――――――暗い館の中、幾多の銃声が鳴り響いた。恐らく館に侵入してきた部隊であろう男達が、館内を走り回る足音が聞こえる。
「そっちに居たか!?」
「いや、此方には誰も居なかったぞ」
「ックソ!!もう一度隈無く捜し出せ!」
男達はどうやら誰かを捜しているようだ。
その男達が走り去った後、隠し扉から一人の少女と一人の青年が出てきた。
周りを警戒しながら青年と少女は走り去った男達とは反対の通路を走りだした。
「―――お嬢様、私が時間を稼ぎます。その間に脱出を」
手を引かれている少女はコクリと頷いた。
それを見た青年は微笑むと、いつの間にか着いていた階段でその手を解いた。
「このまま行けば、屋上に辿り着く事が出来ます。そこにヘリを用意してありますので急いで乗り込んで下さいませ。後は自動で安全なところに飛んでいきますから」
「…貴方はどうするの?」
少女は青年の顔見ながら言った。だが、その顔は半分暗闇に隠れてしまっていてよく判らなかった。
「私は時間を稼いだ後、隙をみて逃げますよ。ご心配なく」
その時階段へと走ってくる足音が聞こえてきた。
青年は少女に背を向けた。
「さぁ、早くここから脱出をッ!私なら大丈夫です」
その言葉に頷いた少女は弾かれたように階段を走りだした。
…残された青年は、来た道を戻りながら男達の注意を引きながら館を走り回った。
途中青年が窓を見れば飛び去るヘリが目に入った。
「(後は隙をみて僕が逃げ出せば…)」
そう青年が思った次の瞬間、走る先から待ち伏せしたのであろう男数人が銃を連射してきた。
青年は咄嗟に横に跳んだが、銃弾が右腕と左腿に命中していた。
「…ッ」
内から焼かれる様な激痛に顔を顰めながら、青年は呻き声を噛み殺して立ち上がった。
と同時に制服に入っていた催涙玉を投げつけ、そして、足を引き摺りながら偶然にも近くにあった階段へと向かった。
―――屋上に辿り着く頃には、息を荒くついていた。登って来た階段を顧みれば、先程より多い人数で此方を男達が追って来ていた。
「(…どうやらここまでみたいだ)」
青年は右腕から流れ出る血を抑えながら淵へ歩いていった。
(すみません、お嬢様…僕はそちらに戻れそうもありません…)
霞みゆく視界の先に、此方に銃を向ける男達の姿が。そしてその引き金が引かれ――――――
――――――青年は屋上から落ちた。
(僕は―――このまま落ちて死ぬんだろうな…)
重力に体が惹かれていくこの感覚が終わる時が…―――――命の終わる時。
(お嬢様が安全な所まで行けたかが気掛かりだな…)
しかしこのまま死を待つ身としてその願いは当然叶いそうもない。
…もうじき地面にぶつかる。朦朧とする頭でそう思った時だった。
<生きたいかしら?>
「……え?」
突然聞こえた声に僕は驚いた。
<生きたい?って聞いてるのよ>
さっきはよく判らなかったが、どうやら僕に問い掛けているみたいだ。
・・・生きられるのならばそれにしがみ付くしかない。僕はその言葉にゆっくりと頷いた。
<フフッ、そう。それじゃ案内しましょう―――――幻想郷へ―――――>
その言葉を最後に、僕は意識をなくした。
幻想郷のとある場所に、紅魔館と呼ばれる紅い立派な館が建っていた。
その主はレミリア・スカーレット。彼女はついこの間ある異変をこの幻想郷にもたらしたばかりだった。
その異変とは、幻想郷全体に紅い霧を出現させ、太陽の光を遮ってしまうものだった。…これだけ聞いても、たかが霧でと思うかもしれないが、この紅い霧は妖力を持ち、人間に対してあまり良くないものだったのだ。
これに対して代々幻想郷を覆う大結界を管理していた、博霊の巫女[博霊霊夢]と普通の魔法使いである程度の能力を持つ、霧雨魔理沙の両名が異変を解決するために動き、これを無事解決した。
―――何故彼女が異変を起こしたのかは、今はまだ説明しない事にしよう。
さて、それからというもの、以前よりも落ち着きを取り戻したレミリアは今、その傍らに佇む彼女の従者であるメイド長、十六夜咲夜に淹れさせた紅茶を庭先にて楽しんでいた。
「……あれからというもの、随分穏やかになったものね」
そう言いながら、レミリアは暖かい日射しに照らされた花壇を眩しそうに見つめた。
「そうでごさいます、お嬢様」
レミリアの言葉に遅過ぎず、速過ぎず絶妙なタイミングで相槌を打つ咲夜。
その相槌に満足したのか、レミリアはフッと笑った後一口紅茶を飲んだ。
…穏やかに時が過ぎていく中、不意にレミリアの顔が曇った。
「どうなされました?お嬢様」
傍らに控えていた咲夜が、すぐさま反応した。
「……咲夜、今すぐここから離れるわよ」
「…畏まりました。では」
そう言うと、レミリアが立ち上がった次の瞬間椅子とテーブルが少し離れた場所に移動した。
そして、いつの間にかレミリアに日射しが当たらないように咲夜は傍らで日傘を差していた。
「行くわよ、咲夜」
「はい、お嬢様」
二人が館へと向かい、暫く歩いた後、先程まで居た場所を振り返ると…――――
――――そこには、地面に突っ伏した血塗れの青年の姿があった。
それを見たレミリアは、溜息を一つついて言った。
「咲夜、あそこに倒れている人間を空いてる部屋に寝かしておきなさい」
「お召し上がりになられるのですか?」
その問いにレミリアは首を竦めた。
「最近吸ったばかりだから違うわよ」
「……お言葉ですが、ならば何故でございますか?」
その問いに、レミリアは背を向けながら応えた。
「……その人間に、運命が見えたから。ただそれだけよ」
そう言うと、館へと入っていった。
後に残された咲夜は、その後ろ姿にお辞儀をした後、倒れている青年へと歩いていった。
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前回上げたキンハー&東方の作品は事情により今回は見送りにさせていただきます。楽しみにしていた方々には申し訳ありません。
・・・代わりといっては何ですが、構想があったこの作品を上げさせてもらいます。尚、読むにあたってご注意を。この作品の主人公はオリジナルです。原作重視、又はオリジナルキャラが苦手だという方は読むことをお勧めいたしませんのであしからず。
では、共に幻想郷に行きましょうか―――――――