「井の中の蛙は大海を知らなかった――」
見渡す限り、真っ白な空間
周囲と同色で全く見分けは付かないが、周囲は円状に囲まれている
そう此処はまるで広大な井戸の底のよう
「でも、蛙は空の色の青さと深さを知っていた」
彼の呟きに、彼女の声が応じる
「そうだね」
穏やかに言葉を返す彼は、目の前にある筈の壁に手を添えた
「けれど此処には何も無い
見上げても周りと同じ色、天井だって在るか分からない
この壁だって“向こう側”にはまだ世界が拡がっていて、僕達は蛙なのかもしれないよ?」
ひんやりとした感触の壁が心地良い
彼はわざとらしく溜息を吐くと、肩を竦めてみせる
すると彼女は言った
「それの何がいけないの?
私の居るべき場所は此処だけなのだし
それに大海を知っても、蛙は海水では生きていられないわ」
「それは、確かにそうかもしれないね」
でしょう? と、彼女は得意気に笑む
「私には此処が一つの世界の形
“向こう側”が存在していたとしても、私は何も惹かれない」
やがて全ては光に包まれて
後には何も、残らない
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内包する世界