「続・とある桂花のデレ日記」
△月□日。
定例の三国会談も、今日で無事終了と相成った。
でもって、会議の終了後に、華琳さまから通達があった。
明後日。
その日一日を丸々お休みにして、魏の面子全員でもって、川に水遊びに行くことにしたと。
それを聞いた瞬間、季衣が大喜びで飛び上がり、その横で稟が思いっきり鼻血を吹いていた。……何を想像したのやら。
それはともかく、私は華琳さまに、あからさまに顔をしかめたまま、あることを聞いた。
「・・・・・・あの、華琳さま?もしかして、”アイツ”も来るんですか?」
「一刀?ええ、一緒に行くわよ」
・・・あは。
顔は心底嫌そうに、そして口からは「冗談じゃないです!あんな奴に水着姿なんか見られたくないです!」と、叫びながらも。
私の心臓は、爆発しそうなくらい、激しく脈打っていた。
・・・・・・・・もちろん、すごく嬉しくて。
当然、そんなこと、表情に出しはしない。
で、私のそんな拒否反応を見た風が、「桂花さんだけお留守番しますか?」って聞いてくる。
そんなの絶対嫌!わたしだって、一刀に水着姿を見てもらいたいんだもの!なので、その反論として出た理屈が、こう。
「わ、私がそばにいなかったら、華琳さまがアイツの毒牙にかかるかも知れないじゃない!それに、私だって華琳さまの艶姿を拝見したいもの!」
うん。われながら完璧な理屈だ。で、それを聞いた風はというと、
「ほほー。なるほど、それもそですねー」
とか言いながら、何事も無かったかのように、私から視線を外した。
・・・・・・・・・まさか、気づいてないわよね?あの娘。
この私、魏国一、いや、三国一の男嫌いと知られる、この荀文若が。
三国一の種馬と名高い、あの、天の御遣いこと北郷一刀を。
普段、散々に罵りまくり、一応、世間的には嫌っていることになっているあの人を。
―――本当は、心の底から愛している、ということに。
△月〇日。
水遊びに行く事が、華琳さまの口から知らされた、その翌日。
私は一人で街に出ていた。
目的は新しい水着を新調するため。
(どんな水着だったら、あいつは喜んでくれるかな?)
彼の視線を独り占めできるような、そんな大胆な水着でも買ってみようか。
こう、ほとんど紐みたいなのとか。
きゃー!きゃー!もう!私ったら大胆~!!
・・・こほん///。
それはともかく、目的の店に向かってとおりを歩く私の目に、その一軒の小物屋が入った。なんとなく、ちょっと寄り道をしてみた。
そこで、それを見つけた。
「・・・・・・・珍しい形の首飾りね。翼が片方だけの鳥なんて」
そう。それは鳥の形をした首飾り。けど、その鳥は片翼しかなかった。
「おや、お客さん。それが気に入ったかね?ああ、翼が片方しかない理由かい?簡単さ。それは二つで一組なんだよ。比翼の鳥って言ってね。恋人同士が、互いに片方づつ身につけるものなのさ」
「・・・・・・恋人、同士・・・・・・」
気がつけば、私はそれを、買ってしまっていた。
恋人同士が、片方づつ持つもの。
そんな、渡せもしないものを。
誰にも、見せられないものを。
・・・・・・誰にも、知られるわけに、いかない物を。
とぼとぼと。私はそのまま館に帰った。・・・・・・・水着を買い忘れたことに気づいたのは、その日の真夜中だった。
・・・・・・・・はあ。
でもって。
△月×日。
水遊びの日の当日。
都の近くにある川に、アイツと魏の面子が、全員揃っていた。
で。
着替えをして、水着姿(結局去年の水着になってしまった)で皆の下に行くと、早速三羽烏とアイツが、楽しそうに戯れている姿が見えた。
・・・・・・・・・めらっ。
嫉妬の心に火がついた。
「何やってんのよ、そこの性欲魔人!三人も同時に相手して、いやらしいわね!」
半分本音の罵倒。
「いや、べつにいやらしいことしてたわけじゃ・・・・・・あれ?」
「な、何よ?ちょっと!そんなにじろじろ見るんじゃないわよ!・・・ハッ!!さては視姦してるのね?!頭の中で、わたしにあんなことやこんなことをしてるんでしょ!この万年発情期!」
途中からじっと、私を見つめだした一刀の視線。それがとても恥ずかしくて、思わずとんでもないことを口走っていた、私のこの天邪鬼な口。
もっと見て。穴が開くほどじっくりと。私だけを見続けて。
そんな本音は、こういう時ほど、絶対に出てこない。
ほんと、こんな自分が嫌になる。で、しばらく私を見ていた彼の口から出た言葉は。
「・・・・・・・あのさ、桂花?それって、去年のじゃないのか?」
「!!・・・よ、よく、覚えてるわね」
気づかれた。
去年の私の水着を覚えていてくれたこと、それは素直に嬉しいと思う。ちゃんと、見ていてくれたんだ、と。
でも、反面すごく恥ずかしかった。ちゃんと、新しい水着を着た私を、彼に見てもらいたかった。だからかどうかはわからないけど、私は自分の体を隠しつつ、こんなことを叫んでた。
「あ、あんたなんかに新しい水着なんか、見せるわけ無いでしょうが!あんたさえ居なかったら、それはもう、口に出して言えない様なすっっっっごいのを着てたんだけどね!!」
いやまあ、実際には買ってないんだけど。
「く、口では言えない様なって・・・ほとんど紐とか?」
「ば///!馬鹿言ってんじゃないわよこの変態!年中無休の全身性液男ーーーーー!!」
「ほごあっ!?」
ぼぐうっ!!
あ。
・・・・・・・思わず手が出ちゃった。てへ♪
ま、まあ、それはともかく。
・・・・・・・今度、本当に買ってみようかしら?紐水着。・・・・・・なーんて///
某月他日。
水遊びの日から数日後。
私は今、寝台の上で寝ています。
まあ、ぶっちゃけただの風邪なんだけど。
その風邪を引いた理由が、これまたなんとも情けないもので。
・・・・・・・ええ。紐水着、買いましたとも。買って、それを着て、一晩中、姿見の前で一人、ニヤニヤとしてました。・・・一刀に見せたら、どんな反応するだろうなーとか。思わず押し倒されちゃったりするのかなー、とか。
・・・・・・・そんなことをしてたら、ものの見事に、熱が出ました。
見舞いに来てくださった華琳さまには、そんなこと口が裂けても言えるはず無く。
「・・・ほ、北郷に仕掛ける為の罠を、一晩かかって作ってました」と。
思いっきり下手な嘘をついてしまった。・・・けど、信じられちゃったのよね、それ。
・・・普段の行いって、大事ですねーwww
華琳さまが帰られた後、それこそひっきりなしに、他の面子も見舞いに来てくれた。あの、春蘭ですら、果物がたくさん入った籠を持って。まあ、ぶっちゃけ、その果物は季衣に全部食べられちゃったのだけど。
で。
最後に来たのが彼だった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
無言。
こっちも向こうも、終止何も話さない。
私としては、これを好機とばかりに、彼にたっぷり甘えたいのが本音。なんだけど・・・・。
「・・・ちょっと、何かしゃべりなさいよ」
「え?あ・・・うん。そうだな・・・えっ・・・と」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
と。こんな状態が、かれこれ一刻続いているわけで。たまらず私は、いつもの調子で毒を吐いてしまった。
「・・・・・・・何も話すことが無いなら、早く帰ってよね。あんたと一緒の部屋に居て、あんたの吐く空気を吸ってたら、それだけで妊娠しちゃうじゃないの」
なんていう、思っていることと正反対の言葉を。
「・・・・・・・・わかった。ごめんな、気の利かない奴で。じゃ、お休み。早く治るといいな」
「あ」
そう言って部屋を出て行こうとする彼の背に、思わず手を伸ばして、その服を掴んでしまった。
「・・・・・・桂花?」
「ね、ねえ、北郷?た、確か、風邪って、汗をかけば、早く治るのよ・・・ね?」
ちょっと待て私!何を口走ろうとしてるの!?
「だ、だからその、あ、あんたが嫌じゃないんなら、きょ、協力させてやってもいいけど・・・・・・」
わー!わー!止まれ!私の口、止まれ!お願い止まってー!!
「で、でも勘違いしないでよね!?これは・・・そう!あくまでも!風邪を早く治して、華琳さまに迷惑をかけないようにするためなんだから!!」
・・・奮闘むなしく止まりませんでした。も、顔から火が出そう!・・・いま、どんな顔してるんだろ、私。
「・・・・・・・・じゃ、なるべく優しくするからさ。・・・途中でひっぱたくのは無しだぞ?」
「わ、分かってるわよ!す、するなら早くしなさいよ!・・・しっかり、汗かかせてくれなきゃ、承知しないんだからね?!」
「はいはい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
たっぷり、汗をかかせてもらっちゃいました。
そのせいか、翌日には熱も下がったし、政務にも復帰できたし。うん。いいこと尽くめだったわ。・・・・たまには、風邪もひいてみるもんね。・・・なんて。
他月或日
・・・・・・・おちつけ~。
落ち着けわたし~。
そう。
なにも、緊張する理由なんて無いんだから。
そう!
ただ、あの時の礼をするだけ。
他のみんなと同じように、お見舞いのお礼をするだけ。
コンコン。
激しく高鳴る心臓を、やっとのことで落ち着かせ。のっくとやらを、彼の部屋の扉にする。
「は~い。開いてるよ~」
「は、入るわよ、北郷」
「桂花?・・・・・珍しいな、俺の部屋にそっちから来るなんて」
部屋に入ると、机に向かって政務の真っ最中だった彼が、筆をおいてこちらに体ごと、その視線を向けてきた。
・・・・・・・・うん。やっぱり、かっこいい。
じゃなくて!
「そ、その。仕事の邪魔して、わ、悪かったわね」
「いや、そろそろ一段落つけようと思ってたところだからさ。・・・どうかした?」
「その、あの、えと、だから、あう・・・・・・あげる!」
ぐい、と。
手に持っていたその箱を、一刀のその手に無理やり握らせる。
「へ?!あの、なに、これ?」
「こ、こないだのお礼よ!その、それだけよ!それ以上の他意はないんだから!いいわね!?じゃ!!」
ばたん!!
「・・・・・・・・・何だったんだ・・・・・・・・?」
その次の日。
「あら?一刀どうしたの?それ?」
「ああ、これ?・・・・・・・・・・(ぎろ)う。・・・買ったんだよ。なんか、よさげだったんで」
「そう?でも珍しいわね。比翼の鳥の首飾りなんて。で?”誰に”買ってあげたの?」
に~っこり。
華琳さまの笑顔を見て固まる一刀。
・・・・・・そうなることは分かってたはずなのに。
それでも、アイツは”あれ”を付けてくれた。
今、私が外套に忍ばせている、”あれ”の片割れを。
話していいかと。そんな目を向けてきたアイツに、私が向けた拒否の視線。それを汲み取り、彼は私が送った物だと言うことを、華琳さまに隠してくれた。
そんな彼に、申し訳ないとは思いつつ、追い討ちをかける私がいたりして。
「どうせこの種馬のことですし、どっかその辺のメス犬にでも渡したんじゃないですか?」
「犬って・・・・ひどいな、桂花。いくらなんでも、そこまでは」
「ふんっだ!あんたみたいな歩く性欲の言うことなんて、どれほど信じられるもんだか!」
ぷい、と。
彼からその視線を外し、そっぽを向く私。
・・・・・・・・一刀、ごめんなさい。
「ま、桂花の言うことは半分ぐらい当たってるでしょうけど。さて、それじゃあ今日は、一刀の尋問から始めるとしましょうか?」
「いいっ!?」
ぎゃあぎゃあと。
一刀を囲んで、その首飾りのことを、根掘り葉掘り聞き始める、華琳さま始め三国の武将一同。
その輪から、一人外れた私は、外套の袖口の裏に潜ませた、件の首飾りの片割れにそっと触れる。
その表情を変えることなく。
ただ、頭の中でだけ、私は思い描く。
いつか、大手を振って、彼と、このお揃いの首飾りを付け、その腕を組んで、街中を歩く姿を。
(・・・・・・いつの日か、この願いが、叶う日が来ますように)
恋人同士を模した、つがいの鳥。。
どちらが欠けても、空を飛ぶことの出来ない、永久の夫婦。
そんな存在に、いつかなれたらと祈りつつ、私は今日も、彼の傍に居続ける。
比翼の鳥と呼ばれる、そんな二人になれる日を。
ひたすらに、彼を罵倒し、罵りつつw
「ちょっと種馬!いつまで華琳さまを独占してるのよ!いい加減離れさいよ!てか、私の前から消えなさいよ!!」
その裏に、素直になれない、たくさんの、この愛をこめて。
~えんど~
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デレ桂花の日記。
まさかまさかの大好評だった前回。
味を占めての第二弾です。
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