第2話 「ラサが来た日」
1
ここからのお話は一話のお話から逆上ること約800年前ことです。
人間がほとんどいなくなって少したった頃のお話になります。
現在から数えて10万年経過した遠い遠い未来のことじゃった。
大きな都会の大きな豪邸におじいさんとおばあさんが住んでおった。
今から数年前は、おじいさんもおばあさんもたいそう元気で、色々
なところに旅行へ行ったり、スポーツをしたりと気ままな生活をし
ておったそうな。
ところが今は、二人ともすっかりよぼよぼになり、日がねベランダ
で日光浴をする毎日だった。
今日、おばあさんはキッチンに立っていつものように、昼食の料理
をしていたが、そこへおじいさんが杖を突きながらやってきた。
「ラミアばあ!どうしたんだ?」
おじいさんは、おばあさんにゆっくりとした口調で問いかけた。
おばあさんは、それに反応して包丁を握る手を休めて、ゆっくりと
振り向いた。
「んー?サリバンかい?いや、昼食をこしらえているんだが・・・
何かあったのかい」
何事も無かったように話すおばあさんにおじいさんは驚いた。
「何って、おまえ、もう夕方になるぞ。そりゃ晩飯にしたらどうだ ?」
ばあさんは、へっと驚いて窓の外を覗き込んだ。
確かに日は落ちかけていて、空は真っ赤に染まっていた。
「もう、わしは料理も満足に出来ないのかねぇ・・」
おばあさんは、がっくりと肩を落とした。
おじいさんはその姿を見て、
「ラミアばあ、わしらは長く生きたんじゃ。仕方あるまい。」
おじいさんは、おばあさんの背中を擦った。
おばあさんは、そのまま食事の準備を始めることにした。
だが、思ったように調理が出来ないようで、四苦八苦するのがおじ
いさんにはすぐにわかった。
おじいさんは、それが不憫でならなかった。元気な頃は得意な料理
で、それはそれは毎日楽しませてくれたものだった。
おじいさんは、考え込んで、そして意を決しておばあさんに言った。
「なあ、ラミアばあ。ヒトカタチを一人買うことにしないか?」
「もうわしらも長くないが、このままでは二人とも寝込んでそのま
ま死んでしまうぞ。」
おばあさんは、振り向き少しきょとんとした顔をしたが、すぐにこ
たえた。
「私が、ヒトカタチがあまり好きではないことは、サリバンも知っ
ているだろう。・・・・でもあなたが言いたいことは良くわかるわ 。」
おばあさんは、そのままイスに腰をおろしておじいさんに向かい合
った。
おばあさんがヒトカタチを使わないのは、自分の手や足があるのに
使わないでヒトカタチに頼ることが気に入らなかったのです。
周りの親戚は定年後すぐにヒトカタチを買ってロクに動かなかった
せいで早くにその生涯を終えた。そんなこともあったのだ。
今のままでは、おじいさんの思った通りになってしまうことはあり
えることなのだとおばあさんも薄々感じていた。
おばあさんは、しばらく考えておじいさんに告げた。
「サリバン、私もわかったわ。もううまく動けないみたいだから、
貴方の言うとおり、ヒトカタチの方に来ていただきましょう。」
おじいさんは、少し驚いたがウンウンうなずいてこう言った。
「ラミアばあ、これからは少し楽をしましょう。」
二人は向かい合いながら、くすくすと微笑み返しておったそうな。
2
次の日、朝早くからおじいさんは体操をしていた。おじいさんの日
課である。
「1・2・3・4・5・6・7・8」
おばあさんは、その姿をにこにこしながらうかがっていた。
二人とも80歳を超える老人だった。 長生きできる秘訣は体を動か
すことだと思っていたが、衰えだけは 誰にもとめることはできない。
この未来には、選択肢がある。
それは、自分の肉体、記憶、心身すべてをデータに置き換えて肉体
が死を迎えたとき、機械の体にすべてをインプットして永遠に行き
続けることができる。それを選ぶか自然死もしくは病死である。
二人は自然死を選んだ。仮に世界を死に追い詰めた病原菌で病死し
ょうとも、それもこの世界に生まれた証拠だと二人は信じていた。
だから、ふたりは死ぬことも怖く無かった。
「おじいさん、休憩して朝食にしましょう。」
「おーう」
二人は寄り添いながらベランダから部屋へと入っていった。
街には、活気が溢れていた。
そう、ヒトカタチたちのおかげである。
マーケットでは、盛んに彼らの声が飛び交っていた。
「安いよ安いよ安いよ!さーさー寄ってらっしゃい!」
「うどんなら一杯で十分だよ、2杯もいらないねー」
「おいしい野菜はいかが~!今日は新鮮な大根が大量だよ!」
それはまるで、本当に人々が生活しているようで、一握りの
人々は ここに安らぎを覚えていた。
しかも、彼らは人間がきたとしても、なんら特別扱いもせず陽気に
声をかけてくるのである。
「おっ!おばあさん!おいしいきゅうりいかがですか?今日は特売
だよ!」
おばあさんは、にこにこしながら、
「あいにく今日は別の用事で来たからねぇ。後でよらせて貰うよ」
おじいさんとおばあさんは、二人ゆっくりとマーケットの中を眺め
ながら歩いていた。目的は、ヒトカタチを買うことである。
おじいさんは、マーケットのはずれにある小さなお店を目指してい
た。
そこには人間のためのヒトカタチが売られているのである。
おばあさんは、少し複雑な感じだった。だがおじいさんの一言で、
そんな不安もなくなってしまった。
「わしらは、子供がいなかったからのぉ。なんか自分たちの子供を
買いに行く気分じゃのう」
おばあさんは、少しほほを染めておじいさんをつきとばした。
「な、どうしたんじゃ!ラミアばあ!」
「おじいさん。・・・・ありがとうな」
おばあさんはそう言うと足早になった。
おじいさんは何のことかさっぱりわからなかった。
が、おばあさんを追うようにしてマーケットを過ぎていった。
「ばあさん、待ってくれぇ」
お店には「HITOKATATI お手伝い、友人、お子様、愛玩、」と看板が
かかっていた。
ショウウインドウには、最新のお手伝いさんや愛玩の女性や男性などが
おしゃれにポーズをとったり、隣の子と談笑している姿が映った。
太古の「マネキン」とは明らかに違うものであった。
ふたリはお店に入るのに少し戸惑った。
それはお金のこともあるが、それよりもこんな彼らを受け入れることが
出来るのかと二人ともども不安になったのだ。
店のなかから、二人に気がついた店主がドア開けてこういった。
「大丈夫ですよ。中で少しご覧になったらいかがですか?すぐにお茶を
入れて差し上げますよ。」
店主はニコニコして二人を招きいれた。彼もヒトカタチだが、この
お店はマーケットと違い人間を安心させることが目的のため、対応が
ものすごく丁寧になっているのだ。
買いに来る人間は、みな不安なのだ。不安だからここにくるのだ。
安心や安らぎを求めて。
お店の中は、古代調の家具や調度品が節操なく飾られていて、コーナー毎に
いすが2,3脚並べられていて、そこにヒトカタチが座っているのでした。
おじいさんとおばあさんは一段上がった奥のリビングセットに座り
全体を見渡しながら店主の持ってきたコーヒーをすすっていた。
「あちらの一番入り口の、そうです、あの髪の長い子は最新の物で
・・・・」
店主が指差しながらあちらこちらと説明を始めた。
たくましい男性や小さな子供まで40人近くのヒトカタチがそこで新
しい主人を待ち構えているのだ。
おじいさんは説明をふむふむと相槌を打ちながら聞いていたが、お
ばあさんは、少し上の空でぼーっとしていた。
「こんなにたくさんいたのではなかなか選ぶのは難しいのぉ」
おじいさんは、困った顔をして店主を覗き込んだ。
「では、少し歩いて彼らと話をしてみるのもいいかと思います。」
店主は、説明はするが絶対に進めることはしないのである。
おじいさんは、ゆっくり立ち上がった。
「おばあさん、子供を捜しにいこうかの。」
おばあさんは、はっと、おじいさんに気づいて立ち上がった。
おばあさんはまだ少し不安であった。彼らと暮らしていけるのだろうか?
いやな思いはしないのだろうかと。
二人はゆっくり店内を見て回った。そして思ったのは、みなが親しげに
語りかけ、敬意を持って対応するところである。
それはそれで皆いい感じだなと二人は思っていたが、ナカナカ選ぶことが
出来なかった。
一通り回ったところで、おばあさんは店の奥の片隅に有った薄汚れた
ヒトカタチを見つけた。
「あら?あなたはどうしてこんなに隅っこなの?」
そのヒトカタチは少女のようだった、下を向いていたが声に反応して
少し顔をあげて、フルフルと首をふった。
「?」
おばあさんはちょっと不思議に思ったが、腕についている「FOR
SALE」の値札で少し納得した。
そしてすぐに店主が駆け寄ってきた。
「この子は、以前注文で特注されたのですがキャンセルされてずっ
と倉庫にしまいこんでいまして、最近みつけたんです。埃まみれで
申し訳ないことです。」
店主は、説明はしたが進めないが買うのをやめることは進めた。
「20年くらいしまいこんでいまして、声が出なくなってしまったんです。
おばあさまには、ちょっとお勧めできないです。これでは、
かえって不自由になってしまいますよ。」
「しゃべれないので、愛玩用で処分しょうと準備しているものなのです」
店主は色々説明はしたが、おばあさんはそのヒトカタチが少し気に
なっていた。
「おまえさんは、紅茶は好きかい?」
おばあさんは、そのヒトカタチに話しかけた。すると、ヒトカタチは、
慢心の笑顔でブンブンと頭を前後に振った。
「じゃあ、おいしい紅茶を入れることは出来るのかい?」
ヒトカタチは頭をブンブン前後に振りながら、ジェスチャーで紅茶を
入れるしぐさをしておばあさんの顔をみて笑った。
店主は唖然とした。今までどんなことをしても表情一つ変えないで
ボーっとしていたヒトカタチなのにこんなにも笑ったので驚いていた。
「どうせ、高いのは買えないから、この子をいただいてもよろしいかな?」
おばあさんは、店主にそう告げた。
店主は、少し困ったように首を傾げてしまったが、
「えぇ、大丈夫ですよ。お客様のお望みのままです。」
「おじいさん!おじいさん!もう決まったよ!この子にするよ!」
他のヒトカタチと話していたおじいさんは、びっくりしておばあさんの
ところに来た、
ヒトカタチの手首の値札を店主が切り取ると、ヒトカタチは店主の
顔を見上げて少し笑って、会釈した。
店主はその行動にも驚いてしまった。だが、もうこの店の商品では
ないので、彼はヒトカタチに一言だけ言ってみた。
「良いご主人に出会えたね。がんばれよ。」
ヒトカタチはにっこりしておばあさんの元へといってしまった。
ヒトカタチはすぐにおばあさんに抱きついてきた。
「これこれ、そんなにしなくても大丈夫だよ。」
笑顔でヒトカタチを迎えたおばあさん。おじいさんはお金を払うために
店主の元へいった。
おじいさんは懐から財布を出すと一枚のカードを店主に手渡した。
店主は、カードをレジに持っていって支払い処理を済ませおじいさんに
カードを渡した。
店主は、おじいさんに言った。
「あんなに笑顔がいいヒトカタチは今までにいなかった。おじいさん、
良い買い物をしましたね。」
店主はそう言いありがとうございましたと会釈をして奥へと去っていった。
おじいさんは、二人できたお店から三人で帰ることになった。
帰り道、マーケットで食材を買い、家に向かっていた。
ヒトカタチはジェスチャーで、自分が出来ることをおじいさんと
おばあさんに見せて楽しませていた。
「これこれ、あまりはしゃぐと転んでしまうよ」
おばあさんは、あまりにはしゃいでいたヒトカタチに注意を促したが、
案の定、段差につまずきぺたんとしりもちをついてしまった。
「ほらほら」
おばあさんが手を貸して立ち上がると、おじいさんは思い出したように。
おばあさんに言った。
「ラミアばあ!この子に名前をつけてやらんといかんな。」
「あぁ、そうじゃそうじゃ。わしらの子じゃ名前を考えないとな」
おじいさんとおばあさんは歩きながらあーでもないこーでもないと
名前を考えていた。
ヒトカタチは、その話を食い入るように聞き二人をきょろきょろと
見つめていた。
そして、おばあさんが言った。
「わしらの娘だから、わしらの名前から取ることにするか?」
おじいさんはうんうんと頷いた。
「ラミアのラとサイモンのサをとってラサというのはそうじゃ?
可愛いなぁ、これにしましょうか?」
おばあさんは少し誇らしげにおじいさんに言った。
「そうじゃ、ラサにしょう。よいかな?ラサさん?」
おじいさんは、ヒトカタチにそう話した。
ヒトカタチは、それを聞いて泣き始めてしまった。
「どうしたんじゃ?気に入らなかったのかい?」
おばあさんはラサにそう聞くと、頭をブンブン左右に振り、ラサは
涙をぬぐいながら、おばあさんの手をとり、手のひらに指でつづった。
ア・リ・ガ・ト・ウ と。
3
家にたどり着いた3人は、夕食の準備を始めようとしていた。
おばあさんは、買い物をうんせとキッチンに置くと整理しながら、
冷蔵庫に入れていった。
ラサはそれを見て一つ一つ品物を手に取り、おばあさんに渡していた。
そして、それが終わるとおばあさんは台所に行こうとした。そこへ
ラサが手をかざしておばあさんの動きを止めた。
「どうしたんだい?ラサ?」
ラサはフルフルと頭を左右にふるとポンと胸をたたいてジェスチャ
ーをした。要するに自分に任せてほしいらしい。
「そんな、今日はラサが来た日。バースデイだよ。子供のお祝いは
親がするものだよ。」
おばあさんは、ニコニコしながら、ラサに言った。
ラサは、メモがほしいとおばあさんにジェスチャーした。
「ん?なにか書くのかい?ラサ?」
おばあさんは、引き出しからメモ帳を取り出すとラサに渡した。
ラサは、懸命にメモを書いていた。
「どうしたんだい?ラサ?」
おばあさんは、少し心配になったが、ラサは書き終えるとそれをお
ばあさんに渡した。
「どれどれ?」
おばあさんはメモを覗き込んだ。
----おばあさん。その気持ちうれしいです。でも私は、素敵な名前や
買って頂いたこととかお礼したい気持ちで一杯なんです。お願いです。
わたしに料理させてください。それをおばあさんが横で見て
おばあさんの料理方法を教えてください。お願いします。----
おばあさんは、うれしくなってラサの事を抱きしめていた。
そして、らさの頭をなでながら、
「なんて、やさしい子なんでしょう。いいわ、一緒につくりましょう。
私の持っている知恵をいっぱい教えてあげるわ。」
ラサはコクコクと頭を前後に振るとおばあさんに微笑んで見せた。
その日の晩御飯は豪華だった。
ラサは、おばあさんに教わりながらあっという間に何十種類の料理を
作ってしまったのだ。おばあさんも夢中だったのでこんなに出来ていた
のでテーブルを見てびっくりしていた。
「ありがとう、ラサさん」 おばあさんは、ラサにお礼を言った。
ラサはフルフル左右に頭を振って謙そんしていた。
そこへラサが先ほど部屋に呼びに行ったおじいさんが現れた。
「ほーぉ!すごいなこれは!みんなラサが作ったのか?」
ラサは頭を左右にブンブン振っておばあさんの後ろに隠れておじいさんを
覗いた。
おじいさんはラサがどうして違うとジェスチャーしているのかわか
らなかった。
「ち、ちがうのかい?」
おばあさんはクスクス笑いながらおじいさんに言った。
「いいえ、作ったのはラサだけど、私と一緒に作ったと言いたいん
でしょ、ラサ?」
ラサは、そーっと出て来て頭をブンブン前後に振った。そしておば
あさんの腕を取っておじいさんに笑顔を送った。
「そうじゃったか、するとこれはおばあさんの料理なんだな。」
「さあさあ、食べてみましょう。」
3人はテーブルに着くと両手を握り目をつぶった。ラサは慌てて
それに習った。
「いただきます。」
目を開き食事が始まる。
「おじいさん、ずっと食べたがっていたものがありますよ。」
料理が満足に作れなくなったおばあさんに、おじいさんは、愚痴で
はないがその料理が食べられないと残念がっていたその料理が、
今日は食卓に上がっていた。
「これはこれは、おばあさんのお得意のほうれん草のクリームパイ
じゃな。」
おじいさんは大変喜んで、早速食べることにした。
ラサはパイをさっくりカットして、食べやすいようにしおじいさんに
渡した。
おじいさんは、パイをスプーンですくって口に入れた。
おばあさんはその時点でふふっを笑っていた。
「こりゃたまげた!ラミアばあの味そのままじゃないか!」
ラサはにっこりしておばあさんとおじいさんを見た。
「ラサはすぐに覚えてくれるのよ。」
おばあさんは言った。
「本当にありがとう。ラサ。いい娘だよ。」
おばあさんは、微笑みながらラサにお礼を言った。
ラサもその言葉に、おばあさんへ一礼した。
ラサがおじいさんとおばあさんのために作った最初の食事は、ラサ
との思い出の最初の1ページになりました。
4
3人の暮らしは、幸せに満ち溢れていました。
どんな時でも、ラサは片時も二人のことを見逃さずに一緒に過ごし
ました。
おじいさんとおばあさんがしたいこと、行きたいところにはどこに
でも行きました。 ラサも嬉しくて仕方がありませんでした。
ずっとずっと暗い倉庫の中で、ご主人の来るのを待っていたから、
何でもお役に立ちたい気持ちでいっぱいでした。
でも、人の寿命はラサが思っているよりずっとずっとはやかったの
でした。
矢のように、30年の歳月が流れていきました。
もうおじいさんもおばあさんも起き上がることは出来ません。
つい一年前までは、ゆるゆると起き上がることも出来たのですが、
今は寝たきりで、ラサはそのすべての介護をしていました。
「ラサ、すまないね。いつもいつも」おばあさんは言いました。
ラサは、ニコニコしておばあさんの体を拭いていました。
メモにさらさらと、おばあさんに見える大きな字でラサは書きまし
た。
--おじいさんとおばばあさんの為ならなんでもします。ラサはいつ
でも二人のそばにいますよ。--
おばあさんはそれを見て少し涙ぐんでいた。
おじいさんもメモを読みこう言った。
「ラサはわしらの宝だよ。でも、もう十分に満足じゃ。」
ラサはおじいさんの言葉に涙ぐんで、メモを書いた。
--私は、おじいさんとおばあさんの娘です。もしも、二人が天国に
行ってしまったら私一緒に行きます。そして天国でもお世話します
。--
「ラサ、お前は・・・」
おばあさんはそれを読んで絶句してしまいました。
「ラサや、それはいけないよ。私たちの分まで生きておくれ。」
ラサは、涙がポロポロと流れ出してとまることは無かった。
そしておばあさんにしがみついてずっと泣いていた。
おばあさんは、ラサの深緑色の髪の毛を眠りにつくまで撫でていた。
ラサは、目が覚めると朝日に照らされて眩しかった。
座っていたのは、いつも3人でお茶をしているベランダのテーブル
セットだった。
「あれ?寝むっちゃったのかなぁ?」
ラサはきょろきょろ周りを見渡した。おじいさんとおばあさんの姿
はなかった。
部屋の時計を見ると午前7:34を表示していた。
「ん?紅茶の香り?おばあさんかなぁ?」
キッチンのほうから紅茶の香りが漂っていた。
ラサは香りがする方に行ってみた。
キッチンの前のダイニングテーブルには、3人分のティーカップと
広告を眺めているおじいさんの姿。キッチンにはスコーンをお皿に
並べているおばあさんの姿があった。
「!?」
ラサはびっくりしておばあさんに言った。
「おばあさん!私がやります!休んでいてください!」
おばあさんは穏やかな口調でラサに言った。
「ごめんね、ラサ。こんなものしか作れなくて・・・すぐに座って
お茶にしましょう。」
ラサは呆然とした。お役に立ちたいのに自分がお世話していただく
なんてと思いながら席に座った。
おばあさんは紅茶を注ぎながら、ラサに言った。
「ラサさん、今日はね大事なお話があるの。おじいさんとずっと
ずっと二人で考えたことなの。聞いてくれる。」
ラサはキョトンとして、
「あ、はい。でも、今度は紅茶、私が入れますよ。いいですね。」
おばあさんは、
「はいはい、楽しみにしていますよ。」とだけ言った。
3人が席に着いたテーブルで、おばあさんはゆっくり紅茶をすすり
ラサを見つめながらこう話した。
「ラサ、よく聞いておくれ。もうわしらは長く生きられないよ。もうす
ぐ天国に召されると思うのよ。ラサと一緒に過ごした時間はわし
ら二人で生きてきた中でも一番楽しい時間だったよ。本当にあり
がとう、ラサ。」
ラサは、
「そんなことないです。私、名前をつけてくれたことすごく嬉しか
った。だからいっぱいいっぱいおじいさんとおばあさんのためだけ
にお役に立ちたいって思っただけです。御礼を言っていただけるほ
どお役に立ってないです。」
おばあさんは、
「そんなことありませんよ。ラサだから他の誰でもないラサだから
ありがとうって言いたいの。でね、今までは私たちのためにしてき
たことを今度は自分のためにしてほしいの。わしらはもうすぐいな
くなる。いなくなったらラサは自分自身のために生きてほしいんだ
よ。わかるかい?ラサや。」
ラサは、涙ぐみながら手が少しフルフル震えていた。
下唇をかんで、おばあさんに言った。
「そんなのダメです。私、おばあさんとおじいさんにあったときか
ら決めていました。ずっとずっと、死んでも一緒に天国に行って、
おじいさんとおばあさんのお世話をするんだって!いなくなったら
私も死んで一緒に行きます!。」
ラサは、おばあさんの顔の前まで自分の顔を突き出して涙でぐちゃ
ぐちゃになった顔でおばあさんに詰め寄っていました。
おばあさんは、穏やかな表情でラサの頭をスゥっと撫で下ろした。
そして、おじいさんもラサの顔の方に向かって言った。
「ラサや、もう十分どころか百分以上にわしらのために働いてくれ
た。娘以上の存在だよ。娘の幸せを思わない親なんてのはどこにも
いないんじゃ。これは、わしらがお前に頼める最後のお願いなんじ
ゃ。わしらがいなくなったら今度はラサは幸せになる番じゃ。」
「ラサは、ラサはおじいさんとおばあさんが幸せになることが幸せ
なんです。」
ラサは、泣きながら哀願した。おばあさんは、ハンカチを取り出し
てラサの涙の一筋一筋をすくうように拭いてやった。
「ラサ、もう時間が無いんだよ。お前のおかげで幸せでした。これ
が最後のお願いだよ。わしらが死んだら、お前は自分のことを私た
ちと同じように愛してくれる主人を探して、幸せに暮らすんだよ。 」
ガバっ!
ラサは目が覚めた。そして周囲を見回した。暗いが月明かりが部屋
の中を照らしていた。おばあさんの体を拭いた後、おばあさんの横
で眠ってしまったようだった。
頭におばあさんの手が乗っかっていた。ずっと撫でてくれた様だっ
た。
おばあさんお手を掴んで布団に入れようとしたときに、ラサは気が
ついてしまった。
手がどうしょうもなく冷たくなっていた。
「!!」
ラサは、ゆさゆさとおばあさんを起こしたが目を覚ます様子は無か
った。 すぐにおじいさんも揺さぶったが、おじいさんの手も同様に冷たく
なっていた。
「--------!!」
声が出ないラサは、叫び声のない声で叫んでいた。
そして、かすかに聞きなれた声のイメージがラサの頭をよぎった。
おばあさんである。
---最後のお願いだよ。わしらが死んだら、お前は自分のことを私
たちと同じように愛してくれる主人を探して、幸せに暮らすんだよ
。---
ラサはその時、おばあさんと最後のお願いを強く心に刻んだ。
そして、ラサはおばあさんのベットの横で永延と泣き続けた。
第2話 完
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「HITOKATATI」~ラサのお話~ の第二話です。
この話から、ラサが中心の物語で展開していきます。
ラサというヒトカタチの少女が最初にお世話をする老夫婦の静かな生活をえがいています。