「まあ、平(ひら)とぉ言うたら、その使うてない部分には、いわゆる超能力に関する機能があったっちゅうことやね」結局、耕介があとをひきとった。
「ち、超能力?ウソぉ」
「ピンと来んか?ほれ、テレパシー(精神感応)とかテレキネシス(念動力)くらいは知っとるやろ?アレや、アレ。」
「アレ、アレって、そ、そんなアホな。…せ…せやったらさっきのは何なん?念動力どころか、ただの怪力やったやんか」
「そこなんや。俺らがまだよお解ってない部分。大体、テレパシーもテレキネシスも、ほれ、ほかにもクレアボアイヤンス…透視力とか千里眼っちゅうやっちゃな、それにパイロキネシス…ええと、日本語では…」
「念力発火能力」ほづみが付け加える。
「そう、それ。あと…」
「プレコグニションと呼ばれる予知能力、ヒュプノと呼ばれる催眠能力、サイコメトリーって接触感応やらテレポートなんて離れ業もある」
「…ま、てなもんやが、お前がさっき使とったんは多分サイコバリアの一種とちゃうかと思うんや」
「サイコバリア?」
ほづみが答える。「身体全体を強力な力場で包んでしまうことで、触れるものすべてに物理的な力以上の作用を起こすんだろうと思うんだ。だから夕美ちゃんのか弱い手でも真鍮の蛇口を引きちぎったりアルミ合金のドアを紙みたいに破ったりできたんじゃないかな。」
「ほれ、普通やったら柔らかい人間の皮膚なんかズタズタになるはずやろ、せやけどお前、傷ひとつあらへんやろ?」
「そ、そやね…」耕介とほづみが餅つきと合いの手のように交互に説明するので夕美はキョロキョロしている。
「でもあたし、薬を飲んだワケやないよ。すぐに吐いたし」
「吐いたけど、口にした以上は少しくらいは身体に入ったっちゅうこっちゃ。つまりたったそれだけであんなパワーが出せたんや。ひと瓶飲んでたらどんなんやったやろか」
それを聴いて夕美はぞっとしたが、耕介とほづみが夕美を見る眼は妙にキラキラしている。
「…ちょ。ちょっと待ってえな。なに、その期待の眼は。あんたら、あたしに何させようっちゅうの。」
「いや、なにも無理には頼まへんけどさ。」
「よお言うわ。解ってる?お父ちゃん、自分の娘に人体実験させようとしてんねんで!?それがヒトのすることか!?」
「何ゆうてんねん、自分で勝手に飲んだんはお前やないか。俺、飲めなんてゆうてへんで」
「あのなあ、そんな危ない薬を家庭用冷蔵庫のドアポケに入れとくヒトがありますか!?しかもあの瓶、アリビタンQの空き瓶やないの。罠やわ。ぜったい、罠やわ。お父ちゃん、わかってて仕込んだんやろ!?」
「またお前は人聞きの悪いことを。あれはたまたま丁度ええ分量の入れもんがなかったからアレにしただけや。冷蔵庫も研究棟のが満杯やったからってゆーたやろが」
「もおええ。とにかく勝手にやって。協力はせえへんで。これまで同様に」
夕美は席を立った。「あ、それと」
「家の修理はお父ちゃんが手配してや。あたしは知らんで」
「あの」ほづみが呼び止める。
「なに」
「…いや、いいです。また明日」
「ふんっ」夕美は顔をそびやかして、幸いにして無傷な自分の部屋へ引き上げた。
あとにはまるでスタジオにしつらえた撮影セットのように、一部の壁だけで天井のない部屋に耕介とほづみがぽつんと残された。
おもむろに顔を見合わせたふたりは互いに頬をゆるめた。
「先生。ほんとうにありがとうございます。」
「いやあ、まだ判らへんよ。どないなるか…せやけど、まさか夕美が試すハメになるとは思わんかったなあ」
「悪いことをしました…副作用とかは大丈夫でしょうか」
「それは心配してへんよ。ほづみ君が…っちゅうか、人類数千年の知恵と経験の結集したもんが元やからな…それよりも」
「はい?」
「なんとか間に合いそうなんが嬉しい」
「はい…感謝してます」
「俺の方こそ。せやけど、こんなことになったけど夕美にはまだ」
「もちろん僕は…」
言いかけたとき、壊れかけた扉をバン、と開けて夕美が仁王立ちに立っていた。
「あ、あんたらっっっっっ!」
「な、なんや夕美。びっくりするやないか。どないしたんや」
「ごはんっっっっっっっっっっ!まだ食べてへんやんか!!!!!!!」
「あっ。ほんまや」と耕介。
「うん、さっきそれを言いたかったんだ」
「………!言わんかいな!腹ぺこのまんまフテ寝するとこやったやんか。ほっっんまに、要らんこと言わへんのはほづみ君のええとこか知らんけど、必要なことも言わへんねんから!!!っっっほんまにもー」
「うん、ほんなら夕美、すぐ頼むわ」
「ほんならぁ?なにが夕美、すぐ頼むわ、や!周りをよお見てみい。台所は吹っ飛んでもて使えんわ。お父ちゃん、おごれ。クルマ出せ。寿司、焼肉、懐石。なんか美味いもん食べさして。バツや。あっ。回るヤツとか食べ放題やバイキングはあかんで。ちゃんと、ちゃんとしたやつ。ほづみ君が帰ってきた歓迎会なんやからね!」
「わかったわかった…今日は特別や………あ〜あ、えらい物いりなってもたなあ…せやけど、クルマは出さんぞ」
「え〜〜〜〜?また山道を歩けっちゅうんかいな。イヤやで、もうあたししんどいわ」
「あほ、祝いやぞ。クルマなんて運転してられるかい!飲む。今夜は飲む。夜通し飲む。タクシー呼ぶんや。」
「あ、そらええわ…って、あかんよ。」
「なんでや」
「なんでや、て。運転手さんがこの家のありさま見たら腰抜かすで。今騒ぎになったらまずいやろ。下の道までは歩かなしゃあないよ。」
耕介は風通しのよくなった周りを見回して嘆息した。「………そやな。ほづみ君、帰ったばっかしで悪いけど、ちょっと運動しよか」
「はい。喜んで」
ほづみはこのけたたましい親娘が大好きだった。
ふたりのテンポのよい漫才のような掛け合いを聴いていると、この家に───
自分の家に帰ってきたという、実感をかみしめられるからだ。
〈ACT:6へ続く〉
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フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その5。