No.206466

漆黒の守護者~親愛なる妹へ7

ソウルさん

孫呉VS曹魏

2011-03-15 14:32:17 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2760   閲覧ユーザー数:2323

 ある程度の実力を伴わせてから本国へ帰還することにしていた俺は七乃と美羽の教育を実施していた。七乃の実力は想像以上に優秀であったことには驚いたが、それ以上に美羽の呑み込みの速さにはさらに驚かされた。まだ幼い為、可能性は十分にあり得た。しかしこのままいけば一角の将になるのも時間の問題かもしれない。まぁ、軍師としてだが。

 

「主、そろそろ潮時じゃと思う」

 

本日の教育時間を終えた後、聖がやってきた。内容は建業から退避について。早二月ほど建業に滞在しており、そろそろ本国に戻らなければ月たちに色々と心配させてしまう。

 

「……そうだな。雪蓮に話をしてくる」

 

前から二月ほどと考えていただけにちょうど良かった。

 

 協力者とはいえ他国の人間を城内に入れるには許可が入り、門番の兵士に頼んで許可をもらう。左右シンメトリーの庭園が広がり、直線を歩けば城内へと続く階段がある。その階段を上れば朱色の柱と廊下が目に入り、そこから城内となるのだ。

 雪蓮は玉座で待っていると聞き、俺は向かった。

 

「翡翠から謁見を頼むだなんて珍しいわね。何の用事かしら?」

 

玉座には雪蓮と冥琳が待ち構えていた。

 

「明朝に建業から出ようと思います」

 

「急な話ね。行く当てがあるの?」

 

「待っている人がいるので」

 

「……そう。こちらとしてはこのまま建業に住んでもらいたいのだけど、待っている人がいるのなら仕方ないわね」

 

「……では、今度は戦場ではない場所で会いましょう」

 

そう言い残して玉座を去ろうとしたが、

 

「ちょっと待って。それなら今日は私と付き合いなさい」

 

「別に構いませんが……」

 

冥琳に視線を向けると静かに目を瞑り頷いた。どうやら今日は大目にみるらしい。

 

「それなら行きましょ」

 

雪蓮は椅子から飛び上がると俺の腕を掴んで走った。

 

 建業の近郊に小川が流れる小さな森林がある。空は夕暮れ。茜色に燃えた球体が木々の枝や葉の隙間から地上を茜色に照らす。俺と雪連はただその道を歩き森林の奥へと進む。

 

「着いたわ」

 

一面に広がる花畑と石を組み上げただけの簡素な墓が一つあった。その両方が茜色に包まれている。

 

「母君の墓ですね」

 

墓石には【孫文台この地にて永久に眠る】と刻まれていた。雪蓮たちの母であり、かつて江東の虎と謳われた英傑。劉表との戦で矢に討たれたと聞いている。

 孫堅とは何度か会ったことがある。あれはまだ自分が曹家の長子として奮闘していた時期に義母の曹嵩につれられて孫堅の元に訪れた。今更だが俺と雪蓮、蓮華、小蓮は幼き頃に出会っている。互いに忘れてはいるが、こんな感じで思い出すとは思っていなかった。

 

「思い出したわ。私は翡翠と会ったことがある」

 

墓石前で膝を折りながら祈っていた雪蓮は口を開いた。

 

「俺もいま思い出した。あの時はまだお互いに幼かった」

 

当時を再現するかのように言葉を崩す。このときは孫堅の娘――孫策――と曹嵩の息子――曹臨――に戻る。

 

「まだ王や戦争に民草なんて理解していなくて理想だけを互いにぶつけあっていたわね」

 

懐かしい思い出がフラッシュバックしていく。

「母上、これから会う孫堅とはどんな人物なのですか?」

 

馬に跨り江東へと母と共に向かう途中。

 

「そうね生粋な武人であり王であり、何よりも親ね。民と家族を第一に考える。江東の母親みたいなものよ」

 

「江東の母親……」

 

もしそれが本当なら凄い人物だと思った。

 

 建業に到着してすぐ城へと向かった。城門では孫堅と三人の娘がたっていた。一人は母親に抱えられていて、一人は母親の後ろに隠れている。もう一人は堂々と待ち構えていた。その立ち振る舞いから彼女が長女なのだと悟った。

 

「久しぶりね、心蓮」

 

「久しぶりだな、恋琳」

 

二人は抱き合いあいながら挨拶を交わした。

 

「そっちにいる子供がそうか?」

 

「お初お目にかかります。曹臨です。母上の親友と窺っています故、翡翠とお呼びください」

 

「しっかりしておるな。私の娘と同い年とは思えない。ほれ、お前たちも挨拶せぬか」

 

「孫策よ。真名は雪蓮」

 

「孫権……です。真名は蓮華」

 

「たーい」

 

当時は赤子だった小蓮は言葉を発せなかったのは当然だった。

 

「ねぇ、母様。翡翠と遊んできていい?」

 

「そうだな。あまり遠くいくなよ」

 

「はーい」

 

雪蓮は俺と蓮華の腕を掴んで走った。そこから向かった先は―――――――

「ここだったな」

 

一面の花畑と小川が流れるこの森林の最奥。忘れていた思い出の場所。

 

「そう。そこで虎に襲われたんだっけ」

 

「そう。雪蓮が挑発したからな」

 

その時の傷が背中にある。鋭利の爪と腕力で肉片がえぐりとられた。今では再生しているが傷は大きく残っている。

 

「あのときはごめんなさい」

 

「忘れるほどなんだから恨んではいないさ」

 

それでも古傷はたまに痛む。そのたびにあの日の思い出を思い出してもよかっただろうに。

 

「ありがとう」

 

膝を立ち上がらせてこちらを振り向いてきた。俺も視線を交わす為に体を向ける。

 

「うん?」

 

目が鋭い光に刺激が刺さり、目を凝らすと弓でこちらを狙う集団が目に入った。

 

「! 雪蓮!」

 

雪蓮を強く抱きしめて自分の背中を弓矢側に回り込ませた。ドス・ドス、と鈍い音が響かせながら激痛が全身をほとばしった。

 

「ひ、翡翠? いきなり何………よ……翡翠!」

 

背中に手を回した瞬間にべっとりついた鮮血が雪蓮の言葉を変換させた。

 

「くそ失敗した! に、逃げろ」

 

雪蓮は声がした方向に殺気を込めた鋭い眼光をつきつけた。そして神速の速さで斬り殺した。

 

「翡翠!」

 

「だ……大丈夫。それより先のは?」

 

鎧を纏っていることから他国の兵士。されど江東は雪蓮の手で纏め上げられた。反抗勢力がいるとは思えない。

 

「姉様! 姉様どこですか!?」

 

「こっちよ蓮華!」

 

蓮華の叫び声に乗じて雪蓮は叫ぶ。

 

「大変です姉様! 曹操軍が! 翡翠、どうしたのその傷!?」

 

「私を守ろうとして毒矢を受けたのよ」

 

「では早く治療を」

 

「その前に二人は戦場に迎え。俺は大丈夫だからさ」

 

「何を言っているの!」

 

「雪蓮、お前は王だ。そして蓮華もいずれは王となる。早くいけ!」

 

「死んだら許さないからね」

 

「あぁ」

 

二人を無理やりに戦場へと向かわせた。俺は仰向けとなり茜色の空を見上げる。

 

「俺、死ぬのかな………」

 

目を閉じると走馬灯のように記憶がよみがえってくる。

 

「そっか。まだ死ねないよな!」

 

力の入らない体を無理やり起き上がらせて戦場へと向かった。


 
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