明国の建立宣言は大陸全土を大きく揺らした。それと同時に明国の王となる者の名前にも。曹臨……かつて曹家の養子だった男。俺は商人たちを利用して大陸に明王――曹臨の名を知れ渡せる。そして俺が義勇軍、明星の頭首であったことも。すべてをあかした状態で俺は王となった。
「今頃は大陸に住む者ほとんどにお前の事が知れ渡っているはずだ」
琥珀は結果報告が記された書簡を目に配らせながら逐一に報告してきた。
「とりあえずは風評の操作は完了だな。となると、次は――」
「領土の拡大、だな」
「あぁ。この世に人の上に立つ凡愚は必要ないからな」
「となると、まず攻めるのは袁紹か。あまり良い風評も耳にしない」
「斥候の報告からも確認はできている。決まりだな」
軍事関連の詳細は俺と琥珀で取り仕切ることになっている。あらかた決めた後に軍議を開き皆に報告するのだ。そこで多数決をとる。王一人での判断で事を運ぶことはない。
軍議を開き袁紹の侵攻戦は全員一致の決議が下された。袁紹軍はおそらく天下に近い兵力を保持している。それだけに建立したばかりの明国は全兵力をつぎ込んで当たるほかに勝ち目はない。最低限の兵と将を残して俺たちは出兵した。
「目指す地は官渡。それまでいくつかの関所があるが問題ないじゃろう」
「問題は――」
「劉備軍じゃな」
聖は俺の言葉にかぶせて不安材料を口にした。董卓連合軍の後、音沙汰がないことに違和感を覚えていたが、まさか袁紹に身を寄せていたとは考えていなかった。
「劉備の配下には有能な英傑たちが数多くそろっている」
「それはこちらとて同じこと」
「だな。袁紹軍で警戒するとしたら参謀を務めている田豊か」
行軍の途中でも準備を怠ることなく聖と注意点を挙げて馬を進めた。
「翡翠が建国したみたいね」
王座を華琳に譲った曹嵩は娘からの報告にただ納得していた。
「驚かないのね、母様」
兄を追い詰めた責任は曹嵩にも当然あった。故に華琳は自分の母のことをあまり好きではなかった。軽々しく真名を口にしていることさえ憤りを覚えていた。
「建国は翡翠の夢だったからね」
「兄様の夢?」
華琳は一度としてそんな話を聞いたことがなかった。
「翡翠には叶えたい夢がいくつもあったのよ。そのうちの一つをやっと叶えることができたみたいね」
華琳には疑問でしかなかった。どうして母は兄の夢を語れるのか。仲の良い素振りなど一度として見たことがなかった。
「華琳」
「は、はい」
「いずれ翡翠は貴方の前に強大な壁として立ちはだかることになるわ。そのときの判断は後悔をしないようにね」
曹嵩はそう残してその場を去った。
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久々の更新です。