No.214136

恋姫無双 ~決別と誓い~

コックさん

真・恋姫無双の呉のシナリオです。
誤字脱字等があれば指摘お願いします。

それと少し加筆、修正を加えました。

続きを表示

2011-04-30 01:26:51 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7089   閲覧ユーザー数:5617

 

あの時心臓の音が弱まり体のぬくもりがなくなっていく彼女をただ見ていることしかできなかった。

 

あの時ほど世界を呪ったことはなかったし、自分の無能さを思い知ったことはなかった。

 

そして俺はあの時決別し、誓った。

 

-----何も守れない無力な自分から決別し、大切な人たちを守ることを------

 

 

 

 

 

 

彼女が楽しそうにはしゃいでいる。歩く速さも気分に比例してかペースが速い。

といっても彼女が子供のようにはしゃいでいるのはいつものことだったし、そう珍しいことでもなかった。俺は彼女の歩くペースに合わすのに四苦八苦しつつもその訳を聞く。

 

 

しかし彼女は教えてくれなっかた。どうやら着いてからのお楽しみらしい。俺はため息を彼女に聞こえないように吐いた。

 

彼女がこう云う時、ろくな目に合ってないのからだ。

 

しかし、俺は彼女の破天荒な性格から繰り出される無謀な考えや行いに嫌悪を感じなかった。

 

いや、むしろどんどん彼女を好きになる自分がいた。

 

 

始めは酒が好きなぐうたら娘だとばかり思っていたが、あちこち彼女に振り回されてついて行くたびに、彼女の滅茶苦茶な行いを何故か許してしまう自分がいた。

 

恐らくそれが彼女の魅力なのだろう。

 

そして誰よりも『悪』を憎みそのためならどんなことでもやる強い人だった。

 

自分の感情を抑え時には道化さえ演じ、そして時には残虐とさえ言える行いを雪蓮は行っていた。

 

彼女が命乞いをする罪人をなんの躊躇もなく殺戮するのも見たがそれでも彼女を恐れたり、嫌悪感を顕にすることがなかった。

 

それは雪蓮が本当は心優しい女性であると信じていたからだった。

 

 

本当の優しさと強さを持ち圧倒的なカリスマ性で人を魅了する彼女に尊敬の念さえ抱いていた。

 

そしてその想いが知らない間に自分の中で大きくなっていくのはそう時間のかかることではなかった。

 

尊敬から恋慕へと。

 

そう、まるで種から花に生るようにゆっくりと少しずつ・・・・。

 

 

 

しばらく歩いているうちに生え茂っている森林から奥から川のせせらぎが聞こえる。どうやら近くに川があるようだ。彼女はその川の音がする方向へ一目散に駆けていく。

なんとか彼女に追いつくと川の前に小さな石碑があった。

 

彼女は少し汚れていた石碑をきれいにし始める彼女にならって手伝い始める。

 

「ん・・・・。ありがと」

 

「おう・・・・」

 

ニッコリと笑いかけてくれる雪蓮に照れた顔を見せないよう半ばそっぽを向いた感じで手伝いをしていたのは秘密だ。

 

 

墓がきれいになったところ彼女が、

 

「小さな墓でいいってうるさくてね・・・」

「ホント、母さんらしいわ」

 

と少し困った表情で云った。俺はその小さな石碑が呉の前王孫堅の墓だと理解した。

 

「これは雪蓮の母さんの・・・・か?」

 

「ええ。前王孫文台の墓よ。この下に母さんが眠っている・・・・」

 

これには驚いた。王の墓と言ったらかなりの規模になる。

 

これは日本史でもよくある傾向だが、死んだ人間が死んでもなお大きな権力を握っていたことを誇示する手段として墓というのが作られていた。

 

ピラミッド、古墳がその例にあたるしこの当時有力な豪族でもあった孫堅も例外ではなかっただろう。

 

その彼・・・いや彼女がここまでかしこまった墓で済ますことに少なからず俺は驚愕をしていた。

 

「どんな母さんだったんだ?」

 

「う~ん。とっても破天荒でめちゃめちゃな性格の人だった。私もよく叱られたし、喧嘩もしたな・・・。でも人情に厚く憎めない人だった。今でも私にとって尊敬しているし越えられない壁だと思ってもいるわ」

 

彼女がどこか懐かしむように語るが俺はおかしくて思わず笑ってしまう。

 

「ちょっと・・・なによぉ。人がせっかく真剣に話してるのに・・・」

 

とブーと膨れる彼女をなだめ、

 

「ごめんごめん。でもさ雪蓮、俺は孫堅様を超える必要はないんじゃないかなって思うんだ」

 

「・・・・・どうして?」

 

「雪蓮の考えることと、孫堅様が考えることは全く違うし、時代によって求められものも当然違ってくる。雪蓮は雪蓮で自分の持ち味を出せればそれでいいんじゃないか?」

 

「・・・・・・・」

 

「人の生き方に理論なんて求めたって無駄だと思う。矛盾してようがなんだろうが、自分の考えを実現できればそれでいいんじゃないか・・・」

 

「ほんとにそう思ってくれる・・・?」

 

雪蓮は俺のほうに振り返る。綺麗な髪がそれと同時にふわりと舞い甘い匂いが鼻をくすぐる。

 

「少なくとも俺はそう思ってる」

 

「・・・・あ~あ。蓮華に譲ったのは失敗だったなぁ」

 

彼女はどこか残念そうな含みをもたせた口調でそう言って笑った。

 

「後悔してる?」

 

「さぁ~ね?私の夢が叶ったら教えてあげる・・・・」

 

「天下統一・・・か。聞けるように頑張らないとな・・・・・。俺も平和になったら雪蓮に言いたいことがあるしな」

 

彼女はそれを聞くとよほど驚いたのか狐につままれた表情をするとぷいっとそっぽを向いてしまった。

 

「反則よ・・・・。期待しちゃうじゃない・・・」

 

雪蓮はなにかぼそっとつぶやいたが聞き取れない。だけど俺はそれについては追求しようとはしなかった。そっぽ向いた彼女の顔が真っ赤になっているのをわかっていたからだ。

 

 

 

 

彼女はその墓に跪きやさしく語りかけた。

「母さん・・・ようやくここまで来れたわ」

「あなたが広げその志半ばで去らなければならなくなった・・・・私たちの故郷」

「その故郷は今、孫家と、呉の国民の元へ戻ってきた・・・」

「見てる?母様・・・。今から孫呉の悲願が始まるわよ」

 

孫家の悲願とは確か天下統一である。

だが彼女は笑い俺にこう云った。

 

「別に天下統一が悲願ってわけじゃないわ。本心を云うと天下なんてどうでも良い」

「私はね・・・・。呉のみんなが笑顔で過ごせる時代が来ればいいの。天下だの権力だのそういうのに興味はないわ」

 

 

「そのための天下統一なの。・・・・一つの勢力が天下を統一し、この大陸を治めれば庶民の画一的に平和を与えることができるでしょ」

 

「そのための天下統一か・・・・」

そう云った俺に彼女は静かに頷き、

 

「そう。それが孫呉の願い。・・・・・だから私はこれからも戦うの」

 

「・・・・・」

 

「戦えば兵だけじゃない。庶民だって傷つく。・・・・笑顔がなくなる。・・・・それはわかっている。矛盾してるけど・・・・。でも戦わなきゃ何も手に入れることが出来ないと思うから------」

 

できれば戦いはしたくはない。

 

ひとにぎりのエリートが作った国ではなく皆が一丸となって作った国が呉だ。それゆえ孫呉の民は家族同然と彼女は言う通り国民と王との間に呉は強い絆で結ばれている。

 

だから民が傷つくようなことを雪蓮は望んではいない。

 

だがこの戦乱でその国民が死に脅かされているのであれば話は別だ。

 

当然雪蓮にはその覚悟はあるが、自分たちが行った殺戮が憎しみを生んでることに耐えられないことがあるのだろう。

 

 

普段は意気揚々としている彼女がしおらしく弱々しかった。

 

俺は壊れ物を扱うように優しく彼女を後ろから抱きしめる。

 

「一刀・・・?」

 

「矛盾しててもいいじゃないか。ここに来るまでに見た街の人たちの笑顔を思い出してご覧?あれは雪蓮が、そして国民の皆が守った結果だ。そうである以上雪蓮は迷う必要はないよ。それにそういう汚れ役は俺が被ればいいんだから。そのための俺じゃん?」

 

そう俺は天の御使い。

 

天からの御使いが天のお告げでやれといえば矛先は俺にだけ向かう。

 

それで皆の不満がこちらに向いてくれれば良いプロパガンダとなる。

 

「でも、そうなったら貴方が・・・」

 

「いいんだ。それでしか俺も雪蓮に助けてやれそうにないしな・・・」

 

ははは・・・と情けなく笑う俺の手に彼女の手が重なりギュッと握り返してくる。

 

「一刀・・・・・」

雪蓮は俺の名前を呼ぶと体を俺の方へと預けてきた。

 

もはや言葉などいらなかった。彼女の手から想いが伝わってくるようだった。

 

俺はこの至福の時間が一生続けばいいと願いながら彼女を強く抱き返した。

 

「さぁ、もう帰らなくちゃ。蓮華が怒鳴り込んできそうだし」

 

「もう良いのか」

 

落ち着いてから、墓に供え物を置き

 

「ん。充分よ」

大きく頷いた彼女は、また墓前に跪いた。

 

「そろそろ行くわね。母様」

 

 

「これから忙しくなるから、なかなか来れなくなるけど・・・・・・」

 

 

「でもあなたの娘は、命の限り戦うから。・・・・母様が思い描いた夢。呉の国民たちが思い描く未来に向かってね」

 

 

「母様・・・・・。天国で見ていて」

 

 

「あなたの娘たちの戦いぶりを。そして呉の輝かしい未来を----------」

 

 

 

 

 

 

 

「ザクッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

この時俺は忘れてたのだろうか?

 

いや忘れているフリをしていただけなのかもしれない。

彼女、孫策伯符の史実での運命を・・・・・

 

 

彼女の右腕に何か突き刺さっていた。

「なに?これ・・・・」

 

 

「矢だ・・・畜生!!!!」

 

 

 

俺は普段では考えられない大きな声で叫んだ。

 

「誰だ!!!!!!!!!何処にいやがる!!!!!」

 

 

腰につけていた刀を抜き、矢が発せられた方向へと走り出す。

 

 

「ひぃぃ」

 

 

俺の声に驚いたのか数人の兵士たちが脱兎の如く逃げていく。

 

 

「待てよ!!!てめえら!!!」

 

俺は怒っていた。

(許せない。よくも雪蓮を!!!全員殺してやる・・・・・!!)

俺は普段考えもつかないドロドロとした衝動に突き動かされ兵士たちを追いかけようとしたが、

 

 

「一刀!追いかけちゃだめよ!」

 

 

「雪蓮・・・。どうして!!!」

 

「あなたに何かあると蓮華が困るでしょ・・・」

 

彼女はそう云い立ち上がろうとしたが糸か切れた人形みたいに崩れ落ちる。

俺は刀を地面に捨て、彼女を支える。

 

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・。不覚だったわ。母様にあの世で怒られそう・・・」

彼女は弱々しく笑った。俺は彼女がいつも云う冗談を今回はうまく聞き流せなかった。彼女の冗談があまりにも現実味を帯びていたからだった。背中にじっとりとして不快な汗が流れる。

 

 

「しゃ、喋らなくていい!!それより傷は・・・・」

 

 

傷を見ると幸いそれほど深くはない。

ただ出血が酷い。早く止血しないと手遅れになる。俺はすぐに止血しようとしていたとき

 

 

「姉様。城で緊急事態が・・・・」

 

 

妹の孫権がこちらに近づいてきた。

「蓮華!!!こっちだ!!!!」

 

 

 

「姉様っ!?どうしたというのです!」

 

流れ出る血を見て蓮華は急に青ざめる。

 

 

そんな妹に彼女はバツの悪そうな顔をして笑った。

 

「あはは・・。ちょっと不覚を取っちっゃた・・・」

 

 

「不覚って・・・。一刀、何があった!?」

 

 

「刺客が弓で雪蓮を狙撃して・・・」

 

 

蓮華がみるみると顔を鬼の様な形相に変えて

 

「なんだとぉ・・・!!すぐに見つけ出し八つ裂きにしてくれる!!」

蓮華は俺が取ろうとした行動をしようとしたが、

 

「落ち着きなさい。蓮華」

彼女は妹を落ち着いた口調で制止した。

 

「しかし!!!」

蓮華は納得いかない様子で姉に抗議をしたが、

 

「先頭に立つ人間がこれくらいで取り乱してはダメ。それに・・・・傷も深くないし、・・・・たいしたことないわ。それより緊急事態って?」

 

 

蓮華は幾分落ち着きを取り戻し、姉に報告を始めた。

どうやら曹操率いる魏が攻めてきたというはなしだった。なお魏の動きを察知できなかったのは伝令兵が悉く捕殺されてしまっていたからだった。

おそらくさきほどの刺客も曹操軍のものだというのは容易に想像できた。

 

 

彼女は妹のは話を聞いて

「状況は理解できたわ・・・。蓮華。あなたは先に行って出陣準備を・・・」

 

 

「でもお姉さまはすぐに治療を・・・!!」

 

 

「私は大丈夫。ほら早く行きなさい。」

 

「しかし・・・」

 

 

彼女は妹を睨みつけて遠くに響きわたる声で一喝した。

 

「孫仲謀!!!!」

 

 

「・・・・・・っ!!!!!」

彼女は姉の気迫に押され、言葉を失った。

 

 

「国が侵略を受けていて出陣しない王が、王たる資格があるのか!!!否!!断じて無い!!!!」

 

 

「忘れるな!!孫家の人間は常に先陣に立ち、兵たちの先頭を走るのだ!!」

 

 

「その勇敢さがあるからこそ、民衆は孫家を支持し力を貸してくれる!!その家訓忘れるな!!!」

 

 

「い、いえ・・、しかし・・・」

「直ぐに陣ぶれを出せ!!!」

 

「・・・・はっ!!!」

 

蓮華は王として叱責する姉に気圧されて走っていってしまった。

 

 

彼女が困った顔をしてため息をつく。

「ほんと・・・。いくつになっても世話焼かせるんだから・・・」

 

 

「だけど、雪蓮。蓮華の云う通りだ。直ぐに治療を受けるべきだ!!」

俺は彼女にそういった。止血作業は終わったのに血が止まる気配がない。このままだと命が危険にさらされてしまう。

 

「だめだって・・・・」

しかし彼女はそう云うだけで頑として首を縦にふらなかった。

一抹の不安がよぎる。俺は懸命に治療を受けるように説得したが一緒だった。

ただ彼女は

 

「だめだって・・・」

 

と繰り返すばかりだ。

 

「っ!!まだそんなこと云って---------」

 

 

「違うの・・・・・・」

彼女は俺の言葉を遮りそういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう手遅れってこと・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心臓の動機が早まる。

 

 

 

「え・・・・・?」

 

 

 

 

 

彼女はそして泣きそうな顔をして静かに震える声でこういった。

 

 

 

 

 

 

 

「矢にね・・・・・。毒が塗ってあったみたい・・。体が焼けそうよ・・・・」

 

 

 

そしてまた

「焼鏝を何本も突きつけられてるみたい・・・。もう・・・、助からないでしょう・・・・」

 

 

時間が止まる。

 

俺は目の前が真っ暗になるのを感じた。

 

そして彼女にこのような運命を与えた天をこれほどまでに呪い、憎んだことはなかった。

 

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
24
11

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択