真・恋姫†無双~赤龍伝~第53話「逆襲?の美羽」
その日、赤斗は火蓮に呼ばれ、火蓮の屋敷にやって来た。
恋「赤斗。待ってた」
館の門の前で、恋が赤斗を出迎えてくれた。
呉に来た恋は、火蓮に気に入られ、火蓮と同じ屋敷に住んでいた。
赤斗「やあ、恋。お出向かいありがとう。元気かい?」
恋「うん。赤斗、火蓮が待ってる。早く行こう」
恋はそう言って、赤斗の腕を引っ張る。
赤斗「ああ」
恋に促されるままに、屋敷の中に入っていった。
赤斗は屋敷で一番広い客間に通された。
客間の中心には、大きな中華テーブルが置いてあり、席には火蓮と小蓮が座っていた。
赤斗「こんにちは。火蓮さん、シャオ」
火蓮「おう。よく来た」
小蓮「赤斗遅~い」
赤斗「ごめんね、シャオ。それにしても火蓮さん。何か用ですか?」
火蓮「実はな。一緒に食事でもしないかと思ってな」
赤斗「食事ですか。いいですね。喜んでご一緒しますよ」
火蓮「うむ。なら席に座れ。恋もシャオも、待ちくたびれたみたいだからな」
赤斗「そうなの?」
小蓮「もうシャオ。お腹ぺこぺこ~」
恋「赤斗が来なきゃ、ご飯出してくれないって、火蓮が言ってた」
赤斗「ははは……ごめんごめん」
火蓮「よし、料理を運んでくれ」
火蓮が侍女にそう言いつけるも、侍女たちの様子がおかしい。
火蓮「どうした?」
侍女「申し訳ありません。そ、それが……料理がなくなってしまって」
小蓮「え~~~~!」
火蓮「なんだと?」
火蓮が侍女を睨む。
「も、も、申し訳ありません」
睨まれた侍女は、もう半泣きの状態になっている。
赤斗「まあまあ。なくなったとは、どういう事ですか?」
火蓮たちをなだめながら、赤斗は侍女に尋ねる。
侍女「孫堅様の申しつけられた通りに、本日の料理を用意していたのですが、ちょっと目を離した間に、料理がなくなってしまって」
赤斗「目を離した時間はどれくらいだったの?」
侍女「えっと、全員で厨房に入って来た猫たちを、外に逃がしていたので……時間としては、十分もしなかったと思います」
火蓮「猫だと?」
小蓮「何で猫が?」
赤斗「じゃあ。今日の料理の量はどれくらい?」
侍女「かなりの量の料理を用意しました。その、恋様もいらっしゃるので」
恋「ん?」
赤斗「そうですか…………」
そう言うと赤斗は何やら考え始めた。
恋「…………赤斗?」
火蓮「どうしたんだ?」
小蓮「もしかして、猫が料理を食べちゃったの?」
赤斗「いや、それはないよ。恋も一緒に食事する事が分かっていて、料理を作っていたんだ。猫が全て食べられる量じゃない」
小蓮「あっそうか」
火蓮「じゃあ一体、誰が料理を?」
赤斗「さあ? それは分かりませんけど……料理を持っていった犯人の居場所ぐらいは、何となく分かりますよ」
小蓮「本当!?」
火蓮「ほう。すごいな。で……そこはどこなんだ?」
赤斗「まあ、実際に行ってみましょうか?」
張勲「うまくいきましたね。美羽様♪ もぐもぐ……」
袁術「まったくじゃ。孫堅の奴、いい気味なのじゃ。むぐむぐ……」
火蓮の屋敷にある倉庫の中に、厨房から奪った料理を食べている袁術と張勲の姿があった。
張勲「それにして、孫堅さんとこのお料理は美味しいですね。もぐもぐ……」
袁術「孫堅のくせに、むぐむぐ……生意気なのじゃ。むぐむぐ……して七乃。次はどうやって孫堅を懲らしめてやるかの」
張勲「そうですね~」
火蓮「…………誰を懲らしめるだと?」
袁術「そんなの孫堅の奴に決まっておるであろう…………へぇっ!」
張勲「そ……孫堅さんっ!」
火蓮「そうか。お前たちだったのか。袁術」
袁術「な……何の事じゃっ! 妾は、猫を厨房に放した事や、その隙に料理を持っていった事など……し、知らぬぞ」
張勲「お嬢様ぁ……全部言っちゃってますよぉ。それにしても、孫堅さん。よくここが分かりましたね」
火蓮「見つけたのは、私じゃないさ」
張勲「へっ」
赤斗「けっこうな量の料理を、短時間で遠くに運ぶのは難しいからね。きっと、まだ近くに潜んでいると思ったんだよ。でも、まさか袁術たちが犯人だったとは……」
袁術「お前は誰なのじゃー!?」
張勲「えっと、あなたは……あっそうだ。天の御遣いさん!」
赤斗「ひさしぶり。反董卓連合以来だね」
張勲「はい。おひさしぶりですー♪」
火蓮「ところで、袁術」
袁術「ひゃああああっ!」
火蓮「大きな声を出すな。……袁術。このあいだ見逃してやった時、お前に言った事は忘れていないだろうな」
袁術「お、おう! 妾と七乃の二人だけで城を出るなら、許すと言った事なら……妾はちゃんと果たしてやったではないか!」
火蓮「そうか。……それだけか」
そう言うと火蓮は剣を抜いた。
袁術「……ふぇっ? お、おい、孫堅……? その剣は……何のつもりじゃ?」
火蓮「何、簡単な事さ。身体で思い出して貰おうかな……と思ってな」
張勲「えっと……確かに、何かもう一つあったような……気がしたんですけどぉ……何でしたっけ……?」
火蓮「忘れてしまったみたいだな。……この国には、もう二度と来るなと言ったはずだが」
張勲「あ、それだ!」
袁術「そんな大事なこと忘れるでない! 七乃!」
張勲「お嬢様だって忘れてたじゃないですかぁ!」
火蓮「なるほど……忘れていたのか……」
赤斗(火蓮さん、怒ってる……)
袁術「うむ。忘れておった。それゆえ、見逃してたも」
火蓮「うーーん。そうだな。……見逃してやってもいいかな」
袁術「本当かえ!?」
赤斗「えっ!」
火蓮「ただし……今後、約束を忘れないように、お前の身体に教えておいた方がいいかな……?」
袁術「ひ………………っ! や、嫌なのじゃ……そんな、痛いの、怖いのじゃ……!」
張勲「そ、孫堅さん。そういうの、やめましょうよ……ね? ほら、平和的に……」
火蓮「なら、平和的に、腕を一本斬り落そう」
張勲「も、もう少し平和的にっ!」
火蓮「なら、手首か?」
張勲「もうひと声っ!」
火蓮「指か?」
張勲「斬る方向から離れてくださいよぅ!」
火蓮「斬らなくて、覚えるのか?」
袁術「覚えるのじゃ! もう絶対忘れないから、許してたもー!」
張勲「だ、だったら……孫堅さんっ! お嬢様じゃなくて、今度こそ私を代わりに……っ!」
火蓮「しかしなぁ、袁術が覚えていなきゃ、意味がないんだがなぁ」
袁術「ひゃあああああっ! いやっ、いやなのじゃぁ……ひっく、すまん、もう来ないから……! えぐっ、もう来ないから、ぐすっ、見逃してたも……っ!」
火蓮「……………………赤斗!」
赤斗「は、はい!」
火蓮「あとは、お前に任せる」
赤斗・張勲「へっ?」
袁術「ひっく……えぐっ、ふえ?」
赤斗「……どういう事でしょうか?」
火蓮「だから、この二人の事はお前に任せる」
赤斗「えっ。良いんですか? 僕で……」
火蓮「ああ、かまわないぞ。シャオ、恋! 残っている料理を運ぶぞ。手伝え!」
小蓮「はーい♪」
恋「(コクン)」
今まで、蔵の外で事の成り行きを見守っていた小蓮と恋が、蔵に入ってきて料理を運び出した。
火蓮「じゃあな赤斗。私たちは先に戻っているから、早く来いよ」
赤斗「あ、えっと……はい」
そう言って、赤斗は火蓮たちを見送った。
赤斗「さて……」
袁術「助かったのかえ……?」
張勲「さあ、どうなんでしょう?」
火蓮が居なくなって袁術と張勲は、腰が抜けてしまったようだった。
赤斗「うーーーん。これから、どうしようか?」
困った赤斗は、二人に思わず尋ねる。
袁術「ひゃあああああっ! わ、妾は痛いのは、い、嫌なのじゃ……許してたも……っ!」
張勲「あの御遣いさん。私がお嬢様の代わりになりますから、どうかお嬢様の事は……っ!」
赤斗「はあー。何でこんな事になったかなぁ。……ただ単に見逃してはいけないだろうし、何かペナルティを科さないとなぁ……」
袁術「ふえ? ぺなるて……?」
張勲「御遣いさん?」
二人は不思議そうに赤斗の顔を見る。
赤斗「ああ、ペナルティは、罰の事さ。何か良い罰ない?」
袁術「ひゃあああああっ! ば、罰じゃと! やっぱり、妾の身体を斬るつもりなのかえ! ぐすっ、嫌じゃ、痛いの、怖いのじゃ…………ひっく!」
袁術は再び泣き出してしまった。
張勲「あのー、ちなみに御遣いさん?」
赤斗「なに?」
張勲「今、私たちが逃げたらどうします?」
赤斗「大丈夫だよ。君たち二人なら、馬に乗って逃げようとしても、絶対に逃がさないから」
張勲「真面目な顔で答えるなんて。これはある意味、孫堅さんより厄介かもしれませんねぇ」
赤斗「そんな事言ってないで、張勲も考えてよ」
張勲「何をです?」
赤斗「もちろん。君たちに科す罰をだよ。軽すぎなくて、重すぎない罰ってない?」
張勲「うわー。私たちに自分たちの罰を考えさせますか」
赤斗「三人寄れば文殊の知恵ともいうし」
張勲「文殊の知恵?」
赤斗「三人も集まれば良い知恵も浮かぶって事。僕と張勲と袁術でちょうど三人だしね」
張勲「そうですねぇ……」
赤斗「うーーーーん」
三人寄れば文殊の知恵とは言ったものの、袁術は泣きじゃくっているので、結局考えているのは、赤斗と張勲の二人だけだった。
張勲「あのぅ、こんなのはどうでしょう?」
赤斗「どんなの?」
張勲「私たちは、隙を見て逃げたという事に。だから、見逃してください」
赤斗「却下」
張勲「えーーー。だったら、どうしろって言うんですかー?」
赤斗「だから、それを考えているんだろ」
張勲「それはそうですけど……」
赤斗と張勲が再び考え込む。
赤斗「…………………そうだ!」
張勲「なんです?」
袁術「……い、痛いのは、妾は嫌じゃぞ?」
不安そうに袁術は、恐る恐る赤斗に尋ねる。
赤斗「痛い事じゃないから、安心してよ♪」
袁術「それは本当なのかえ?」
赤斗「まあね。じゃあ、厨房に行こうか」
袁術「ふえ?」
張勲「厨房にですか?」
赤斗「さあ、行こう」
袁術と張勲は、訳が分からないまま、赤斗と一緒に厨房へと向かった。
小蓮「お母様。赤斗に袁術たちの事を任せて良いの?」
料理を客間に運び終えた小蓮が、火蓮に尋ねた。
火蓮「ああ、良いのさ。赤斗なら何か良い方法を見つけるさ。私たちは取り戻した料理を食べながら、赤斗を持っていようじゃないか」
そう言うと火蓮は、料理に箸をのばし始める。
火蓮「恋。待たせたな。食べていいぞ。新しく料理も作らせているから、安心して食べろ」
恋「(コクン)」
火蓮に促され、待ちかねた恋も料理を食べ始めた。
火蓮「ほら、シャオも食べろ」
小蓮「は~い」
小蓮も食べ始め、テーブルの上の料理はどんどんと無くなっていった。
火蓮「おーーい。次の料理を持って来てくれ!」
火蓮が新しい料理を持ってくるように侍女に言う。
張勲「はーーい。お待たせしました♪」
そこに笑顔の張勲が料理を運んできた。
火蓮「張勲?」
小蓮「何やってんのよ?」
恋「もぐもぐ……」
突然、料理を運んできた張勲を見て、火蓮と小蓮は驚く。
しかし、恋はそんな事は気にせず、マイペースに料理を食べ続ける。
張勲「何って、料理を運んでいるんですけどぉ」
小蓮「そんな事は見れば分かるわよ。何であんたが、料理なんか運んでいるのよ?」
張勲「私だけじゃないですよぉ」
赤斗「お待たせでーす」
そこに赤斗も料理を運んできた。
小蓮「あっ、赤斗!」
火蓮「赤斗。これはどういう事だ?」
赤斗「どういう事も何も、二人の事は僕に任せるって、言ったじゃないですか?」
火蓮「確かに言ったが……で、どうなったのだ?」
赤斗「まあ、とりあえず。蔵で食べた料理の分は、きちんと働いて貰おうかと思って」
火蓮「それで、張勲が給仕係のような事をしていたのか。……と言う事は、袁術も働いているのか?」
赤斗「ええ、働いていますよ。もう、次の料理を運んでくるはずなんだけど……」
袁術「ふえーー。誰か、助けてたもーーっ!」
廊下から袁術の助けを呼ぶ声が聞こえた。
火蓮「今の声、袁術か?」
赤斗「どうしたんだろ?」
その声を聞いた赤斗は、廊下へと出た。
袁術「おお。お主、早く妾を助けてくれなのじゃ」
赤斗「袁術、どうしたの?」
廊下に出た赤斗は、料理の皿を両手に持ったまま、座り込んで動かなくなっている袁術を見つけた。
袁術「こんな重い皿など、妾には持ってんのじゃ。もう、妾は動けんのじゃ」
赤斗「はあー。しょうがないな」
張勲「御使いさん、ダメですよぉ」
赤斗は袁術を助けようとしたが、張勲に止められた。
袁術「七乃、助けてたも」
張勲「ダメですよぉ、お嬢様。ちゃんとお料理を運ばないと、孫堅さんに斬られちゃいますよぉ」
袁術「ガタガタブルブルガタガタブルブル」
張勲「あらあら、もうお嬢様ったら、そんなに震えちゃってぇ」
赤斗「お、おい、皿の中身がこぼれるぞ」
張勲「ほら、お嬢様。早くお料理を運ばないと、本当に孫堅さんに斬られちゃいますよぉ」
袁術「は、運ぶのじゃーーっ!」
そう言うと袁術は立ち上がり、震えながらも料理を客間に運んでいった。
しかし、震えて運んでいる為、皿の中の料理はこぼれていく。
袁術が、広間入り口に着くころには、ほとんどの料理は皿の中に残っていなかった。
赤斗「張勲って、結構ひどいな」
張勲「そんなに褒めたってなんにもでませんよぉ?」
赤斗「褒めてない!」
赤斗が張勲に突っ込みを入れたと同時に、袁術の悲鳴が聞こえた。
袁術「ひゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
赤斗「はあー。……今度は何だ?」
溜息をつきながら赤斗は、張勲と客間へと戻っていった。
赤斗「今度はどうしたんだ?」
客間に入った赤斗は、袁術に尋ねる。
袁術は皿を落として、尻もちをついていた。
袁術「そそそそそそ……っ」
赤斗「そ?」
袁術「でででででででで……っ」
赤斗「で?」
袁術「ででで出たのじゃーーーっ!」
赤斗「何が?」
袁術「そそそそ孫堅が、でで出たのじゃーーっ!」
袁術は火蓮を指差しながら叫んだ。
火蓮「失礼な奴だな。人を幽霊か何かみたいに……」
袁術「ガタガタブルブルガタガタブルブル」
再び、袁術は震えだした。
赤斗「火蓮さんのいる所に、料理を運ぶ事は分かっていたのに……」
張勲「お嬢様たら、そんな大切な事を忘れるなんて、本当にお馬鹿なんだからぁ♪」
赤斗「……張勲って、本当にひどいな」
張勲「もう、そんなに褒めたってなんにもでませんよぉ?」
赤斗「だから、褒めてない!」
袁術「ひっく、えぐっ、もう来ないから……! もう来ないから、ぐすっ、孫堅。許してたも……っ!」
火蓮の姿を見た袁術は、再び泣き出してしまった。
火蓮「……袁術」
袁術「ひっ!」
火蓮「そう怯えるな。袁術よ。……このまま私の屋敷で働かないか?」
袁術「…………ふぇ?」
赤斗「火蓮さん?」
火蓮「赤斗よ。お前が考えた。二人を働かせるという案は、中々おもしろい。だから、このまま二人には私の屋敷で働いてもらう」
赤斗「それで良いんですか?」
火蓮「良い。ここなら見張るのも楽だろ?」
赤斗「確かに、火蓮さんが近くにいれば、悪さも出来ないか……」
火蓮「それに、袁術の反応を見るのはおもしろい」
張勲「さすが孫堅さん。分かってますねぇ」
赤斗「……いじめっ子が、二人いる…………」
こうして袁術と張勲は、火蓮の屋敷で働く事になった。
赤斗は少しだけ袁術に同情するのであった。
つづく
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今回は美羽が再登場です。
火蓮たちに復讐するはずだったのだが……。
この作品は、基本的に呉√にそっては行きますが、他√に
脱線することもあります。また、主人公はオリジナルキャラクターです。
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