私の名は桂花。
今日は街へと本を買いに来たのだが、目当ての本を買い城に帰ろうとした途端に大雨に見舞われてしまった。
城を出る時には晴れていて、雨の気配など無かったので油断した。
何とか本は帰ってこれたが、代わりに体はずぶ濡れだ。
正門から入ってこんな姿を華琳様に見られるのは嫌なので裏口から入ろうとしたら月と詠に見つかってしまった。
そして今…
「ちょっと、何か他の服は無いの?」
「仕方ないでしょ、傘を持たずに出かけたアンタが悪いのよ」
「詠ちゃん、仕方ないよ。あんなに晴れてたのに雨が降るなんて誰も思わなかったんだから」
今、私は月達と同じメイド服に身を包んでいる
ずぶ濡れだった私は月達に着替えを借りようとしたが生憎と彼女達の仕事着であるメイド服しか無かったからだ。
「ゴメンなさいね桂花ちゃん。この服はちゃんとお洗濯しておくから」
「あ、ありがとう…」
申し訳なさそうに言う月に私はそれ以上文句を付けられなかった。
どうも弱いのよね、この目には。
「じゃあ、私は行くわね」
「うん。桂花ちゃんの服は急いでお洗濯しておくからね」
「そんなモノ後回しでいいわよ月。そ~だ、桂花。せっかくメイド服を着ているんだからあのチ○コ太守のお世話でもして来たら?」
「じょ、冗談じゃないわよ!何で私があんな精液魔人の世話なんかしなくちゃいけないのよ!?そ、そうよ。だ、誰があんな奴の為になんか……」
私はそう叫ぶと踵を返して歩き出す。
まったく、何を言い出すのよ。
「あはははははははっ!み、見た月?桂花のあの顔。口では何だかんだと言っておきながら真っ赤になって照れちゃってさ、全く素直じゃないんだから。あはははははははっ!」
「でもいいの、詠ちゃん。あんな事言っちゃって本当にご主人様の所に行っちゃったら詠ちゃんのお仕事無くなっちゃうかもしれないよ?」
「え……い、良いじゃないむしろせいせいするわよ。今までがおかしかったのよ、そうよ、誰がアイツの為になんか……」
「くすくす、詠ちゃん気付いてる?今の詠ちゃん、さっきの桂花ちゃんと同じ顔してるよ♪」
「うう、月ぇ~~」
(まったく、何だって言うのよ。何で私がアイツなんかの世話をしなきゃならないのよ、冗談じゃないわ)
桂花はブツクサ呟き、肩を怒らせながら廊下を歩いて行く。
途中ですれ違う侍女達が驚きながらもクスクスと笑う姿に気付きもせずに。
何故なら今の桂花はメイド姿でブツブツ呟きながらもその頬は赤く染まり、歩いて行く先には一刀の部屋があるのだから。
(そうよ、私がお世話をするのは華琳様だけよ。誰が間違ったってアイツのお世話なんてするものですか、お部屋の掃除をしたり、お茶の用意をしたり、着替えを手伝ったり、お風呂で背中を流したり、閨でご奉仕したりなんて誰がそんな事を……)
耳まで真っ赤にしながら桂花はそう呟いている。
ちなみに誰もそんな事までは言って無い。
「さてと、目当ての本も手に入れた事だし華琳様の為に新たな知識をって…何で私はアイツの部屋に来てるのよっ!?」
色々考え事をしながら歩いていると何時の間にか一刀の部屋に辿り着いていたらしい、色だけに。
「冗談じゃないわよ、こんな部屋に居たらすぐにでも妊娠しちゃうじゃない!さっさと自分の部屋に……まったく、部屋の片づけくらい自分でしなさいね」
部屋を出て行こうとした桂花だが、あまりにも乱雑な部屋を見るに見かねたのか溜息をつきながらも片づけを始めた。
片づけをしていて机の上に置いたままの本や政策などを書いている竹簡を見ると少し感心したように頬を緩ませる。
「へえ、結構難しい本を読んでるのね。それにこの政策……何よ、中々の物じゃない。……ち、違うわよ、関心なんかしてないんだからね!そうよ、アイツは天の御遣いなんだからこれくらいできて当たり前なのよ。そう、当たり前なんだから…」
そんな風に口ごもりながらも頭の中では一刀の事を思い浮かべていた。
仲間が傷ついた時に見せる辛そうで哀しそうな顔。
街の住人に向ける楽しそうな笑い顔。
華琳や凪達に向ける心からの笑顔。
そして、自分に向ける……
ふと気付くと一刀が書いた竹簡を抱きしめ、その胸はトクントクンと鳴っていた。
(はあ……、もっと素直になれればなぁ)
そっと呟くと何か思いついたのか俯いていた顔を上げると扉の方に歩いて行く。
「居ないわよね、誰も居ないわよね?」
桂花は部屋の扉から外を覗き、誰も居ない事を確認すると部屋の中に戻り「すーはー」と深呼吸を繰り返す。
「え~~と、ご、ご、ご、ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごしゅごしゅごしゅごしゅごしゅごしゅごしゅごしゅ(約30分ほど繰り返す)ごしゅじごしゅじごしゅじごしゅじん……」
さっさと言ってしまい、すぐに立ち去ればよかったのだが、かなりテンパってたのか徐々に近づいて来る足音に彼女は気付かなかった。
そして……
ガチャリ
「ああ~、疲れた」
「ご主人しゃまっ!!」
仕事を終えて帰って来た一刀が部屋に入った事に気付かずに噛んでしまうというオマケ付きで大声で叫んでしまった。
「はい?」
「……へ?」
その声にようやく気がついたのか目を開けてみると其処には呆然と立っている一刀が居た。
「な、な、な」
「……ぐふっ!」
「ち、ちょっと、どうしたのよアンタ?」
頭の中が沸騰し、大声で叫び出そうとした瞬間一刀は膝から崩れ落ちた。
さすがに心配だったのか駆け寄って肩に手を置くと行き成りガシッと抱きしめられた。
「な、何するのよ!離しなさいよ、この性欲魔j「い、今のは…」…今のは、何よ?」
「今のはさすがに破壊力があり過ぎた」
「破壊力って…、いいから離しなさい!」
桂花は一刀の腕の中で暴れるがその力は弱々しく、抜け出る事は出来ないでいた。
「離してってば!」
「本当に嫌なら何時もの様に突き飛ばしたり殴り飛ばしてくれ、正直我慢しきれそうにない」
「わ、分かったわよ。じゃあお望み通りに」
そう言い、握りしめた拳を振り下ろそうとするが体が思うように動かなかった。
(な、何でよ?何時も見たいにぶん殴ればいいだけじゃない)
桂花が動けないでいると一刀は桂花を抱きしめたままカウントダウンを始める。
「5」
「ちょっと待ちなさいよ、すぐに殴り飛ばしてやるから!」
「4」
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
「3」
「だからぁ~~」
「2」
「うう~~~」
「1」
「ま、待ってぇ~~」
「0」
「あ、あ、あああ」
「いただきます」
「~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
桂花の声にならない悲鳴が響いた。
それから時は過ぎ、街の中を仲睦ましく歩く一組の親子の姿があったとか。
終わる。
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勢いに乗って書いてしまった。
当然後悔などしていない!!
4/6/少し、修正しました。