「とある桂花のデレ日記~五の記~」
「ふう。・・・日記帳もこれで五冊目、か。・・・習慣って、一度つくとなかなか抜けないわね」
引き出しの鍵付隠し箱からそれを取り出し、私は一人そうつぶやく。
普段は決して表に出せないこの感情を。この気持ちを。彼に対する想いを。
私こと、荀文若、真名を桂花は、まるでそれらを封じ込めるかのように、そこにつらつらと書き綴っていく。
三国一の女たらし。
魏の種馬。
呉の孕ませ王。
蜀のち○こ太守。
そんな二つ名ばかりが世に浸透している、三国同盟の象徴にして、今私が居している、大陸の新たな都の主。
天の御遣い、北郷一刀。
私と彼の最初の出会いは、まだ三国同盟が成立するはるか前。
私がまだ、敬愛する華琳さまこと、曹孟徳さまの軍師になる前。一食糧管理官でしかなかった私のところに、華琳さまに拾われて間もなかった彼が、報告書を取りに来た時だった。
一目惚れ。
そんなものがこの世にあるのだと、心底痛感した瞬間だった。けれど、私の口から出ていたのは、彼に対する、これでもかというくらいの悪口雑言だった。
何でそんなことを口走ったのか、そのときはまだ分からなかった。ただ、彼を見てると、彼の声を聞いていると、無性に恥ずかしくなる自分がいた。
そして、それが今の関係を形作ってしまった。そう言っていいと思う。
それからというもの、彼と顔を合わすたびに、私は思いつく限りの罵声を、彼に浴びせ続けてきた。時には手どころか足まで出る始末。
だから、こんな評価が定着してしまった。
荀文若は、北郷一刀を、この世でもっとも嫌っている、と。
「・・・・・・自業自得、ね。・・・・・・さて、と。今日の日記を付けようかな。えっと、今日は・・・・・・」
さらさらと。
日記帳に筆を走らせ始める。
自分の苦悩と幸せを、そこに封印するかのように。
荀文若の、北郷一刀に対する、真実の想いを・・・・・。
某月▽日。
この日の私は、超が上に何十個とつくくらいご機嫌だった。
それは昨日の夜。華琳さまの閨に、私は呼ばれた。
ただ。
そこに”彼”も同席していた。・・・というより、後ろ手に縛られて、目隠しをされた状態で、床に転がされていたんだけど。
私と華琳さまの愛の営みを、彼はその状態でずっと聞かされていたわけである。
で、ことが済んだ後。
彼の戒めを、華琳さまが解かれた。
・・・・・・・・・・・・・も、凄かった。
野獣だったわね、あれは。
結局、精魂尽き果てるまで、彼は私と華琳さまを求め続けた。
私も久々で嬉しくて、ついつい調子に乗って、けど表面上はいやいやながらを装いつつも、彼の求めに答え続けた。で、その結果。
・・・翌朝には、完全に干からびてる彼がそこにいた。
華琳さまも、
「・・・ちょっとやりすぎたかしら?」
といっておられたけど、まあ、彼のことだし、多分大丈夫だろう、と。彼を放ったまま、私と華琳さまは、朝議に出向いた。
なお、彼は次の日にはもう、すっかり元気になって、三羽烏といちゃいちゃしてた。
・・・・・・・・今度はもっと搾り取ってやろう。うん。
◎月○日。
呉からの使者として、甘寧こと思春が魏の屋敷を訪れた。
そのこと自体は別に何でもない。
私にとって重大なことは、この娘も、彼に惚れている様だという事。
彼女もまた、外面的には、普段から彼につらく当たっているのだが、その彼女が、この時たまたま魏の屋敷を訪れていた、彼に向ける視線を見たとき、私ははた、と気づいた。
この娘も、私と同種だと。
一見、彼を毛嫌いしながらも、その内では、心底から彼を好いている、と。
同病相憐れむ、という。
あっという間に意気投合した私たち。
その日の夜。
普段は決して口にできない、彼に対する赤裸々な想いを、二人で一晩中語り明かした。そして、
「どっちが先に、彼の子を授かるか」
なんていう、勝負まで約束してしまった。
「・・・・・・・・勝てるといいなあ・・・・・・」
彼の子供を抱いて勝ち誇る自分を妄想し、ぽや~っとする私だったりした。
@月◇日
今日は三国会談の日だった。
けれど、その席に彼の姿は無かった。
どうやら風邪を引いたらしく、今日は朝から臥せっているとのこと。
彼抜きで進められていく会議。
けれど、私は心中穏やかではなった。
表面上はいつもどおりにしながらも、考えているのは彼のことばかり。
熱はどれくらいあるのだろう、とか。
薬はちゃんと飲んでいるのだろうか、とか。
食事はちゃんと摂れているのだろうか、とか。
うなされて、苦しんではいないだろうか、とか。
会議の内容なんてまったく頭に入ってこない。
だからといって、そわそわとなんか出来ないし、まさか会議を抜け出すわけにもいかない。
そうして悶々とする内に、ようやく会議が終了。
そして、その日の夜。
皆が寝静まったころを見計らって、私はこっそりと、彼の部屋に行った。真っ暗な部屋の中、聞こえてくる彼の、静かな寝息。そっとその傍に近づき、その額に手をやる。・・・・・・熱は下がってるようだった。
「・・・・・・・・子供みたいね、一刀の寝顔は」
ぽつりと。素直に思ったことを呟いた。
「う・・・・う~ん・・・けい・・・ふぁ」
「!?」
おきたのかと思った。けど、寝返りをうっただけで、すぐにまた寝息を立て始めた。
「・・・びっくりした。・・・いま、私の名前を呼んだわよね?・・・どんな夢を見てるんだろ」
多分ろくな夢じゃないと思う。普段が普段なわけだし。で、静かに聞き耳を立てていると、彼がまた、寝言を言った。
「・・・桂・・・花・・・。愛してる・・・」
ボッ///!!
それを聴いた瞬間、なぜか部屋を飛び出していた。
・・・いま、なんて言った?
夢でも。
うわごとでも。
私を、あ、愛してるって・・・・・・・?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あは」
顔が自然と緩んだ。
・・・今夜は、いい夢を見れそう。
「・・・・・・・・お休み、一刀」
「・・・・っと」
ふう、と。
一息ついて、私は筆を置く。
「・・・・・・面と向かって、愛してるなんて言われたら、まず間違いなく、手が出ちゃんだろうなー。・・・はあ。わたしって、ほんと、なんて天邪鬼なんだろ」
天邪鬼。
自分の気持ちに、正直になれない者という意味の、天の国の言葉だと。
彼からそう教わったとき、これほど自分に当てはまる言葉は無いな、と。
私はつくづく、そう思った。
「その上意地っ張りときたものだもの。・・・・・・当分、素直になんかなれっこないかな」
ごろん、と。
日記を再びしまい直した後、私は寝台に仰向けになり、じっと天井を見つめる。
「・・・・・・・華琳様には、素直にいえるんだけどな・・・。な~んで、あいつを目の前にすると、言えなくなっちゃうのやら」
自分でも不思議なもので。
自分で自分のことが、まったく理解できない。
「・・・さて、と。あいつも、明日には復帰できるでしょうし、私も今日は寝ておこうかな。・・・・・・皮肉たっぷりの激励言葉でも、何か考えておこう。・・・ふふ」
北郷一刀。
この世で唯一、私を惚れさせた男。
これからも、彼の傍にいられますように。
そして願わくば。
いつか素直に、面と向かって言えますように。
そう。
「貴方を、愛してる」
その、たった一言を。
~えんど~
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日記シリーズ五つ目~w
ほんと、桂花のデレネタは、考えてて楽しいわwww
ということで、
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