※注意※
この作品に登場するのは、ほとんどがオリジナルキャラクターです。
納得のいかない部分、不愉快に思われる部分等あるかも知れませんがご了承ください。
第一話 ~~月に詠う少女~~
―――――――――――――いつだったか・・・・・「強さ」とは何なのかと、父に聞いたことがある。
でも俺はまだ子供だったし、別段、深い意味でそういうことを考えてた訳じゃない。
今考えてみれば、ただの興味本位だったんだと思う。
『いいか章刀(あきと)? 強さって言うのはね、ただ単に力が強いってだけじゃダメなんだよ』
『そうなの?』
『ああ。 たとえ力があったって、それを正しいことに使えない人間は強いとは言えないんだよ。 逆に力が無くても、大切な物を守りたいとか、困難な事に立ち向かえる勇気を持てる人の事を、強いって言うんだと父さんは思う』
『ん~・・・・よくわかんない』
『ははは。 まだ章刀には早すぎるかな』
クシャクシャ。
『う~、痛いよお父さん』
『はは、ごめんごめん』
『・・・・・・・ねぇ、お父さん。 僕もいつかそんな風になれるのかな?』
『ああ。 章刀ならきっとなれるさ。 大切な人を守れるような、強い人間にね』
『ほんと!?』
『もちろん。 なんたってお前は、俺と母さんの息子だからね』
家からほど近い川沿いの土手で、遠くに沈もうとする夕陽を見ながら。
幼い俺の頭をクシャクシャと撫でて、父さんはそう言って笑った。
だけどこの頃の俺は、考えようともしなかったんだ。
父さんが言った、その言葉の本当の意味を―――――――――――――――――――――――
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―――――――――――
ピピピピッ。 ピピピピッ。
・・・・・・・・うるさい。
一日の始まり、最初に抱いた感情はそれだった。
まぁでも別に、それは今日に限ったことじゃないから慣れたもの。
一週間ってヤツは七日間もあるわけだけど、そのうちの五日間はたいていこの感情で一日が始まるのがお約束だ。
別に俺の考えを押し付けるわけじゃないけど、大半の人はこの意見に同意してくれるんじゃないだろうか?
ピピピピッ。 ピピピピッ。
「んぅ゛・・・・・・・ん・・・・・・っ」
ピピ・・・・・ポチ。
うめくような声を上げながら、布団から手を伸ばしてようやくこの魔の電子音を止めることに成功した。
まったく・・・・・なんだってこの目覚ましってヤツはもう少し優しく起こすって事が出来ないんだろうか。
朝っぱらからこんな鼓膜を貫くような音を立てられたら、こっちだって素直に起きる気を失くすってもんだよ。
あまつさえ、最近の奴はご丁寧に「スヌーズ機能」ってやつが付いていて、こっちが起きるまでリピートしてくれやがるから困ったものだ。
「スヌーズ機能」の開発者め。
この機能のおかげで、「まだ鳴るからいいや」と二度寝、三度寝して結局寝坊しそうになるこっちの身にもなってもらいたいもんだ。
しかしまぁ、考えてみれば目覚まし時計も随分と不憫な役を押し付けられたものだと思う。
毎朝設定された時間に律儀に鳴っているにも関わらず、その度に憎悪の対象にされるなんてたまったものじゃないだろう。
そう考えると、かなりかわいそうなヤツなんじゃないだろうか。
・・・・・と、こんな風に無機物を相手にどうでもいい感情移入をしているのも、きっと俺の頭がまだ起きていないからだろう。
そろそろ自分の置かれている状況に頭を巡らせた方がよさそうなので、ちょっと考えてみよう。
えっと、さっきのスヌーズで確か五回目。
五分おきに鳴る設定だから、5×5で・・・・・・・・ああ、これは嫌な予感がする。
「ん・・・・・・・っ」
まだ開き切らない瞼で、目覚ましのデジタル液晶画面に目を向ける。
・・・・・はぁ~、やっぱりな。
頭の中でため息を吐きながら、一度目を閉じて冷静になる。
往々にして、こういう時は不思議とその瞬間一気に目が覚めたりするんだ。
まぁ、皆さんもうご想像の通り・・・・・・・・
「遅刻だーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
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「はっ・・・・・・・はっ・・・・・・!」
今、俺はスヌーズ機能の罠にはまってしまった分のタイムロスを取り戻すべく、絶賛全力疾走中だ。
全く・・・・・こんなどこぞの学園ラブコメみたいな全力ダッシュを本気でやるはめになるとは、今日はツいてない。
まぁラブコメなら、こうして走ってる途中で曲がり角で気になるあの娘とゴッツン!・・・・・なんて展開になるんだろうけど、そうはならないのが悲しい現実ってやつだ。
それに、今の俺にはそんな嬉し恥ずかし体験よりも、一刻も早く学校にたどり着く方が限りなく優先なのだ。
おっと・・・・そう言えば自己紹介が遅れて申し訳ない。
今まさに朝の道路を白い学生服でダッシュしている必死さ満点の黒髪の青年(イコール俺。)の名前は北郷章刀(ほんごう あきと)。
「聖フランチェスカ学園」に通う三年生だ。
今は学園の近くのアパートを借りて、バイトをしながらの一人暮らし。
フランチェスカ学園は昔は全寮制だったらしいけど、今は別に強制じゃない。
こっちの方が駅が近かったり、外出が楽だったりでいろいろ便利なのだ。
それでまぁ、一生に一度しかない貴重な高校三年間を謳歌している真っ最中という訳。
どうしてフランチェスカ学園に通っているのかと言えば、その理由は簡単。
ただ、父さんと同じ高校に行きたかったっていうだけなんだよね。
この白い制服がカッコイイ・・・・とかも理由に無いわけじゃないんだけど、大半は前者だ。
兄弟とかならともかく、父親と同じ高校がいいなんてちょっと変わってるのかな?
ちなみにちょっとしんみりした話になるけど、その俺の父さんはと言えば、もうこの世にはいない。
六年前・・・・・・俺がまだ小学生の時に、事故で他界してしまった。
それから俺は親戚の家に引き取られ、高校に入学と同時に独立したって訳だ。
せっかくだし、ついでにもう少し父さんの事を話しておこうかな。
そこ! 別に聞いてねーよとか言わないように!
俺の父さんは、良く言えば誰にでも優しくて、悪く言えば超が三つは付くほどのお人よし。
目の前に困っている人が入れば、自分の事は顧みずに助けようとする。
息子の俺が言うのもなんだけど、はっきり言って今の時代には珍しいタイプの人間だったと思う。
具体的な例をあげると、昔こんなことがあった。
ある日、俺と父さんは二人で遊びに行くために街を歩いてた。
その途中で、道でしゃがんだまま泣いている女の子がいたんだ。
理由を聞くと、どうやらお母さんとはぐれたらしく、家に帰れないと女の子は言った。
『それじゃあ、一緒におうちをさがそうか?』
迷わずそう言った父さんは、泣きやまない女の子をおんぶして丸一日だぜ?
その女の子の家を探すために歩きまわったんだ。
当然、俺と遊ぶ約束はパァ。
あの時はさすがに、我が父親ながらやりすぎじゃないかと思ったものだ。
そんな父さんの最期はと言うと、それもやっぱり人を助けるためだった。
車に轢かれそうになった子供を助けるために道路に飛び出して、その子を付き飛ばしたんだ。
おかげで子供はかすり傷で済んだけど、自分はもう二度と会えないところに行ってしまった。
まるでどこかのマンガみたいな話だろ?
俺でさえ、その事実を聞いた時はさすがに嘘だと思ったぐらいだしね。
だけど俺は、そんな父さんの事を心から尊敬してる。
父さんは最後まで人の為に生きて、人の為に死んだ。
俺もいつか、父さんのような人間になりたいって思ってるんだ。
ああ、そうそう。
そんな責任感の塊みたいな父さんだけど、実はある時期に、友人や家族から音信不通になっていた時期があるらしい。
それも十年以上もだ。
十年以上ぶりに現れた父さんは、既に当時十歳だった俺を連れていたそうだ。
それまで父さんは、幼い俺を連れてどこかへ旅に出ていたらしい。
え?
俺も十年間一緒に旅をしていたはずなのに、どうして「らしい」なのかって?
その答えは至極単純明快。
ただ単に、俺が覚えてないってだけ。
幼かったからとか、そういう年齢的な問題じゃなくて、本当に“覚えてない”んだ。
そもそも、いくら幼いって言ったって九、十才の頃の記憶を全部忘れたりはしないしね。
・・・・・・・・実を言うと、俺には生まれてから十年間の記憶がない。
「記憶喪失」・・・・・って言うのかな?
とにかく、十歳のある時以前の記憶がきれいさっぱり無くなってるらしい。
もちろん何度も病院で検査をしてもらったけど、原因は謎のままだ。
それでも、言葉や文字や、習慣的な事は全部覚えていたので日常生活は問題なかったけどね。
医者の話だと、「エピソード記憶」・・・・・・とかいうヤツだけが無くなったとかなんとか。
ああでも、記憶喪失のかわいそうなヤツだなんて思わないで欲しい。
確かに十歳までの記憶は無いけど、それからの事はしっかり覚えてるし、それで友達ができなかったりいじめられたりもしてない。
たった二年分だけど、父さんと過ごした思い出もある。
だから、記憶喪失の事なんて全然気にしちゃいない。
そりゃ、記憶が戻るならそんな良い事は無いのかもしれないけど。
それでも俺は、今のこの生活で十分満足してるんだ。
・・・・おっと、そろそろマジで急がないとヤバい時間だ。
俺の話はこれくらいにして、今はただ足を早く動かすことに集中するとしよう。
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キーンコーンカーンコーン。
「起立っ! 礼っ!」
毎日お決まりの委員長のシャキッっとした号令が、まだ起きて間もない頭には痛い。
礼とも言えない礼をして、重い腰を椅子に降ろす。
滑り込みセーフってヤツだ。
なんとかホームルーム開始の鐘が鳴り止むまでに教室に入ることに成功して、今はめでたく一時限目の英語の授業が始まったところ。
我ながら、あの滑り込みっぷりは大したものだったと思う。
もしこれが野球だったなら、チームメイト及び監督から拍手喝采ハイタッチの嵐なんだろうけど、あいにくここは学校なので、俺に向けられたのはハイタッチではなく担任の冷たい視線だけだった。
それでもセーフはセーフだ。
特に怒られることも無く、俺はいつものように窓側一番後ろの自分の席に着いた。
ちなみにこの席はくじ引きで決めたんだけど、この席を引いた瞬間に俺が心の中でガッツポーズをしたのは言うまでも無い。
さて、まぁそんなことはどうでもよくて、今はさっきも言った通り英語の授業中な訳だけど・・・・・。
正直言ってかなり眠い。
そりゃそうだよ。
ただでさえ起きたばっかりで俺のやる気スイッチはまだ絶賛OFF中なのに、催眠術にさえ思える英語の授業だなんて。
「泣きっ面に蜂」、「弱り目に当たり目」とはこのことだ。
・・・・・・ん?
二つ目はちょっと違うか。
なんだかどこぞの洗剤セットでももらえそうな響きになってしまった。
・・・・・と、ほら。
そんなどうでもいいことわざ事情に想いを馳せているうちに、気がつけば黒板は宇宙文字かと思うほどの英文で埋めつくされてる。
まったく、日本の黒板に英語を書くなよ・・・・・という理不尽すぎる感情も生まれて来たりして。
それに加えて、教台に立つ先生が次々と口にする微妙にネイティブでもない英語の数々。
ああ、やぱい。
本格的に眠気が・・・・・・・
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『ひっく・・・・・・えぐ・・・・・・ひっく・・・・・・・・』
『ほら、もう大丈夫だから泣くなって』
『ひっく・・・・・・でも・・・・・・ぐす・・・・・・・・・っ』
『はぁ~。 困ったな・・・・・・・・あ、そうだ!』
『・・・・・・・・?』
『ほら、これあげる』
『ぐす・・・・・これ、なぁに・・・・?』
『お守り。 これがあれば、いろんな辛いことから守ってくれるんだ』
『・・・・・・・・・ほんと?』
『ああ! だから、もう泣くなよ?』
『グス・・・・・・うん。 ありがとう♪』
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キーンコーンカーンコーン
「起立っ! 礼っ!」
「ん・・・・・・・っ?」
机に突っ伏していた頭を上げると、俺以外の全員が起立していた。
どうやら、一時限分丸々寝てしまったらしい。
恐るべし俺の居眠り能力。
そして、恐るべし窓側最後列の死角能力である。
ん?
それはさておき、さっきなんか夢を見た気がするんだけど・・・・・・・
「よう! 今日はまた随分とぐっすりやったみたいやな」
・・・・・ああ、せっかく思い出しかけてたのに。
能天気なバカのせいで完全に散ってしまったじゃないか。
「うるせぇ。 人がいつも居眠りしてるみたいな言い方すんなよ、及川」
放課時間になってそうそう声をかけて来たこのエセ関西弁のメガネ男の名前は及川。
一応、俺の親友兼悪友だ。
実は及川の父親もこのフランチェスカ学園の出身で、なんと俺の父さんと同期。
しかも同じクラスだった上に一番仲が良かったって言うんだから、世間というのは狭いものだ。
まぁそんな父親同士のつながりもあり、親子二代にわたって俺たちはこうしてつるんでるわけで。
「今朝の急ぎっぷりといい、昨日遅くまでゲームでもしとったん?」
「いいや、スヌーズ機能のせいだ」
「は?」
何言ってんの? と言いたげな及川。
そりゃそうだよな。
答えるのが面倒だからって適当に答えすぎたと反省する。
俺だってもう大人だ。
あんな無機物相手にいつまでも責任転嫁するつもりはない。
「いや、何でもない。 そんな事より、もうすぐ期末試験だろ? お前、勉強は大丈夫なのか?」
「誰に言うてんねん。 バッチリに決まっとるやろ!」
「ま、そりゃそうか」
こいつ、こんなちゃらんぽらんな性格のくせに実は成績優秀なんだよな。
しかも、いつも俺といろいろ遊びに行ったりしてるのにも関わらず、たいてい学年で十位以内に入ってきやがる。
対して俺はと言うと・・・・・・・まぁ、別に悪くはないぞ?
「なぁ、それより章ぴー」
「その呼び方はやめろ」
毎度のことだが、なんだよ章ぴーって。
人を柿ピーみたいな呼び方しやがって。
俺はおつまみかっ!
「べつにええやん。 それより、最近噂になってる“裏山の怪人”って知ってるか?」
「“裏山の怪人”?」
なんだよそのネーミングセンスは。
なんだか微妙に怖くないぞ。
「そ。 最近学園の裏山にな、夜になると怪人が出るって噂なんや」
「怪人って、いったいどんなヤツなんだよ?」
「ん~・・・・・はっきり見たヤツはおらんけど、なんでも筋骨隆々で体長2メートルはあろうかという大男って話しやで?」
「ふ~ん。」
「ふ~んって・・・・・なんや、冷たい反応やなぁ」
「いや、だって別に実害があるわけじゃないんだろ?」
そりゃ、実際に人が襲われてるとかなら話は別だけど、もしかしたら体長2メートルのマッチョな普通のおっさんがただ夜の散歩をしてるだけかもしれないし。
・・・・・いや、それはそれで十分怖いけど。
「だけど、これから実害が出るかもしれんで? 特に変質者とかやったら章ぴーは気ぃつけんと」
「は? なんで俺なんだよ?」
「むふふ。 そりゃあ、この前みたいに男にナンパされ・・・・・ゴフッ!?」
「それ以上言ったらマジで殴るぞ・・・・・・!」
「ぐぅ・・・・・殴ってから言わんといてや・・・・・」
「ったく・・・・・・」
及川の余計なひと言のせいで、けっして思い出したくない記憶が見事にフラッシュバックしてしまった。
思い出しただけでも鳥肌が立つ。
恥をしのんで話そう・・・・・実は、及川の言う通り。
俺は過去に男にナンパされたことがある。
しかも別に相手がそっち系のヤツだったとかではなく、本気で女と間違えられたんだ。
ちなみに、思い出したくはないが誘い文句はと言うと・・・・・・
『ヘイ彼女、俺らと遊ばない?』
・・・・・一体、何年前のプレイボーイの生き残りだ?
正直、気持ち悪さのあまり振り向きざまに一発入れてしまいたくなったが、それをグッとこらえた俺をどうか褒めて欲しい。
まぁそもそもの原因はと言えば、この髪のせいなんだけど。
俺の黒髪は、どういうわけか女の子もうらやむほどの美髪らしい。
おまけにけっこうな長さがあるもんだから、後ろ姿が女性に見えたと・・・・まぁそういうわけだ。
この髪のおかげで、入学した当初はクラスの女子に質問攻めにあって大変だった。
『どんな手入れしてるの?』、『トリートメントは何使ってるの?』など。
同じ質問を何度された事か。
もちろん俺はトリートメントなんざ使ってないし、手入れだって普通にリンスとメ○ットのみだ。
なのにどういう訳か、この髪はとくに傷んだりもしないんだから我ながら大したものだ。
という訳で髪に関してはこんな感じでいろいろトラウマがあるわけだけど、今の話を聞いていて「じゃあ、切ればいいんじゃないの?」と思った人が大半だろう。
もちろん俺も最初はそう思ったんだけど、それでもいまだに切っていないのにはちゃんと理由がある。
その理由は、俺の母さんだ。
俺が覚えている一番古い記憶の時点で、既に母さんはいなかった。
その前までの記憶は一切消えているから、当然俺は母さんの事は何も覚えていない。
もちろん、昔何度か父さんに聞いた事はある。
だけどその度に父さんは「とても素敵なひとだったよ」と笑顔で答えてくれただけだった。
どこか違う場所で今も生きているのか、それとも既に亡くなっているのか・・・・・・それすらも知らない。
ただ、父さんの表情を見ていた俺は幼いながらにも、父さんは母さんの事を本当に愛していたんだと感じた。
それが髪の話と何の関係があるのかって?
父さんは染めてたのを抜きにしてもこんな髪質じゃなかったから、多分この髪は母さんに似たんだと思う。
つまりこれは、顔も名前も知らない母さんを唯一感じられる繋がりなわけで。
そう考えると、なかなか切ってしまう気にはなれいんだよね。
「いつつっ・・・・・・・相変わらず章ぴーのツッコミはパワフルやなぁ・・・・・・」
「自業自得だ。」
ようやく痛みから回復しつつある及川が恨めしそうな視線を送ってきているが、視線を外してスルーしてやった。
「ほら、もう授業始まるぞ。 お前も席に戻れって」
「へいへい。 はぁ~、次は歴史か。 憂鬱や・・・・・・」
その意見には概ね同意しよう。
何百年も前の人たちがどこで何をしたかなんて、現代を生きる俺たちには関係ないだろうに。
でもな及川。 学校っていうのはそういうもんだと俺はもう半ばあきらめてるし、大人しく歴史の授業を聞こうじゃないか。
キーンコーンカーンコーン
始業の鐘が鳴り、また起立と礼をして退屈な授業がスタートする。
一時限分しっかり眠った甲斐があってか、それからは睡魔に襲われることも無かった。
休み時間の度に及川とのとりとめのないバカ話をはさみながら、今日もいつも通りの一日が過ぎて行った。
――――――――――――――――――放課後。
「裏山の怪人、ねぇ・・・・・・」
人間って言うのは基本的に、好奇心に負けることが多い生き物だ。
それは俺だって例外じゃない。
昼間は興味のない態度を取っては見たものの、それでもやっぱり気になってしまうのが人の性と言うヤツだ。
帰りのホームルームを終えて道すがら及川と分かれた俺は、何の気なしに裏山へと足を運んでいた。
裏山と言うだけあって学園のすぐ裏手にあるので、来るのにそう時間はかからなかった。
「いっちょ行ってみるか。」
ちょっとした探検気分だ。
丁度木が生えていない道になっている所を進んでいく。
日が暮れるまではまだ時間があるし、ちょっと見回って帰るくらいなら迷う心配も無いだろう。
「・・・・・・結構入り組んでるな。」
誰に言うでもない独り言。
フランチェスカ学園にはもう二年半通っているが、実は俺も裏山には一度も来た事がなかったりする。
登校途中に目に入りはするんだけど、「ああ、山があるんだ。」ぐらいにしか思ってなかったし。
そう思っていたのは俺だけじゃないらしく、この山にはほとんど人が訪れた形跡がない。
落ち葉は積もってるし、枝は伸び放題だし、自然そのままって感じだ。
「そもそも、こんなところに本当に人なんてくるのか?」
もし本当に“裏山の怪人”と呼ばれる誰かがいるなら、そいつは一体何をしに来てるんだろうか?
夜な夜な人気のない裏山で、呪いの儀式・・・・・・とか?
なんにせよこの裏山のあり様を見る限りは、散歩という可能性は消えそうだ。
ブチッ。
「あ、ヤベ・・・・・!」
頭の中でいろいろ推理していたせいで、注意力が欠けていたかも。
木の間を通ろうとしたら、小枝に引っ掛けたて首に下げていたペンダントが切れてしまった。
ペンダントと言っても、欠けた翡翠の石にひもを通しただけの簡単なアクセサリーだ。
丁度、円形だったのが半分に割れたような半円になっている。
「これは失くせないからな」
こんなただのペンダントでも、俺にとっては大切な宝物だったりする。
値段がどうとかじゃなくて、俺の個人的な価値観の問題なんだけど。
この翡翠のペンダントは、俺の記憶がある頃には既に持っていたものだ。
父さんに聞いたら、「それは大切なお守りだ。 ずっと大事に持ってるんだぞ」と言って頭を撫でられた。
何で大切なのか、どうして俺がこれを持ってるのかは分からないけど、もしかしたら俺の記憶を思い出すのに大切なものかもしれない。
それ以来、肌身離さず持ってる俺の宝物だ。
こんな草木ばっかりのところで落としたら、探すのは大変だ。
失くさないようにと、切れてしまったひもを巻きとって上着のポケットにしまった。
「・・・・・大分奥まできたかな」
気がつくと、今まであった道のようなものも無くなっていて、辺りは木で囲まれている。
日も落ちてきてきたし、結構な時間歩いたみたいだ。
「暗くなる前に戻るか・・・・・」
結局、“裏山の怪人”なんて見つからなかったな。
・・・・・・ん? ちょっと待てよ。
確か及川の話では、怪人が出るのは夜って言っていたような・・・・・・
それじゃあ、日が落ちる前に来ても意味ないじゃん!
「はぁ~・・・・・・・・」
自分の間抜けさ加減に自分で呆れた。
「・・・・・まぁいいや」
本気で怪人を探すなら日が落ちる今頃からがベストなんだろうけど、別に最初からそこまで興味があったわけじゃないし。
わざわざ夜の森を一人で歩くなんて危険を冒してまでそんな噂を確かめる気もないしな。
「宿題もあるし、さっさと戻・・・・・・」
ガサッ。
「!?」
来た道を戻ろうと、振り返った瞬間だ。
横の茂みから音がした。
まるで大きな生き物が移動したような音・・・・・・・
「誰だっ!?」
音がした茂みの方を睨みつけ、その正体不明の相手に呼び掛ける。
返事はないが、気のせいじゃない。
その茂みの向こうに、絶対に何かが居る。
(もしかして、本当に“裏山の怪人”・・・・・・・?)
そんな考えがちらついて、俺は少し構えた。
もし本当に噂にあるような大男なら・・・・・・・戦れるか?
「出て来い・・・・・・!」
・・・・・・ガサ。
俺の呼びかけに応えたのか。
視線の先の茂みが再び動き、そこから出て来たのは本当に大きな一つの人影。
なんだけど・・・・・・・・・・
「ムフフ。 そんなに殺気立たなくても大丈夫よ♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一応言っておくと、俺はもし怪人が出て来た時の為に二つの選択肢を考えていた。
1. 戦う
2. 逃げる だ。
だけど俺は出て来た人影に対してどちらを選ぶでもなく、一瞬にしてフリーズした。
俺の脆弱な思考回路では、このあまりにもイレギュラーな状況に対処しきれなかったのだ。
言葉を失うとか、開いた口が塞がらないとか、人の驚きを現す言葉はいろいろあると思うんだけど、多分この時の俺はその全部を詰め込んでも足りないくらいだっただろう。
結論から言おう。
及川の言っていた情報は、全部正解だった。
筋骨隆々で、体長は2メートル近い大男。
確かにその通りだ。
だけど・・・・・・・だけどな及川・・・・・・・・・・
「ピンクビキニの変態とは聞いてねぇーーーーーーーーーっ!!!」
俺の叫び声は、夜の裏山にさぞかし良く響いた事だろう。
けど、これが叫ばずにいられるものか。
俺の前に現れた大男は、俺の二倍はあろうかという巨漢でありながら、なんと目にも鮮やかなピンク色のビキニを平然と着けていた。
・・・・・しかも、それ以外は何も着ていない
どう考えても一番肝心な情報が抜けてるだろうがっ!
筋骨隆々も体長2メートルも、これに比べたら常識の範囲内じゃねーかよ!
目撃者の皆さんは一体どこを見てたんだ!?
「あらん? ヘンタイとは失礼しちゃうわねぇ。 こんな可憐な乙女に向かって♪」
「おぇ・・・・・」
乙女・・・・・・・オトメ?
今、乙女っつったかこの人?
いや、まず人か? 化け物だろ?
そうだ、そうに違いない。
筋骨隆々で、体長2メートルで、ピンクのビキニで、ヘンタイで、オカマな化け物だ。
もし最後の三つの内一つでも噂の中に入ってたなら、絶対に探そうなんて思わなかったのに。
「あ・・・・あんた何モンだよ!? ここで何してんだ!?」
「そんなに怖がらなくてもいいじゃない。 まるで人を化け物みたいに・・・・」
「化け物だろうがっ!」
お前が化け物じゃないなら、他に一体何を化け物と言えばいいのか例えが思いつかんぞ。
「ひどいわねぇ。 まぁいいわ、質問に答えましょうか。 私の名前は貂蝉。 そろそろ来るころだと思っていたわよ・・・・・・北郷章刀君」
「ちょうせん・・・・・?」
何言ってんだこいつ?
ちょうせん・・・・・・貂蝉って書くのか?
それって確か、三国志に出てくる女性の名前じゃ・・・・・・いや、それよりもこいつ何で・・・・・・
「何で俺の名前を知ってんだ!? それに、俺が来るのが分かってたって・・・・・・」
「まぁ落ち付きなさい。 そんなに警戒しなくても、別に危害を加えるつもりはないわ」
「・・・・・・・・・・・」
「そうねぇ、話せる事は限られているけれど・・・・・・・まず第一に、私はこの世界の人間じゃないって事だけ言っておくわ。」
「は・・・・・?」
「それからもうひとつ。 私がこの世界に来たのは、あなたに会う為よ」
「俺に・・・・・・?」
本当に何なんだ?
この世界の人間じゃない? 俺に会う為に来た?
・・・・まったく意味が分からない。
「なんだよそれ? なんかのマンガのネタか?」
「ふふ。 まぁ、そう思うのも仕方ないわね・・・・・・でもこれは事実よ」
俺の言葉を付き返すように、貂蝉と名乗る大男はまじめな表情でそう言った。
こいつの反応を見る限り、ただの冗談で言ってるわけじゃないみたいだけど・・・・・・
「へぇ・・・・・それを俺が信じれる根拠は?」
「私は初めて会うはずのあなたの名前を知っていた。 そしてあなたがいつかここに来ることも分かっていてこうして待っていた。 これだけでは証拠にならないかしら?」
「・・・・・・・・・・・」
「まぁ信じるか信じないかはあなたの自由だけど、とりあえず私の話を聞いてもらえるかしら?」
「・・・・何だよ?」
「章刀君。 もしあなたに大切な人が居たとして、あなたはその人が危険な目に遭っているとしたら・・・・・・・あなたは助けたいと思うかしら?」
「は? いきなり何だ?」
「いいから質問に応えて頂戴。 あなたは大切な人を助けたいの? 助けたくないの?」
「・・・・・よくわかんないけど。 そりゃ、もし大切な人なら助けたいに決まってるだろ」
「それでもし、あなた自身が傷つくとしても?」
「そんなもの、実際に経験したこと無いから分からないよ。 だけどそれが本当に大切な人なら、多分そんな事気にしないだろうな。」
「フフ・・・・・・そう」
貂蝉と名乗った大男は、俺の答えを聞くと満足そうに少し笑った。
けど、別に当然の事だろう。
俺じゃなくたって、大切な人が危険な目に遭っているなら助けたいと思うはずだ。
「やっぱりあの人の息子ね。 ああ、髪の毛は母さんに似ているかしら・・・・・・」
「!・・・・・・・・・・・・・」
こいつ、今なんて・・・・・・・・
「おいアンタ、俺の両親の事知ってるのか!?」
「ええ、良く知っているわよ。 あなたのお父さんも・・・・そしてお母さんもね」
「知ってるなら教えてくれ! 母さんは生きてるのか!? 生きてるならどこにいるんだ!?」
今まで父さん以外の誰に聞いても、分からないと言われた母さんの素性。
それを知ってる人間に初めて会ったんだ。
俺の声にも、自然と熱がこもる。
「今ここで私が話してしまうのは簡単だけれど、それは自分で確かめなさい。 今から行く場所で・・・・あなた自身の目でね」
「!・・・・・・・・・・」
いきなりだった。
貂蝉が言葉を言い終わると同時にいきなり俺の周に白い光が発され、まるで昼間のように明るくなる。
「なんだよこれ!? おい、行くってどこに行くんだ!?」
「あなたの大切な人が居る所よ」
「何・・・・・・・・?」
俺の、大切な人・・・・・・?
「行きなさい。 そして彼女達を守るのよ。 ・・・・・・あなたのお父さんがそうしたようにね」
「!・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その瞬間白い光は輝きを増し、一気に俺を飲み込んだ。
抵抗する術もなく、俺の意識はゆっくりと光の中に引き込まれていった。
――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
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―――――――――――――――
ここは・・・・・・・・
確か、さっき白い光に飲み込まれて・・・・・・
「んっ・・・・・・・」
なんだか身体がダルい。
けどなんとか横たわっていた体を起して目を開ける。
「あれ? ここって・・・・・・・」
目の前に広がる光景に、俺は少し拍子抜けした。
「裏山・・・・・・だよな?」
辺りを見まわしてみるけど、やっぱりそうだ。
さっきまでいた場所と少し違う気はするけど、周りは木で囲まれている。
「もしかして・・・・・夢だったのか?」
だとしたら納得はできる。
そもそも、あんなピンクビキニの化け物が本当に居る訳はないし、別の世界がどうとか、考えてみればありえない事だらけだ。
けど、何で俺はこんなとこで寝てたんだ?
「・・・・・・まぁいいや。 帰ろう。」
裏山で寝てしまうなんて、もしかしたら疲れが溜まってるのかもしれない。
明日も学校があるんだ。
早く家に帰って、布団で休むことにしよう。
立ちあがって、服についた草や土を手で払う。
そうして、山を出ようと歩き出した時だった
「♪~♫♪♪♫~♫♫~~」
「?・・・・・・・・」
突然どこからか、誰かの声が聞こえてきた。
いや、声というよりこれは・・・・・・・
「歌・・・・・・・?」
歌だ。
それも、ひどく美しい旋律の・・・・・聞いているだけで心が洗われるような、そんな歌。
その歌声はこの山の中の静寂にはおおよそ不釣り合いな・・・・・・・いや、ある意味ではとても合っていると言えるほどに澄んでいた。
「♫♪~~♫♫♪~♫♪♫~~」
「やっぱり聞き違いじゃない。 一体どこから・・・・・・」
正体のわからないその歌声にひたすらに耳を澄ませると、どうやらそれは木に覆われた奥の方から聞こえてくるようだった。
俺はまるでその歌に引き寄せられるように、山の奥へと足を進めていた。
「♫♪♫~~♪♪♫~~」
変わらずに聞こえる歌声を目指して、俺は木々をかき分けて進んでいく。
すると・・・・
「? この音・・・・・・川?」
美しい歌声に混じって、サラサラという水の流れる音が聞こえて来た。
(裏山に川なんてあったっけ・・・・・・・)
それに、歩き始めて随分たつけど、山特有の傾斜がほとんどない。
生えている木の雰囲気もどこか違う気がするし。
山と言うよりは、どこかの森のような・・・・・・・・
「♪~♫♪♪♫~♫♫~~」
「・・・・・・・・・・・・・」
そうこうしているうちに、歌声は随分と近くから聞こえるようになっていた。
それと同時に、水の流れる音もしっかりと聞こえてくる。
俺は少し早足になって、さらに先へと進んでいった。
「・・・・・この辺りだよな」
ほどなくして、俺は今までのような木が生い茂る一体を抜けて少し開けたところの前まで来た。
「はは・・・・本当に川だよ」
そこには思った通り、小さな川が流れていた。
これで、少なくともここが裏山じゃないって事は確定してしまった。
それはまぁ後で考えるとして、今大切なのはそれよりも・・・・・・・
「♫♪~~♫♫♪~♫♪♫~~」
「・・・・・・・・・・・・」
やっと見つけた。
ずっと聞こえ続けていた歌声の主は、どうやら川辺に座っているようだけど、ここからじゃ暗くてよく見えない。
俺はその正体を確かめるために、近づいて木の陰からそっと顔をのぞかせた。
「!・・・・・・・・・・・・・・・・・」
美しさに息をのむって言うのは、本当にある事なんだと思う。
だって、今の俺がまさにそうだったからだ。
そこにいたのは、一人の女の子だった。
ショートカットの黒髪が印象的なその女の子は、川辺の石に腰かけて空を見上げ、あの美しい声で歌を奏でていた。
夜空に浮かぶ大きな満月はそんな彼女を優しく照らしていて、まるで女の子自身が淡く光っているように見える。
それは、この周りに広がる景色が彼女を美しくみせているのか。
それとも、彼女がいるからこの景色がこれほど美しくしているんだろうか・・・・・・
それは、きっとどちらも正解なんだろう。
この景色の中に彼女がいるから、今それを見ている俺の心はこんなにも踊っているんだ。
もしこの光景を写真に撮ったなら、そのまま美術館に展示してもおかしくはない。
一流の芸術家の作品の中に混じってもなお、決して見劣りする事はないだろう。
そう思えるほどに、彼女を含めたその風景は美しかったから。
「♪~♫♪♪♫~♫♫~~」
まだ耳には、彼女の鈴を転がすような歌声が聞こえ続けている。
だけどもはや俺はその歌声が頭に入らないほどに、その黒髪が踊る横顔に見入ってしまっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
だけど、どうしてだろう。
優しい顔で空を見上げ歌う彼女の横顔は、ほんの少しだけどこか寂しそうな・・・・・・・・
パキッ。
「! 誰だっ!?」
(ヤベ・・・・・・っ!)
痛恨の失敗だ。
女の子の姿に夢中になっていて、足元に転がっていた小枝を踏んでしまったらしい。
突然聞こえた物音に、女の子は歌を止めて険しい表情でこちらを振り向いた。
俺はとっさに木の裏に隠れたけど、これでごまかしきれる訳もない。
「そこに居るのは分かっている。 出て来いっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
このまま隠れていても、余計に怪しまれるだけだ。
俺は少し深呼吸をして、木の陰から歩み出た。
がさっ。
「や、やぁ・・・・・・・」
「貴様、何者だ? そこで何をしている?」
現れた俺に対して、女の子はキリッとした瞳で睨みつけてくる。
そして傍においてあった大きな薙刀の様な物を手にとって、俺の方にゆっくりと歩いてきた。
ん? 薙刀?
なんでこの子こんなもの持ってんだ!?
どう考えたって銃刀法違反だろ!
それに座っていた時は気付かなかったけど、この女の子は随分と不思議な形の服を着ている。
なんというか、中華っぽいような・・・・・とにかく、少なくとも街中で見かけるような服装じゃない。
・・・・・・・ああ、コスプレか?
そう言えば、最近そう言うのが流行ってるってテレビでもやってるもんな。
きっとこの子もアニメとかが好きで、その真似をしてるんだろう。
だとすれば、あの薙刀も当然作り物・・・・・・
チャキ。
「質問に答えろっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
そんな事を考えてる間に、俺の目の前にはその薙刀が付きつけられていた。
・・・・・・・・どう見ても本物だよ、これ。
作り物の刃がこんなに鋭く光るはずないし、刃の付け根にある龍の彫刻だってリアルすぎるし・・・・・・・・
いやいやいやいや、落ち付いて考えよう。
これは一体どういう状況なんだ?
何で俺はこんな妙な格好した初対面の女の子に、いきなり刃物を突き付けられてるんだ?
「・・・・答えないのなら、このまま斬り捨てても構わんな?」
「いや、ちょっと待って! 言う! 言うから!」
少女はそう言うと、本当に薙刀を振りかざそうとしたので、俺は必死に両手でストップとアピールした。
マジかよ・・・・・・この子、今マジで殺気丸出しだったぞ。
「ならば、貴様は誰だ? ここで何を・・・・・・・・・・・!?」
「?・・・・・・・・」
なんだろう?
突然少女は構えていた武器を降ろして、驚いた様子で俺の顔を覗き込んできた。
こうして近くで見ると、本当に可愛いい・・・・・・・いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。
「そんな、まさか・・・・・・・・・・いや、でもそんなはずは・・・・・・・」
少女はなにやら考えごとをしているようで、俺の顔を見つめたまま何かを呟いている。
「・・・・・あなたの名は?」
「え?」
「名前です! あなたの名を聞かせて下さいっ!」
「いや、えっと・・・・・・・」
いきなりどうしたんだ?
さっきまで俺の事を睨みつけていた少女の瞳から険しさは消えている。
貴様って呼ばれてたのに、いつの間にかあなたになってるし。
俺の名前がどうかしたのか?
「えっと、俺の名前は北ご・・・・・・・・」
グラ・・・・・・。
「っ・・・・・・・?」
あれ・・・・・?
なんだ?
急に視界が・・・・・・・・・・・・
・・・・ドサッ。
「!? ちょっと・・・・・・・大丈夫ですか!?」
なんだ・・・・・・俺は倒れたのか?
女の子の声がなんだか遠くに聞こえる。
心配してくれてるのか・・・・・・・優しい子だな・・・・・・・・・・・・・・
「しっかり! しっかりしてくださいっ!」
こんなに心配してくれてるんだ。
すぐにでも起きて大丈夫って言ってあげたいけど・・・・・・ちょっと無理かも。
なんだか、目の前が暗く・・・・・・・・・・・
「しっかりしてください! ――――――さまっ!」
え?
今・・・・・・なんて――――――――――
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・オリジナルキャラ紹介
みなさんお気づきのとおり、彼の息子です。
母親は、黒髪といえばもちろんあの人。
二人の特徴を合わせると、まぁ黒髪のイケメンかなと思って想像してみました。
相変わらず絵が下手ですみません 汗
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え~っと、いま書き中の作品が終わってもないのに思いつきで二作目を書いてしまいました。 汗
完全オリジナルストーリーですが、読んでいただけたら幸いですww