No.203874

本日はすれ違い注意報 part8

active13さん

夏休みということで海にやってきた主人公スイカが攫われた姫ユズを助ける爽快アクション短編小説!
ということで、本日はすれ違い注意報part8です。
海の話は長くなったので前編・後編とわけました。
前編がpart8です。

2011-02-26 17:06:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:564   閲覧ユーザー数:562

 

 

 

白い砂浜にどこまでも続く澄んだ海、そして真夏のぎらつく太陽だけが浮かぶ青空。

 

私、夏川スイカと友人の樋山ユズはただいま海にいます!

 

つまり、皆さん、そうです。

 

私は見事赤点を免れました!!

 

いえーい。

 

 

「海だー!」

 

「そうねー。」

 

 

海辺には足の踏み場もないほど大勢の人で埋め尽くされている。

 

適当な場所にパラソルを立て、ビニールシートを敷いて荷物を置く。

 

ああ、早くあの青い海に飛び込みたい…。

 

じゃないと足やけどする!

 

 

「ところでさ、ユズ、少し聞きたいことがあるんだけどー。」

 

 

私こと夏川スイカはここにきてから重大なことに気づいたのである。

 

 

「何?」

 

「なんで大谷と門倉がいるの?」

 

 

そう、ここにはなぜか大谷と門倉がいる。

 

あ、門倉、私の荷物の上に自分の荷物をのせないでよ!

 

 

「呼んだから。」

 

 

 

そんなことわかってら―――――!!

 

 

 

「ユズさん、私が聞きたいのは、なぜ、彼らを呼んだのかという理由なのだよ。」

 

「あら、呼びたかったからよ。」

 

 

OK。OK。

 

たしかに理由だ。

 

 

って…違う――――――――――!!

 

 

ユズ、私はちゃんとした理由をいってほしいといっているのだよ!

 

 

『一体、全体、安泰!なんで、なんで、なんでー!?』とユズに問い詰めたが、『うるさ

 

い!』と一喝され、あっさり撃沈した。

 

やれやれ、どこぞの政治家じゃあるまいし、説明責任ぐらい果たしてほしいね!

 

 

そうこうしているうちにユズはジャージを脱いで、水玉の水着姿になっている。

 

私も早く脱がねば。

 

半袖のジャージのすぐ下には水着を着ている。

 

水着はこの前ユズと一緒にショッピングモールで買い物した時に一目ぼれで買った黒い水着だ。

 

ただ黒いシンプルな水着ではなく、縁の部分に白いレース柄の刺繍がしてある。

 

腕をジャージから出し、ジャージを脱いでシートの上に置く。

 

視線を感じて前を向くと門倉と視線が合った。

 

 

「か、門倉の変態!!胸見ないでよ!」

 

 

慌てて胸を隠す。

 

まったく、これだから男ってやつは!

 

 

「見てねえよ!!だいたい、誰がそんな貧乳見るかよ!」

 

 

ひ、貧乳だとっ!?

 

年頃の乙女になんてことを!

 

私だってもっと成長したら、そこの水着のナイスバディなお姉さんみたいになるんだから!

 

 

「成長途中なんですー。いずれボンボンキュッボンな美人になるんだから!」

 

 

ビシッと門倉を人差し指で指す。

 

セクシー王に私はなる!

 

 

「ぶわははははははははは!…そ、それはさすがに無理だろ!!」

 

 

門倉は面白くてしょうがないといったふうに爆笑し続けている。

 

こうなったら絶対にセクシー王になってやる!

 

 

「なるったら、なるんだからー!」

 

 

賑やかな浜辺に私の声が消えていった。

 

 

 

ようやく着替え終わりシュノーケリングの道具を持つと、みんなで海に入った。

 

思いのほか海の水は温かくて驚いた。

 

海面に顔を付けるとすでに魚が見える。

 

やはりシュノーケリングはきれいな海にかぎる。

 

深く息を吸い込み、潜ってみると魚がちらほらと見える。

 

ユズが指を指しているサンゴ礁の近くによるとエンゼルフィッシュやクマノミがゆらゆら泳いでい

 

る。

 

かわいいなあ…。

 

 

あるサンゴ礁を見ると大小のクマノミが連れ添って泳いでいる。

 

きっとつがいなのだろう。

 

二匹は仲良く私の前を何回も通り過ぎては戻ってはぐるぐる回る。

 

 

これは……独り身の私に対するあてつけか…?

 

砂浜で散々カップルの惚れ気にはあてられたが、まさか海の中でもあてられるとは…!

 

…ショック!

 

 

しばらくして気がすんだのか二匹はイソギンチャクの部屋に入っていった。

 

私は、魚の惚れ気にあてられ軽くショックをうけたことと酸素供給量が危険な状態のため海面上に顔

 

をだした。

 

そこで、大谷が防水加工の時計を見て『そろそろ昼食の時間だな』といったので浜に上がることに

 

なった。

 

 

 

昼食はユズと私が飲み物担当、大谷と門倉が弁当担当になった。

 

ここから少し距離がある自動販売機でお茶を4本買った。

 

浜茶屋で買おうと値段が高いのだ。

 

収入が乏しい学生にとってこれは死活問題!

 

 

お茶を買って少し歩いたところで、私はもう一本飲み物を熱中症対策のために買ってきてくれと門

 

倉に言われていたのを忘れていたため、再び自動販売機に戻った。

 

ユズには先にお茶を持っていってもらうことにした。

 

ああ、早くご飯食べたい…!

 

 

「熱中症対策ってことでポカルスウェット買ったけどいいよね。ふー、それにしても、なんて暑い

 

んだ…。」

 

 

ギラギラと太陽が照りつける。

 

よく、こんなに人がいるなあ…。

 

まあ、私もそのうちの一人なんだが。

 

頭の上ではカモメが鳴いている。

 

 

これだけ多くの人がいると頭のネジが若干いや大きく外れてしまった少々残念な人の姿が見受けら

 

れることがある。

 

そう、例えばナンパ男とか。

 

 

「なあなあ、そこの彼女、俺たちと一緒に遊ぼうぜ。」

 

 

言ってる傍からこれか…。

 

前方で3,4人の男が一人の少女を取り囲んでいるのが見えた。

 

 

「結構です!私急いでいるんで!」

 

「いいじゃん、別に~。君どこから来たの~?」

 

 

ああ、かわいそうに…。

 

誰かナンパの餌食になったのだろう。

 

というか、チャラ男よ。

 

私が言えたことじゃないが、聞けよ、人の話。

 

 

「なあなあ、俺らと楽しいことしに行こうぜ。」

 

 

 

 

…うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 

 

俺らと楽しいことだとっ!?

 

バ、バカ野郎!

 

夏なのに鳥肌が…鳥肌がたっただろうがっ!!

 

私はここまで夏の浜辺を寒くできたやつの顔を拝みたくなり、汗を拭うフリをしてちらりとナンパ

 

集団を見る。

 

 

派手な水着を着たチャラそうな男たちがいる。

 

まったく、ここをパリコレとでも思っているんだろうか。

 

まあ、パリコレにしてはファッションセンスが残念すぎるが…。

 

ちなみに男の一人の水着の後ろにはFuck Youと書かれたロゴがでかでかとプリントされている。

 

…おまえ、英語圏いったら捕まるぞ。

 

 

そして、その中心のナンパされている哀れな少女を見た。

 

水玉の水着でお茶を4本持っている。

 

あー、ユズみたいだな…。

 

…。

 

 

 

ユズ―――――――――――!?

 

 

 

よーく顔を見てみる。

 

ユズにそっくりである。

 

 

…いやいやいやいや!

 

これだけの人がいるんだから同じ水着を着てお茶を4本持っていて顔そっくりな人物がいてもおかし

 

くない!

 

そうだろ、みんな!

 

事実は小説より奇なりって言葉があるくらいだから大丈夫だ!

 

大丈夫に決まってる!

 

だ、大丈夫なんだよ――――――――!!

 

 

はあはあ…。

 

 

いったん落ち着こう…。

 

よしっ、深呼吸だ!

 

 

ヒッヒッフー、ヒッヒッフー

 

 

うん、段々落ち着いてきた!

 

落ち着いてきたところで何回も少女を見るが、どうみてもそれはユズだった。

 

周囲の目を気にすることなく、チャラ男はユズを強引に引っ張っていく。

 

あー、あんまり問題は起こしたくないけど、そうも言ってられないかな…。

 

 

「ちょっと、離してったら!」

 

「いいじゃねえかよ~。なあ、彼氏いないんだろ?だったら、俺の女になれよ~!」

 

 

男はユズを引きずるように歩きはじめた。

 

ユズはなんとか重心を反対側にもっていきとするが、大の男の前ではそんなの赤子の力に等しく、

 

抵抗の甲斐なく引きずられていく。

 

 

「おい、そこのアンパンマン!あっ、違う違う。そこのアンポンタン!俺の女に手をだすな!」

 

 

あんなに騒がしかった周囲が一気にしーんと静まりかえった。

 

まさに、静けさや浜にしみいる波の音…。

 

我ながらいい句だ!

 

 

「なんだ、お前!やんのか、コラァ!」

 

「なに?俺のことが知りたいって?」

 

「はあ?誰もそんなこといってねえし…。」

 

 

なんなのこいつ?という表情をチャラ男たちがしている気がするが、そんなことにかまっている時

 

間はない。

 

早くユズを救出せねば!

 

ご飯食べれない!!

 

 

「しょうがないなー!そんなに知りたいなら教えてやるよ!」

 

「いや…だから、そんなこと言ってねえって!」

 

「照れるな、チャラ男!俺の名前はスイカだ。ところで、俺の女を返してもらおうか。」

 

 

ユズをビシッと指を指して言う。

 

おお、自分なかなかヒーローぽっいんじゃないか?

 

 

「照れてねえよ!」

 

「…。つーか、おまえ女だろ…?こいつの彼氏じゃねえだろ…。」

 

 

チャラ男たちは訝しげな表情をしている。

 

そして、なぜかユズも訝しげな表情をしている…。

 

え、ユズにまでそんな顔されるなんて心外なんだが。

 

そう思ったが、今はユズを助けるのが先決だ。

 

 

「ユズ、大丈夫?今助けるよ!」

 

 

ああ、かわいそうに!

 

恐怖のあまり目が据わってるよ、ユズ!

 

 

「……おまえ、あいつの知り合いなの?」

 

「いえ、知りません。」

 

 

 

ええ――――――――――――!?

 

 

 

ちょっ、え、ユズさんー?

 

助けに来たのに、まさかの他人宣言!?

 

い、いや、そんなはずない!

 

はっ、そうか…。

 

ユズはきっとあのナンパ集団に付きまとわれたせいで心神喪失状態になっているに違いない!

 

 

「ふふふ、ユズ、俺にはわかっているよ。君はすごく怖かったんだね!でも、大丈夫。俺が癒して

 

やるよ!さあ、俺の胸に飛び込んでこい!」

 

 

 

シーン

 

 

 

あ、あれー?

 

なんだかすごく痛い空気になったような気がするんだが…。

 

 

「チッ、あんな馬鹿ほっといていくぞ。」

 

「嫌だってば!このバカ男!」

 

「てめえ言わせておけば…!」

 

 

チャラ男の一人が大きく腕をふり上げる。

 

あーあー、穏便にすませたかったけど、それも無理か…。

 

ふり上げた腕が真下のユズにむかってふり下ろされる。

 

 

パシッ

 

 

「女に手を上げるとは感心しないなあ。」

 

 

チャラ男の腕をギリギリと締め上げる。

 

 

「クソッ、離せよ!このクソアマ!」

 

 

クソアマだとっ!?

 

冗談じゃない!

 

 

「クソアマじゃない!俺は男だ!」

 

「てめえふざけやがって!」

 

 

私の返答にキレたのか、もう一人のチャラ男が突っ込んでくる。

 

それもひらりとかわし、さらに捕まえているチャラ男の腕を締め上げる。

 

もう少し力を込めると脱臼するかもしれない。

 

 

「痛えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!やめろ、やめろ!」

 

 

掴んでいるチャラ男の腕をパッと放すと『覚えてろよ!』と、どこぞのドラマのようなセリフをい

 

いながらチャラ男たちは夏の砂浜に消えていった。

 

他愛ないなあ。

 

まあ、他愛ないほうが穏便にすむから良いのだが。

 

 

裾についた砂を払い、私もお茶を2本もつ。

 

ひんやりと冷たさが腕に伝わってくる。

 

 

「スイカ、ありがとね。」

 

「当たり前だろ、俺はお前の彼氏だぜ?」

 

「…。」

 

「…ごめん。ふざけすぎた。」

 

 

うーん、ふざけすぎたかー。

 

まあ、しかたない。

 

子供が父親の手を振り切って海に向かって突っ走っていく。

 

たくさん失敗してたくさん学ぶ。

 

不器用な私はこれしか成功するための方法を知らない。

 

 

ふふふ、とユズが笑いだした。

 

いろいろびっくりしてユズを見ると視線が合った。

 

 

「では、素敵な彼氏さん、元の場所までエスコートしてくださる?」

 

 

失敗かと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 

 

「もちろん、素敵な彼女さん。お手をどうぞ。」

 

 

ユズは手を私にだした。

 

…。

 

 

「…え、ちょっと、スイカ、手は?」

 

「いやー、手ふさがちゃってるから無理だったや。…えへへー!」

 

 

 

その後はもうなんというかすごかった。

 

とにかくすごかった。

 

筆舌に尽くしがたいとはこのことをいうのだろうとカモメのレクイエムを聞きながら私は霞む視界

 

の中ぼんやりと思った。

 

 

 

 


 
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