張角は歌った。
人々の幸せの願い。
世の中がもっと幸福になることを。
―――しかし。
現実は、すべてが『悪』へ変わる。
第三話
『悪の歌』
黄色の証は、張三姉妹のファンの一員というもの。
被れば、それは彼女達の歌を応援するという証だった。
しかし、応援しない側の視点は。
『賊』
敵、人々を闇に誘う死神だと。
別に彼女達が悪いわけではない。応援する側に問題があったのだ。彼らは『応援者』を口実に無抵抗な人々傷つけていた。張角はもちろん知らない。知れば止められる。
そして今日も何も知らない彼女は街に顔を出す。
「みんな大好きーー!」
張角の掛け声に、ファンたちはと合いの手を入れる………ことはなかった。なぜなら誰もいない。顔を出せば傷つけられるとわかっている以上、誰が顔を出すだろうか。
「どうして………誰もいないの?」
素朴な疑問は何も知らぬ張角のみ。他の妹達は知っている。
今まで黙ってきたのは姉のこれまでの頑張りを壊したくなかったから。だけど、限界がくる。
「姉さん……もう、誰も歌を聞いてくれる人はいないわ」
「え……っ」
声が詰まる。それでも末の妹は真意を言う。
「私達は朝廷……いえ、世の中の悪だと言われているの。だから、悪に加担する人は誰もいない」
時が止まるのを感じた。張角の目が白くなる。それは、現実を受ける取ることができないから。なんせ、今までしてきたことがすべて『悪』だと思われているからだ。
「そ……そんな…嘘よ」
「嘘じゃないわ天和姉さん。もう、これまで私達を応援してくれた人以外の人間は、誰も私達の歌を聞かないわ」
何かが張角を壊し、そして倒れた。
『悪』は滅びる運命。
張三姉妹の応援団、通称黄巾党は朝廷の名の下に各地の諸侯たちに滅ぼされた。
そして、張角が現実を受け止めた時には、大軍を率いているのは自分達だけとなっていた。
「張梁様っ! 前方に董卓軍十万、後方に曹操軍二万の兵が我々を囲んでいますっ! どういたしましょう!」
「全軍に通達。曹操は危険な人間という噂だから、董卓の方へ突撃してっ!」
「はっ! 例え我らが全滅しようとも張角様達だけはお守りいたしますっ!」
「……ありがとう。感謝します」
命令を受けた兵士は急ぎ、各部隊へと走りに行く。その間に張宝は、姉を説得していた。
「天和姉さんっ! 早く逃げないと。敵がそこまでいるのよ!?」
「私は行かないわ地和。……むしろ、ここで私達の歌で戦争を止めるべきよ」
「……天和姉さん」
無駄だとわかっているはず。それでも張角は歌を歌いたいと願う。
自分の歌で戦争が終わり、平和が来ると信じているから。
だが……。
「ごめん、天和姉さん」
護衛としていた張宝の兵士が張角を気を失わせた。
「もう……歌は届かないわ。きっと私達は――」
―――それが、張角が聞いた張宝の最後の言葉。
……そして。
最終話へ続く……
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前回のお話
大陸全土の民をファンにしてしまった張三姉妹。
やがて、皇帝にも歌が届くのが、張角はそれでは満足することは出来なかった。