No.209369

虚々・恋姫無双 虚廿参(続)

TAPEtさん

無くした幸せ。
それを取り戻せるのなら、
例えこの身が砕け散るとしても、あの子のために……

2011-04-01 20:50:59 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:2324   閲覧ユーザー数:1996

「敵の数は?」

「判明されただけで約30万。私たちの倍近くの数です」

「どうせ数だけの烏合の衆!数々の戦場を乗り越えた魏の精兵たちの敵ではない!」

「いや、違うで、惇ちゃん。奴らは強い。奴らは、生まれてから戦いを覚えるとまで言われる連中や。戦わなければ生きることができない地獄のような地。奴ら一人一人、そんな生地獄のような所で生き延びた戦士や」

「そう……彼らの力、数、兵たちの連携……何一つ私たちが圧倒できるものはないわ……けれど、私たちが勝っているものがある」

「それは………」

「……春蘭?」

「はっ」

「あなたは今の私をどう思っているのかしら」

「はい?」

「覇道を捨てた私。たかが子供一人のために、生涯の夢を切り捨てた軟弱な王だとは思わないかしら」

「とんでもありません!華琳さま…華琳さまはいつまでも私の中の覇王です!」

「稟、あなたはどうなの?自分が思っていた道と違う道を歩んだ私を主としたこと、後悔してるかしら」

「……私の鬼謀、策略は全て華琳さまの望みのためのもの。この郭嘉、この先に何があっても華琳さまに仕えたことに後悔はありません」

「霞……沙和、真桜」

「アホなこと言うもんやなー、大将らしくもあらへん」

「答える価値もあらへん」

「へへー、一生付いていきますーなの」

「そう………ほらね?勝ってるでしょ?思いが」

 

 

この大陸の思い。

 

皆の思い。

 

私の思い。

 

あの子の思いが……

 

勝つ!

 

 

 

「聞け!魏の兵士たちよ、いや、この大陸勇者たちよ!我々は大陸の中を渡り合って、この大陸の全ての者たちを平和にしようとした。だが!今愚かにも我々の望みを断たんとする獣たちがある!」

 

「我々の幸せを奴らが踏みにじるようにほおっておくか!否!私たちは戦う!我らが家族のため!村のため!国のため!そしてこの大陸の皆の幸せのために!」

 

「臆するな!天は我らの味方なり!後は人が叶うべきことを成し遂げるまで!さすれば、我々がそれほど望んでいた平和が私たちを待っているのだ!」

 

「未来の幸せのために、今はその心に残っている勇気一滴まで絞り取れ!雄叫びをあげろ!勝利し、平和をこの手に取るのだ!」

 

 

 

おおおおーーーーー!!!!

 

 

 

 

 

ちゅんちゅん

 

朝起きたら……

 

「…………」

 

誰も居なくて寂しいと思うこの感情、とても久しぶりだった。

 

「…………ふぅぅ」

 

もっかい寝よう…

 

 

 

 

ガタンゴトン

 

ガタンゴトン

 

「………」

 

寒い……

 

すさーっ

 

【……もう朝…】

 

駅の中、そこが寝場所だった。

周りの、ボクみたいに駅の下や、街の公園で眠る人たちからもらったダンボールや、ちょっと古くなって人たちが捨てた布で作った布団。

そんなところで生活して三ヶ月。

孤児院から出て三ヶ月。

 

辛くて、悲しくて我慢できなくて……

何の当てもないくせに外に出て、こうしてきて三ヶ月。

 

………東京の冬は寒くて…一度起きてしまったらとても二度寝できるところじゃなかった。

 

【起きよう】

 

早く動かないと駅務員に捕まっちゃう。

 

・・・

 

・・

 

 

朝の駅は忙しい。

たくさんの人たちが地下鉄に乗って職場や学校や友たちとの約束の場所へ向かう。

ボクは地下鉄なんて乗らなくてもどこでもあっという間に行ける。

だけどボクは、いける場所がない。

行きたい場所もない。

 

父さんは母さんを見捨てた。

母さんはボクを見捨てた。

ボクは誰も見捨てることができなかった。

ボクが不幸せでも、世界の誰かが不幸になることはなかった。そんなこと望んでもいなかった。

寧ろ、ボクが不幸せになった分、この世界は幸せになるべきだ。そうでなければ、ボクが失ったあの幸せは…どこに消えてしまったのか分からなくなるから……

 

「おい、君」

「!」

 

駅前の椅子にぼーんとして流れる人たちを見ていたら、駅務員に声をかけられた。

 

「君、母さんを失ったのかい?」

「………<<コクッ>>」

「そうか、ならちょっと来てくれないか。君のお母さんを探してあげるから」

「……<<ふるふる>>」

 

そんなことをしちゃいけない。

だって、

ボクの母さんはボクが居ると幸せになれないから。

 

スッ

 

 

ギー―

 

ギー―

 

駅務員から逃げて来た場所は近くの公園。

この時間だとまだ他の子供たちは居ない。

代わりに……

 

「やぁー、また居るのか?」

「…!」

 

スーツを着たおじさんがいた。

どこかの社員なのだろうと思ったけど、皆が行き先を急ぐこの時間にこのおじさんはこの公園に来ていた。

公園にあるブランコの上に乗っていたこのおじさんを初めてあった時、ランダムで行き先を決めてこの公園にたどり着いていた。

誰も居ない公園は、あの頃にはとても静かで…ボクはそんな公園が好きだった。

でも、いつもなら誰も居ないはずの公園に、あのおじさんは居た。

その日からそのおじさんは毎日この公園に来ていた。

 

「お腹すいてないか?おじさんが何か買ってあげよう」

「………<<カキカキ>>」

 

公園の砂に樹の枝でボクはこう書いた。

 

『お金もないのに無理をしちゃいけない』

 

コン

 

頭を打たれた。

 

「子供が大人の財布事情を気にしてるんじゃねーよ!」

「………<<ぐすん>>」

 

だけど、本当にあのおじさんの財布の中にはあまりお金が入っていなかった。

それは元なら、朝急いで外に出るため途中で何かお腹を満たすものを買うお金と、昼食を食べるお金。

そのお金で、このおじさんはボクにそのぐらいになったら開店準備を始めるトラックのたこ焼き屋でたこ焼きを買ってくれた。

 

「ほら、開店初客だから二個追加だってさ」

「……<<コクッ>>」

 

ブランコで食べてるとあっとして落としちゃうかもしれないから場所を公園の長椅子に移す。

 

「……<<パクッ>><<パァー>>」

 

直ぐに作ったほかほかなたこ焼きはこの頃ボクにとって大好物になっていた。

 

「お前、実は態とそれやっておじさんに毎日たこ焼き買ってもらおうとしてるんだろ」

「…………」

 

でも、自分から買ってくれるって言っといてこれはないと思った。

 

「……<<ぐいっ>>」

「うわっ!何をする、やめろ、ソースが顔につくじゃないか!」

「……<<ぐいぐい>>」

「こらぁー!」

 

コン!

 

・・・

 

・・

 

 

その次の日、おじさんは公園に来なかった。

次の日も…そしてその次の日も…

 

そして、今日もあのおじさんは公園には来ない。

あの時ボクが嫌味でソースがついたたこ焼きを顔に食いつけたから?

そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

おじさんはその後職場に戻ったかもしれないし、新しい職場を得たのかもしれないし、それでもなければ、もう二度とこの公園には来れないようになったのかもしれない。

推測ばかりだけど、一つだけ確実なのは、ボクの朝の楽しみがなくなってしまったことと、その幸せも、またどこかで他の誰かの不幸せの代わりになってあげたってこと。

 

「………」

 

ギィー―

 

でも、誰も居ない公園にはもうボクのための幸せなんか残っていなかった。

 

 

一度だけ、

一度だけだった。

 

母さんに会いに行ったことがあった。

母さんが住んでいるところは知っていた。

母さんは新しい人に会って、新しい幸せを取り戻していた……少なくても、母さんはあの人と一緒に入れば幸せになれるって言った。

 

顔を見るつもりはなかった。

もしバレてしまったら、また出会ってしまったら、そしたら母さんの幸せは全て崩れ落ちるに違いなかった。

せっかく築き上げた、ボクのせいで壊れたその母さんの新しい幸せを崩すことができなかったから……

 

 

スッ

 

 

「………」

 

場所は、元ボクたちの家族が住んでいたところから遠く離れた……普通の子供がとても来ることができない遠い所だった。

 

そんなところに、ボクの母さんは住んでいた。

 

ここに……母さんの幸せがあった。

 

「えぇぅ」

 

 

「………あぅぅ…」

「……」

 

子供が居た。

 

小さな幼児用のベッドの中に、小さな赤ちゃんが居た。

 

近づいてみる。

 

「………」

「ぅぅ?」

 

かわいい赤ちゃん

ボクの弟……

 

少しだけ……なら……

 

ぼよん

 

「……<<にこっ>>」

「………うぅ……うぅぅ……」

 

 

「……ぅえええええ!!!ええええーーー!!」

 

!?

ああ、ど、どうしよう、どうしよう!?泣かせちゃった?!

 

 

 

「はーい、どうしたの、赤ちゃん」

「!!」

 

来る……

 

早く……

 

スッ

 

 

慌てるとうまくスッとできない。

 

「!」

 

気づくと足場がなかった。

母さんの家は五階だった。

 

「っ!」

 

ベランダの欄干を掴んでギリギリ落ちないで済んだ。

 

「えぇえーー!」

 

子供の泣き声が聞こえた。

 

「はい、はい、母さんはここに居るよ」

 

ボクの弟…

母さんの子供……

 

「はーい、もう泣き止んだわね、良い子よ、

 

 

 

 

 

 

 

 

かずと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズキッ

 

 

 

 

 

 

ちゅんちゅん

 

「………」

 

二回目の眠りから覚めた。

嫌な夢だった。

落ちる夢……

……どこまでも……落ちていくような……五階……四階……三階……二階……一階、地面、地面のまた下、その下……また下……どこまでも……

 

「…………」

 

ボクも……幸せになりたかった。

誰にも奪われないような幸せが欲しかった。

駅を渡る人たちは幸せのためにお金が欲しかった。

公園のおじさんは幸せのために新しい職場が欲しかった。

母さんは幸せのために……ボクじゃないボクが欲しかった。

 

ボクは……

 

「お姉ちゃん………お姉ちゃん………」

 

ボクは……幸せになりたい。

 

 

 

 

 

――我が眷属よ……盾となり、剣となれ

 

――守るは、幼き御使いの意志。

 

――小さな望み。

 

――この世界の誰もがの望み。

 

――何よりも些細で、何よりも大切な望み。

 

――願わくば、この身砕け散ってもその望みが叶えるよう…………

 

――我が愛おしい…仇よ…

 

――あなたのために………

 

 

 

 

 

――あなたのために……

 

「……!」

 

――この大陸のために……

 

――私たちがやるべきことを教えてください。

 

「………どうして」

 

どうして二人がここに……

 

――あなたの幸せのために……

 

「…さっちゃんは…今どこにいるの?」

 

――彼女は今、あなたに会えない場所にいるわ。

 

「どうして…?どこか知っているのでしょ?」

 

――あなたのために……あの方はあなたに会わないことを選びました。

 

「………さっちゃんは…今どうしてるの?」

 

――……あなたの幸せのために……

 

――そしてあの娘の幸せのためにもね。

 

「さっちゃんは…今幸せなの?」

 

――……あの方はいつもあなたと感情を共にします

 

――あなたが幸せならばアイツも幸せ。あなたが不幸ならアイツも不幸。

 

「………そう…じゃ今さっちゃんは」

 

きっと凄く不幸なんだ。

ボクの幸せを全部持っていたのに……

さっちゃんは今までずっと不幸だったんだ。

ボクと一緒に……

 

それじゃ……

 

それじゃ、

 

ボクの幸せはどこに行っちゃったんだろう……

 

 

 

 

 

 

 

返して……

 

 

 

「守って…華琳お姉ちゃんも…この大陸の人たちも…」

 

返して……

 

誰かは分からない。

 

誰かが…誰かはボクの幸せ…さっちゃんの幸せ…皆の幸せを持っている!

 

必ず取り戻す。

 

ボクの……この大陸の人たちの幸せ…

 

奪ったやつらから必ず取り戻して見せる!

 

 

「もう誰も人たちを不幸にできないまで……皆を守ってあげて……」

 

 

――少女、あの方の命(いのち)から生まれた者…尊い天の御使いの命令に従います。

 

――再び得たこの命、あなたの望みと我らが孫呉の願望のために……

 

 

 

 

取り戻す。

 

皆の幸せ。

 

そして、

 

もう誰にも奪われないように大事に……大事に守る。

 

 

 

 

 


 
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