「蜜柑を食べ過ぎると肌がオレンジになるらしいよ」
「ほんとう!?」
幼稚園児であったころ、こんなことを教えては彼女に信じ込ませていた。
無垢ともいえる時期に教え込まれたものは、ひょんなことでそれが嘘だと分かり、そのたびに彼女は怒っていた。そして玲治は笑って誤魔化すのだった。
彼の幼馴染――洗脳相手とも言える――は彼のベッドに寝転がって漫画を読んでいる。
「アーチェリー部は今日はいいのか?」
「今日は自主練だから休んでも構わないってさ」
ふうん、と玲治はそれ自体にはさして興味が無いように返事をした。
「だからって俺の部屋でくつろぐなよ。狭くなるだろ、どっか行け」
「えー」
「えーじゃない」
この少女――有峰恵那は、夕食までの時間を時々こうやって潰す。
漫画が無いからつまらない! と言って玲治の本棚に無理やり漫画を詰め込んでまで、この部屋で時間を潰そうとするのだ。
小さいころから続けているだけに、今更ここで時間を潰すなとは言いづらいものがある。玲治はため息を吐いて自分が読んでいる本から籠にある蜜柑に視線を移す。
籠から蜜柑を取り出し、丁寧に皮を剥き、口に運ぼうとしたとき、恵那が楽しげに口を開く。
「ねえ、蜜柑を食べ過ぎると肌がオレンジ色になるらしいよ」
それを聞いた瞬間、玲治がきょとんとして……笑い出した。爆笑だ。恵那は何で笑い出したのかが分からない、という顔。
「それ、誰から聞いた? 真っ赤な嘘だよそれ」
からからと笑う玲治に、勢い良く手に持っていた漫画を投げつける。
「あだ! 何するんだよ!」
「よくも十年以上騙してくれたな!」
その一言で得心がいった。しかし彼女の怒りの炎は鎮まることは無い。
笑いながら玲治は謝るがまるで効果が無い。逆に火に油を注いでいるようなものだった。
結果、武力行使と密告によって、玲治の夕飯にあった好物は無くなり、彼の身体に二つの青あざが出来たのだった。
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お題に沿ったお話です。その001.