No.208857

そらのおとしもの二次創作ショートストーリー 愛の結晶

そらのおとしものではしばらくごく短い話が続きます
今回はイカロス編です


そらのおとしもの二次創作作品

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2011-03-30 07:26:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4080   閲覧ユーザー数:3801

 

「そういえばさ、イカロスってスイカ食べたことはあるのか?」

 智樹は愛用のスイカを熱心にワックス掛けして磨いているイカロスに軽い気持ちで尋ねてみた。

「……いいえ。自分では食べたことがありません」

 イカロスは顔を上げ、いつもの様に表情が読めない素面で智樹に返答した。

「そういや、俺たちにスイカを切ってくれる時もイカロスだけは食べないよな」

「……はい」

 ニンフとアストレアはスイカが大好きなので食卓にスイカが並ぶことはたまにある。しかしそんな場合でもイカロスは決して自分ではスイカを口にしない。

「何か訳でもあるのか?」

「……スイカは、マスターとの大切な思い出。えっと、私とマスターの愛の結晶ですから」

 イカロスは頬を赤らめた。

 

 

そらのおとしもの二次創作ショートストーリー 愛の結晶

 

 

「智樹とアルファの愛の結晶って言葉が聞こえたけど、一体どういうことなのよ!」

 居間で昼ドラを見ていた筈のニンフが怒った声を出しながら台所へと飛び込んできた。

 ニンフの顔は真っ赤になってその瞳は怒りに満ちている。智樹は返答次第ではタダで済まないことを本能的に悟った。

「いや、何を誤解しているのか知らないが、俺たちはだな……」

「……恥ずかしくて言えない。ポッ」

 イカロスが恥ずかしげにニンフから顔を逸らした瞬間、智樹の頬はものすごい力で左右に引っ張られていた。

「痛てぇよ、ニンフっ! ほっぺがちぎれてしまうだろうが……」

 ニンフはエンジェロイドとしては非力である。しかしそれは人間と比べて非力であることを意味してはいない。

「智樹……アンタ、アルファに何をしたの? 事と次第によっては……」

 ニンフの喉から異音が聞こえる。智樹はその異音が何なのか知っていた。これは、パラダイス・ソングを放つ前兆であることを。

「ちょっと待てっ、ニンフは大きな思い違いをしているぞ。まず、その物騒な技の発動をやめてだな……」

 食らえば死ぬ。それだけはもうわかりすぎるほどわかっている。

「……やめて、ニンフ。私の主人に酷いことをしないで」

 絶体絶命の危機を迎えた智樹にイカロスの助けが入る。

 イカロスは体当たりしてニンフの手から智樹を奪い返した。

「アルファ、アンタ、智樹のことを……主人って……」

 ニンフは突き飛ばされたことには構わずにイカロスが発したある単語だけを気にしていた。

「……つい、言い間違えてしまいました」

 イカロスは無表情でそう解答する。だが──

「……マスターと2人きりの時だけ呼び合う、秘密の約束だったのに」

 続けた台詞で頬を赤らめて俯いた。

「何ですってぇえええぇっ!?」

「何ですとぉおおおぉっ!」

 ニンフと智樹はほぼ同時に驚きの声を上げる。

 智樹にイカロスとそんな約束を交わした覚えはなかった。

「こ、こ、これで勝ったとは思わないでよねっ! 私は絶対に負けないんだからぁ!」

 そしてニンフはやられ役さながらの捨て台詞を残して台所を去っていった。

「何だったんだ、ニンフの奴?」

「……さあ?」

 イカロスはいつもの素面に戻っていた。

「しかし、イカロスが嘘をつくとはな。まあ、おかげで命拾いしたけどな」

「……嘘をつくのが人間。ですから」

 イカロスは少しだけ照れくさそうに顔を俯けた。

「そういやさっきのスイカが俺とイカロスの愛の結晶だっていう言葉。あれも面白い冗談だったぞ」

 智樹は声を出して軽く笑った。

「……冗談、ではありません」

 イカロスは首を横に振って答える。

「……マスター、これを見てください」

 イカロスは先ほどまで自分が磨いていたスイカを手に持って見せた。

「そのスイカがどうかしたのか?」

 智樹には普通のスイカに見える。

「……3代目、なんです」

「3代目?」

 3代目といわれても智樹には何のことかわからない。

「……このスイカは、キャンプの時に初めて見つけたスイカの種から育てたスイカのまた種から育てたスイカなんです」

「そっか。守形先輩のテントでキャンプした時のスイカの孫って訳か。そっかそっか」

「……はい。このスイカは、私とマスターの過ごした時間の長さを表すものでもあります」

 イカロスにそう言われると智樹の目にもこのスイカが特別なものに見えてきた。

「そういや、俺たちもう結構長い時間一緒にいるよな」

「……はい」

 あの日、イカロスが空から落ちてきて智樹の生活は一変した。

 それからは毎日が波乱の連続だった。

 波乱の中ではイカロスがずっと横にいてくれた。

 スイカを見ていると、智樹はイカロスに出会ってからの日々を思い出していく。

「……このスイカは、マスターとの思い出そのものなんです」

「なるほどな」

 今度は智樹にも納得がいった。

「けど、愛の結晶ってのは……」

「……だから、マスターとの、愛の思い出、なんです」

 顔どころか体中真っ赤に染まりながら言葉を紡ぎ出すイカロス。

「なっ……」

 智樹はイカロスのその言葉を聞いて30分以上硬直していた。

 スイカはただ静かにその場に佇んで2人の間に存在していた。

 

 了

 

 


 
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