劉備と呂布の活躍により、徐州は守られた。
しかし、淘謙は劉備に徐州を託して、この世を去ってしまう。淘謙の死に悲しむ劉備だが、拠るべき地を手に得れたことの喜びも感じていた。
一方で、敗北した曹操は徐州の代わりに董卓の残党の下にいた帝を保護する。
ここに至り、漢室の流れを汲む劉備は、曹操と和解。曹操を通して下される勅命に従い、各地を転戦するのだが、これに不満を抱く武将がいた。
徐州の片隅で客将として過ごしていた呂布である。
呂布は陳宮に質問した。
「………どうして、桃香は曹操の命令を聞く?」
帝が曹操の手に落ちていることを知っている以上、劉備に下される命令はすべて曹操の命令。ついこの前まで敵として戦っていたのに、どうして劉備は従っているのかという。
「簡単ですぞ。帝が曹操の手にあるからです」
つまりは人質。曹操は劉備が帝を溺愛していることを逆手にとって利用していること。
「………いずれここも奪われる?」
「……いずれは」
呂布は空を見る。
その脳裏に一人の友を思い出した。
「……月」
かつて、自分の自らの手で殺した友を。
第二話
『欲望の力』
天幕の中に北郷が中へはいる。
「いらっしゃい。北郷殿」
少しキツメの顔立ちに褐色の肌、煌く髪の孫策と長身と長い黒髪に、孫策と同じ色の褐色の肌の周瑜が北郷を出迎えた。
「美……袁術様が、孫策殿に出撃要請をして来た。今度は徐州攻略だ」
「北郷殿、それを我らが飲むとでも?」
周瑜の鋭いまなざしを北郷に向ける。
「……正直、思わないが、逆らうことはできないはずだけど?」
「………」
周瑜は口ごもる。それは逆らうことが出来ない壁があるから。
「俺とした約束覚えている孫策さん?」
「……確か、袁術と張勲を手に入れるために手伝えだったかしら?」
「そうだ。俺は美羽と七乃さんを孫策さんは自由という約束だ」
「……失礼だけど北郷殿、そんな約束が有効するとでも?」
「今のままじゃ、二人の心は手に入らない。だから孫策さんが持っている玉璽がほしい」
北郷が玉璽をよこせと言った瞬間、周りの空気が殺気に満ち溢れる。
「何のことかな? 言っている意味わかんないわ」
「……とぼけても無駄だよ。とっくに調べはついている。反董卓連合の折りに洛陽にて、玉璽を手に入れたことなど」
「言っている意味わからないわ。北郷殿」
孫策は、軽い口調でとぼける。
「……俺は約束は守る人間だ。例え、それがこれから敵になるであろうという可能性を思った友人や部下であってもね」
北郷はそういい残し、天幕から出って行った。
「………」
孫策は懐から、玉璽を取り出した。
「雪蓮。……まさか」
「……勘よ。ここに入って来た時は腑抜けかと思ったけど、最後にまっすぐないい目をしたわ。これが根拠」
「はぁ……言い出したら聞かないんだから。……わかったわ。私も北郷殿の約束を信じよう」
半ばあきれる顔をするが、孫策の勘を信じているのか周瑜は、それ以上何も言おうとしなかった。
朝、劉備は北郷の布団をズバッとはがす。
「……いやん」
北郷はまだ眠たそうな声と共に寝床の上で、丸くなった。
「ご主人様、起きて」
「も――少し……あと、五分……」
「五分って何? ……とにかく、もう起きて」
劉備は北郷の寝床に飛び込み、北郷の体をごそごそとまさぐり始める。
「っ! 桃香さん……ちょっと!?」
「早くしないと、悪戯しちゃうもん」
ぐりぐりぐりぐり。
「……ぬふん……があああっ!!」
北郷はガバリと体を起こし、劉備を突き倒した。
「……おはようご主人様。ようやく起きたね」
「―――起きたどころか、すでにパンパンなんだけど? 桃香」
「それもいいけど……」
劉備は北郷の頬を両手で持ちキスをする。
「……ん」
が。
「ぷはぁあっ……て。これはキスじゃないぞ。もっと深いキスじゃん」
「だって、こうした方が私もご主人様も目が覚めるでしょ?」
「……桃香。あいかわず見かけによらず……恐ろしいなぁ」
「好きな男の子が出来たら女の子は、怖くなるんだよ?」
劉備は、にっこりと笑うと、寝床から降りた。
「―――さてと、また行って来るね」
「今度はどこに行くんだい?」
「袁術さんのところ。出来たら話し合いで終わらしたいだけど……」
それは不可能だ、と言わんばかりの顔を北郷はしている。
「ん……わかってる。だから、出来るだけ最小限で治めてみる。それが私が出来ることだと信じているから……」
北郷は劉備の背中を強く抱いた。
「大丈夫。きっと争いはなくなるさ。曹操を信じようよ」
「………うん」
曹操が帝を利用しているのは理解はしていた。しかし、曹操が起こしている戦争は平和のための戦争だと信じているから。
偽善だろう、きっと。
でも、平和必ず来ると劉備は信じていた。
「ここは鈴々ちゃんに守ってもらうから。安心してねご主人様」
「わかった。行ってらしゃい桃香」
劉備と北郷はもう一度キスをした。
玉座の間の扉が開いた。
許昌の太守、曹操と部下の家臣が一斉に顔を上げる。
「お前は……」
曹操は意外な訪問者に少し驚く。
「洛陽以来ね。曹操」
曹操と同じぐらいの背丈で眼鏡をかけた少女が微笑んだ。
「呂布の反乱の時に、董卓と一緒に死んだと思っていたのだけど……生きていたのね」
「死にたいわ……すぐにでも。でも、死ぬ前にやらないといけないことがあるから生きているのよ」
「ふ―ん……それで、私にそれの協力をしろと?」
「アンタにとってもいい提案ハズよ」
その途端、曹操に対する言葉づかいに不服を抱いた夏侯惇が腰にある剣を抜こうとしたが、曹操が手を上げると目を閉じ、沈黙をした。
「それは何かしら? 賈駆」
賈駆は不敵な笑みを見せる。
「……徐州と呂布の首よ」
第三話へ続く……
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前回のお話
時は、群雄割拠時代。
弱い者は強い者に喰われ、強者こそが生き残る時代。そんな時代の中、特に強い力を持った英雄がいた。
曹操、劉備、孫策、呂布、袁術。
これはその英雄達を視点として、この時代をどう生き抜いていったかの物語。