<<WARNING!>>
この作品はとても暗いです。
作者はこれを書きながら後かな何かに圧されているような気がして何度も後を向いていました。
特に今ちょっと欝になっている人とか、そんな人たちは他に明るい恋姫のSSたちを見てMPを回復してからこれを見てください。じゃないと死にます。MPなくなって死にます。意味が分からないと思いますがMP0になって死にます。
とにかく覚悟がいない人は見ないでください。
ちなみにこれを覚悟無しで書いた作者は当分続きが書けそうにありません
五胡のとの再戦6日目、夜、
やっと見つけた五胡の本陣には、
まるで自動化工場のように土から五胡の兵たちがうじゃうじゃと生まれていた。
ここで間違いはないはず。
「あの中に居る、あの兵たちを作っている人を止めれば……華琳お姉ちゃんたちが勝つ」
そしたら、この戦いはもうお終い。
思った以上に時間がかかってしまった。今この時でもどれだけの人たちが傷ついて行くか分からない。
もしかしたら……
「<<フルフルっ>>」
わかる。自分でも分かってしまう。
今のボクはとても幸せじゃなかった。
ボクの幸せはどこに行ってしまうのだろう。
どこに行けば取り戻せるのだろう。
あそこに行けば、それが分かるかも知れない。
・・・
・・
・
「それでは、彼女は……」
「ええ、今頃ボロボロになっていることでしょう……なぁに、この戦が終われば、この茶番もお終いですわ」
天幕の中から音が聞こえる。
監視している兵に気づかないように、天幕の後で天幕かの中から聞こえる音に耳を澄ませてみると、なにやらどこかで聞き覚えがある声のような気がした。
「……あの体も…随分と念を入れてつくっていたようみたいですわね。普通なら打たれただけでも塵になるはずですのに、良く堪えたものですわ」
「そういうあなたも、手加減をしたのではないですか?」
「当たり前ですわ。その場で地へ帰したりしては、もったいないですもの。苦しみ、悲しみ、怒り、そんな負の感情を持ってない魂なんて興味はありませんことで」
思い出した!
男の人は、いつかボクの悪夢の中でささやいていた人。そして、女の人は……確かさっちゃんの知り合いで、ボクにこの弓の……意味を知らせてくれた人。
人を殺す弓。撃った人も、撃たれた人も殺す弓。
あの洛陽で春蘭お姉ちゃんを守るためにこの弓を使おうとした時、あの女の人はこの弓を使えば、さっちゃんが居なくなると言った。
今、さっちゃんはどこに居るんだろう……
さっちゃんが居なくなったあの日から、華琳お姉ちゃんが居ない時には、隣が凄く寒い。
今でも………
「……ふぅ」
ねぇ、さっちゃんは今何してる?
またボクのために無理をしているんじゃないよね?
そんなことしたってボク全然嬉しくなんてないのよ。
だから、早く帰ってきて。
「仲達は消えた今、魏軍の動きを制するのは郭嘉のみ。彼女がどれだけ出来るた試させてもらいましょう」
え?
今、なんて……
「ええ、そうですわね。司馬仲達が居ない今の魏は、ただの齒と爪を失った虎も同然。あなたの指揮を耐えることなんてそうはできないでしょう」
「さて、物は試しですがね」
仲達は…確か紗江お姉ちゃんの字。
紗江お姉ちゃんが……消えた?
まさか……
「ッ!!」
紗江お姉ちゃんを…!!
スッ
「……ふふっ」
「どうしたのですか、突然?」
「来ましたわ」
「?」
スッ
中に入ってみると、男女二人が居た。
そのうち女の人はたしかに……
「ッ!天の御使い!」
男の人が手を出そうとする前に……
狙うのはまず女の人から‥!
「これでも食らえッ!」
サシュッ
ブスッ!
「っ!」
至近距離で狙った矢は、的確に女の人の肩を貫いた。
紗江お姉ちゃんが当たった場所と同じところ。
「……っん!!」
矢に撃たれた女の人はその場で倒れた。
「管路!」
「動かないで!」
次に男の人に矢を射る。
紗江お姉ちゃんの仇は取った。
後は、西涼で広がれている戦いを止めなければならない。
「北郷一刀……こっちの方は子供だからまだ甘いかと思っていましたが…私らしくもなく油断してしまいましたね」
「……西涼にいる五胡の兵たちは、あなたが操っているんだよね」
「ええ、そうです。私の術で作った傀儡らを使用して、あなたたちの軍を当たっています。今頃でも戦いは勢いを増す一方。あなた側はそろそろ限界でしょう」
「…ボクはこの戦いを終わらせるために来たよ」
「そうでしょうね。あなたのことですから、どうせ誰にも言わないまま一人で犠牲する覚悟でここに来るに決まっているでしょう」
この人…まるでボクのことを良く知っているような口ぶりをしているけど……一体この人たちは何なの?
「私たちはこの外史の『管理者』という者たちです」
男の人が、ボクの考えを読んだかのように答えてくれる。
「『管理者』…?」
「ええ、言葉のとおり、この外史のことを管理し、或いは誤った方向で進んでいる外史を滅ぼし、外史全体が均衡を保つように支えるのが我々の役目です」
「……そんな人たちが、どうしてこんなことをするの?」
「言ったではありませんか。誤った外史を滅ぼす、と」
「誤ったって……この世界が間違っているというの?」
「そうです」
何の迷いもなくそう答えるあの人に、ボクは怒りさえ覚えた。
確かに世の中って、理不尽かもしれない。
ちゃんと正しくなってもいない。
ボクが居た世界も、この世界も、悪いところがある。
だけど、
ボクが知っている限り誰も、それが間違いだとして、間違っているから滅ぼすと言える権利を持っている人なんていない。
「そして、その間違いは、あなたから生まれたもの」
「!……ボクが…」
「外史には、元あるべき姿があります。あなたはそれを破った」
「…ボクは何もしていない。少なくとも、この世界が間違い、といえるようなことは…」
「………ふっ」
男の人は軽く鼻笑いをした。
「なら、北郷一刀、あなたは今まで一体なにをしてきたというのですか?」
「………」
「あなたはこの世界に来て、この曹操たちに会って、過去の自分の傷を癒していた。そして、あの連合軍の時、夏侯惇が身の一部を怪我されることを知ったあなたは、彼女が自分のような思いをすることが嫌で、命を賭けてそれを防げた。それが、あなたが犯した誤りの一つ」
「お姉ちゃんたちが傷つくことを止めたいと思ったことの何が悪いというの!」
「あなたには分からないと思います。が、元なら夏侯惇はそこで己が右目を失うべきだった。それが外史のあるべき姿」
「なにそれ……そんなの誰が決めているのよ!」
信じない。
実際、春蘭お姉ちゃんの両目は今でも美しく輝いているんだ。目を失った痛みで叫ぶ春蘭お姉ちゃんの姿も、それを見ながら悲しむ秋蘭お姉ちゃんや華琳お姉ちゃん、季衣お姉ちゃんたちの姿もなかった。人が悲しまないことに何の悪さもあるはずがないじゃない!
「外史には元あるべき姿というものがあります。それから外れることをすれば、必ずやその外れを作った当人には悪いことが起きてしまう。実際、そのせいであなたは一年間この外史から姿を消しました。そのせいで、曹操さんたちは悲しんでいたでしょう」
「っ!」
「結局、一つの悲しみを避けようとしたあなたの行動は、もっと大きな悲しみを呼び寄せた」
「………っ」
返す言葉がなかった。
たしかに、ボクが居なくなったせいで、華琳お姉ちゃんも春蘭お姉ちゃんたちも心配していたはず。
しかも一年だ。お姉ちゃんたちがどれだけ心配して、やがては悲しむまで……それはきっとボクのせいだった。
「更に、あなたは孫呉との戦いにて、暗殺される孫策を活かそうとした。だけど失敗したあなたは、自分の身に矢を打つという手を使って、曹操の覇王としての意地を折らせた」
「無駄な人の血を流さないためだったよ!」
「曹操さんの目からは血の涙が流れていましたけどね」
「……」
あの時のような弱々しい華琳お姉ちゃんの姿を見たことがなかった。
あの雨の中で会った華琳お姉ちゃんは、とても疲れていて、それでもボクのことを聞いてくれた。
ボクの我儘に、華琳お姉ちゃんは呆れてしまった。自分の夢を諦めてしまった。
おかげでこれ以上の戦いで、人の命を奪わないで済んだ。だけど、本当にボクが望んだこと、華琳お姉ちゃんの幸せからはとうとう遠くなってしまったのかもしれなかった。
「更に、その後覇王の道に疑問を覚えた曹操は、あなたが言った通り話し合いで平和をもたらそうとした。そして、その手はほぼ成功しました」
「……あなたたちがこんなことをしなければ、この大陸は平和になれた。幸せを取り戻せた」
「何かを勘違いしているようですね」
「え?」
「たしかにこの土人形を操っているのは私です。ですが、私があえて動かなくても、この外史はあるべき姿を失っていた。もし、あなたたちがそのまま血を流さないまま平和を手に入れようとすると、この外史は自ら存在を消そうと動き出したはずです。それが、この五胡の進軍という形で現れたまで」
「何それ…わけわかんない……」
じゃあ、何?一体どうしていればよかったっていうの?
あのまま戦い続けて、自分以外は全て殺して、大陸を手に入れる?
それが元あるべき姿だというの?
そんなの……そんなの……
「そんなものをあなたなんかに決め付けられる理由はない!」
「そんなものをあなたなんかに決め付けられる理由はない!」
「………」
「華琳お姉ちゃんたちは今まで頑張ってきたよ。華琳お姉ちゃんたちだけじゃない。大陸の皆が幸せを求めて、今までそのために頑張ってきたの。あの人たちが幸せになる道を妨げようというのなら、ボクがなんとしてでも止めて見せる」
「あの人たち……ですか。あなたはそのうちに入らないわけですね」
「ッ!」
ボクは……
「そうですね。この戦いが終わって、大陸が平和になれば、あなたは死ぬ。あなたは既にそれを自覚しているのです」
「………華琳お姉ちゃんの幸せがボクの幸せだよ」
「死んだ人に幸せなんて残りません。増してやあなたのようなまだ幼い子の死なら、それだけでも多くの者たちがそれを惜しみ、悲しむでしょう」
「だけど、お姉ちゃんたちなら乗り越えてくれる。それだけ望んでいたものが目の前だよ。ボクはこれ以上お姉ちゃんたちの足を引っ張るだけの存在では居られなかった。せめて、せめて最後だけは、守ってあげなければと思った」
「それで自ら武器を持って今までの自分の持論を砕いて戦場に出ましたね」
「………」
「ですが、あなたが勘違いしていることはまだあります」
男の人の笑い、とても邪悪に感じられてしまって、弓を射ているボクの腕が震えていた。
「まず、私をその矢で殺したところで、あの人形たちを止めることはできません」
「!」
「既に創り上げられたあの傀儡たちは、ただ殺すことだけを考え、実行するでしょう。この争いは、まだまだ終わらないのです」
この人たちを止めても…まだ戦いは収まらないってこと?
「そして、もう一つ、あなたはどうもここに来たことが、自分の意思だと思っているようですが……
私たちはあなたがここに来るということも念に入れておきました」
「!!」
「つーかまーえた」
「!」
後から人の気配を……
驚いて振り向いてみると、
「そんな……」
「ふふふっ…」
先倒したと思った女の人が、小さく笑いながら立っていた。
「残念でしたわね。でも、于吉じゃなくわたくしめを先に撃ったことだけは、賞賛に値しますわ。よくそこで先に討つべき相手を選びましたこと」
「どうして……」
「どうして生きているのか、ですか?。理由は三つありますね。まず、その弓はあなたが知っての通り、撃った人を殺す弓、だけど、その弓は力は左慈によって限られています。それを願ったのはあなただったはずですわ?」
たしかに、最初にこの矢を受ける時そうしていた。今まで土人形の兵たちを相手していたから忘れていたけど……
孫呉の時に自分に矢を撃った時でも、自分で死ななかったのだから当たり前。
だけど、ボクでもあの時何日は気絶していたはずなのに、どうしてこんなに早く……
「二つ目、その弓の本当の力はその矢を撃った人の魂が犠牲にされなければ100の力を発しないもの。ですが、あなたも、そしてその弓に自分の魂を射ている左慈もその弓を使って死ぬことはありません。故に、わたくしめのような管理者たちには力が半減する」
撃たれた人はもちろん、撃った人も殺す矢。
さっちゃんはボクにそのことを秘密にしていた。
その秘密をボクが知ったのは……
「そして三つ目、その弓の本当の力を教えたわたくしめが、その弓に対しての準備をしていないはずがありますまい?」
「なっ?!」
「今その弓の力になっているのは左慈の魂ですわ。だけど、その魂の主が死んでゆく今、その力がわたくしめのような管理者にまで通用するとは思えませんわね」
………え
「今……なんて言ったの?」
「…あら、そうでしたわね。あなたは知らなかったですわね………ふふふっ」
また女の人は嫌な笑い方をした。
「さっちゃんが……死んでゆくって……?」
「ええ、あなたのための頑張った挙句に、今まさに虫の息をしていますわね」
ズキッ
さっちゃん……
居なくなってそんなことをしていたの?
また自分を殺してまでボクを助けてくれようって……
そんなの…そんなの誰が望んでいるのよ。誰が喜ぶっていうの?
「敵の前で油断しすぎてますわね」
「!」
タッ!
「うぐっ!」
何もいない虚空で何かにぶたれたような感覚になってボクが弓をおとして天幕の端っこに飛ばされた。
「けほっ!けほっ!」
痛い!
今まであまり感じていなかった痛みが全身によぎる。
「左慈がかけていた術も解けてもらいました。全身に以前のような痛みが走るでしょう?」
「……っ!……ぐぅ……」
まだ……
「ああ、それと、あなたに言っておきたいことがあります。今曹操さんが、こっちに来ているみたいですわ」
「……な……!」
華琳お姉ちゃんが……どうして、
いや、どうやってここが分かって……
「あなたを助けようと走ってきているようですが……そうですわね。それもこちらの狙い通りというわけですわね」
「……!」
もしかして、
先ボクがここに来ると分かっていたって言ったのは……
「紗江お姉ちゃんも……それで…」
「あら、頭が切れてますわね。痛みが脳細胞を活発にさせているのかしらね」
ボクをここに来るようにさせるために……そして、それで華琳お姉ちゃんをここに連れ出せるために……
「おそらく明日の朝まではここに着くでしょう。さすれば、魏の象徴である二人、王と天の御使いの二人を一気に片付けることができますわ…」
「……させ…ない」
「あら、逃がしませんわよ」
スッとして華琳お姉ちゃんのところに行こうとしたけど、
「……な……っ!」
行けない。
何で!こんな時にまた動けないの!
「能力は回収させて頂きましたわ。この外史とは関係なく、あなたにはいい実験体になってもらいました」
「……どういう……意味?」
「ふふふ…っ、この能力、あなたは本当にあの車事故が原因だと思っていますか?」
え?
「北郷一刀、わたくしめはもっと前からあなたのことを知っていましたわ。ええ、あなたが生まれるその時から、今ここに来る時まで、あなたはわたくしめの予想通りに動いてくれましたからね」
何?
わけが分からない。
「可哀想な左慈。自分が本当にあなたの人生をむちゃくちゃにさせてしまったと勘違いしちゃって……ふふふっ」
「何を……言っているの?あの事故は…さっちゃんが自分がやったって……前に…」
「それもあの娘の勘違いですわ。実際あの娘がそうしなかったとしても、あなたはそこでその事故に会っていた。それが、あなたの『天命』だったのですわ」
天命……?
そんなものがあるはずが…
「ありえないと思いますか?それがあるのですよ。人の無限の可能性の糸を結ぶ幾つかの固定された拠点が。あなたが会った車事故がその一つ。あなたが事故にあって、親に捨てられることは、どのみちあなたの宿命であったのです」
「………」
ううん、
そうは思ってなかった。
そんなふうには思ったことはないよ、さっちゃん。
もしあの時、さっちゃんがボクにそんなことをしなかったら、ボクはあのまま家族と平和に過ごせたとか思って、さっちゃんを恨んだことなんて、最初に知った時以外には一度のなかったよ。
だって、おかげで華琳お姉ちゃんたちに会ったから。
素敵な思い出がたくさん出来たから。
だけど、ボクがそうなることが運命だったって、
ボクは母さんに見捨てられるしかなかったって聞かれてしまうと…
「嘘……」
「嘘なんかではありませんわ」
「そんなの嘘だ!!」
もしそれが本当なら…
ボクがそうなることが運命だったとしたら、
「そんなの…嘘に決まってる…」
ボクはどうして生まれてきたの。
あんな残酷なことが事故じゃなくて、偶然ではなくて必然だったとしたら、なんて酷い運命があるの?
なんのために……神様は何のためにそんな運命を持ったボクを生まれるようにしたの?
ボクだって、幸せになりたかったよ。
でも、どうしても出来なかったのは…
一度見捨てられた母さんがボクのことを完全に忘れて、父さんじゃない人の間で新しく出来た子にボクの名前を付けて呼びながら微笑んでいるあの姿を見たとき、
ボクの幸せなんてそこにはいないんだって最初から分かっていた。
だから今まで真似をしていた。
幸せなふりをしていた。
どれだけ悲しくても、笑っていられた。
どんなに苦しくても、笑顔だけは失わなかった。
そうすると、ボクが持てなかった幸せを、他の人達が代わりに感じてくれたから。
華琳お姉ちゃんも、
春蘭、秋蘭お姉ちゃんも、桂花お姉ちゃんも、
凪、沙和、真桜お姉ちゃんも稟、風お姉ちゃんも、
季衣お姉ちゃん、流琉おねえちゃんも、
ボクが笑っていると一緖に笑ってくれたから、だから、今まで幸せの真似ができた。
だけど、わかってっていた。
ボクの幸せはあの時、どこかに消えてしまっていて、もう一度掴もうとしてもどこに居るかわからなくて、新しい幸せを掴もうとしても以前の記憶がその幸せ覚えることを邪魔していた。
なのに、それが天命だったって…
ボクは最初から幸せなんて持っていられなかったと言われてしまうと、
できなくなってしまう。
笑うことができない。
微笑みでどうやってするのだっけ。
忘れてしまった。
思い出せない。
笑い方が、微笑み方が……幸せを真似する方法が思い出せない。
「ボクは……<<カタカタ>>」
崩れる。
崩れるの自分でも分かる。
「可哀想な子」
自分の壁が、笑顔という鎧の中の醜い自分が出て来ようとするのが分かる。
「やめて……」
「その純粋な笑顔で、行動で周りの誰もを幸せに出来る力を持っていながらも、自分のことだけはどうしても幸せにできなかった不憫な、今までこの外史に訪れたどんな天の御使いよりも不憫な子」
「来ないで……それ以上言わないで」
それ以上言われたら……
「幸せになって行く人たちを見ながら、自分もそこに混ざってその幸せを感じているような感覚に陥りながらも、実は悲しみの海で甘い幻を見ていたに過ぎない」
少しずつボクの前にあの女の人が近づいてきた
「ボクは……」
逃げないと……これ以上聞かれてはいけない。
「誰よりも幸せに近くて」
何で動かないんだよ!逃げないといけないんだよ!早く……このままだと
「言うな」
「誰もが望めるその願いに一番近くに居るのに、自分の分の幸せなんて持っていられなくて、それをいつも隣の誰かに渡してしまうことしかできなかった」
「これ以上されたら……」
壊される。
ボクじゃなくなってしまう。
やがて、あの女の人がボクの目の前にいた。
震えているボクの顔を見ていたあの人は、最後の言葉をボクの耳に囁いた。
「北郷一刀ではなくなった天の御使い」
……
ガチッ
――かずと
ボクは……北郷一刀じゃない。
だって、北郷一刀には母さんがいて、父さんが居て、今でも自分のベッドの中で、まだ苦しみなんて知らない赤ちゃんの姿のままに幸せに包まれて眠っている。
だから、
ボクは、北郷一刀じゃない。
じゃあ、ボクは誰?
誰でもない
あの時、
母さんのあのあたらしい息子にボクの名を付けた日から、
ボクは北郷一刀ではなかった。
何者でもなかった。
ボクは……
最初からボクという存在なんて居なかった。
壊された鎧の中には何もなくて空っぽのまま。
存在なんてもう遠い昔に失った、鎧だけの姿で生きてきた子供。
敢えて知ろうとしなかった本当の自分を見つけた時、
子供はただの鎧になってしまった。
悲しみも苦しみも、幸せも不幸せも、何も感じない、ただの人の形をした、壊れた鎧になってしまった。
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気が付いたら出来上がっていました……
いや、暗すぎるだろ。
絶望ってところじゃないだろ。
どこまで堕ちるんだよ、自分。
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