No.208083

真・恋姫無双 ~中華に鳴り響く咆哮~ 第一話「哀れ悲しき者の産声」

北方獣神さん

初投稿。

気に入っていただければ幸いです。

2011-03-25 21:05:27 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2065   閲覧ユーザー数:1841

 

施設のサイレンが鳴り響く。

 

けたたましい音と共に研究員らしき男や女が慌しく駆け回っている。

 

「ダメ、こっちにもいなかったわ。」

 

「ックソ!!どこに隠れやがったんだ!?」

 

「まさか逃げ出したなんてことは・・・?」

 

「いや、それは無いだろう。何せ俺達ですら厳しい検問を毎回通らなきゃいけないんだぜ?無理に決まってるだろうよ。」

 

「・・・とにかく他の班員にも呼びかけて探すんだ。唯でさえ組織の最重要機密であるあの『化け物』が居なくなったなんて言ったら、俺達クビどころじゃ済まないぞ・・・」

 

「そうだな。それじゃもう一度くまなく探すぞ!!」

 

そう言って再び走り出す研究員達を、天井から睨む一人の青年が居た。

 

「グルルルルル・・・・」

 

荒く息をしながらも青年は音もなく床に着地した。

 

髪の毛から滴り落ちる薄緑色の水滴が、数滴落ちた。

 

青年は少し尖った耳をピクつかせて、周りをうかがった後、四つん這いで走り出した。

 

暫く走ると、前方から研究員が連れ立って走ってくるのが見えた為、青年は偶然にも近くにあった部屋に飛び込んだ。

 

バタバタという音が過ぎ去ると、青年は飛び込んだ部屋を改めて見回した。

 

中央に光に照らされた大型の筒状の機械があるだけで、それ以外は何もないようだった。

 

・・・どうやら、中に人一人入れるスペースがあるようだ。

 

恐る恐る近づき、鼻をひくつかせる青年だったが、更に匂いを嗅ごうと手を触れた途端。

 

プシューッ!!・・・・・・ウィーン・・・・・・カシャ・・・・・・

 

と、突然機械は動き始めた。

 

驚き飛び退いた青年だったが、それ以来動かなくなった機械に警戒を解いて、再び近づいた。

 

その時。

 

『おい、今ここから音がしたぞ!?』

 

『ヤツが居るかもしれん。確認するんだ!!』

 

と、部屋の外で声が聞こえ始めた。

 

「・・・・・・ッ!!」

 

それに気付いた青年はその機械の中に反射的に飛び込んだ。

 

それと同時に再び機械は動き出し、青年を中に閉じ込めてしまった。

 

勢い良く開け放たれた扉から、武装した人間が何人も入ってくる。

 

その内の一人が指をさして叫んだ。

 

『オイ!!次元移転装置が作動してるじゃないか!?早く誰か止めろ!!」

 

付いて来た研究員が急いでコンピューターのキーボードを凄まじい勢いで叩くが、青年が入った機械は止まらない。

 

『ダメです!!操作を受け付けません!!』

 

・・・青年は自分の足元を見た。

 

そこには先程見た鉄の床ではなく、緑豊かな森林が広がる景色が広がっていた。

 

『―――――――――――――――――ッ!!」

 

最早外の音は聞こえては来ず、次第に体が引き込まれる感覚が青年を襲った。

 

「グ・・・ガァァァァアアアアアアア!!??」

 

そして、世界は暗転し、青年は――――――消えた。

 

森の奥地にある、小さな川原にその少女は居た。

 

耳に心地良く聞こえる川のせせらぎに心を委ね、目を瞑る少女の名は劉協。

 

その姿は儚く、しかし日の光に照らされるその姿は美しかった。

 

「協、ここにいたのか。」

 

その少女がゆっくりと振り返ると、そこには長く美しい茶髪を風にたなびかせながら歩いてくる少女の姿が。

 

「弁姉さま、いかがされましたか?」

 

再び視線を小川に向けながら劉協を言う。

 

その隣にドカっと座る劉協の姉、劉弁。

 

「侍女が探し周ってたぞ?母上もそれで心配していたし。」

 

「皆は心配しすぎなのです。・・・今日で私も齢18になったのですし。」

 

「それを言うなら私もだぞ、協。私達は双子なのだからな。」

 

静かに溜息をつく劉協にヤレヤレと首を振る劉弁。

 

そこに、一陣の強い風が通り過ぎた。

 

劉協は姉よりも短い髪を、劉弁は美しい茶髪を押さえ、飛び交う塵が目に入らぬように瞼を閉じた。

 

・・・やがて風が止み、二人が目を開けると――――――

 

 

――――――ボロボロになった白い服を着た、一人の青年がうつ伏せで倒れていた。

 

 

突然のことに目を見開く劉協と劉弁。

 

しかし最初に立ち上がったのは二人同時だった。

 

「弁姉さま、そちらを。」

 

「あぁ、わかった。」

 

川原から少し離れた平らな地面に青年を置いた二人は、さてどうしたものかと首を傾げた。

 

「疑問に思うことは事尽きないが、それよりもまずはこやつをどうするかだな。」

 

「弁姉さま、もしやこの者を捨て置くなどとは言いませんよね・・・?」

 

「もちろんだとも、協。王家の者として、誰であろうと倒れている者を見捨てるわけにはいかんからな。・・・しかし侍女たちはまだしも、母上がなんと言うか。」

 

「その場合は私が母様に話しておきましょう。必ず良いと言ってくれる筈です。」

 

「そうだな・・・。では、私の馬に乗せよう。お前の馬よりも体格が大きいし、何よりも協の腕では落としそうで怖いからな。」

 

よっと言いながら劉弁は一刀を背負うと、そのまま馬に乗せた。

 

「もう・・・。まだ昔の事を言うのですね。」

 

「ハッハッハ、すまない。さ、行こうか。」

 

「えぇ。」

 

そして二人は馬に跨り歩き出す。

 

彼女達の母、霊帝の待つ洛陽へと。

 

 

 
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