No.208489 境界のIS~第二話 ただひたすらに、走れ~夢追人さん 2011-03-28 00:46:16 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:2621 閲覧ユーザー数:2457 |
「あー……ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
ぱんぱんと手を叩いて、千冬先生が行動を促す。
「一夏、急ごう」
「ああ。今日は第二アリーナの更衣室が空いてるはずだ」
教室は女子が着替えに使うため、男の僕がクラスに残っていると非常に困った事態になってしまう。したがって、さっさとここから退散しなければならないのだ。
「おい織斑、向井。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」
千冬先生の言葉に、デュノアと呼ばれた例の転入生の一人――金髪の方――が近寄ってくる。
ん?男子?
「えと、織斑君と向井君?初めまして。ボクは――」
「ああ、後でいいから。とにかくここから出よう。女子が着替え始めるから。行こうぜ、カナタ」
一夏は早くもデュノアの手を取って移動を開始。さて、そろそろ僕も――
「――と、いう訳なんだ。離してくれないか?」
「……うん」
僕に抱きついていた少女、世界は割と素直に身体を離してくれた。しかしその手はなお、名残惜しいかのように僕の制服の袖を掴んでいる。
「着替えが終わったら、また授業で一緒になれるから。な?」
「わかった……」
裾を掴んだ手を優しく振り解くと、一夏たちの後を追って教室を飛び出す。最後までじっと見つめる世界の視線を感じたけれど、今はそれどころじゃあない。
「遅いぞ!カナタ!」
「悪い、あの子が――」
「いいから走るぞ!ヤツらが来る!」
「え?え?」
いい感じに混乱するデュノアを連れて、廊下を全力疾走。
走る。走る。
床を蹴り。壁を蹴り。
一陣の風となって、駆ける。
「よし、これで!」
一息に階段を跳びきり、一階へ到着。しかし、そこには既に――
「ああっ!転校生発見!」
「織斑君と向井君も一緒よ!」
遅かったか。
HRが終わり、各学年各クラスから情報先取のための尖兵がわらわらと集まり始めている。
あれに捕まったらどうなるか。質問攻めの挙句に授業に遅刻。その後は――うん。考えたくもない。
「いたっ!こっちよ!」
「優佳、貴女の部隊は左へ。サラ、貴女の部隊は右から回って。挟撃するわ!」
「了解!!」
「突撃ィィィイッ!!!」
鬨の声が響き、幾多もの足音に地が震える。もう、ここは戦場だ。
「突破するぞ、二人とも!!」
「あはは……ここって学校、だよね?」
「突破するのは良いが、別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「……お前って、ヘンな時にネタに走るよな」
うるちゃい。
「ぜぇ、ぜぇ……何とか、無事に、到着、か……」
壮絶な戦いがあった。
迫りくる軍勢をどうにかかわした僕たちは、そのまま校舎から脱出。転がり込むようにして第二アリーナ更衣室へとたどり着いた。
「はぁ、はぁ……一夏。君はこの状態を、無事と、言うのか?」
スタミナの消費が激しい。残りの燃料で次の授業を『無事に』耐えきる自信は、残念ながら僕にはない。
「でも、何でみんなはあんなに騒いでるんだろ?」
あの狂乱状態に初めて遭遇したデュノアが、困惑を通り越して少し引き気味になりながらも訊いてくる。心配するな。すぐに慣れる。
「そりゃあ、男子が俺たちだけだからだろ」
「……?」
ん、なぜそこで「意味が分からない」という顔をする。
「普通に珍しいだろ?ISを操縦できる男子は、今のところ僕たちだけ。違うか?」
「あっ!――ああ、うん。そうだよね、うん」
納得したのか一人コクコクと頷くデュノア。大丈夫か?
「えと、じゃあ改めて――」
デュノアが僕たちの方に向き直る。首の後ろで束ねた黄金色の髪に中性的に整った顔つき。華奢、とまでは言わないが、どこか優雅な柔らかさをもったスマートな体躯。
落ち着いて見ると、かなりの美少年だ。
「シャルル・デュノアです。よろしくね、織斑君。向井君」
輝くような人懐っこい笑顔に、胸の奥がトクンと高なる。
成程。これが男の娘、か。
「おう。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ。そんでこっちが――」
「向井彼方。カナタでいい」
「うん。僕のこともシャルルでいいよ。一夏、カナタ」
僕は向井彼方。ISを操縦できる、世界で二人目の男子。
そういう、設定だ。
「うわ!時間ヤバイな!すぐに着替えちまおうぜ」
時計を見ると、確かに時間ギリギリだ。制服のボタンを外し、手近なロッカーに放り込む。
「わあっ!」
「?」
Tシャツまで脱いで上半身裸になった一夏を見て、シャルルのやつがワタワタしてる。
「なぁ、シャルル。人の着替えをジロジロ見るのは……」
「み、見てない!別に見てないよ!?」
両手を突き出し、もげるんじゃないかという勢いで首をブンブン。なんでこんなに反応するんだ?まさか、BL(そっち)の気があるんじゃあ……
「カナタ?ち、違うよ?ボクは普通だよ?」
顔を真っ赤にしてうつむくシャルル。安心しろ。僕は別に気にしない。
それはともかく着替えだ着替え。
Yシャツと下着を一気に脱ぎ捨てロッカーにポイ。そのままズボンに手を掛けた。
パシュン。
いつもの、圧縮空気の抜ける、音。続いてドアが斜めにスライドする、音。
「え?」
振り返って、固まった。
腰までISスーツを通した一夏も、今しがたロッカーを開けたシャルルも音がした方を向いたまま、そのままの格好で止まっている。
「……」
ちょこん、と。
ドアの向こうに立っていた世界は、引きずるようにISスーツを携え、トコトコとこちら側に入って来る。
僕らは首だけ動かして、彼女の一挙一動を追った。
適当なロッカーの前に立ち、開ける。ISスーツをベンチの上に置き、そのまま恥じらう様子もなく制服のボタンを外し始めて――
「待て、動くな!動くなよ!そのままだ!」
「……ん?」
僕は慌てて彼女に駆け寄ると、その小さな両肩をガシッと掴む。
「なに?」
「なに?って、女子の着替えは教室。見てただろ?」
何を考えているか良く解らない、ぽけっとした顔でこちらを見上げる世界。抱きついてきたときといいさっきといい、感情を表に出さないタイプの娘なのだろうか。とにかく、やりづらい。
「クラスの人たちが、一緒に行ってきなさい、って。それで歩いて付いて行ったら、途中でたくさんの人にいろいろ訊かれて、遅くなった」
成程。理解した。
しかし、参ったな。世界をこのまま更衣室(ココ)で着替えさせる訳にもいかないし、他に方法は――
「だぁぁ!もう!!」
数秒の思考の後、僕は制服を羽織ると世界のISスーツを引っ掴み、そのまま彼女の手を取った。
「一夏!千冬先生には何か適当に言っておいてくれ!」
「うぇ!?じょ、冗談じゃあ――」
引っ張るように世界を連れ出し、今度は教室へ向かって走り出す。
廊下には、まだパラパラと生徒が残っていた。手を取り合って走る僕らに向けられる好奇の視線が、すれ違う度に掠めていく。
彼女たちの目には、僕がお姫様をエスコートするお伽話の王子様のようにでも映っているのだろうか?だとしたら悪いが、余計な御世話だ。
「授業をサボって二人で愛の逃避行――きゃっ」
後ろでボソボソ言っているような気がするが、早くもクラスの連中に毒され始めたんだろう。きっと。
階段を駆け上がる。始業のチャイム。
授業は――覚悟を決めるしか、ないな。
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もうしばらくは、ずっと世界のターン。
ネタ回です。