメね。全然っダメ」

 自分でラスボスとか持ち上げておいて今度は一方的にこき下ろす。スイーツらしい言動といえばそれまでだけど田村先輩に同情してしまう。

「こうなったら最後の手段よ。もうそれしかないわ!」

 と思ったら急に表情を崩してニヤニヤし出した。口元からは涎まで垂れている。この変態ブラコン女、一体何を考えているの?

「こうなったらあたしがアイツを寝取るしかないわね! 嫌で嫌でどうしようもないけれど、もうそれしか方法は残されてないわっ!」

 スイーツは考えられる限り最低最悪な方針を述べてくれた。しかも──

「私は貴方のこんな幸せそうな表情を今まで見たことがないわよ」

 スイーツは妹モノのエロゲーをプレイしている時よりも遥かに幸福な表情を浮かべていた。涎なんて口から滝になって流れ出ている。頭の方からは何を考えているのか湯気が出っ放し。

「あたしが偶然スケスケのネグリジェを着てアイツのベッドで寝ていると……」

「どんな偶然が重なると貴方がスケスケのネグリジェ姿で先輩の部屋で寝るのよ?」

 そのあり得ない仮定にツッコミを入れるのだけど、妄想に浸ったブラコンには届かない。

「ノックもしないで入って来たアイツはあたしの姿を見て野獣の本性を現すの……」

「自室に入るのにノックは要らないわよね?」

 私のツッコミは全く届かない。

「男は若い女の方が好きっていうし、もう16歳を迎えちゃっている黒いのより、まだ14歳でいるあたしの方がアイツの欲情を掻き立てるのは当然のことなのよね」

「そういう意味のない若さを誇っていると、来年辺り中学生からババア呼ばわりされる展開を迎えることになるのよ」

 先輩が中学生って響きに弱い点は確かに気になる所ではあるのだけど。

「襲い掛かられたあたしは必死で抵抗してアイツに思い留まるように説得するのだけど、野獣と化したアイツには言葉が通じない。そしてあたしは遂にアイツに力づくで純潔を奪われちゃうのよぉ。えへへへへへへぇ」

「ねえ、何でそこで笑みが毀れるの? それに寝取ると言っておいて、悪いのは全部先輩って流れに持っていくのはおかしくない?」

 どこまで危険な願望抱えているのよ、この子は。

「そしてあたしは生まれて来た京乃(けいの)を抱きしめながらこう話し掛けるの。京介は妹に手を出す鬼畜パパだけど、ママはあなたのことを全身全霊かけて愛してあげるって」

「何で妊娠どころか平然と出産までしてるのよ?」

 そんな展開親が泣くでしょうが。

「まったく京介ったら鬼畜よねぇ~。あたしが超絶可愛いからってさ♪」

「鬼畜なのは貴方の頭の中身でしょうが」

 もう言うまでもないだろうけど、このブラコンスイーツの表情は変わらず緩みっぱなし。頭の方はもっと緩みっ放し。早く何とかしないとこいつ、って状態。

 大きな大きな溜め息が漏れる。

 先輩の彼女になってから私、すっかりおばさんくさい感覚になってしまっている。まだ16歳なのに……。

 

「そういう訳でアンタのライバルはみんな強敵揃いなの。アンタがアイツと付き合い続けるのは土台無理な話なのよ。だからもう、傷付く前に別れちゃいなさいよ♪」

 約5分が過ぎてようやく復活を遂げたスイーツはまた元の居丈高女に戻っていた。

 この子にまともな状態ってないのだろうか?

 何かもう疲れたわね。

「……そうね。貴方にこれだけ嫌われているなら、もうこれ以上私たちが友達をやっていくのは難しいかもしれないわね」

 この子に言い返す気力もなくなって来た。もう私たち、喧嘩友達はできないのかもしれない。

「えっ? チョット?」

 スイーツが焦った声を出す。でも、もう良いわ。もう疲れた。

「私たちすっぱり縁を切りましょ。今ならまだお互いに心底憎みあう不快な感情を持たなくて済むから」

「ちょっと待ちなさいって言ってんのよ!」

 スイーツが大声を上げ、怒った瞳で私を覗き込んできた。

「何よ?」

「アイツと黒いの関係について喋っているのに、何で私たちの仲が終わりになるって話になっちゃうのよ!」

 スイーツは本気で怒っている。だけど──

「だって貴方は先輩の妹でしょ? 私が先輩と別れたら気まずくてもうここには来られない。それに貴方の顔を見ると先輩を思い出すからそれも気まずくて嫌ね。だからサヨナラよ」

 彼氏彼女の関係になるというのは人間関係に大きな変化をもたらす。当人同士だけでなく、周囲の人も含めて。

 このスイーツの変化は言うまでもなく、例えば沙織の場合も私と先輩の関係に遠慮してちょっとだけよそよそしくなっている。先輩に電話を掛ける際にも事前に私に連絡を取ってくる。そんな必要全くないというのに。

 先輩、スイーツ、沙織、そして私の4人の関係は私たちが付き合い始めたことにより変化を迎えた。

 そしてもし私と先輩が別れるような事態になれば、私は二度とこの4人組に加わって何かをすることがなくなるに違いない。そしてそれは先輩だけでなくスイーツとも沙織とも縁を切ることを意味している。

 先輩とは縁を切るけれども他の2人とはこれまで通りにみたいな割り切り方は人間関係が不器用な私にはとてもできない。

 先輩とお付き合いをするというのはそういう問題を含んでの選択だった。

「うううぅううぅっ!」

 私が悩んでいる横でスイーツもまた苦しんでいた。

 スイーツは両手で頭を抱えて苦しんでいる。

「……わかったわ。許す」

 そしてスイーツは突如私に向かって指を突きつけた。

「何を許すの?」

 スイーツの話には主語も述語も欠けているので何が言いたいのか伝わってこない。

 それで続きを促してみると

「毎日この家に来ることもアイツといちゃつくことも許してあげるって言ってるの!」

 より一層居丈高な声でそう言い放った。

「だけど私はすぐに先輩に捨てられてしまうのでしょう? やっぱり無理よ。ハァ」

 より一層大きな溜め息が出る。考えれば考えるほど先輩には他にもっとお似合いの女性がいるような気がしてならない。自分が先輩に相応しいと思えない。今の人間関係を続けていける自信もない。

 そんな弱気の虫に駆られた私の胸にスイーツが飛び込んできた。

「だったらさっ、あたしが2人の仲を認めるわ。サポートもしてあげるわよ! 喧嘩したら仲直りできるようにお節介焼いてあげる。だから、だから、あたしと縁を切るなんて寂しいことを言わないでよ……お義姉ちゃん……」

 スイーツは、桐乃は泣いていた。桐乃は私の為に涙を流していた。

「どうやら私は自分が思っている以上に貴方に好かれているようね」

 桐乃の頭を優しく撫でてあげる。

 桐乃は猫の瞳みたいにコロコロと表情や言動を変えるのでその心は読み取りにくい。

 だけれども心の根っこの部分で私は予想よりも好かれているらしい。少なくとも、私との関係を切るよりは私と先輩の関係を認めてくれるほどには。

 つまり、すごく大事に想われている。

 それがわかって……ほんの少しだけ嬉しい私がいる。

「……お義姉ちゃんのバカ」

「はいはい。バカなお義姉ちゃんでごめんなさいね」

 膝枕されながら腰にしがみつく義妹の髪を優しく丁寧に梳く。

「……お前ら、ホントいつも仲良いよな」

 買出しから帰ってきた先輩が呆れたような表情で私たちを見ている。

「いつも仲が良い訳じゃないわよ」

 義妹の頭を触りながら先輩の言葉に首を横に振る。

「だって、私の義妹がいつもこんなに可愛いわけがないじゃないの」

 私は先輩にそう微笑んで返した。

 

 

 


 
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