この遺書はエルネスト・ケルルという男の代筆である。
彼は文盲であったため、私が彼の意を汲んでしたためようというのだ。
以下の通りである。
私、エルネストは清廉潔白を旨とし、修理工として三十余年もの永きにわたって勤めあげ、三人の子供に恵まれ、幸福な家庭を築いた。妻もまた貞淑で美貌の誉れ高く、私にはあまりある女性であった。
わが子達、フィリップ、リオネル、ジルもその両親の長所のみを継いで、今私が死に至るにあたって何の憂いも無いほどである。
私の肝臓が硬くなってこれから永遠の眠りにつくわけであるが、かのような訳で、私の生は非常に充実したものであった。
友よ、君たちに幸あれ。
願わくば、近からんうちに相見えん事を。
以上、彼に頼まれて記した彼への褒め言葉ではあるが、彼が私に奢った安いシードル酒の対価としては随分と誉めすぎた感もあるので、水割りした分は割り引いて考えてもらいたい。
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
2010/12/3に開催されたクロスジャンルイベント「fiction(@fiction_pr)」にて配布されたショートショートです。テーマは「遺書」でした。
作品はともかく、まだまだ当分生きる予定です。