一週間後、漢中にて華佗を捕獲(?)して霞と一緒に陳留についた。
直ぐに一刀のもとへ華佗を連れてこうとしたら、聞きたくない話を耳にした。
「なん……ですって…?」
「…嘘やろ」
「本当です。沙和と真桜二人が様子を見に行ったところ、一刀が部屋に居らず、その後街のどこにも一刀と風の姿が見つかりませんでした」
「………っ!」
華頭がくらくらする。
でも、倒れてはいけない。
私がここでまた気を失ったりしては、稟や他の同盟に反するものたちの不安を高ぶる嵌めになる。
それに、今私が倒れたら、今の同盟について異議を持っている連中が裏で何を考え込むか分からなかった。
それよりも、一刀はどこに行ったのかしら。
予想はついていた。
あの子は私が蜀に向かったことを知っていた。
きっと、私から約束を破ったことに不満を持っていたはず……
「孫呉に向かった桂花たちからの連絡はあったの?」
「まだございません……一刀殿が呉に居るとお思いですか?」
「他に心当たりがないわ。多分私が居なくなったから、また自分勝手に私のことを助けようと行ったのでしょう」
「あの阿呆は…大人しくしているのが一番助けるっちゅうのに」
まったくよ…そう思いながらも、ずっと側に居るという約束を先に破ったのは私の方…
一刀も一刀なりに考えがあったから私にそんなことを言っていた。でも、そんな彼を陳留に置いたのは私の方だった。結果的にはあの子の病気に気づくことになったからどこにも行かせなくて正解だったけれど、こうなってしまってはもともこもないわね…
それよりも、無事に帰ってきてくれたら……
「患者がここに居ないのか?」
霞の後ろに付いてきた華佗が聞いた。
「あなたは……」
「彼は華佗よ。漢中で見つけて連れてきたわ」
「…彼が…!」
「華佗、申し訳ないわ。どうやらあの子が勝手にまた他のところに行ってしまったらしい。……悪いけど、見つけるまで暫くここに泊まっていて頂戴」
「………分かった。漢中の私の家にまで探しに来たほどの重患者だそうだからな。ただ、その間私はこの辺りの病者たちを探す」
「ええ、それが元あなたがやることらしいからね。こっちからは邪魔はさせないでおくわ。でも、いざとなったら直ぐに来てもらいたいから護衛を付けてもらいましょう」
「ああ、構わない」
「…霞、真桜たちに華佗の護衛をするように言って頂戴」
「分かった。……孟ちゃんは少し休んどきな。漢中からろくに休みもせずにここまで来たんやからな。一刀ちゃんが帰ってきたのに孟ちゃんが今みたいな顔やと、あの子また泣きそうになるわ」
「………そうね」
ここまで来るまで兼道(二日行く道を一日で行くこと)し続けてきたから、ろくに眠りもしなくて今でも倒れてしまいそう。
少し…ほんの少しだけ休んでおくことにしましょう。
回復したら一刀を探しに行かないと……
「すぅー……すぅ……」
「………」
部屋で寝ている華琳を確認して、稟は華琳の部屋を出た。
「はぁ……」
「稟」
稟が自分を呼ぶ声がした方を振り向くと、春蘭が一歩遅く華琳の帰還を伝令から聞いて走ってきていた。
「華琳さまは…!」
「今お休みになったところです。あまり騒がせてはなりませんよ」
「……そうか」
「………」
「……私がちゃんと見張りをしていれば……」
「春蘭のせいではありません。それに、風も一緒に居るはずです。彼女ならもし一刀が対処できないことがあってもなんとかしてくれるでしょう」
「…北郷あいつが魏から消えた事自体が問題なのだ」
春蘭は頭を振りながら言った。
「大体あいつがあっちこっちふらふらしながら変なことをしていなければ、華琳さまもここまで心配をなさって、あんなに身体を壊してしまうようなことは……!」
「春蘭、声が大きいです。それに、今一刀殿を責めることは、華琳さま本人を責めることでもあるのです。分かっていながらそんなことを言うのですか?」
「‥くふっ!」
春蘭は怒りのあまりに歯を食いしばる。
それがあまりにも強くて、齒からぱきぱきと音が立っている。
「悔しがったところで仕方がありません。呉には桂花たちが向かっていますから、何かあると直ぐに連絡が来るでしょう」
「そんなことをしているうちに、華琳さまの方が先に…」
「春蘭、心配していることは分かります。が、私たちが仕えている方は魏の覇王。それほど弱いお方ではありません」
「……いや、稟、貴様には分からん」
「?」
稟は頭を傾げた。
春蘭のその否定はいつもの馬鹿げた話から出るものでなく、何かの根拠を持っていっているような強い説得力を持つものだった。
それは、きっと一番長く華琳さまの側で仕えていた春蘭であるからこそ覚えること。
「華琳さまは弱いお方だ。…だからいつも私や秋蘭が華琳さまを支えていた。それが、どんどん華琳さまはアイツにであってからどんどん自分の心をあいつに委ねていらっしゃった。もう華琳さまはあいつが居なくては生きていられない。なのに、もしあいつの身に何かが起きれば華琳さまは………」
「……春蘭……」
「私は…私は悔しい。自分で何もできないことが……秋蘭のように政務ができるのでもなければ、今みたいなときに私は、華琳さまのために出来ることが何一つもないのだ」
春蘭は涙は流さずとも泣いていた。
自分も無力さに…こんな時に何もできやしない自分の愚かさが悔しかった。
あの方の頼りにならない自分に呆れてしまう。
「………っ!」
ガーン!!
「!」
怒りのあまりに、春蘭の拳がそこら辺にあった柱にぶつかると、建物自体がまるで地震にあったように揺れる。
なんという馬鹿力、といつもなら考える稟でも、今の春蘭の気持ちは十二分わかるものだった。
そしてきっとそれは、自分が今感じている感情の何倍も強いものだと、稟は確信した。
タッタッタッタッ!
「た、た、大変です!!」
「!!」
「何の騒ぎだ!今華琳さまは……」
「待て、お前は確か、西涼に向かわせたはずだが……」
稟は前西涼に向かわせたはずの兵士がここに居ることに驚かざるを得なかった。
しかも、その兵士の顔は真っ青で、今でも倒れそうであった。
「せ、西涼に所属不明の軍が侵入…!西涼復興のために働いていた部隊が壊滅されました」
「「!!」」
西涼に来た所属不明の軍団。
「どういうことだ!所属不明とは…一体どこから来たというのだ…!」
「…西涼なら、きっと五胡から攻めたきたと思ったら間違いないでしょう。我らは五胡との戦いにまだ会っていません故、彼らの奇襲にまんまとかかってしまった、というところでしょうね」
しかし、西涼に居た部隊は、数は少なくとも魏の精兵だった。
なのに、伝令に来た兵士の様子だと、彼がここに向かったところでは既に部隊は壊滅したということ…
となると今頃西涼は……
「西涼の民たちの避難を最優先にしたため、民たちの被害は少ないですが、連中の動きは早すぎて、今や長安に行く道を塞がれているところです。他にここに向かった兵たちは全部連中にやられ、私だけ……」
「稟!私が行く!」
「ちょっと待ってください。まだ情報が足りなさすぎます。…相手の数はどれぐらいですか?」
「十万……いえ、少なくとも十五万です。それも私たちに攻めてきた軍のみで、後ろにまだ伏せてある軍も…」
「…!!」
ありえない。
五胡とはただ大陸の外部に住む少数民族なはず。
一体どこからそれだけの数が……!
「……っ<<バタン>>」
「!おい!しっかりしろ!」
「ここまで来るのに休む暇の泣く走ってきたのでしょう……それよりも不味いですね」
先ず、敵の数が最小限十五万、いや、兵士の報告からすると二十万以上はある。
こちらから今動かせる兵の数は時間さえ与えられればそれほどの数は集められるが問題はそれを率いる将がないということだった。
今陳留に残っているのは、春蘭と自分、霞、それに真桜と沙和ぐらい。
他の皆は各国の使者として出ている。
「仕方ありません。私たちだけでも動きましょう」
「わかった。…華琳さまは……」
「………」
二人は一緒に華琳さまの部屋を見た。
華琳さまの疲労は今極度に高かった。
これ以上華琳さまに無理をさせるわけにはいかなかった。
「私たちだけでなんとかしましょう。霞から聞くと、蜀は既に同盟の話が大凡終わっているとのこと。先ず急いで西涼に向かい五胡と対峙して、同時に蜀からの秋蘭たちの復帰を待って押し返すしかありません」
「…そうだな。華琳さまにこれ以上重荷をかけるわけにはいかん…」
春蘭はそう言いながら自分の大剣を大きく振った。
「魏の大剣、夏侯元譲!我ら魏と華琳さまを穢そうとする者はこの私が絶対にゆるさん!」
同じ時期の蜀。
「それでは、大体の話はこれでまとめて、後の詳しい話は呉と合わせて三国が顔をあわせたところで具体的な案を採用すると致しましょう」
「しかし、驚きじゃの。まだ小さい子たちが軍師じゃと言うから少し心配したのじゃが、政治においての腹黒さと来たら韓遂並みよ。これは代わりに一個西涼に頂いちゃうぐらいじゃ」
「あ、あわわ…褒め言葉だけありがたく頂きます」
「の、夏侯淵よ、こんなんでよかったのかえ?魏にほとんど得したいんじゃぞ」
「構わんさ。それに、得ならしている。魏で足りていない塩を蜀の石塩を国の間で売買することで魏で頻繁に怒っている塩相場の沸騰を防げるし、それにこの蜀との交易路が完成すれば商業もこれ以上発達する」
「それに、道を使うに税金を出させると国の収入にもなりますからね」
「そういうことさ」
「ふむ……まぁ、西涼の地は後々話すことになるじゃろうが、こっちは馬以外にはあまり売りがないからの。復興をさせるとしてもこれから大変魏には重荷になるじゃろうよ」
「それもある程度対策は練っているが……何せ時間がかかる。長期的な目線でいかなければ駄目だな」
「じゃろうのぉ……」
がらっ!
「も、申し上げます!諸葛亮さま、鳳統さま、直ぐに御殿にお出会いください!」
突然兵士が四人が協商を終えたところに突然入ってきた。
「どうしたのですか?」
「ご……っ…」
報告しようとした兵士はふと他国の使者たちがあることに気づき口を閉じる。
「大丈夫です。何事が行ってください」
「…はっ、五胡がせめて来ました。その数おおよそ三十万!」
「「!?」」
「待て、三十万じゃと!!」
報告を聞いた諸葛亮や鳳統はもちろん、西涼の馬騰まで席から立ち上がる。
「一体いきなりどこからそんな数が出たというのじゃ!蜀の斥候は何をしておった!」
「それは……!」
「…ここ最近、五胡に出した斥候がことことく発覚されて……報告が上がってきたことがないのです」
「なんじゃと?」
「彼らの中では蜀で一番長く斥候に励んでいた人たちもあったのですけど……ここ最近にて五胡の警戒がものすごいぐらいあがっていて……」
「…マズいの。……これはもしや…」
「馬騰殿、何か心当たりがあるのか?」
秋蘭が何か後ろめたい顔をする馬騰に聞くが、馬騰は頭を振った。
「今はそれどころではおらぬ。とにかく話は集まってからじゃ。孔明よ。儂らも参加させてもらうぞ」
「…はい」
四人はそうやって小たちが集まってる御殿に向かった。
・・・
・・
・
四人が御殿に着くと、現在城に居る将たちが全て集まっていた。
「既に五胡の軍勢は梓潼まで狙ってこようとしてるそうだ。民たちは現場の紫苑が撤退させて、近くの焔耶と桔梗は既に軍五万を率いて紫苑の助けに向かっている」
関羽が大体の現状の報告してくれる。
「おかしいな…五胡がせめて来たことは何度もあるが、こんなに積極的に蜀に攻めこむのは初めてだ」
「取り敢えず、早く紫苑さんたちを助けにいかないと……朱里ちゃん、今成都から動ける兵って」
「しばし待ってくれぬか、劉備よ」
孔明に軍を集めるようにお願いしようとした劉備を馬騰が止めた。
「母様?」
「何だ?これは我ら蜀の問題だ。いくら馬騰殿と言えど……」
「……孟節よ、ここまで来たわけじゃ。もはや隠す理由はあるまい」
「………」
馬騰の言葉に皆の目が結以に移った。
「結以ちゃん?」
「どういうことだ?」
「………仕方ありません」
御殿の隅で膝に孟獲たちを乗せて静かに話を聞いていた孟節は、寝ている孟獲を起きないようそっとしておいて皆の前に出る。
「結以、お主、まさかこうなることを知っていたのか?」
「……はい、存じておりました」
蜀の皆が騒ぎだす。
「何故今までいってくれなかったのですか?」
「五胡の侵攻は大陸の西方である西涼や蜀にて常にあること。それを敢えて言う必要はございません」
「しかし、今のはどう考えてもおかしい。お前はこうなると知っていながら私たちに言わなかったのか?」
「………」
孟節が黙っていたら、馬騰が質問をした。
「孟節よ、お主は以前、孟徳と儂がある場所でこう言った。この大陸にて三国の同盟は必要不可欠なもの。そしてそれが遅れた場合、この大陸は滅亡する、と」
「何?!」
「これがそうなのじゃろ?この大陸が滅亡する兆候というのではないのかえ?」
「………はい」
「どういうことだ!この大陸が滅亡するだの……まさか五胡に我らが負けるとでも言うのか!」
「では勝てるを言うのかえ、関羽よ」
関羽の言葉に馬騰が言い返す。
「蜀の地で何度か奴らと戦ってみたお主らなら分かるじゃろう。五胡の軍勢はその兵の質が大陸の精兵よりも更に上にある。それは彼らが大陸の外側の荒れた地にて生活していてからこそそういうものでもあるのじゃが、そのせいで彼らの数はとても少ない。それに、こちらがある程度優勢じゃとそれ以上戦わず帰る。じゃから儂らは事々奴らを蹴散らすことが出来たのじゃ」
「ならば、今回も同じく蹴散らすのみ!例え数が多いと言っても私たちは負けるわけには行かない」
「無論じゃ。じゃが、今回は状況が違うということじゃ。本来なら一度攻めてくるとしばらくその土地にて待機するのが奴らの戦いの癖。じゃが今回は勢い余って攻めつづけておる。これの意味がわかるかえ、関羽よ」
「………まさか……今までの連中は本気ではなかったというのか?」
「…あの数でもあれほどの力を持っていた連中じゃ。今までのように被害を抑えた戦い方でなく、本気で戦うとしたらどうなると思うかえ」
「……」
「無論、じゃからって儂らに勝機がないというわけではおらぬ。いや、儂らは守らねばならぬのじゃ。この大陸に住んでいる民のためにも……」
「当然だ」
負けることが許されない戦い。
もしこちらが負ければ相手は餓鬼のようにこの国を食いつけてくるだろう。
人たちが…民が悲しむことになる。
だからこそ、負けるわけにはいかなかかった。
「馬騰さん、夏侯淵さん」
そんな時、劉備が口を開けた。
「こんなお願いをするのもどうかと思いますけど…私たちに力を貸してくださいませんか?」
「桃香さま?」
「こちらは魏との同盟の話もほぼ済ませました。力を合わせると、今の状況をもっとうまく乗り越えられると思います。だから、御願します」
「……夏侯淵よ、どう思う」
「………こちらは連れてきた兵も居ない。できることは少ない」
「構いません。それに、五胡との戦いでは兵たちをうまく統率してくれる将がたくさん必要ですから」
「だが、同盟の話が渡り合ったとは言っても、他国の将である私たちの命に兵たちがしたがってくれるだろうか」
「大丈夫です。それは私たちがなんとかしますから、どうか私たちを助けてください」
劉備は頭を下げながら二人にお願いする。
国の王である彼女がそこまですることに、関羽たちはもちろん秋蘭も驚くが…
「ふははははっ!翠よ。なかなかやるではないか。お前の主は!」
「母様!」
「よいじゃろう。一度戦場で恥をかかせ民たちに苦労をさせた身じゃよ。この地でその侮辱を連中に吐き出してやる!」
「馬騰さん……」
「……わかった。そういうのなら私たちも協力しよう。ただ、私や流琉は五胡と戦った経験がない。どれぐらい役に立てるかわからない」
「ありがとうございます、夏侯淵さん」
「……皆さんの話がうまく言っているところで大変申し訳ありませんが…」
口を開けたのは孟節だった。
「五胡が今攻めているのは蜀の地だけではありません」
「どういうことだ?」
「……まさか…西涼にても!」
「はい、西涼でも今蜀と同じぐらいの兵数が侵攻しているはずです」
「それは本当か!」
夏侯淵が驚く。
今の魏には守りに動ける将が少なかった。
軍師は稟と風がいるけど、将は春蘭と霞だけでは人手が足りない
「蜀と魏に終わらず、呉でも同じ状況が起こっているはずです」
「馬鹿な!呉は大陸の南東に位置している。何故そんなところまで五胡がせめて来れるのだ」
「これは単純な侵攻ではありません。彼らは自分たちが持っている全力でこの大陸を穢そうとしています。そのために長い間準備をしてました」
「そんな……」
「……ですが、少しおかしいですね。こんなに早く動けるはずではなかったです」
「何故、結以お前はそこまで詳しく知っているのだ?まさか……」
「………愛紗さんが考えていることは分かりますが、わたくしが皆さんに五胡の侵攻の事実を知っていながら言えなかったのには訳があります」
「どういう……」
そう言いながら、結以が皆がいる前で被っているマントを外した。
そしたら…
「っ!!」
「なっ!!」
彼女の身体は生きている人のそれでなく、まるで死んでミーラになったかのように身体のあっちこっちが枯れていた。
「外史、この世界の未来を口に発することは、未来を知っている者でも禁じられていること。その罪を犯したものは、この世界に存在することさえ許されず、消えてしまいます。これはその前兆です」
「どういうことだ…?」
「簡単に言えば…未来をバラすと死ぬってことじゃな?そして、お主は儂と孟徳にその未来をわかるような話をした。そのせいでお主の身体がそんなふうになった。そうじゃろ」
「はい。ですが…」
結以が軽く頷いて、劉備の方を見る。
「桃香さま、南蛮兵十万が、既に蜀の国境にて待機しています。我ら南蛮軍は、この大陸を守る聖戦に、全力を持って参加いたしましょう」
「結以さん!」
「……左慈さまが知れば多分怒るでしょうけど……関係ありません。どうせこっちだってあの方に怒りたい気持ちは山々ですから」
結以は他の人たちに聞こえないようにそうぼそっと言って話を続けた。
「この戦いは、この大陸の命運を賭けた大戦争です。三国が力を合わせ戦わなければ、決して勝つことができないそんな戦いです。この大陸が長い間戦ってきて、そしてたどり着いたこの答えが正解なのか否かをここで決めるのです。皆さんが本当にこの三国の同盟がこの大陸の答えだと思っておられるのでしたら、必ず勝ってください。そして、民たちに平和を、幸せを与えてください」
「朱里ちゃん、今動ける兵は」
「半日で五万、もう半日あると十五万集められます」
「取り敢えず動ける兵だけ率いて私と翠、蒲公英、雛里が一軍として出よう。朱里と他の皆南蛮軍と一緒に第二軍を率いてきてくれ」
「わかった。母様、こっちに来てくれ」
「応!少しの間、お前らが復讐の心を持ってどれだけ成長したか見てみるとするぞい」
「その話はもう寄せって!」
「くふっ!叔母様こそ、今回は一人で突っ込んじゃだめだよ」
「うぐぅ!」
馬の一家が先に外へ向かう。
「夏侯淵よ、お主らは西涼に向かった方がいいのではないか?」
と、趙雲が心配げ言い出すが、
「…いや、今から行ったところで間に合わないだろ。今は姉者と霞を信じて、こっちを早くなんとかする」
「そうだな。こっちを早く終わらせて、こっちから西涼を手伝いに行った方がいいだろう」
「……趙雲殿。まさかとは思うが、今私を試したのか?」
「気分を損ねたのなら謝ろう。ただ、口だけの同盟でないのか少し自分で試したくなったのでな」
「華琳さまは本気で大陸の平和を祈っていらっしゃった。なら、私たちはその心に答えなければならない」
「そのようだな」
「結以さん、南蛮軍はどれぐらいあれば来れるでしょうか」
「成都まで来るには普通は三日ぐらいはかかるでしょうけど………美似ちゃん?」
「うむ……ふにゃ?」
「今から南蛮に帰って、皆に戦いは始まるから明日まで成都に来てくれっていってくれない?」
「にゃ……にゃ!わかったにゃ!」
「ありがとう、美似ちゃん…だそうです」
「はわわ……明日までってそんなに………」
「あの子の手にかかれば南蛮軍の皆は絶対に言う事聞きますから、問題ありません……ああ、皆美似ちゃんの魅力が分かってるのですよ」
「雛里ちゃん、呉に行かせた鈴々ちゃんは戻らせた方がいいかな」
「呉に使者に出る時勝手に行くと言って行かせた時は、どうも心配だったが、こうなると益々だな」
「今は既に呉の方が近いと思います。そちらの状況もこっちとほぼ同じでしょうから、あの場で鈴々ちゃんがなんとかしてくれることを祈るしかありません」
「大丈夫だろうか」
「大丈夫だよ、きっと。鈴々ちゃんはあれでもちゃんとインテルば装着されてるから」
「桃香さま?いんてるってどういうことです?」
「うん?私そんなこと言ってたっけ?」
一方、同じ時期孫呉の建業にて。
「…………」
ちゃら
「……<<よしっ>>」
ガラッ
「一刀様」
「!」『周泰お姉ちゃん、丁度今終わったよ』
「…うわぁ…この量を、一日で全部書いたのですか?」
「……<<コクッ>>」『孫権お姉ちゃん…まさか各部族たちに送る書簡を全部書いてって言うなんて思わなかったよ…こんなにたくさん書いたのって初めてかも。三日も同じことしてたからちょっと肩が痛い』
「大丈夫なんですか?」
「……<<コクッ>>」『もう終わったし…後は、これを周瑜お姉さんのところに預けると、ボクはもう桂花お姉ちゃんたちに挨拶した華琳お姉ちゃんのところに戻ろうかな』
「…行っちゃうのですか?」
「…<<コクッ>>」『流石にあまり長く居ちゃったし……最初に桂花お姉ちゃんがボクを見た瞬間、横に居た風お姉ちゃんをぶん殴ろうとした時はボク頭真っ白になってたから』
「程昱さん、いまでもちょっと荀彧さまに近づきにくそうです」
『風お姉ちゃんのせいじゃないのに……』
「明命!」
「ふわっ!思春殿!?」
「冥琳さまからの命令だ。全員御殿に集まる」
「は、はい、わかりました」
「……」『どうかしたの?』
「貴様が知ることではない…行くぞ、明命」
「あ、はいっ!」
タッ!
タッ!
「………」
何かちょっとおかしいな。
甘寧お姉ちゃん、ちょっと顔が焦ってるようだったけど、何か大変なことでも……?
「<<ふあああ……>>」
うむ……三日も同じ書簡書き続けてたから眠くなってきた。…周泰お姉ちゃんに運ぶの手伝ってもらおうと思ったのに…ちょっと寝てからにしようかな。
ちょっと寝てから運ぼう……
「………ふーん……すー……すー……」
その時、呉の御殿では大騒ぎが起こっていた。
「南部から正体不明の軍団が現れて、既に呉郡当たりでも敵影が見えるということです」
「どういうことだ!こんな状況になるまで下の連中は何をしていた!」
「公瑾、あまり熱が上げるでない。情報をしる前にお主の気迫で伝令を気絶させる気か」
「……!」
周瑜があまりに熱を上げて伝令に向けて気迫を出して、その前に立った伝令が足を震えていると、黄蓋はそんな周瑜を止める。
周瑜は自分がやりすぎたことに気がついて一度身を下げた。
「言ってみろ。正体不明とは言ったが、連中の数はどれぐらいじゃ?」
「数は……確認されただけで十万。実際はそれ以上あると思われます」
「うむ……」
「どういうことだ……越が兵を集めていたとしても十万ほどの兵を集めているうちにこっちに報告が上がって来なかったはずがないのに」
「……権殿、どうもおかしい。もし相手が越族なら、南の連中がここまでやられているわけがない。何か…他のものがあるわけだ」
「だけど、江東の南に越でなければ一体何奴が……」
「失礼するわ!」
呉の皆がそうやって集まって悶々としていたら、魏の桂花、稟、凪たちが殿内に上がってきた。
「貴様ら、ここは呉の御殿だ。いくら魏の使者の資格とはいえ、無礼であろう!」
「待て、思春!」
彼女らを制止しようとする甘寧を、孫権が止めた。
「……突然の無礼、失礼致します。話は大体は聞かせて頂きました」
「魏では何か心当たりがあるのか?」
「心当たりと言いますかね……実は魏で以前あった軍師の中で、このような状況を予測していた者が居ました」
「なんだと?!」
風の話に周瑜が驚く。
呉の自分も知らなかったことを、遠い魏にいた者が予測していただと?
「これがそれです」
そう言って桂花はある書簡を近くに居た呂蒙に渡した。
それをもらった呂蒙はその書簡を陸遜と一緒に開けてみた。
「……こ、これって」
「ありえないです…これっていつ書かれたのですか?」
「三ヶ月ぐらい前ですね。ちなみにあの人はその書簡を書いた直後戦場にて亡くなりました」
「何と書かれている」
周瑜は二人から書簡を奪って自分の目に通す。
『間もなく大陸外方の全地にて外方民族が動き出す。特に西方の五胡は現在その力を溜めており、勢いを増している様子が尋常で非ず。蜀や西涼地にて動いている五胡がもし南方の呉にも出現す可能性あり。その時は慌てずに、呉と和平をむすび、呉に越との和平を進言し外方の患を断つべし』
「……これは……魏にこんなものが…」
「ここに来る前に、彼女の部屋を片付けていた侍女が見つけたものを見て、どうもおかしいと思ってもっていましたが、どうもこの書簡に書かれている通りになったのではないかと」
「彼女は一体何者だ…?」
「彼女の名は司馬懿…西涼の馬騰との戦いで、五丈原に火計をかけ、西涼の騎馬部隊を全滅にまで持ち込んだ天才を持った軍師でした」
「しかし…この書簡の通りだと、五胡という連中は西方にて動いている者じゃな。何故そんな連中が呉にまで…」
「それはわかりません。ですが、実際そんなことが起きているのですよ。ですからこの書簡に書かれている通り、越との和平を結び対応すべきではないかと…」
「無理ですよ!越と同盟だなんて……越と呉と言うと、漢王朝以前から犬猿の仲だったのですから、話し合いなんてそう簡単に出来るはずが……」
「そ、それが……」
陸遜の話に、伝令が口を開けた。
「途中で、越の兵一人が死にかけて呉郡に着いていまして……越は既にその正体不明の軍隊に壊滅されたらしく、まだ残っている越の部族たちがあっちこっちで奇襲をかけているようです。現場では既に彼らと一時的停戦を結び、一緒にその正体不明の軍と対峙しています」
「なんだと?!何故そんな重要なことを…!」
「仕方おるまい。越と同盟を結んだと言われたら、周りの連中から裏切ったとか言われて後で粛清されるかもしれんからの」
「……」
周瑜は黙りこんで考えに入った。
「……荀彧」
「はっ」
その時、孫権が荀彧を呼んだ。
「その話によると、今頃あなたたちの国も同じく……この五胡という連中に攻められているのではないのか?」
「…そうと思われます」
「それでも、あなたたちはまだここに残っている。何故だ?何故それを知ってでも帰らず、ここに来て私たちにこれを話している」
「……孫権さま」
桂花は少し間を空いて話を続ける。
「私は、華琳さまの命令にて呉に来ました。華琳さまが望まれたことは呉と蜀との同盟。だけどそれは、魏のためだけでなくこの大陸に住んでいる全ての民のためです。……私たちはここで、呉の皆さんを助けようと思います」
「………」
孫権は桂花の話に息を呑む。
「ただ、一刀ちゃんは帰らせていただきますけどね。あの子は華琳さまの元に居るのが一番安全ですから」
「魏は今人手が足りない状況のはずじゃが?」
「今から帰るとしても間に合いません。故に、呉の皆さんに頼みがあります。もし、私たちの助けを持って、五胡の早く蹴散らすことが出来たら、魏に援軍を出してください」
「……権殿。どう思うかい。儂は賛成じゃぞ」
「……亞莎、あなたはどう思うかしら」
孫権の目が亞莎に向かうと亞莎は一瞬目を下げるが、皆の目が自分に向けられていることに気づいた。
ここから逃げることは出来なかった。
「……わ、私は、荀彧さんの条件をのむべきだと思います」
「何故だ?」
「相手は戦いに慣れている西方の戦闘民族です。こういう戦いでは、兵の数で圧倒すること以上に、出来るだけ良い将を持って、兵たちを手足のように動けるような状況が重要です。魏の皆さんが居ることは、その統率力だけでも大きな力となるでしょう」
「でも、荀彧さんたちが魏の将ですよ。兵たちがうまく言うことを聞いてくれるかどうか……」
「そこをなんとかするのは私たちの仕事だろう。同盟の話まで渡り合っている。それに、一部と言っても御使い殿の手紙を受けた部族たちから返しの言葉が来ている。呉のためだと言えば、兵たちも魏の将と言えど信頼を持ってしたがってくれるだろう」
「難しい話になることは十分承知している上です。ですが、我ら魏のためにも、いえ、この大陸のためにも今は私たちにできるだけの力を振り絞るつもりです」
凪の話に季衣や魏の軍師たち二人も頷く。
「……いいだろう。なら、魏の将たちの力、使わせて頂く。援軍のことも、約束しよう」
「…ありがたきお言葉。感謝致します」
荀彧等四人が頭を下げると、孫権も共に頷いて呉の軍師たちを見て命じる。
「これより呉郡へ向かう。冥琳、今建業にいる親衛隊を半日以内に集められる兵をできるだけかき集めて、黄蓋と思春と一緒に向かいなさい。魏からは……」
「風が行きましょう……凪ちゃん、いいですか?」
「はいっ、お供致します」
「なら、この面子で第一軍を組んで今日内に出立しなさい。残りは私と一緒に二軍を組んで二日内に出立できるように準備する」
「「「はっ!!」」」
――……
――……と…
――かず……と…
華琳お姉ちゃん?
――……一刀……
ここは……
覚えがある。
この匂い。
血の匂い。
この声。
人たちの喚き声。
この光景。
人だったものがあっちこっちに散らばっている。
みたくなかったものたち。
戦争にていつも観ていなければならなかった光景。
だけど、一番見たくなかった姿がそこにあった。
――……秋蘭お姉ちゃん?
そこに秋蘭お姉ちゃんが居た。
地面に倒れている秋蘭お姉ちゃん『だった』ものがそこに『あった』
秋蘭お姉ちゃんだけじゃない。
桂花お姉ちゃん、春蘭お姉ちゃん、
凪、沙和、真桜お姉ちゃん、
季衣、流琉お姉ちゃん、
霞お姉ちゃん、
風と稟お姉ちゃん……
皆……どうしちゃったの?
どうして皆…そんなところに倒れているの?
止めたはずなのに、
戦はなくなったはずだったのに。
どうして皆また……
戦場に来て……こんな姿に……
こんなことがどうしてまた………
――一刀……
!
華琳お姉ちゃん……
華琳お姉ちゃんが、生きていた。
誰もがなくなってしまったそこに、華琳お姉ちゃんだけが居た。
――一刀……
ボクを呼んでいる。
行かないと……
行って慰めてあげないと……
動けない……
どうして……
ああ、ボク、足がない。
歩く足がない。
気付いてみたら、華琳お姉ちゃんは、とても近い場所にいた。
泣いていた。
華琳お姉ちゃんが泣いていた。
ヤダ‥…
泣かないで……
華琳お姉ちゃんが泣くと、皆悲しくなる。
ボクも悲しくなる。
だから、泣かないで……お願い………
手を伸ばせば、華琳お姉ちゃんの涙を拭いてあげれそうなのに…
手が届かない。
手がない。
伸ばす手がない。
ボクは死んだ。
「!!」
はぁ……はぁ……
ゆ……め……?
腕を掴んでみる。
足もちゃんとある。
汗がぴちゃぴちゃになって全身がぺとぺとしてる
……後も向いてみる。
誰もいない。
皆どこ?
華琳お姉ちゃんはどこ?
……
華琳お姉ちゃん……
スッ
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戦いは始まる。
あれだけ頑張って、
あれだけ足掻いたって、
戦は始まってしまう。
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