No.211760

真・恋姫無双 夜の王 第52話

yuukiさん

真恋姫無双夜の王第52話。
割れる黒天、始まりは終わり。

2011-04-15 09:55:48 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:7472   閲覧ユーザー数:5875

 

 

ガアンッ

 

 

なにかが殴られる音が響く。

 

獅堂「もう、一度、、言ってみろ、、、金色」

 

麗羽「、、、もう、戦いは止めるべきですわ」

 

獅堂「っっ!」

 

俺は麗羽の胸倉を掴み乱暴に立ち上がらせた。

許せねえ、今の言葉だけは許せねぇ。

許せる、筈がねぇ。

 

麗羽「くっっ、、っっ」

 

獅堂「、、、、もう、一度、言って、みろ」

 

麗羽「戦いを止めましょう」

 

獅堂「っっ!」

 

翆 「落ち着けよ!獅堂!」

 

麗羽に向け振りかぶった拳を馬女が腕にしがみ付いて止めてきやがる。

ふざけんじゃねぇ、テメーもか。

テメーも、この馬鹿とおんなじ考えなのか!

 

獅堂「はなせやぁ!馬女ぁぁ!」

 

猪々子「いい加減にしろよ!馬鹿ぁ!」

 

胸倉を掴んでいた手を外し放った馬女への拳を猪々子が止めてくる。

何なんだよ、何でどいつもこいつも俺の邪魔をしやがる。

 

この馬鹿力どもに押さえつけられた俺は、膝をつくしかなかった。

 

猪々子「いくらお前でも、これ以上は許さねえぞ、、絶対、ゆるさねぇ」

 

獅堂「うるせえ、」

 

猪々子「もう、やめろよぉ、、お前が仲間に拳握ってる所なんて、見せんなよぉ」

 

馬鹿が泣いているかなんてわかんねぇ。

興味がねえ。

どうでもいい、んなこたぁ。

だが、視線を向けねぇでも腕に当たる水が泣いていることを知らせてくる。

少しばかり、冷静になれた。

 

獅堂「もう、いい。離せ」

 

翆 「獅堂、、」

 

獅堂「もう、暴れねぇからよ」

 

翆 「ああ、」

 

猪々子「、、うん」

 

両腕を解放された後、金色の方に目をやれば、俺が殴った頬の手当てを斗詩がしてやがった。

 

獅堂「、、悪かったな。少しやり過ぎた」

 

誰が見ても少しじゃねえ、と言うだろうが。

少しだ。

この状況でのあの言葉は、殴り殺されても文句はねえ筈だ。

文句なんぞ、言わせねぇ。

金色もわかってんだろう、なにも言わずに頷くだけだった。

 

麗羽「別に良いですわ。あの子達の分も貴方に殴られたのだと思うことにしますわ」

 

あの子、てっのは俺の後ろで殺気垂れ流してるヤローどものことなんだろうな。

 

凪 「、、、、、、」

 

小蓮「、、、、、、」

 

恋 「、、、、、、」

 

確かに、あいつらに殴られるくらいなら俺の方が幾分かましだったろうぜ。

気だとか何だとか、赤髪に殴られたら即死どころか十回は死ぬな。

、、、柄にもなく理屈っぽいことを考えねえと、理性が飛びそうになる。

こんな頑張ってる俺を誰かに褒めて欲しい。

 

獅堂「で?金色、今の言葉は途轍もなく高度な冗談かなにかか?」

 

麗羽「冗談でもなんでもありませんわ。もう、戦いは終わらせるべきですわ」

 

獅堂「は、はは、はははははははは」

 

思わず爆笑する俺。

 

獅堂「つまりはだ、麗羽。お前は、尻尾まいて逃げろってのかよ。あぁ!」

 

麗羽「ええ!そうですわ!一刀さんを失ったこの国が、本当にこの戦争に勝てると思っていますの!」

 

一刀を失った、誰も言えなかった言葉を金色は言いやがった。

瞳に涙を溜めながら、言いきりやがった。

 

今だ帰らない一刀。

そして、翆達が帰る途中、見たという中岳嵩山城の現状。

劉備達が持ち帰った血に染まった灰の鳳旗、白の鳳旗。

 

獅堂「は、ははは、はあああ!」

 

やっぱ駄目だ。

考えちゃ駄目だ。

知性が飛ぶ、心が砕ける。

忘れろ、忘却しろ、滅却しろ。

理性も、心も、自分への憎しみを。

 

理性は捨てろ、倫理も捨てろ、あるのは知性と狂気でいい。

 

獅堂「ああ、そうだな。テメーの言うとおりだ、金色。勝てねーだろぉなあ」

 

麗羽「、、、、、、、」

 

獅堂「けどよ、それがどうしたよ?一刀が死んだ!一蝶も死んだ!ああ、死んでんだろうなぁ!」

 

理性を捨ててなお、知性は事実を告げてくる。

可能性の高い事実を告げてくる。

 

獅堂「だからって、あいつらの思いが死んだわけじゃねえだろう。死なせて、たまるかよ、、」

 

凪 「獅堂様、、」

 

小蓮「獅堂、、」

 

恋 「、、ん、、」

 

 

 

 

 「終わらねぇ!終わらせねぇ!ヤローが死のうが、何人死のうが、大義は尚、此処にある!」

 

 

 

 「貴方のその自己満足で、一体何人殺すきですの!」

 

 

 

 

 

 

俺の言葉に返すように、金色は俺を睨んでいた。

涙を溜めた、その瞳で。

 

麗羽「考えるまでも無く、一刀さんを失ったこの国に魏と呉を打ち破る力なんてありませんのよ!勝ち目のない勝負から逃げろとは言いませんわ!それでも、引き際は弁えなさい!無意味な犠牲は一刀さんが一番嫌っていたものですわ!」

 

獅堂「っっ、、」

 

麗羽「、、、獅堂さん。私は結局、一刀さんのいう大義とはなんのか、わかりませんでしたわ。弱きを守る盾なのか、天下太平を築く道なのか。情けない話ですが、まったくと言っていいほど理解できていませんの」

 

悔しそうに、ただ悔しそうに、金色は唇を噛み締めていた。

 

麗羽「それでも、考えて考え抜いて、一番近いものは思うモノが為政者なら当り前の理屈だと確信しましたの。”一にて十を救うこと”それが、一刀さんの言う大義の始まりなのではないか、と思いましたの」

 

獅堂「ああ、間違っちゃいねえだろうな」

 

間違っちゃいねえ。

ただ、アイツの大義はそんな綺麗なもんじゃ無かった。

確かに普段は一を捨て十を拾う奴だ。

だが、そこに例外が入れば、千を殺してでも一を救う。

 

麗羽「なら、私は、一刀さんに洛陽を頼むと言われた私は、救わせて頂きますわ。たとえ、一刀さんを殺した者達と手を結んででも、一では無く十を」

 

だから違う。

あいつなら十なんて救わねえ。

同じ状況、もし死んだのが一刀じゃなくお前だったら。

一を捨て、十も捨てて復讐鬼へとまかりなる。

例外、”お前達”っていう例外が入れば、千殺一生があいつの大義だ。

 

まあ、これは俺個人の考えだがなぁ。

だが、お前の考えよりは有ってる筈だぜ。

お前は、間違っている。

 

麗羽「たとえ、貴方にどんな言葉で蔑まれても、あの人の思いは継がせていただきます!私は私の大義を貫き、救わせてもらいます!天の民、その全ての命を!」

 

獅堂「、、、お前の、考えは間違ってる」

 

麗羽「、、、、、、」

 

斗詩「っっ、、、、」

 

獅堂「が、、お前の思いは、正しいんだろうよ」

 

歯を食いしばると、結構あっけなく

 

   ガキッ

 

奥歯が砕ける音がした。

 

 

 

根暗と張遼、二人との激戦を終え、城に帰ると俺は全てを失っていた。

 

一刀が死んだ、理由は知らねえ。

一蝶も死んだ、理由は知ってる。

一刀を救おうと、中岳嵩山城へ向かう途中に死んだらしい。

あいつらしい最後だと思う。

身も心も一刀に捧げようとしてた、あの変態らしい最後だ。

 

らしくありすぎて、笑うことも出来ねえ。

救いに行って死んだなんて無様さに涙も出ねえ。

 

獅堂「、、わかんねぇ、わかんねぇなあ、この怒り、殺意、何処にぶつけりゃいいんだよ」

 

一週間、魏と呉、そして天で行われた大戦は停戦している。

そりゃそうだ、王一人が消えた。

その報を相手が伝えて来たんだ、中岳嵩山城の戦いにてお前達の王は消えたと。

死んだのではない、消えたのだと。

そんな気休めを言って来やがった。

 

一蝶については、死んだと聞いた。

夏候淵、黄蓋の両名が討ったそうだ、部隊も全滅。

 

笑えねぇ、笑えねぇ、笑うしかねぇ。

 

獅堂「は、はは、ははは、、何なんだよ、たっく。俺は、どうすりゃいいんだよ、、」

 

かつては三人で見上げた夜空も、今は見上げる者は俺一人。

 

憎い、憎い、憎い、憎、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い

 

あいつらを殺した奴らが憎い。

あいつらを殺させた俺が憎い。

俺を一人にしたあいつらが憎い。

 

殺したい程に、魏と呉の連中が憎い。

だが、殺せない。

守るために、殺せない。

 

金色の言ったことは正しい。

今の天が魏呉と戦った所で、勝ち目はねぇ、あいつが消えた天に拠り所はねぇ。

崩れる、壊れる、破滅する。

黒を失った夜空なんて、もう夜空じゃねぇ。

戦なんてしようものなら、燻っていた反旗がまた立ちあがる。

戦なんてしなくても、初期の奴らと新規の奴らとで内部分裂を起こすだろう。

 

獅堂「結局、戦いをしねえ為にも、国を安定させる為にも敵の力を借りなきゃなんねえってんだから、本当に惨めだぜ。無様だなぁ、糞が」

 

本音だ。

惨めで、無様だ。

現に国内でも一刀が死んだことで停戦を取り付け、魏と呉に同盟を申し入れようとしている金色は影でそう言われている。

売国奴、臆病者、恥知らず。

確かに、的を射た言葉だが、傍観だけで何もしねえ連中に言われる筋合いはねぇはなぁ。

 

影でこそこそ言ってる連中に比べれば万倍は天の為に動いてやがる。

民を、天という国を救う為に動いてやがる。

 

獅堂「俺は、なにやってんだろうなぁ。こんなとこで、空見上げるしかしてねえなんてよぉ」

 

ホント、なにやってんだか。

そんなことを呟いた時、傍に近付いてくる小さい影があった。

 

璃々「獅堂、お兄ちゃん」

 

獅堂「んだよ、ガキ。ガキはもう寝てる時間だろ。さっさと失せろ」

 

璃々「聞きたいこと、あるの」

 

嫌な予感しかしねえ、だから遠ざける言葉をはいたってのに、聞いちゃいねえ。

これだからガキは嫌いだ。

 

璃々「一刀おにいちゃん、どこにいったの?」

 

ほら来た、最悪な問いだ。

 

獅堂「黄忠に聞いてねえのか?」

 

璃々「うん、、お母さん忙しそうで、聞いても、後でって、、」

 

優しさ、なんだろうな。

真実ほど人を傷つけるものは無い、だっけか。

現実は小説より悲惨なり、だな。

 

獅堂「なら、黄忠が暇になったら聞けばいいだろ」

 

璃々「今、知りたいの」

 

獅堂「待ってろ」

 

璃々「知りたいの!」

 

、、、うぜぇ、うるせえ、これだから子供は嫌いだ。

 

獅堂「璃々、俺は優しくねえ、優しくする気もねえ。それでも、聞きたいか?」

 

璃々「教えてくれるの?」

 

獅堂「答えろ」

 

璃々「うん」

 

スッーと、一息吸い込んでから。

 

獅堂「死んだよ」

 

事実を告げる。

 

璃々「、、、、、」

 

獅堂「一刀は死んだ」

 

表情を失った子供に事実を再度告げる。

 

璃々「うそ」

 

獅堂「一刀は死んだ、もう居ねえ」

 

否定する子供に再三事実を告げる。

 

璃々「うそ、だ、もん。だって、おにいちゃん、帰ってきたら、遊んでくれるって、いって、た、もん」

 

獅堂「死んだんだ。その約束は無効だな」

 

泣きはじめる子供を苛めるように事実を告げる。

 

璃々「う、うう、ぐすっ、えっぐ、う、っっ、ちがうも、うそ、だも、っえ、」

 

獅堂「すぐ泣く、これだから、子供は嫌いだ」

 

泣きわめく子供を置いて、俺はその場を離れて行った。

 

ほんとに屑だな。

俺は、子供にかける優しさの一つも持ってねぇ。

璃々で憂さ晴らしをした自分がうぜぇ、死ねばいいのに。

 

 

獅堂「で、俺に警備をして来いと?」

 

麗羽「ええ、そうですわ。獅堂さんに連合軍が布陣している近くの村を見てきて欲しいんですの」

 

璃々で憂さ晴らしをした翌日、そんなことを言われた。

 

獅堂「何で俺なんだよ。他の奴でもいいだろ」

 

麗羽「、、、斗詩さん、猪々子さんは停戦の為に動いて貰っていますわ。風さん、音々さんも同じく。沙和さん、真桜さんは混乱を鎮めるために警備を。明命さん、逆狗さんは連絡役を。恋さんと、凪さんは、、部屋から出てきませんし。小蓮さんは何処かに行ってしまっていますの。今、動けて動いていないのは貴方だけなのですわ。獅堂さん」

 

獅堂「、、、そうかよ、ああ、わかった。行ってくる」

 

素直な返事を返して、俺は立ちあがった。

 

麗羽「獅堂さん」

 

獅堂「んだよ」

 

麗羽「私は謝りませんし、自分が間違っているとも思っていませんわ」

 

獅堂「、、、、、」

 

麗羽「、、なにも、言わないんですのね」

 

獅堂「何が言いてぇんだ」

 

麗羽「らしく、ありませんわね。ただ、、それが言いたかっただけですわ、、」

 

獅堂「、、、、知るか」

 

俺は背を向け、歩きだした。

 

間を出て、部隊に連絡を入れ、すぐに出る準備を終えた。

動いていたかった、部下に罵声ともとれる言葉を叫び、はっぱをかける。

らしくあろうと、努力をした。

けど、

 

小蓮「らしくなんて、できる訳ないよね」

 

行軍中、突然前触れもなく、じゃじゃ馬が馬に乗って隣に居やがった。

 

獅堂「テメーはキノコかなにかか?どっから生えてきやがった?」

 

小蓮「ぶー、なにその言い方。噛むよ」

 

随分と馬鹿みてーな突っ込みだ。

 

頬を膨らませていたじゃじゃ馬は、しばらくすると冷めた目で前を見ながら言葉を繰り返した。

 

小蓮「らしくなんて、できる訳ないじゃんね。一刀が居ないって言うのに」

 

獅堂「、、、ああ、そうだな」

 

小蓮「みんな、おかしいよ。どうしてあんなに冷静なのかな?」

 

獅堂「動いて、忘れようとしてんだよ。何もかも、感情をな」

 

小蓮「恨みとか、悲しみとか、殺意とか?」

 

獅堂「ああ、それが大人の対応ってやつだ」

 

小蓮「そう、じゃあ子供なのはシャオと獅堂と凪と恋だけだね。まあ、シャオはそれが大人なら成りたくも無いけど。間違ってるよ、忘れようなんて、一刀、生きてるかも知れないのに」

 

獅堂「、、、かもな」

 

生きているかもしれない。

確かにそうかも知れない。

確かにそうじゃないかも知れない。

 

獅堂「で、なんでテメーは此処にいんだ?」

 

小蓮「城に居たくないの、連れてって」

 

獅堂「なんで?」

 

小蓮「言ったでしょ、大人に成りたくないの。、、明命の部屋から毎晩、泣き声が聞こえるんだ。でも、朝になったら笑顔でシャオを起こしに来るの。みんなそう、おかしいよ、そんなの。シャオ、そんなシャオに成りたくない」

 

獅堂「そうかよ、好きにしろ」

 

ため息をつきながらそう言うと、じゃじゃ馬の視線が刺さる。

 

小蓮「、、、獅堂も大人に成るの?」

 

獅堂「はあ?」

 

小蓮「何時もと違う。ううん、昔と違う。なんか、変だよ」

 

獅堂「、、、かもな、わかんねえんだわ。俺は、なにをすりゃいいのか、なにを憎めばいいのか」

 

小蓮「、、、、ふーん」

 

俺達はただ黙々と、進んでいく。

 

 

一つ目の町は変わり無かった。

 

二つ目の町は少し混乱が見られた。

 

三つ目の町は不安に押しつぶされていた。

 

四つ目の町からは、黒煙が上がっていた。

 

 

獅堂「っっ、んだよ!あれ!」

 

小蓮「獅堂!黒煙上がってる!」

 

獅堂「ああ、全員続け!遅れんな!」

 

兵士「「「「「お、おお!」」」」

 

馬を走らせ、たどり着いた先で見たのは見知った光景。

 

獅堂「、、、、、、」

 

小蓮「、、、、、、」

 

兵士1「、、、、、、」

 

兵士2「、、、、、、」

 

焼けた家屋、肉が焦げる臭い、飛び散る赤色、人であった物体、焼け焦げた子供用の人形。

戦場の光景、踏むにじられた平和な世界。

 

兵士1「ど、どうして、停戦中の筈だろ。それに、ここは戦力も無いただの村だぞ」

 

獅堂「なにぼさっとしてんだ!さっさと動け!」

 

生存者を捜せ、と俺が叫ぶ前にじゃじゃ馬が瓦礫の山から辛うじて生きている男を引っ張りだしていた。

 

小蓮「大丈夫!ねえ、返事してよ!」

 

男 「あ、ああ」

 

小蓮「なにがあったの?話せる?」

 

男 「せ、攻めて、来たんだ。連合の奴ら、と、突然、襲って」

 

兵士2「停戦中なのにか!?」

 

男 「か、関係、ないと、関係ないんだと、」

 

小蓮「どうして、、」

 

男 「お、俺たちが、罪人、だから、」

 

兵士2「、、、、、、、」

 

小蓮「、、、、、、、」

 

男 「罪人、だから、死ねと、、死んで当然だと。殺された、みんな、殺された。皆殺しに、」

 

その通りだ。

この村は初期、天の傘下に入った村。

罪人、盗賊上がりが生活していた村の一つだ。

死んで当然、是非も無い。

他人から言われれば、言い返すことすらできない。

あいつが無理やり守っていた、悪の村。

 

男 「、、あ、あ、ぁ、、ぁ」

 

小蓮「!?、どうしたの!しっかりして、ねえってば!」

 

兵士2「っっ、くぅ」

 

そして、当然のように男が言った通りになった。

全滅した、この村は、悪は滅びて正義は成った。

悪行に、報いは有った。

 

兵士1「隊長、、、」

 

声のした方を見れば、さっき生存者を捜せと言った部下の一人が何かを腕に抱えて来やがった。

 

獅堂「、、それしか、見つかんなかったんだな」

 

兵士1「、、はい」

 

目の前に死体を、子供の死体を腕に抱えて、涙を流す悪が居た。

 

兵士1「隊長ぉ、、、」

 

獅堂「んだよ、、、」

 

兵士1「どうして、どうして、こんなことに」

 

馬鹿な部下は、馬鹿な筆問をする。

 

獅堂「悪だからだろ。俺達が、こいつらが」

 

馬鹿な上司は馬鹿正直に答えるだけ。

 

兵士1「、、ああ、そうです。そうだよ、、俺は元盗賊、そして死んだ村の者達もそうだ。けど、けど、けど!この子は、、、違うでしょう」

 

獅堂「、、、、、」

 

兵士1「この子供も盗賊だって言うんですか!悪だって、言うんですか!」

 

獅堂「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

 

兵士1「この子の父は、盗賊だったかも知れない。この子の母は罪人だったかもしれない。けど、子供は、子供は関係ないんじゃないんですか、、、この子は、関係ないでしょう、、」

 

部下は、馬鹿な部下は、馬鹿みたいに泣きながら馬鹿みたいに子供であった物体を抱きしめて、馬鹿みたいに傷ついていた。

 

小蓮「、、、、、、、、、」

 

兵士1「、、、、、ぐっ、うぅ」

 

兵士2「、、、、、、、っっ、」

 

泣いてやがった。

ある者は声を出しながら、ある者は声を押し殺して、ある者は自傷しながら、みんながみんな、泣いてやがった。

 

そんな奴らの姿を見て、部下が抱く死体を見て、焼け焦がれた人形を見て。

俺はようやく、気づいた気がした、気づけた気がした。

一刀が守りたかった者を、一刀が守ろうとした物を。

大義と言う、何かを。

 

獅堂「くっ、っっっくっくぅ」

 

小蓮「獅堂、、泣いてるの?」

 

嗚咽の後に、笑い声が漏れる。

 

獅堂「く、くく、は、はは、はははははは、はっははは、はははっはははははは」

 

小蓮「獅堂、、」

 

兵士2「隊長?」

 

兵士1「、、たい、ちょう」

 

笑い声が、止まらない。

 

獅堂「は、はは、はははははは、はっははは、はははっはははははは」

 

小蓮「どうして、笑ってるの?]

 

獅堂「どうして?おいおい、なに言ってんだ?テメーらこそ何で泣いてやがんだよ。こいつらは悪、死ぬべき者達だったんだ。それが死んだことに、何で涙を流す?」

 

わからねえ、分からねえ、解らねえ、判らねえ、ワカラネエ。

 

獅堂「こいつらは罪人だった。人傷つけ、殺し、犯した奴らだ。そんな奴らが、今まで穏々と生きてたこと自体が間違えだったんじゃねぇのか?」

 

小蓮「、、、、、獅堂」

 

笑いぎてか、涙が零れる。

流れ出した涙は、止まらない。

 

獅堂「罪は裁かれた、悪に報いはあった、世に正義はあった!ああ、笑えるな!正義はあったんだぞ!悪行への報いがあったんだぞ!こんな笑える話が他にあるかよ!ああ、笑えるな、笑えるな、笑えるな、笑えるな、笑えるな」

 

 

 

  「面白すぎて、涙が出てくる。この世に、正義はあった!!!!ははははははっはははははははっはははははははあははっははははあははははははははははははあっはあはっはははははははははっはははははっはははははははははああああぁぁ。糞が、、これが、正義かよ、くだらねぇ、、、」

 

 

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、プツリと笑い声は止まる。

俺は空を見上げたまま、小蓮に問う。

 

獅堂「なあ、これが一刀が守ろうとしたものだよなぁ」

 

小蓮「うん、そうだと思う」

 

獅堂「こんなものを、あいつは守りたかったんだな」

 

人を殺して、生きた者達。

人を傷つけ、生きた者達。

人を犯し、生きた者達。

誰かを犠牲にして、生きて、生き抜いて、悪と呼ばれた者達。

 

だが、それはこいつらだけなのか?

俺達、だけなのか?

違うだろ。

誰だって、誰かを犠牲に生きてんだ。

天も、魏も、呉も、蜀も、全ては等しく、悪なんだ。

 

勘違いをしていた。

あいつが救いたかったのはじゃじゃ馬でも金色でもあいつが抱いた女の誰でもねえ。

あいつが救おうとした者は、守りたかった物は。

大陸に遍く、全ての民。

大陸全ての悪。

 

その中で、悪の中で、最も人を殺した罪人の最たる奴らが、じゃじゃ馬達だったってことか。

英雄こそが、殺戮者。

聖人こそが、大罪人。

まあ、少し考えりゃ解ることだったな。

 

獅堂「それが奴の大義、か。なあ、じゃじゃ馬。なら、守んなきゃな、あいつが居ねえなら、俺達が」

 

小蓮「うん」

 

獅堂「守んなきゃなぁ、あいつが作った国。大義を成し得る、悪の国」

 

小蓮「うん、うん、うん!守ろう、そして、奪おう。一刀を奪った国を」

 

獅堂「ああ、そうだな。俺達は悪だ。なら、我慢する必要もねえ。だた、壊せばいい、ただ、守れば良い。”俺達の守りたいモノを、俺達のやり方で守れば良い”それが、大義だ」

 

憎むべきは憎め、恨むべきは恨み、それが俺らしさ。

それが、俺の大義、果てで守ろう、俺の守りたいものを。

 

獅堂「お前達も、それでいいか?」

 

兵士「「「「「おう!!!全ては我らの大義の為に!!!!!」」」」」

 

獅堂「なら話は速ええ、戻るぞ洛陽へ」

 

小蓮「どうするの?」

 

獅堂「金色はあいつなりの大義を行ってやがる。なら、俺は俺らしく大義を持って天を導く」

 

小蓮「ふーん、ならもう少し仲間が欲しいね」

 

獅堂「、、いいのか、俺は反乱を起こそうってんだぜ?高定のようによぉ」

 

小蓮「うん、いいよ」

 

じゃじゃ馬は笑う。

悪そうに笑う。

無邪気な笑顔が似合うその顔に、邪悪な笑みはよく似合う。

 

小蓮「守ろう、一刀の国を。守るために、奪おう、一刀の国を。シャオも、協力する」

 

獅堂「ああ、そうかよ」

 

小蓮「そうだよ。で、話し戻すけど、仲間ももう少し欲しいよね?」

 

獅堂「だな、二人じゃきつい。俺じゃ馬女や黄忠、趙雲には勝てねえからな」

 

小蓮「じゃ、誘おうよ。シャオや獅堂と同じ、大人じゃない人達。一刀が大好きな二人を」

 

獅堂「そうするか」

 

方針は決まった、俺は俺らしく狂いながら進むだけ。

俺は最後までやる。

諦めねえ、後悔もしねえ、んなこたぁ、死んだ後でも十分間に合うじゃねえか。

 

生きている間は、戦い戦い戦い勝つ。

ヤローの為に、天の為に、いや、全ては大義の為にか。なぁ、そうだろ、一蝶。

 

獅堂「そう言えばじゃじゃ馬。俺は、初めて知ったことがあんだわ」

 

小蓮「ん?なに?」

 

獅堂「俺、子供好きみたいだ」

 

 

例え話をする。

させてもらう、させていただく?するんだ、茶々は入れんな。

 

目の前に悲しみ嘆き、絶望に喘ぐ女が居たとする。

どうする?

親身になって話を聞いてやるか?肩を抱いて一緒に泣いてやるか?

まあ、間違っちゃいねえ。

どっちも正解だろうが、正しいかと聞かれれば難しいとこだろう。

話を聞いて何になる?気が楽に成る?話すぐらいで軽くなるようなことで泣いてんじゃねえよ。

一緒に泣いてやる?ヤダよ、んなの、どうして他人の不幸に巻き込まれなきゃなんねえんだ。

実際、悲しんでる人間にしてやれることなんて無えんだと、俺は思うぜ。

だから、俺は取り合えず、寝具の上で丸くなってる女に向けて、、、、剣を振り降ろしてみた。

 

獅堂「せえの!」

 

恋 「なにする」

 

獅堂「うおおおおおお!」

 

瞬間的に放たれる反撃を飛び跳ねるようにかわす俺。

いや、かわし切れずに方天我戟(どこからだした)に髪を一束持っていかれる。

 

かわした時、取りこぼした俺の剣は重力の赴くまま布団を貫通し辺りに羽毛が舞い散る。

見れば、その中に不機嫌そうな寝ぼけ眼で俺を睨む女が居た。

 

獅堂「いや、泣いてたんじゃねえのかよ!」

 

恋 「ん、なにいってる?」

 

獅堂「泣いてた?」

 

恋 「寝てた?」

 

どうやら、例え話~の文章のほとんどは読み外したんだと、読み飛ばして貰ってかまわない。

 

獅堂「んだよ、たっく。少しでもお前を心配して、心配したような気がして、心配していたらいいなあ、とかした俺のあらん限りの優しさが無駄になったじゃねえか。どうしてくれんだ、ああ!」

 

チンピラのような態度。

 

恋 「、、結局心配してないへんがな?、、獅堂は心配すると寝ている子の布団に剣を振り降ろすんかいな?」

 

見事?と言っていいのかわからねぇが突っ込みを入れられた。

赤髪に突っ込みを入れられた。、、、、結構ショックだ。

 

獅堂「ちっ、元凶は真桜か。今度ぼこしてやる」

 

チンピラのような態度、というかまんまチンピラである。

そして逆恨みである。

 

恋 「なにか、よう?」

 

獅堂「ああ、雑談終了だ。本題入る」

 

恋 「ん?」

 

今だ寝ぼけた様子の赤毛に俺は相談を持ちかけた。

 

獅堂「お前、麗羽裏切らねえ?」

 

直球勝負もいいとこだ。

 

恋 「、、、獅堂、なに、いってるの?」

 

獅堂「ああ、おいおい、いくら武しか能が無えからって人語ぐらい伝わんだろ。そのまんまの意味だよ。俺、あいつのこと裏切って天の実権にぎるきなんだわ。謀反、反乱だ。それでお前にも反乱勢力に入って欲しくってな、どうだって誘ってんだよ」

 

懇切丁寧に説明して、最後に瞬きし目を開けたら方天我戟が俺の首に添えられていた。

 

恋 「うそだって、いって。冗談って、笑って。じゃないと恋、恋、いやだから」

 

獅堂「、、、このままで良いって、思ってんのかよ」

 

恋 「、、っっ、、」

 

怒り、悲しみに満ちていた瞳に俺の言葉で戸惑いが入る。

 

獅堂「今のままで本当に良いのか?一刀を奪った国に媚び諂って、生き延びて、本当にそれで良いのかよ。糞みてーなもん心に閉じ込めてよ、明日食う飯がうめーのか?どうなんだよ、おい!」

 

恋 「でも、駄目!それは、駄目、、、もう、やだ、一刀がいなくて、一蝶もいなくて、これ以上、誰かがいなくなるのはやだ、、、やだぁ」

 

獅堂「、、、そういう問題じゃねえだろ。いなくなるのが嫌だ?もう既にいねえじゃねえか。もうそんな話の次元は終わってんだよ。わかんだろ。それとも忘れよぉってのか、寝て寝て寝て寝て寝て、一刀が生きてたのは夢でしたってことにでもするつもりかよ」

 

恋 「違う!違う違う違う違う違う違う違う違う!、、、一刀は、今も、生きてる。夢じゃない」

 

獅堂「ああ、そうかよ。なら話は速ええじゃねえか、金色のせいでこの国は可笑しな方向に向かってやがる。同盟、手を取り合う、それがあいつの望んでたことだったか。違げーだろ。あいつが望んだのは大陸の支配だ。征服だ。それなのに今、この国は戦いを止めようとしている。その間違い、一緒に正そうぜ。一刀が帰って来た時、胸張って見せられるようによぉ」

 

でも、と顔を伏せる赤毛。

此処まで言やじゃじゃ馬と同じくほいほい付いて来っと思ったんだが、違ったんだな。

友情が深いのか愛情が薄いのか、こいつは一刀と同様に金色も大切にしてやがるようだ。

 

恋 「麗羽、間違ってない。今、今だけは一刀が居ないから。戦えば、いっぱい死ぬ。たくさん死ぬ。恋の家族も死んじゃうかもしれない、恋はやだ。そんなのやだ。だから、麗羽は正しい」

 

獅堂「ああ、そうだろよ。金色は正しい、なら、俺は間違ってるってのか。あいつの意思を継ごうとする俺は、間違ってんのかよ。民では無く、国を守ろうとする俺は間違ってんのか?」

 

恋 「、、、間違ってない」

 

公平だった。

不平だったらどんなに良かったか、もしここで俺は間違っていると言えたら、どんなに楽だったか。

それでも、赤髪は公平で、炯眼で、馬鹿だった。

 

獅堂「ああ、そうだ。間違ってねえ、俺も金色も間違ってねえんだ。俺は国を守りたい、あいつは民を守りたい。ただ、それだけの違いだろ。そう言った上で俺は問いてえんだわ。恋、テメーはどっちを守りてぇ、国か、民か」

 

数秒の沈黙、いやもっと長かったか。

まあ、俺の体感時間なんてもんは当てにならないよなあ。

ともかく、しばらくたってもなお、首に当てられた方天我戟は下げられなかった。

 

恋 「喧嘩は、駄目」

 

獅堂「反乱を喧嘩っていうお前の感性には脱帽だな」

 

恋 「けど、友達は喧嘩するものだって一刀は言ってた」

 

獅堂「いい答えだ」

 

 

 

 

 

その日の夜中、誰もいなくなった王座の間には四人の影があった。

 

「で、結局これだけかよ。しかも将だけ軍師無しって、正気か?」

 

一人はいつも通り、人を馬鹿にした笑みを浮かべ。

 

「だって、冥琳や穏を見てたら分かるけど、軍師って生き物は現実主義者なんだよ?手伝ってくれないと思ったんだもん」

 

一人は本当に気持ちのいい笑顔で。

 

「小蓮様の言う通りです。反発されることも考えると、危険は少ない方がいい筈ですから。少数なのは仕方ないことだと、」

 

一人は拳を握りしめ。

 

「まあ、いっつも三個纏め販売のお前が一人で良いってんならいいけどよ。赤髪もそれで良いな?」

 

「ぐぅ、ぐぅ、、、、うん」

 

一人は寝ながらも武器を手放さない。

 

「寝てんのかよ、、、どうでもいいけど頼むぜ?俺じゃ相手に出来て精々馬鹿二人、三人だ。一流の武人って奴には及ばねえからなぁ」

 

四人に共通する思いはただ一つ、ただ一人の男の願いをかなえる為に。

 

「く、ははは、じゃあ始めるか。さらば、秩序よ、平穏よ。我らは王国を取り戻す」

 

「一刀の願いが叶わないなら、この城だって微塵に砕けちゃえばいいんだ」

 

「さらば、我が戦友たちよ。さらば、私の友達よ」

 

「みんなで、笑うために。明日笑うために、今日は滅びて」

 

 

「「「「革命の時は来た、俺達、シャオ達、私達、恋達、の国の名は、天。一刀の、願った国」」」」

 

「ならば、」

 

「ならば、」

 

「ならば、」

 

「、、、、、、、、ならば、戦おう」

 

「「「「天を握るこの手が、決して消えないように。守るために、奪うために」」」」

 

 

そして、城から聞こえた轟音と共に、天は崩れた。

 

 

「行くのか、隊長の指示はまだだぞ」

 

「ああ、俺は、もうこれ以上、親の罪で無実の子が死ぬのは許せない。主の願いも、諦めきれない」

 

 

 

「くっ、せっかく、戦いが終わるのに!!なにやってんだよ、馬鹿ぁ」

 

「止めろ!獅堂!これ以上、誰にも死んでほしくないんだ!」

 

 

「どうして、どうしてこんなことに、、」

 

「ようやく、貴方らしい顔になりましたわね。しかし、それを許すわけにはいきませんわ!」

 

 

有る者はその宣言に呼応し、あるものは嘆き、或る者は対抗し、しかし最後には、獣の咆哮が天を包んだ。

 


 
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