No.20775

ぷっぷーチキン

モギハさん

子供が居ました。ぷっぷーチキンでした。

2008-07-22 21:42:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:807   閲覧ユーザー数:765

子供がいました

小さな子供でした

プップーチキンでした

 

ぷっぷーチキンはあんまり人が好きじゃなかった

人の持ってるものは好きだった

幼い子供が、お人形を買ってもらうと

ぷっぷーチキンはそれをうばって逃げてしまう

ぷっぷーチキンの宝物は、誰かのものでいっぱいだった

 

ぷっぷーチキンにお父さんもお母さんもわからない

大人たちがなぜぷっぷーよりも小さいものに

いろいろあげるのかわからない

 

ぷっぷーチキンは人形で遊んでみるけれど

奪ったときの、あの瞬間

何かが増えたみたいに

自分が買ってもらったってそう思った瞬間が

そこにはない

ないような、そんな気がする

 

ぷっぷーチキンは窓を見る

廃屋に住み着いた時から窓はお気に入り

町が見える

空が見える

お星様の下で、子供達がやわらかそうに眠ってる

 

ぷっぷーチキンも眠りにつく

 

いつしか大人たちは会議

廃屋に住み着いた、ぷっぷーという名の

害あるものに対して会議

なんでもかんでも奪ってしまう

奪わないものはない

 

ぷっぷーチキンは人形で遊ぶ

人形はおじぎして、ぷっぷーが首をかしげると

こくりとうなづく

これがほんとの人だったらいいのに

そしてぷっぷーに人形を買ってくれるのだ

ぷっぷーは夢中で遊ぶ

人形はぷっぷーのお母さんになる、

ぷっぷーが眠るとき、添い寝をしてくれる

 

ある日大人のひとりが廃屋を訪ねてくる

生贄みたいなものですが

ぷっぷーにそういって、こくりとおじぎ

ぷっぷーはわくわくする

どきどきする

大人がいるのだけどもしかしたらもしかすると

僕に人形を買ってくれるのかも知れないよ

 

大人はぷっぷーに、宝物をちょっと見せてくれないか、という

ほんのちょっとだけでいい

ぷっぷーは一番大事にしていたお母さんを見せてみる

それを触らせてくれないか

嬉々として渡すと大人はしみじみそれを見る

ぷっぷーは誉められているような気持ちになって

ほっぺを赤くして、身をよじった

大人は、これをくれないかといった

ぷっぷーはあれ、と想ったけれど、

この大人もお母さんがほしいのかもしれないと

うなづいた、その夜はひとりぼっちのような気がしたけど

大人が最後にえらいね、って頭をなでてくれたので

ぷっぷーは幸せだった

 

それから毎日大人は来て、ぷっぷーにいう

宝物をちょっと見せてくれないか

ほんのちょっとだけでいい

それを触らせてくれないか

しみじみ見る大人を見てぷっぷーは不安と期待でどきどきする

これをくれないか

ぷっぷーの宝物はなくなっていく

大人がいつ来るかわからないから、町には出れない

増えないままに、宝物はなくなっていく

 

最後の宝物を大人に見せた

これだけは最初からぷっぷーのものだった、赤い小さな自動車

ぷっぷーは一番嫌いだったけど、なぜか放っておけなかった

大人はしみじみ見て、しみじみそれを見て、

ついてきてくれないか、と言った

ぷっぷーはどきどきした

ぷっぷーよりも小さな生き物が、ふたりの大きな生き物と、

よくやるみたいに。

しょっぴんぐというものかもしれないよ

町へ行くのかもしれないよ

そしてぷっぷーの宝物を買ってくれるのだ

 

道々歩くと廃屋が遠ざかる

ぷっぷーの好きな廃屋はきれいに消えていく

窓も見えない

大人が早く歩くので、ぷっぷーは息切れがする

あ、そうだと想って、大人の手をつないでみた

大人はぎょっとしてさっと目をそらしたけれど

ぷっぷーはとても気に入ったよ

なんだかお父さんみたいだね、なんだかお父さんみたいだね

大人は町へいかなかったよ

町外れの大きな森に行ったんだ

 

それで言ったよ

 

 

 

町から出てってくれないか

 

ぷっぷーはじっと大人を見たよ

大人はどこか違う方向を見て、ぷっぷーを見てなかったよ

ぷっぷーはじわじわ涙が盛り上がったよ

急にひゅっと息を飲んで、大声で泣き出した

空に向かって泣き出した

わぁわぁわぁわぁ

大人は困ってごめんね、ごめんねっていうけれど

ぷっぷーの耳には届かない

わぁわぁわぁわぁ

 

ぷっぷーは宝物なんかいらない

ぷっぷーは宝物なんかいらない

ぷっぷーは大人がほしかった

ぷっぷーより小さな子供彼らに寄り添って歩いてる

大きな大人がほしかった

ぷっぷーは子供だった

 

子供だったんだよ

 

 

ずっと泣いてるぷっぷーを、大人はずっとどうしていいか

わからなかったらしい

大人は考えて考えて、妙案が浮かんで

ぷっぷーの頭の毛をぽんぽんとなでた

ぷっぷーはぐずぐずっと鼻を鳴らした

ぷっぷーを抱っこして、

じゃあ僕の家に来るかい、と言った

ぷっぷーは抱っこされながら、

びっくりしていた

 

それからどうなったか

大丈夫

ぷっぷーチキンはもう何も盗まない

新しい家はやっぱり窓があって

ぷっぷーはその窓が好きになった

大人はたまにぷっぷーの頭を撫でてくれる

ぷっぷーはいつも、その瞬間が大好きで、大好きで、泣きそうになる

 

ぷっぷーチキンは今、幸せに暮らしてる。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択