今日も良い天気、絶好の外出日和。
私は今日も自分の墓石の上に座って足をバタバタさせて遊ぶ。
そう、大切な人が私に会いに来てくれるのをずっと待っている。
「って、あの子はいつになったら来るのよ!毎日毎日待ってる私の身になりなさいよね」
私こと川瀬美優は竜祈の幼馴染にして元カノ、そして里優の姉にして幽霊です。
死んでから2年の歳月が流れましたが、成仏することなく自分でもよくわからない白い世界で過ごしてました。
成仏する気はあるんだけど仕方も知らないし、よくわからないけどまだ成仏しちゃいけないような気がしてずっと私を保ってます。
白い世界からこっちの世界を見ていて竜祈と里優を心配して、いてもたってもいられなくなり話したい、会いたいと強く願っていたらこっちの世界に来る事ができました。
お説教も済んでもう思い残す事は無くなったから成仏できるのかと思ったら、あの白い世界に帰れなくなっていました。
里優がお墓参りに来てくれるって言ってたので報告を聞いてからジタバタしようかなって自分のお墓に座ってずっと待っているんだけど
「何が『私は今幸せだよ』っよ、幸せボケして忘れてるんじゃないの?こっちは話す人いないんだから暇なのよ!たまに他の人(幽霊だけど)がいるけど会釈だけで終わったり、『いや~、トラックに衝突された時の衝撃ったら死ぬかとおもいましたよ。ってそれで死んだんですけどね、ハハハ、これ幽霊ジョークね』って死んだ時の話されても楽しくないのよね。早く来なさいよ!」
「あのぅ、今うちの家族が話してるので静かにしてくれませんか?」
「あっ、どうもすみません」
っとこの様に楽しくない日々を過ごしてます。
気晴らしにほっつき歩こうと思ったけどいつ里優が来てくれるかわからないからここから離れられないし。
しかも、夜にちょっとだけ歩き回ったら心霊写真が撮れただとか女性の声が聞こえるとかで私が行った場所はすぐにみんないなくなっちゃうし。
「はぁ、しかももうちょっとで夏休みも終わるってこの前行った場所では行ってたしなぁ」
私は何の為にここで待ってるんだろう?
こんな事ならさっさとあの世界に帰って成仏する手段を探してた方が有意義だったな。
おっと、前言撤回、来ました。遂に来ました、私の愛しき妹ともう1発ビンタしとけば良かったなと思うその彼氏が。
「美優、ちゃちゃっと成仏してくれ。悪い夢を見そうだからよ」
「やっぱりあんたには地獄が見えるぐらいにビンタしとけばよかった」
失礼な事を言った上に、竜祈がしゃがんで両手を合わせて拝んでるお墓は私のお墓の隣。
死んだ後に生前にやり残した事を増やす馬鹿はこいつだけであってもらいたい。
「竜祈さ~ん、お姉ちゃんのお墓は~こっちですよ~」
「冗談だ、何回もここに来てる俺が間違える訳ないだろ」
はははっと笑ってごまかしてるけど私は一瞬へっ?って顔したの見逃してないんだからね。
「よし、まずは墓を洗ってやるか。おるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃあ!」
竜祈は汲んできた水を一気に私のお墓にかけてきた。
その上に座っていた私にも水は飛んできたから思わず悲鳴をあげちゃったけどもちろんかかる訳がない。
回りからクスッと笑いがこぼれて私は照れ隠しで笑って返すしかなかった。
「ったく、なんで死んでからも恥をかかないといけないのよ」
私がぶつくさと文句を言っている間にお墓はどんどんと磨かれていく。
「こういう時に言い争いができないのはやっぱり寂しいな」
自分の声が誰にも届かないって本当に辛い、せめて大切な人には届いてくれればな。
プラプラさせてる足がぼやけてくる。
「こんなもんでいいだろ、線香、線香っと」
ぼやける視線の先が線香の煙でどんどんと白くなっていく。
「って白くなりすぎじゃない?何よこれ?」
「あぁ、竜祈さん。そんなにいっぱい置かなくていいですよ~。火事になったら大変じゃないですか~」
「そっ、そうか?俺はいつもこれぐらい置いてるけど。こういう事は盛大にやった方がいいじゃねぇか」
火のついた大量の線香を里優はお墓から取って適量を置いてくれた。
「本当に加減を知らないんだから、里優はなんでこんな奴を好きになったんだか」
って好きになったのは私も一緒か……血は争えないのかな。
「お供え物も置きましたよ~、じゃあ竜祈さんからお願いしますね~」
「なになに?一発芸でも始めるつもりなのかしら?」
「お前が俺達の前に現れた時は本当にビックリしたよ。最初慶斗に言われた時はこいつ何言ってんだ?って思ったけどまさかそこにお前がいるとは思わなかった。普通に考えればお前がいる訳がないんだけどな。でもこういうのを奇跡っていうだろうな、死んだはずのお前がそこにいた。その奇跡のおかげで俺達は今、こうして付き合ってる。もしお前がその奇跡を起こしたんだとしたら……いや、お前が起こしたんだよな。だからお前にはすげぇ感謝してるよ」
ううん、私が起こした訳じゃないよ。勝手にそうなってたんだから。
「だからって訳じゃねぇけど、お前の大好きな里優を、俺が好きになった里優をぜってぇに悲しい思いはさせないし、ずっと笑わせてみせるから。幸せだって思えるように頑張ってくから安心してくれ」
竜祈はがっしりと里優の肩を抱き抱える。
そうだ、この目だ。まっすぐで強く優しい目を私が好きになった人はこの目をしていたんだ。
「お姉ちゃん、私、今、幸せだよ、そしてずっとこれからも幸せだよ。お姉ちゃんの分まで幸せにしてもらうから。いつか私もそっちに行ったらその分私がお姉ちゃんを幸せにするから」
いいの、私の事は気にしないで……
「竜祈……里優をお願いね。里優……ちゃんと幸せにしてもらうんだよ」
これで私に思い残すことはも何もない、もう成仏していいな。
「いやぁ、毎日遊んでばっかりで墓参りを忘れてたからもしかしたらあいつ怒ってるかもな」
「そんな事でお姉ちゃんは怒ったりしませんよ~」
前言撤回その2、2人にお説教をしてあげないと成仏する気になれません。
「あら~、お姉ちゃんが怒ってる気がしてきました~」
「流石は我が双子の妹、私の気持ちが良くおわかりで」
ボキボキッと指を鳴らしながら2人に近づく。
「やっぱりこれが気に入ってくれなかったんですよ~、お姉ちゃんはおはぎより桜餅派なんですって言ったじゃないですか~」
前言撤回その3、全然わかってない、悲しくなる程に。
「あいつ、あんこならなんでも良かったんじゃなかったっけ?まあ、お供え物は置いてくと鳥とかが食っちまって散らかるから持って帰るか」
私のお墓からお供え物をささっと竜祈は取って行く。
「あぁ、私の大好物のおはぎが~」
そう、怒ってる理由がわかってもらえなかったのと好きな物が間違ってるのが悲しかった。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「すみません、私はもうちょっとここにいますので~、竜祈さんは先に帰っててくれませんか~?拓郎さんと出かけられるんですよね~」
「あぁ、それじゃ家に着いたら電話しろよ」
心配そうな顔をしながらも竜祈は持ってきた荷物を持ち上げてここから出て行く。
「んじゃな美優、またな」
「うん、またね竜祈」
そのまたがいつなのか、またがあるのかわからないけど、また会おうね。
さてさて、なんでうちの里優ちゃんは竜祈と一緒に行かないでここにいるんでしょう。
なんでそんなに辛そうな顔をしているの?
「お姉ちゃん……本当にこれで良かったのかな?私は幸せになっていいのかな?」
「なんでそんな事言うの?私はそれでいいと思ってるのに」
「お姉ちゃんが生きていたら、きっと竜祈さんの隣で笑っていたはずなのに……」
「そんな事ないって!あいつといたら毎日胃が痛くなるだけだよ。それに私言ったじゃない……」
「気にしないでって言われたけど私はどうしてもそれでいいって思えない!私はどうしたら……」
なんて無力なんだろう……
泣き崩れている妹を抱きしめてあげる事もできない、流れる涙を拭ってあげる事もできない、疑念を振り払える優しい言葉を届けてあげる事もできないなんて。
私にできるのは抱きしめる様に里優を包んで一緒に泣く事しかなかった。
「どうして?1回は奇跡を起こさせてくれたんでしょ?もう1回ぐらい、いいじゃない!私はここにいるの!私の想いはここにあるの!里優を苦しめたまま成仏なんてできない……だから……お願い……おねがい………」
少しの時間でいいから、この子を笑わせられる時間だけでいいから。
ぎゅっと抱きしめる腕に力が入ると里優の体をすり抜けなかった。
「えっ、もしかして。里優?里優、私の声……聞こえる?」
「お姉ちゃん?いるの?ここにいるの?」
「私はここにいるよ、あなたの目の前にいるよ!」
「いる訳……ないよね。でも……なんでだろう……お姉ちゃんに抱きしめられてる気がする」
私の姿も、私の声も里優には伝わってないんだ。
「でも、里優に触れるなら……」
恐る恐る流れる涙を拭うと真っ直ぐ流れていた雫が横に流れた。
「えっ?何?」
突然起きた不思議な事に里優は辺りをきょろきょろと見渡し始める。
私も生きててこんな事が起きたらびっくりしちゃうかもね。
「あっ、どれぐらい時間があるのかわからないからさっさと伝えなきゃ」
そう。私から親愛なる妹に……
里優の腕を掴んで掌に文字を書いてメッセージを送る。
――――――― 今日は来てくれてありがとう ―――――――
――――――― 本当に私の事は気にしないで ―――――――
――――――― 私は2人の幸せを心から祈ってる ―――――――
――――――― 竜祈に言っときなさい!泣かせたら呪ってやるって ―――――――
――――――― それに里優!いつまでも泣いてないで ―――――――
腕を離して思いっきりデコピンをしてやる、そして両方のほっぺたを引っ張る。
「あはは~、昔よくお姉ちゃんにやられてたね~。泣き虫な私に泣かないで笑っていなさいって」
私達姉妹だけのわかるメッセージ。
「わかったよ、お姉ちゃん。私、二宮里優はもうくよくよしないから、泣きごとも言わない。でも、辛くなって悲しくなってまた泣いちゃうかもしれない。その時はまた怒りに来てね」
――――――― 次はこんなものじゃすまないから覚悟しときなさい ―――――――
「あはは~、お姉ちゃんは怖いな~。それじゃ、私も行くね。お姉ちゃん……ありがとう」
背筋を伸ばして歩いて行く里優の姿には昔のよわよわしい面影はなかった。
「少しは強くなったわね、里優。これでお姉ちゃんは一安心だよ」
里優の姿を見送ると白い世界に戻る事ができた。
成仏しないでまたこの世界。
私には何かやらないといけない事でもあるのかしら。
今はそれを考えるのはやめておこう。
今は起きたこの奇跡に感謝してゆっくりと眠りにつこう。
「強い想いが奇跡を起こすのかな?なんてね」
でも、もしかしたらそうなのかもしれない。
ううん、そうであって欲しい。
そうすればみんなが奇跡を起こす事ができる。
素敵な事だと思わない?
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夏休みも最終日、こんな天気のいい日に私は一体何をしているんだろう?