校庭の桜の木。
見るとあの人を思い出して、しばらくの間、時を忘れてしまう。
「イーピン!」
「…っ!…なぁんだ、ランボ」
「なぁんだじゃないでしょ」
全く、とため息をつきながら私を睨むのは幼なじみのランボ。
彼は私が桜を見る度に何を考えているのかは全てお見通し。
変なところで勘が鋭くて、参る。
「あ、そういえば沢田氏がね」
「沢田さん?」
「うん、雲雀さんがイーピンを呼んでるって。雲雀さんの部屋に行くように伝えてって」
「…雲雀さんが?」
「雲雀さんが」
雲雀さんから呼び出しなんて滅多にあることじゃない。むしろ私が会いたいときには会ってくれないのに。
あの人は少し我が儘だ。子供の私よりよっぽど。でも、そこも含めて私は彼が好きなのだ。
ランボと共にアジトに行き、風紀財団の管轄との分かれ道で分かれる。
「…遅かったね、どこで油を売ってたの」
「あ、え、ごめんなさい!これでも真っすぐ帰ってきたんですけど…!」
「まあいいや、おいで」
言いたいことだけ言って、雲雀さんはすたすたと自室へ向かって歩きだしてしまう。その後ろを私は少し距離を開けながら歩く。
「君さ」
「はい?」
「今いくつだっけ」
唐突な質問に首を傾げると、雲雀さんは「聞いてる?」と少しいらついたような声色で私にもう一度尋ねた。
「あ…えと…15歳ですが…」
「そう…あと1年だね」
「何がです?」
「君、足し算も出来ないの?」
「足し算くらいは出来ます!」
私の必死の反論が聞こえているのかいないのか、彼はなお歩みを進めて、自室の襖に手をかける。
「女性は16歳、男性は18歳で結婚ができるでしょ」
「…っ!けっ、けっこん?!」
「いいかい、僕は10年待ったんだよ」
「えっと…っ」
私の髪を撫でると、雲雀さんは耳元で優しくこう囁いたのでした。
『きっと夢中にさせるから』
(それは、私のセリフです)
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10年後の雲雀さんとイーピンのお話です。